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人間の仕事はどんどん減っていく…人事、経理、総務の仕事が「生成AI」に取って代わられると予想されるワケ

プレジデントオンライン / 2023年10月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhonlamaiPhoto

AIをビジネスに導入するメリットは何か。AI研究者の清水亮さんは「感情的な情報を排除できる点が大きい。財務諸表の作成や人事にAIを介入させることで、経営者が管理職や効率的に意思決定できるようになる」という――。

※本稿は、清水亮『検索から生成へ 生成AIによるパラダイムシフトの行方』(MdN)の一部を再編集したものです。

■企業の意思決定手段としての生成AI

生成AIは、意思決定のための判断材料を生成することができます。

行動計画を立てたり、経営計画を立てたりすることもできます。

意思決定のためにAIを用いることは、今後どんどん、進んでいくでしょう。なぜなら、そうした方がずっと効率がいいからです。

AIは人間が数週間かかる行動計画の策定をわずか数時間で行うことができます。

経営のようなことをAIがするのは難しいと考えるかもしれませんが、実際の経営というのはもっと直感的に行われています。私は20年間、IT企業を経営してきました。10社の設立に関わり、それぞれの会社の統廃合や、合併、M&Aがあったものの、事業はすべて継続しています。

■現場の声だけでは会社の課題は見えてこない

経営判断の現場で、ものをいうのは結局数字です。

会社には、BS(Balance Sheet:貸借対照表)やPL(Profit and Loss statement:損益計算書)といった財務諸表が必ずあり、会社が儲かっているかどうかは、損益計算書を見ればすぐにわかります。

ただし、数値だけ見ていると、「正しい判断が現場で行われているのか」を経営者が判断するのは実は難しいのです。

たとえば、現場の声に耳を傾けると、誰もが例外なく「人手が足りない」「設備が足りない」と言います。

現場は給料を払う立場ではなくもらう立場なので、人手が多ければ多いほど楽ができます。「いまは足りている」と言う人も、「いずれ足りなくなる」と言います。

ということは、現場にいくら現状を聞いてもその会社の本質的なことは見えてきません。

■人間が作っている限り、数字も信用できない

社員が100人を超えると、経営者から社員が見えにくくなります。

経営者と社員の間に課長、部長、担当役員というのが立ちはだかっていて、それぞれが部下と経営者が直接話すのをできるだけ避けようとします。

現場の不満を告げ口されるかわからないし、仮にその告げ口が間違ったものだったとして、自分たちは別のロジックでちゃんと弁明できるとしても、その弁明に時間を割かれるのが面倒だからです。

ただ、会社の利益が出ていない場合、必ず経営方針に問題があるものです。「計画通りに行ってない」のは、計画が間違っていたからです。

本来は、感情的な情報を排除したはずのPLとBSが、実は「そうしたいという気持ち」から作られていることもあります。つまり、「今期はこれだけ売り上げたい」という願望と、「今期はこれだけの売り上げしか望めないだろう」という現実が乖離しているケースがままあるのです。

私が創業期に、自分一人だけで会社の予実管理(予算と実績の管理)をしていたときは、案件ごとにそれぞれ「確度」をレベル分けし、「話だけ来ているもの」は0.1、「話が進んでいるもの」が0.3、「契約書のやりとりをしているもの」を0.5、「契約されたもの」を0.8、「納品が完了し、請求書が書けるもの」を1.0として金額に乗じることで売り上げ予測をしていました。

これが意外と当たるのです。

経験則的に「話が進んでもポシャる確率は30%」であるとか、「話しか来ていないものが実現する確率は10%」とか、わかっていたんですね。

■数字を管理できない管理職は交代させられる

ただ、人数が増えてくるとこのやり方での予実管理は難しくなってきます。

経営者が感知できない社員間のいざこざや、部署間の対立など、人間の感情と言った一番面倒臭い要素が出てきて、数字だけ見ても管理できなくなってくるのです。

大企業では、この数字の管理は部長の仕事になります。大企業の部長は、予算、人事を自由に使えますが、会社から与えられた目標に対してきちんと予実管理ができなかった場合、役職を外されることがあります。

なぜ企業がそんなことができるかというと、部長級の仕事ができるように、時間をかけて丁寧に育てられた社員をたくさん抱えているからです。

いくら部長を解任しても、部長級の仕事が務まる人はいくらでもいるので枯渇しないのです。なんなら外部から連れてくるということもできます。

■人材が少ない中小企業のトップはつらい

ところが中小企業ではそんな贅沢は言っていられません。部長に予実管理を完全に任せることができることは稀です。もしも選任した部長が予算をまったく守ってくれなくても、ほかに選択肢がありません。だから中小企業の経営者は全部署の部長級の仕事を肩代わりしなくてはならなくなります。

これには例外があって、すでに黒字が出ている部署の場合、部長級の人間に創業社長のように事業を作り出して運営していく能力は求められません。大企業で部長級の人間がたくさんいるというのも、「すでに回ってる仕事をそのまま回す」ことを求められたり、「すでに負けが決まっている仕事の敗戦処理をする」ことを求められたりと、役割が限定されるからです。

中小企業はそんなにたくさんの事業を抱えていないので、「敗戦処理」のためだけの部長を雇っていても、すぐに使い道がなくなってしまいます。

■AIなら社内のやりとり、雰囲気も把握できる

会社経営のリアル、で筆が滑ってしまいましたが、AIに経営を任せたいと考えている経営者はたくさんいると思います。第一に、会社でなにが起きているのか、経営者は実際には把握できないからです。

たとえば全部署でやりとりされているチャットのログを経営者が全部チェックするというのは非現実的です。場合によってはプライバシーの侵害にも当たります。

また、最近はリモートワークが増えて、社内の人間関係すらよくわからなくなっています。誰が誰と仲が悪いとか、そうでなくても会社全体の雰囲気がいいとか悪いとか、そういうことを経営者は会社に行ってなんとなく確かめていたのですが、リモートワークが中心になるとそれもできません。

ビジネス ネットワークの概念。ビジネスパーソンのグループ。チームワーク。人的資源。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

まあそもそも、会社に行って「なんとなくみんながやる気を持って働いているか」を判断するということ自体が相当アナログというか、非論理的なやり方なので、これが大好き、という経営者はほぼいないと思います。

AIはそういう判断をすべて任せるのにふさわしい素質と能力を持っています。

■ゴルフ三昧の社長よりAIのほうが判断力は高い

議事録を要約するために会議にAIが参加するのが普通になってくると、AIは議事録をとりながら同時に社内の雰囲気も掴めることになります。

「この会議では全員が活発に意見を言っていた」とか、「この会議では部長しか喋っていなかった」ということが数値化されて見えてきます。

もちろん部長しか喋らない会議もあっていいと思いますが、そうした会議の頻度と部署の成績、とくに営業の進捗や開発の進捗といったことは簡単に数値化して相関関係を見ることができます。

会社のありようは業種や業態によっても違いますが、人がたくさん集まって同じ目的のために働いている、という意味では同じです。

ある会社の傾向を分析し、部署ごと、チームごとに「勝ちパターン」を学習したAIの方が、平日から接待ゴルフに出かけている経営者よりも適切な判断ができるのではないかと考えるのはごく当たり前のことです。

AIならば、PLやBSに隠された「気合いと本当の意図」に騙されず、「このパターンだと今年も失敗するので抜本的な対策が必要です。具体的には広告宣伝費を削りましょう」とか「出張を減らしましょう」などの対策を示してくれるようになるでしょう。これはただ「人手を増やしたい」と言うだけの部長より遥かにましです。

■人間にはできない冷徹な人事も実行してくれる

人事もAIが大きく介入するようになるでしょう。

「この人はこの仕事に向いていません」「この人の給料は安すぎます」「この人はこの現場には不要です」といった判断を人間とは違って冷徹に、正確にやってくれるはずです。

もちろんそれに従うかは人間が決めることですが、ほとんどのことはAIの判断が正しいということになるはずです。

採用面接でも人間と一緒にAIが同席するか、一次試験の前に会話AIがヒアリングをして、社内のどの部署と話が合いそうか、そもそもこの会社に向いている人材なのかということを判断してくれるでしょう。

人事AIは、社内に欠けている人材のタイプを教えてくれるようにもなるはずです。

■他業界の情報収集もAIにおまかせ

また、生成AIは情報を収集し、要約するのが得意なので、いずれどの会社も最低限の情報収集はAIにやらせるようになるのではないかと思います。

とくに、得意先の情報や業界に影響を与えそうな情報だけでなく、一見業界とは関係なさそうでも、いずれ影響を与えることが想定されるような事態の予告など、AIが集めた情報が、経営の意思決定に関与できそうなことはたくさんあります。

「○○業界が伸びているらしい」といった情報は、普段の経営現場ではなかなか入ってきません。情報収集をするのはほかの経営者との飲み会や、それこそ接待ゴルフの現場などが多いのではないでしょうか。

しかし、実はゴルフに行かなくても「○○業界が伸びている」という情報は普通の手段で集められそうなものです。

■経済誌を要約するサービスは不要になる

清水亮『検索から生成へ 生成AIによるパラダイムシフトの行方』(MdN)
清水亮『検索から生成へ 生成AIによるパラダイムシフトの行方』(MdN)

大企業では、専任のスタッフが経済誌を要約して経営幹部に伝えたり、自社に関係ありそうな情報をクリッピングサービスでまとめて送ってきたりというサービスを使う場合もあります。

しかし経済誌に載る情報は二次情報が大半ですから、ワンテンポ以上遅れて入ってきます。大企業くらいのスピード感ならそれでも機能しますが、スタートアップや中小企業ではほんのわずかな情報の遅れが会社の経営に致命的なダメージを与えることがあります。

とくに重要度の高い情報は、雑誌には決して載らないことがほとんどです。有益な情報ほど独占した方が利益は高いので、普通では教えてくれないわけです。

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清水 亮(しみず・りょう)
AI研究者、プログラマー
新潟県長岡市生まれ。AIスペシャリスト。プログラマーおよび上級エンジニア経験を経て、1998年に株式会社ドワンゴに参画。2003年に独立し、以来20年で12社の設立に関わるシリアルアントレプレナー。2005年、IPA(情報処理推進機構)より「天才プログラマー/スーパークリエータ」として認定。2017年、2018年 内閣府知的財産戦略本部「新たな情報財検討委員会」委員。2018年から2023年 東京大学客員研究員。2019年、2020年 一般社団法人未踏とNEDOによる「AIフロンティアプログラム」メンター。著書に『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)、『はじめての深層学習(ディープランニング)プログラミング』(技術評論社)、『最速の仕事術はプログラマーが知っている』(クロスメディア・パブリッシング)、『教養としての生成AI』(幻冬舎)、『プログラミングバカ一代』(共著、晶文社)がある。

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(AI研究者、プログラマー 清水 亮)

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