バカほど「自分の頭で考えろ」という…イスラーム法学者が人生の暇つぶしに「読書」を圧倒的に勧める理由
プレジデントオンライン / 2023年9月20日 20時15分
※本稿は、中田考『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■読書が楽しいと思えると、一生の暇つぶしにもなる
私は学校が嫌いでした。勉強はそれなりに得意だったと思いますが、友達付き合いも運動も苦手でしたし、兄弟もいませんので、家では本ばかり読んで過ごしていました。
そうやって知識は本から得ていたので、学校の授業は退屈極まりなかったですし、たまに先生が間違ったことを言うので、それを指摘するとか、先生からすれば相当イヤな生徒だったと思います。実際嫌われていましたし。
本は一人で一日中楽しめるし、図書館に行けばお金をかけずに楽しめる。哲学者のプラトンも「知ることが一番の快楽である」と言っています。そのことに気付ければお金なんてなくても楽しく過ごせるんです。
楽しいという感覚は人それぞれ違いますが、少なくとも読書が楽しいと思えると、一生の暇つぶしにもなりますしおすすめです。
■YouTubeやTikTokよりはるかにマシ
読書をすすめる人の多くは、本を読むことで知識や教養の向上が期待でき、仕事や日常生活で役立つだけでなく、人間関係を築く上でも重要な要素となる。さらに、物語の中に出てくる登場人物や状況を理解することで、自分の感性や想像力が豊かになる。
時には本を通じて共感や理解が深まることで、友人や家族との会話がより豊かになるといったことを言うかもしれません。私の場合読書によって人間関係が良くなったということはありませんから、自分が楽しければそれでいいのです。むしろ読書を「何かの役に立てよう」と思う発想自体がつまらない。
しかし、読書をしようと思い立っただけでも、YouTubeやTikTokしか観れない人よりはマシかもしれません。人間は基本的に今自分が置かれている枠組みの中でしか物事を考えられません。
その枠組み、システムともいいますが、そういったものを批判的に見るには、知的な訓練を受け、抽象的な思考をする必要があり、それを打開するための最善の方法が読書なのです。
単純に楽しいということの他に本を読む理由があるとすれば、こうした思考を手に入れるためです。とはいえ、そのためには「自分が読んでわかる」本を読むのではなく、世界は複雑である、ということを学べる本を読む必要があります。
■「自分の頭で考えろ」とバカを唆すバカ
ちょうど、内田樹(@levinassien)先生が、2023年6月8日付のTwitter(現・X)で《図書館の人たちの集まりでの講演のために大阪に向けて出動。「図書館の効用は目に見える数値で考量することはできません」という話をします。本を読むことの最大の喜びは「今、ここで支配的な価値観」を一時的に(場合によると永遠に)無効にすることなんですから》《「この本読むとどういういいことがありますか?」というタイプの質問には「君が自明だと思っている『いいこと』の定義が揺らぐことかな」とお答えするのがよろしいのでは》とツイートしています。
今の世の中には、「自分の頭で考えろ」とバカを唆すバカが溢れています。本人たちは自分で考えて古い考えに染まった頭の固いバカたちが思いつかない目新しいことを言ったつもりでいるのでしょうが、バカの思いつくことなど、とっくの昔に誰かが言っている陳腐な戯言に過ぎません。
既に2500年ほど前の中国の古典『論語』にも「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆し」と書かれています。他人から教わるばかりで、自分で考えないと判断力が養われない。
自分で考えてばかりで人から学ばないと、視野が狭く考えが偏るので危険このうえない、ぐらいの意味です。自分の頭で考えろ、などと言うバカは昔から世に溢れています。
■共感6割、反感2割、わからない2割がベスト
バカにバカと言っても無駄です。「神聖なものを犬に与えてはならず、また、真珠を豚に投げてはならない。それを足で踏みにじり、向き直ってあなたがたにかみついてくるだろう」(『新約聖書』マタイによる福音書7章6節)です。見ないふりをしてそっと通り過ぎるのが無難です。
ともかくも私の本を手に取ってくださった読者の方は「自分の頭で考える系」のバカではなく、本を読んで学ぼうという気があるわけですから、どんどん読んでほしいと思います。
まぁ、内田樹先生のおっしゃる通り、読書の本当の「効用」は、自分が常識だと思っていた常識を相対化し、それまでの価値観を壊され、バージョンアップすることですから、私の本を読んで、「うんうんその通り」「私が考えていた通りだ」と思ってすらすらと楽しく読み進めるようなら、あまり読む意味がないとも言えます。
でも読書はそもそも効用を求めて読むものではなく、それ自体が喜びであることを知ってもらうのが本稿の目的ですから、自分と同じ価値観を読書で確認して嬉しくなれるならそれはそれでよいでしょう。
まぁ、共感6割、反感2割、わからない2割ぐらいがベストな気もしますが、なかなかそう都合よくいくものではありません。
■理解しなければいけないことを理解する
ともあれ物質的、現世的な幸せがなくても、学問はそれ自体が楽しいものであり、学ぶ喜び、真理と共にある至福感さえあれば、どんな不幸も感じない、というぐらいの楽しさの感覚を、若い人には身につけてほしいと思っています。
ただし、少し読書したからといって、これらのことをすぐには理解できないでしょう。しかし、「自分には理解できないとしても理解しなければいけないということを理解すること」が大事なのです。
読書術とかのたぐいの本には、読書の進捗(しんちょく)状況を記録することで、達成感を得られるだけでなく、自分の読書スピードや理解度を把握することができるとか、時には新しいジャンルや意外な選書に挑戦することが大切であるといったことが書かれていたり、最近では速読の技術を習得することで、短時間で多くの情報を吸収することが可能になるなどと言われていたりしますが、これも無駄なものをあたかも価値あるものと錯覚させ、どんどん売りつけていかないと成り立たない資本主義というシステムが生んだ現代病のようなものです。
こういった主張はすべて、いかに短時間で書かれている内容を理解し、自身の生活に役立てるかという視点からの物言いであり、「自分には理解できないとしても理解しなければいけないということを理解すること」という読書の本来の意味を忘れてしまった愚かな行為です。
そんな読書をするくらいなら、何もしない方がマシです。すぐにでも本を閉じてしまいましょう。
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イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授
1960年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学客員教授。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。東京大学文学部宗教学宗教史学科(イスラーム学専攻)卒業。カイロ大学博士(哲学)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、同志社大学神学部教授などを歴任。著書に『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(ベストセラーズ)、『宗教地政学から読み解くロシア原論』(イースト・プレス)、『13歳からの世界征服』『70歳からの世界征服』(共に百万年書房)などがある。
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(イスラーム学者、イブン・ハルドゥーン大学客員教授 中田 考)
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