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「年収300万円の男性の63%が子どもを持たずに生涯を終える」交際への興味、性経験がない人の衝撃データ

プレジデントオンライン / 2023年10月29日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chalabala

少子化の原因として未婚化、ひいては若者の恋愛離れが問題視されがちだ。本当にそうなのか。東京財団政策研究所主任研究員の坂元晴香さんは「交際相手がなく異性との交際に興味がないと答えた男性の内訳を見ると、年収300万未満で75%を占めており、年収800万円以上は0.1%しかいない。実際、年収300万円の男性が生涯子どもを持たない割合は62.8%。少子化の原因が若者の価値観の変化ではないことは明らかだ」という――。

■少子化の原因は「若者の価値観の変化」ではない

2022年に我が国で生まれた日本人の子どもの数(出生数)は77万747人で、統計を開始した1899年以降最も少ない数となり、初めて80万人台を下回った。政府も「異次元の少子化対策」を打ち出すなど、止まらない少子化をいかにくいとめるかが喫緊の課題となっているが、残念ながら現在のところ出生数が回復基調に戻る兆しはない。

そもそも、少子化対策を実行するためには、我が国において(もっとも少子化は先進国共通の課題であり、日本だけが特に状況が悪いわけではないが)なぜ少子化が進んでいるのか、その要因を正確に把握することが必要であろう。

しかしながら、政治家の発言、巷での言説などを見ていると、「若い世代の価値観が変化した」「現在ではインターネットはSNSなど娯楽が多様化したため、恋愛や結婚の価値が下がった」「女性が高学歴化したからだ」など、あたかも「結婚・出産を選択しない若い世代の問題」と捉える風潮が強い。それは本当であろうか。筆者らは、国立社会保障・人口問題研究所が実施する出生動向基本調査のデータを主に用いて、現代日本における、恋愛・交際・婚姻・出産に関する動向の分析を行ってきたが、そこから見えるのは、「若い世代の価値観の変化」とは全く違う、日本社会が抱える構造的課題であった。

■出生数減少の最大の理由は「未婚者」の増加

そもそも我が国における少子化の最大の要因は未婚者数の増加である。実際のところ、結婚した夫婦から生まれる子どもの数(完結出生児数)は1970年代から2002年頃までは2.2前後で推移してきた。この数年の間に緩やかに減少傾向になっているものの、2015年では1.94と引き続き高い水準を維持している。

他方で、同時期に未婚者数は大幅に増えた。生涯未婚率(50歳時点での未婚割合)は1980年には男性で2.6%、女性で4.45%だったのに対し、2015年には男性で23.37%、女性で14.06%まで増加しているのである。日本では大半の子どもが結婚した夫婦から産まれることを考えると、少子化の最大の要因は「未婚化」であるといえよう。

© The Tokyo Foundation for Policy Research All rights reserved. 出典=「データから読み解く 日本の少子化の要因」
出典=「データから読み解く 日本の少子化の要因」

■恋愛・結婚に明確な社会経済的格差

では、この増えた「未婚者」とはいったどのような人たちなのであろうか。前述した出生動向基本調査のデータを分析すると、異性との配偶・交際関係に関して1)既婚、2)未婚・交際相手あり(事実婚・同棲含む)、3)交際相手なしだが異性との交際に興味あり、4)交際相手なくまた異性との交際にも興味なし、の4つに分類すると、1)既婚者の割合が大幅に減った分はそのまま、3)および4)の「交際相手なし」の割合につながっているのである。

巷では、現在の婚姻制度に魅力を感じず事実婚など新しい形のパートナーシップを望む人が増えた(だから少子化が進んだ)という意見も見られるが、実際には、2)未婚で交際ありの人の割合はほぼ不変である、つまり事実婚などの割合は過去数十年でほとんど変化していない。

さらに衝撃的なのは、このような恋愛・結婚に明確な社会経済的格差が見て取れることである。

例えば、男性で4)交際相手なく異性との交際にも興味がないと答えた人の内訳で見ると、年収100万未満が48.2%、年収100万~299万が28.2%と実に年収300万未満で75%を占めているのである。この数字は年収300万~499万では19.7%、年収500万~799万では3.8%、年収800万以上では0.1%になる。つまり高収入男性で「交際相手がなく異性との交際に興味がない」と回答している人はほとんどいないのである。実際、本調査で年収800万以上と回答した男性のほぼ大半は既婚者であった。同様の傾向は学歴や雇用形態でも見られ、定職についている割合は既婚者>交際中>交際相手なし・交際に興味あり>交際相手なし・交際に興味なしの順で高くなっている。

【図表】炙り出される“恋愛・結婚格差”
© The Tokyo Foundation for Policy Research All rights reserved. 出典=「データから読み解く 日本の少子化の要因」

■増えた未婚者の大半は低収入、非正規・無職の男性

仮に、恋愛や結婚をしないことが「若者の価値観の変化」や「娯楽の多様化」であれば、収入や雇用形態・学歴でこのような差が生じることはない(正規職員・高所得者層でも一定程度の未婚者や異性との交際に興味がない人がいるはずである)。しかしながら実際には、恋愛や結婚をしていない増えた未婚者の大半は、低収入、非正規・無職の男性なのである。

また、このような経済格差は異性間との性交渉の経験の有無にも表れている。異性との性交渉経験がない人の割合は男性(18~39歳)では1992年の20%から2015年には25.8%に増えているが、この異性間性交渉の経験も男性では時短勤務・非正規雇用・無職の人ほど異性との性交渉経験が無い割合が高くなっている。収入も同様の傾向が見られ、収入が低くなればなるほど、異性との性交渉経験がない人の割合が高くなっているのである。

【図表】異性との性交渉経験でも見られる“格差”
© The Tokyo Foundation for Policy Research All rights reserved. 出典=「データから読み解く 日本の少子化の要因」

■結婚したくてもできない若者たち

現在の日本では、婚姻関係にある夫婦から子どもが産まれることが一般的であること、また恋愛結婚が主流であることを踏まえると、婚姻や出産の前段階、異性との交際や性交渉経験の有無の段階ですでに社会経済的格差が影響しており、それがそのまま婚姻にも影響しているという点は深刻に受け止める必要があるであろう。

出生動向基本調査では(おおよそ5年に1回実施)、毎回の質問で生涯にわたる結婚の意思の有無を聞いているが、1987年から2015年までの間、「いずれ結婚するつもり」と回答している人の割合はほぼ変わらず、男女ともに90%近くが結婚の意思を示しているのである。ここから見えてくるのは、「若い世代の価値観の変化」ではなくむしろ「結婚したくても収入や雇用環境が足枷となり結婚“できない”若い人の姿」であろう。

サラリーと書かれた紙がハサミで裁断されている
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■女性は年収200万~300万円の結婚率が最も低い

また、変わる結婚への価値観についてもここで触れておきたい。以前は女性が男性に求める結婚条件として「3高(高収入・高学歴・高身長)」などと言われてきたが、最近では「3低(低姿勢、低依存、低リスク)」とも言われる。特に注目するのが“低リスク”の部分であるが、若い世代の結婚に対する価値観は、男性が外で働き一馬力で家庭を支え、妻が専業主婦となり育児・家事を担うという“昭和モデル”はあまり想定していない。むしろ、経済的負担も、家事育児負担も一緒に担っていくという考え方をする人が増えている。

事実、結婚相手の女性に「経済力」を求める男性も、結婚相手の男性に「家事育児能力」を求める女性も増えている。以前には、高学歴・高収入女性は結婚できないとする向きもあったが、女性の収入と婚姻割合の関係を見るとU字型をしており、年収200万~300万で一番婚姻割合が低く、以降は年収が上がるほど女性も婚姻割合は増えるのである。

この背景にあるのは、先の見通せない時代にあって家計を一馬力で支えることはリスクと捉える風潮が広まっていることであろう。高度経済成長期のように毎年のように収入が上がり、豊かな暮らしを謳歌できた世代と異なり、今の若い世代はいわば生まれた時から日本経済が停滞しており、会社や社会の安定性を感じずに生きている世代である。人生100年時代、老後の不安も増す中で、昭和の結婚モデルから脱却し、夫婦ともに仕事も家事育児も分担していこうという考え方に変化してきているのである。

■子どもの数に見られる経済格差

「貧乏子だくさん」このような言説を誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。実際にテレビ等でも節約生活をしながら多くの子どもを育てている「大家族」の特集番組を目にすることもある。しかしながら、子どもの有無についても、交際や婚姻同様、経済的影響を強く受けることがわかっているのである。

例えば、子どもを持たない人の割合は、1943~1947年生まれの男性では14.3%、女性では11.6%であったが、この数字は1971~1975年生まれの男女では、それぞれ39.9%、27.6%にまで増えている。1971~1975年に生まれた男性は実にその4割で子どもがいないのである。さらにその増え幅は一様ではなく、特に年収の低い層での割合増加が大きい。年収300万円の層では子どもを持たない割合が25.7%から62.8%に増えているのに対し、年収600万円の層では、6.9%から20.0%への増加である。

さらに詳しく見ていくと、1971~1975年に生まれた男性で子どもがいない割合は、年収0~99万では67.6%、100万~299万では58.2%、300万~499万では40.2%、500万~799万では29.4%、800万以上では13.0%と明確に年収との関係があることが見て取れる(年収が高くなるほど、子どもがいない割合は小さくなる)。さらに、三人以上子どもがいる割合を見ると、年収0~99万では7.2%、100万~299万では9.7%、300万~499万では10.9%、年収500万~799万では14.8%、年収800万以上では19.6%と、こちらも年収が上がるほど多子世帯の割合が増えることもわかっている。

子供の数のグラフイメージ
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■女性の学歴と子どもの人数に相関がなくなった

また女性の学歴と子どもの有無についても興味深い結果が出ている。1956~1970年の間に生まれた女性では、大卒の人では大卒未満の人と比べて子どもを持っている人の割合が少なかったのだが、1971年以降に生まれた場合は、大卒と大卒未満で差異は見られなくなっているのである。つまり、女性の高学歴化が少子化につながっているという傾向というのは見られないのである。

北欧諸国ではむしろ逆転現象が起きていて、40歳時点での子どものいない割合は、むしろ高所得女性のほうが少なくなっている。日本ではこのような逆転現象までは見られていないものの(学歴と子どもの有無に相関がなくなったものの、高学歴女性のほうが子どもを産むような傾向にまでは至っていない)、今後日本の傾向がどのようになっていくのか、注視が必要であろう。

■若い世代は失われた時代の被害者

当然ながら、婚姻や出産とは完全に個人の自由意志で行われるものであり、政府を含めて第三者がとやかく口にすることではない。しかしながら、婚姻や出産を「個人の問題」としてしまうことは、その根底にある構造的要因、すなわち所得や学歴が高ければ高いほど、また雇用が安定しているほど結婚し出産でき、そうでない場合には仮に結婚の意思があっても結婚できないことに目をつぶることにはならないだろうか。

子孫を残すということは本来的には生物の本能行動であるはずだ。それが一定程度の所得や学歴がある人しか叶わない社会は、やはり許容せずに改善を目指すべきではと思う。これからの日本を担う若い世代が、将来への不安なく安心して恋愛・結婚し子どもを産み育てられるような社会になることを切に願いたい。

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坂元 晴香(さかもと・はるか)
東京財団政策研究所 主任研究員
医師、博士(公衆衛生学)。札幌医科大学医学部卒業後、聖路加国際病院で内科医として勤務。その後、厚生労働省国際課および母子保健課に勤務。2014年、世界銀行より奨学金を受けハーバード大学公衆衛生大学院に留学、公衆衛生学修士(MPH)を取得。現在は、日本学術会議第26期連携会員、WHO西太平洋事務局コンサルタント、北海道釧路市政策アドバイザー(公衆衛生分野)を併任。

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(東京財団政策研究所 主任研究員 坂元 晴香)

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