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国内3位の西武池袋はなぜ切り捨てられたのか…そごう・西武の売却劇が示す「百貨店」という商売の終わり

プレジデントオンライン / 2023年9月21日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

百貨店の閉店や身売りが郊外だけでなく都心にも広がりつつある。ライターの南充浩さんは「百貨店の特徴は『平場』と呼ばれる自主運営の売り場だが、その多くは競争力を失っている。高コストの百貨店が低コストのファッションビルに置き換わる流れは止まらないだろう」という――。

■西武池袋本店の売却は当然の結果

8月31日に大手百貨店のそごう・西武の西武池袋本店(東京都豊島区)がストライキを行いました。大手百貨店のストライキは実に61年ぶりです。かねて報道されているそごう・西武百貨店の売却問題が原因で、労働組合側は百貨店事業の継続と従業員の雇用確保を訴えていました。雇用確保については明言されたものの、そごう・西武は米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」へ売却されました。

私は「ストライキが行われても親会社のセブン&アイ・ホールディングス(HD)は売却を実行する」とブログに書いていましたが、その通りの結果になりました。セブン&アイからすると大手百貨店グループの中でも元から収益性の高くないそごう・西武百貨店を切り離したくてたまらなかったのですから、ストライキくらいで売却を撤回するはずがありません。

■西武池袋は国内3位の売り上げも、百貨店事業が赤字

百貨店や流通業界の知識がある方には有名なことですが、西武池袋本店とそごう横浜店は単独店舗としては国内でもトップクラスの売上高を誇るものの、そごう・西武百貨店全体の決算は厳しく、コロナ禍以前から営業利益は減少しており、コロナ禍以降は営業赤字に転落していました。セブン&アイとしては、西武池袋とそごう横浜が好調で資産価値があるうちにできるだけ早期に売却してしまいたかったのです。

ちなみに、2022年度の百貨店店舗別売上高ランキングでは、西武池袋は3位で1768億円、そごう横浜は12位で1063億円という好成績です。13位からは売上高1000億円未満となるので、この2店舗がいかに有力なのかがわかるでしょう。

■インバウンド需要がピークでも利益は雀の涙だった

この有力店2店舗を擁していながら、近年のそごう・西武の決算は厳しい状況が続いていました。15年度(15年3月1日~16年2月28日)からは営業利益が100億円を割り込み、74億1100万円へと低下してしまいます。それ以降、16年度は43億円、17年度は50億円、18年度は32億円、19年度はわずか1億7200万円――と、転がり落ちるように営業利益を減らし続けてきました。

特にコロナ禍がまだ始まっておらずインバウンド需要がピークに近づいていた18年度の営業利益が32億円、コロナ禍の影響がまだ出ていない19年度の営業利益がわずか1億7200万円へと激減しているところに驚かざるを得ません。そしてコロナ禍が本格化した20年度からは営業赤字に転落しています。

経常利益も同様に15年度以降は減少の一途をたどり、18年度には早くも17億5100万円まで減少、19年度は8億5800万円の赤字へと転落しています。さらにいえば当期純利益は2012年度、15~17年度、19年度が赤字に陥っているという始末です。

おまけにセブン&アイが貸付金を放棄した後でも、そごう・西武の有利子負債額は2000億円も残ると報道されていますから、セブン&アイからすればこんな不採算業態はさっさと「損切り」するのが当然の施策になります。

■「西武池袋が好調なうちに高値で売却したい」

そごうは2000年に経営破綻、西武百貨店は2003年に経営不振に陥りました。その後セブン&アイHDが両社の持ち株会社を買収し子会社化したのですが、当時ですら、なぜセブン&アイがそごう・西武を買収したのか合理的な理由は全く不明でした。千慮の一失というものだったとしか言いようがありません。

経営が傾く前には店舗数の多かったそごうと西武ですが、現在のそごう・西武の店舗数はわずかに10しかありません。そのうち、西武が6(うち2店舗はショッピングセンター形式)、そごうは4店舗を残すのみです。もう店舗網のスケールメリットを生かすことによっての経営改善は不可能な縮小ぶりですから、好調店舗が健在なうちに売り払いたいとセブン&アイが考えるのは極めて当然といえるでしょう。

■都心でも百貨店は閉店、主流はファッションビルへ

今後の焦点は、池袋西武と横浜そごうが従来通りの売り上げを維持できるかどうかです。世間一般的には、池袋駅直結の大型百貨店で、しかも売上高国内3位の西武池袋店は百貨店を維持すべきとの声も多いように感じますが、90年代後半以降の商業施設の開業を見てみると、百貨店というケースは減っており、ファッションビルが主流となっています。

また苦戦する地方百貨店に対して都心店は好調であることが多いですが、東急百貨店本店(23年1月閉店)や東横店(20年3月閉店)のように都心店でも閉店に追い込まれるケースもあります。またターミナル駅近であっても、新宿の小田急百貨店本館のように百貨店売り場が大幅縮小されるケースも出てきました。

昔はターミナル駅には百貨店の開業がつきものでしたが、90年代後半以降にターミナル駅直結や駅近に百貨店が開業することはほとんどなくなりました。大都市圏の主なケースをざっくりと思い返してみると、1997年開業のJR京都伊勢丹、2000年のJR名古屋タカシマヤ、2011年のJR大阪三越伊勢丹くらいでしょうか。

■テナント料だけで成り立つファッションビル

一方で、ファッションビルとしては、JR東日本の各駅にはアトレとルミネが、JR西日本の各駅だと天王寺駅に天王寺MIO、大阪駅にルクア大阪、それからグランフロント大阪などが相次いで開業しています。鳴り物入りで開業したJR大阪三越伊勢丹もわずか4年で閉店し2015年からはファッションビル「ルクア1100(イーレ)」に変わっています。これはすでに90年代半ば以降は一般大衆にとって百貨店は必要不可欠な存在ではなくなっていたということの表れではないでしょうか。

ルミネエスト新宿
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa
大阪駅のショッピングモール
写真=iStock.com/Terroa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Terroa

百貨店もファッションビルも一見あまり変わらないように見えますが、実際には運営方法や運営コストが全く異なります。百貨店はもともと店舗自体が主体となって商品を仕入れるという形式を取っていました。

一方で、ファッションビルは完全な場所貸し業で、各ブランドがテナントで入店するという形式を取ります。現在では百貨店内にもテナント出店しているブランドもありますが、売上高のすべてを占めているわけではありません。一方、ファッションビルはテナントだけで成り立っています。

■百貨店業態は人員が必要ゆえ人件費がかさむ

百貨店には必ず「平場(ひらば)」と呼ばれる自主運営売り場がありますが、ファッションビルには存在しません。商品を購入する際の支払場所も百貨店とファッションビルでは全く異なっており、百貨店はすべての商品を百貨店のレジで精算しますが、ファッションビルは各テナント内で商品の代金を精算します。

ですから百貨店だと商品の代金は一度百貨店の売上高として計算され、百貨店から手数料が引かれて各ブランドに入金されますが、ファッションビルは自店の売上高になり、そこからファッションビルに家賃を支払うという形になります。

衣料品店でスーツを選ぶ男性
写真=iStock.com/RealPeopleGroup
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RealPeopleGroup

このように、自分たちで売り場を編集する「平場」を持ち、支払いレジも運営しているため、百貨店はファッションビルに比べてより多くの人員が必要となり、人件費が増大します。

例えば、そごう・西武の21年度の期末社員数は全店合計で2135人、パートタイマーの人数は2414人となっています。店舗によって規模は違いますが、単純に店舗数の10で割ったとしても、1店舗当たり約450人が在籍していることになります。一方、ルクア大阪と天王寺MIOを運営するJR西日本SC開発の従業員数は22年7月1日現在でわずか276人しかいません。

また、百貨店を運営するには商品を仕入れるためのノウハウや、バイヤーと呼ばれるスタッフが必要になりますが、ファッションビルの場合は必要ありません。

これらのことを総合的に考えると、百貨店を開業するには、高コストでしかも独特の商品仕入れノウハウや専用スタッフが必要になるので、ファッションビルの開業よりも難易度が高いといえます。そのため、新規百貨店の開業は時代とともに減ってしまったといえるでしょう。

■「ターミナル駅に百貨店」の必要性は既に薄れている

現在、コロナ明けのにぎわいとインバウンド客の回帰によって、伊勢丹新宿本店や阪急うめだ本店などの都心旗艦百貨店は軒並み好調で過去最高売上高を更新しています。もちろん西武池袋も好調ですが、ターミナル駅近立地に必ず百貨店がある必要性はすでに90年代後半から薄れていますので、今後その必要性はさらに薄れるでしょう。

新たにそごう・西武を買ったフォートレス・インベストメント・グループとそのパートナーであるヨドバシカメラが今回のストライキや一部からの反対を受けてどのような売り場を作るのか注目が集まっていますが、これまで通りの西武池袋本店を維持できる可能性は極めて低いのではないかと個人的には見ています。

■どんな都心でも新しい百貨店が開店することはもうない

今回の西武池袋に引き続いて、今後は大都心駅近百貨店の業態変更や閉店もさらに珍しくなくなるでしょう。名古屋では、JR名古屋駅の名鉄百貨店本店が再開発に伴い、時期は未定ながらも閉店するという報道があるほどです。都心百貨店・都心ターミナル駅近百貨店はそれぞれ損益分岐点が異なるでしょうが、大ざっぱに言って年間売上高400億円未満の店舗は存続が難しくなっていくのではないかと思われます。

また西武池袋のような好調店でも、運営企業の財務体質が悪ければ売却されるケースも珍しくなくなるでしょう。将来的に百貨店が全滅することはないでしょうが、大都市都心店の中でも優秀店のみが残るという結末を迎えるのではないかと考えられます。そして各地のメインの商業施設は都心ならファッションビルと大型家電量販店、地方・郊外・一部都心駅前に大型ショッピングセンターという構図になって収束することになるでしょう。

今後、地方郊外は当然のことながら、大都市都心でも新たな百貨店店舗が建てられることはないでしょう。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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