1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

標高でも距離でも所要時間でもない…富士山の登山道「1~10合目」の数え方がアバウトすぎる理由

プレジデントオンライン / 2023年9月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yongyuan

富士山をはじめとする登山道には、山頂までのルートを10分割した「合目」がある。どのような基準で設けられているのか。『気になる日本地理』(KADOKAWA)を出した地理教育コンサルタントの宇田川勝司さんが解説する――。

※本稿は、宇田川勝司『気になる日本地理』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■300年噴火していない富士山も活火山である

日本が、環太平洋造山帯に属する世界有数の火山国であることは知られている。近年、富士や箱根、九州の阿蘇や霧島など火山特有の景観を求めて海外から多くの観光客が訪れるようになった。なにせ、世界の陸地のわずか0.25%にすぎない日本の国土に世界の全火山の約7%にあたる111の火山があるのだ。

火山といっても、桜島のように1年間に1000回以上も噴火する活発な火山もあれば、三宅島(雄山(おやま))のように20~30年間隔で噴火を繰り返す火山もある。その一方では、乗鞍(のりくら)岳など有史以来(文献による検証可能な時代)噴火の記録がない火山が、111の活火山のうち約30ある。活火山とはどのような火山をいうのだろうか?

学校で習った方もおられると思うが、かつては桜島や阿蘇のように現在も活発に活動を続けている火山を活火山、富士山のように噴火記録はあるものの現在は活動を休止している火山を休火山、有史以来、噴火記録がない火山を死火山という表現で区分していた。

■御嶽山の噴火で「休火山・死火山」は消えた

しかし、火山の活動の寿命は数十万年から数百万年とされ、数百年程度の休止期間はほんのつかの間の眠りでしかなく、噴火の可能性がある火山をすべて活火山と分類する考え方が国際的に広まるようになった。

日本でも、それまで噴火記録がなく、死火山と分類されていた御嶽山(おんたけさん)(長野県)が、1979(昭和54)年に突然水蒸気爆発を起こしたことがきっかけとなり、近年は休火山や死火山という言葉を使わなくなった。

2003(平成15)年、火山噴火予知連絡会は、世界的な動向や火山学的見地を踏まえて、「概ね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山」を活火山として定義した。この定義によって、111の火山が活火山と選定され、気象庁はこれら火山を過去の活動頻度や規模などに基づいてABCの3ランクに分類し、さらに火山活動の状況に応じて1~5の5段階の噴火警戒レベルを設定している。

火山のランク分け
Aランク
定義/100年活動度、または1万年活動度が特に高い活火山。特に噴火活動が活発な火山で、常時観測されている。
13火山/有珠山・浅間山・三宅島・阿蘇山・雲仙岳・桜島など

■富士山はBランクに位置する

Bランク
定義/100年活動度、または1万年活動度が高い活火山。登山規制はないが、何らかの監視が行われている。
37火山/雌阿寒岳・磐梯(ばんだい)山・焼岳・富士山・九重山・霧島山など

Cランク
定義/100年活動度、および1万年活動度がともに低い活火山。噴火の可能性が十分ある。
38火山/大雪山・羊蹄(ようてい)山・八幡平・赤城山・開聞岳など

なお、データ不足でランク分け対象外が23火山(北方領土や海底火山)。100年活動度とは短期的活動度、1万年活動度とは長期的活動度。BやCランクの火山が噴火すれば、Aランクに上がることもある。

噴火警戒レベル
レベル5
極めて大規模な噴火活動。〈広範囲に甚大な被害を及ぼす噴火の可能性〉
レベル4
中~大規模噴火活動。〈周辺に被害を及ぼす噴火の可能性〉
レベル3
小~中規模噴火活動。〈周辺に影響が出る可能性〉
レベル2
やや活発な火山活動。〈今後の活動状態に注意〉
レベル1
静隠な火山活動。〈現在は噴火の兆候なし〉
噴火しない火山

■八ケ岳や大山は火山としての寿命を終えている

なお、死火山という表現は使われなくなったが、活火山に該当しない火山、つまり1万年以上噴火していない火山も数多くある。八ケ岳(長野県)は、フォッサマグナの中央部に200万年くらい前から続いた火山活動で形成された火山であり、中国地方の最高峰である大山(だいせん)(鳥取県)は、2万年ほど前まではさかんに火山活動を繰り返していた。

万葉集の和歌に詠まれている奈良盆地北部の大和三山(香具(かぐ)山・畝傍(うねび)山・耳成(みみなし)山)も1500万年前の新生代の火山が風化浸食して残った山と考えられている。

1万年くらいは火山の寿命から見るとほんの一瞬の時間というならば、これらの山が御嶽山のように突然目を覚まして噴火する恐れはないのだろうか。当然、誰もが気になるところだが、その心配はないようだ。

八ケ岳や大山が活火山に選定されている火山と異なるのは、これらの山には地下の浅いところに火山活動に繋がるようなマグマ溜まりの存在が観測されず、マグマの供給が停止していることだ。つまり火山としての寿命を終えていると考えられている。

■登山で見かける「合目」はどういう意味か

多くの山では、麓の登山口から山頂までの登山道が10分割され、その境界となる場所が「合目」という表現で呼ばれている。麓から登り始めて標高が高くなるにつれ、一合目、二合目と「合目」の数が増え、十合目が山頂だ。

しかし、「合」とは面積や容積の単位であって、決して距離の単位ではない。それなのに、なぜ登山道を「合目」という表現で区分するのだろうか。

次のような説がある。枡(ます)に入れた米を逆さに空けたときの形が富士山に似ているので、枡目を用いて一里を一合とした説、米粒をパラパラ落としながら登り、一合なくなったところを「一合目」とした説、夜道の提灯(ちょうちん)に使う油が一合なくなったところを「一合目」とした説、仏教用語で時間の単位を意味する「劫(こう)」という言葉があるが、登山の苦しさを人生の苦難に見立て、劫の数を「合目」で表したという説などである。

そんな中、『世界山岳百科事典』に記載されている説が非常に興味深い。一合(山麓)から始まって十合(山頂)で終わる合目は、仏教の教義でいう十界にあたり、一合目(地獄道)、二合目(餓鬼道)、三合目(畜生道)、四合目(修羅道)、五合目(修験道)までを地界、これより上の六合目(天道)、七合目(声聞(しょうもん)道)、八合目(縁覚道)、九合目(菩薩道)、頂上(妙覚)を天界とし、十界を山にあらわして苦修練行をしているという。

吉田登山道八合目の標識
写真=iStock.com/egadolfo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/egadolfo

■御殿場ルートの五合目がハードな理由

「合目」という言葉の由来も謎だが、区分の基準もはっきりしない。距離なのか、高度なのか、それとも所要時間で分割したのだろうか? しかも、同じ間隔で分割されていない。なぜだろうか?

【図表】富士山の登山道
出典=『気になる日本地理』(KADOKAWA)

図表1は富士山の登山道のうち、北側からの吉田ルート、東側からの御殿場ルート、南側からの富士宮ルートを表示している。同じ合目でもルートによって標高が異なっている。

宇田川勝司『気になる日本地理』(KADOKAWA)
宇田川勝司『気になる日本地理』(KADOKAWA)

たとえば、吉田ルートの五合目と富士宮ルートの五合目の標高はほぼ同じだが、御殿場ルートの新五合目は、他の2ルートより約900mも低い。しかも五合目でありながら吉田ルートの一合目(1515m)よりも低い1440mの標高しかない。実をいうと、この新五合目は、以前は二合目だった場所なのだ。これには次のような事情がある。

1960~70年代、吉田ルートや富士宮ルートでは2300m付近の高さまで自動車道が開通し、五合目が富士登山のスタート地点となった。これに対抗し、御殿場側でも自動車道の終点だった二合目を新五合目に格上げしたのである。ちょっと強引な気がする。ただ、本来は二合目だった場所から登るので、御殿場側からの登山は距離も時間も一番ハードなコースである。

■一息つける場所が「合目」に選ばれている

また、富士山の登山道には、七合目や八合目以外に新七合目や本八合目、七合五勺(しゃく)などと呼ばれる地点もあって、登山者には紛らわしい。そもそも合目の標識を設置してある地点というのは、山小屋があったり、眺望のよい場所だったり、登山者にわかりやすい場所が選ばれている。

そのため、合目の間隔は等しいわけではなく、かなりアバウトだ。そこで、登山者のために合目の間隔が長くなっている区間の適当な場所や新しく整備された場所に「新○合目」という地点を設置したわけだ。

富士山以外でも、多くの山は登山道が一合目から十合目(山頂)まで区分されている。図表2は、日本100名山に選定されている伊吹山の事例だが、山頂の標高が1377mの山なので、合目の間隔は富士山よりはかなり狭い。

【図表】伊吹山(滋賀県)の登山道
出典=『気になる日本地理』(KADOKAWA)

■「合目」ではなく「丁目」で表す山も

やはり日本100名山の一つである福島県の磐梯(ばんだい)山さんは、五合目が山頂というちょっと変わった山だ。これには、磐梯山の標高1816mが富士山(3776m)のほぼ半分なので、日本一の富士山に敬意を表して合目も富士山の半分にしたという説、磐梯山は明治時代の大噴火で山体崩壊を起こしているが、そのときに六合目以上が吹き飛ばされたという説があるが、真相はわからない。

埼玉県西部の武甲山(ぶこうさん)は、登山道を「合目」ではなく、「丁目」で表示している。登山口の1丁目から山頂の54丁目(現在は52丁目)まで丁目石が置かれており、山を上り下りすると合わせて108丁目になる。これを108の煩悩とし、登山をすることでその煩悩を消すといういわれがある。除夜の鐘と同じだ。

----------

宇田川 勝司(うだがわ・かつし)
地理教育コンサルタント
1950年大阪府岸和田市生まれ。関西大学文学部史学科(地理学)卒業。中学・高校教師を経て、現在は地理教育コンサルタントとして、シニア大学やライフカレッジの講師、テレビ番組の監修、執筆活動などを行っている。

----------

(地理教育コンサルタント 宇田川 勝司)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください