結婚相手に「高収入・高学歴・容姿端麗」を求めるのは危険すぎる…医師・和田秀樹「悩みを軽くする方法」
プレジデントオンライン / 2023年11月16日 17時15分
※本稿は、和田秀樹『「すぐ動く人」は悩まない!』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■行動できないことで悩んでも仕方がない
みなさんはすでに、悩みには解決できることとできないことがある、というのを知っています。繰り返しになりますが、変えられないこと、変えようがないことは、解決できない悩みです。
過去のこと、容姿や出生(どんな親から生まれたか)、自律神経の問題によって起きている現象(人の前に出ると顔が赤くなる、胸がどきどきする……)などは変えられませんから、いくら悩んでも解決できません。
そして、もう一つ、「動けないこと」も解決できない悩みといえます。
たとえば、転職について悩む場合、なんとなく「この会社にいたくないなぁ」というぐらいの気分でいるときには、悩んでも解決にはいたりません。おそらくは、その気分のまま会社に居続けることになるからです。
つまり、気分だけでは解決のために動こうとしない、動けない。転職はその人にとってまだまだ空想的なこと、漠然とした思いの域を出ていないわけです。
そうしたケースでは、転職について悩んでも仕方がありません。それよりはその会社でどうポジションを上げるか、どうやって実力を認められるようになるか、といったことを悩んだほうがずっといいですよね。
一方、心の中で転職する決意が固まっていれば、悩みは解決に向けてのものになります。転職するための具体的な動きが伴うからです。
転職先の候補をリストアップする、ツテをあたる、転職に有利になるようにスキルを身につける、といったことが具体的な動きの例です。
変えられるか、変えられないか。動けるか、動けないか。この二つは悩みを選別する重要なポイントです。
悩みが心に入り込んできたとき、まず、この二点でふるいにかける。そうすることで、余計な悩みにつかまらないで済むのです。
■ある目標が達成されても、次なる目標が悩みになる
ここで、悩みを解決する、とはどういうことかを考えてみましょう。
悩んでいることがすっかりクリアになる、それが解決だと思っていないでしょうか。
もちろん、そうなることがベストです。しかし、そこにこだわっていると悩みは尽きないことになるのです。
たとえば、預貯金がゼロでお金がないことが悩みだとすれば、お金を貯めるためにさまざまな動きをするでしょう。生活を切り詰めるとか、もっと給料のいい会社に移るとか、アルバイトをするとか……。
その結果、なんとか100万円の貯蓄ができたとします。しかし、それで悩みは解決するでしょうか。しないのです。
100万円の貯蓄ができた時点で、必ず、「いや、いや、100万円では貯蓄があるとはいえない。もっと、もっと、貯めなきゃ。う〜ん、どうすればいいんだ」ということになる。新たな悩みにとらわれるのです。
ある目標が達成されても、それでは満足できず、次なる目標が悩みになるのです。
この構図には際限がありません。どこまでいってもベストとは思えないからです。これはもう、人間の“性(さが)”あるいは、“業(ごう)”といってもいいかもしれません。
■ベストではなく、ベターをめざす
そこで必要になるのが、「ベターでよし」とする感覚です。
貯蓄ゼロが100万円になったことは、明らかにベターな状況が生まれたわけですから、「おお、いいじゃないか」と受けとめる。ベターで悩みは一応の解決とするのです。
そして、次は100万円が110万円になるベターな状況をつくるために努力する。それを繰り返していけば、状況はどんどん好転していきます。
また、こういった考え方は、恋愛面でも有効です。
たとえば、少し古い価値観ですが、高収入、高学歴で容姿端麗(ようしたんれい)な異性をゲットしたいと思ったとしましょう。もちろん、そのために、立ち居ふるまいやファッションを磨き、話術を鍛(きた)えるなど、それなりの努力はするはずです。
しかし、現実にはそんな三拍子そろっている相手と出会える可能性はそう高くはないでしょう。にもかかわらず、そこであくまでベストの三条件にこだわったら、たまたま二つの条件がそろった相手と出会い、いい関係になったとしても、悩みは解決されないわけです。
つまり、結婚に踏み切れないのです。ベストを求めて永遠にさすらうことにだってなりかねません。
でも、そこで「三拍子そろってはいないけれど、ここはいいよね」というふうに、ベターを解決とする考え方ができたら、結婚もできるし、その生活を幸福なものにすることだってできるのです。
ベストにこだわる“危険”はまだあります。
当初の思惑どおり、三拍子そろった相手をゲットしても、それをベストと思えるのはごく短い間だけでしょう。
自分の伴侶はほどなくベストから失墜(しっつい)し、「あ〜あ、世の中にはもっと高いグレードで三拍子そろった人がたくさんいたのに……」ということにもなって、悩みが生まれるのです。
先の貯蓄の例と同じで、これにも際限がありません。
ベターをもってよしとする。ベターを一応の解決とする。その姿勢が悩みをずっと軽くしてくれるのです。
■「運まかせ」にしたほうがよいこともある
物事には人間の力ではどうにもならないことがあります。天変地異(てんぺんちい)などはその典型ですが、身近なところにも力の及ばないことはあるのです。
それらは運まかせにするしか仕方のないことなのですが、ともすると、それを受け容れられないで悩むことになったりします。
その一番いい例が、健康でしょう。普段から人一倍健康に留意し、年に一度の人間ドックはもちろん、日々の食事にも睡眠にも運動にも、でき得るかぎりの注意を払っている人が、健康面で万全かといえば、そうともいえません。
病気になるときはなるし、ガンに冒(おか)されるときは冒されるのです。それは織り込み済みでいなければ、悩みを一つ抱え込むことになります。
「あれほど健康には気をつけてきたのに、よりによって、この自分がガンになるとは! いままでの努力は何だったんだぁ〜」
悩みは、恨み、つらみにもつながりそうです。何かに向けて努力することは大切なことですし、努力しないよりよい結果がもたらされることも事実ですが、努力すれば、必ず望みどおりの結果になる、とはかぎらないのです。
恋愛だって、思いを寄せる人の心をつかむために、精いっぱい頑張っても、相手が振り向いてくれないことはザラにあります。
相手もこちらを憎からず思っているのに、そのときたまたま付き合っている人がいた、といったケースは、まさしく運が味方してくれなかったというしかありませんね。
「思ったとおりにならなかったけれど、ま、運がなかったということだな。そのうちよい運もめぐってくるさ」
そんなふうに捉(とら)えられたら、仮にベターの結果さえ得られなかったとしても、悩みに陥ることはなくなるのではないでしょうか。
■相手の気持ちを変えようとするのは思い上がり
人間関係の中には大きな錯覚(さっかく)があります。人の気持ちは変えられるという思い込みがそれです。
はっきりいいましょう。自分の対応次第で相手の気持ちを変えたり、相手を説得できると考えるのは、思い上がりです。
たとえば、私が著書で展開している考え方を批判したり、議論を挑んでくる人がいます。
その人たちの目論見(もくろみ)は、自分の論で私を論破する、つまりは、私を説き伏せ、「あなたのおっしゃるとおり。私が間違っていました」といわせることにあるわけです。
しかし、私は決して説得されることはありません。
もちろん、引用した数字が間違っているとか、誤字脱字があるとか、事実誤認があるとか、そういうことなら、私は素直に「そのとおりでした。申し訳ありません」と頭を下げます。
しかし、「和田の理論は間違っている。なぜなら、過去にこういう学者がまったく違う理論を展開しているからだ」といった論法は痛くもかゆくもありません。
それは単にその人が過去の学者の理論を信奉している、ということでしかないからです。
私はそんな古い学説は現状にそぐわないと考えるから、私独自の理論を打ち出しているのです。当然ながら、説得されるわけもない。
もちろん、逆もまた真ですから、私は誰かの理論なり、考え方なりを、そうした論法で説得しようとは思ったこともありません。
論争とまではいかなくても、普段の会話の中で意見の食い違いはあるでしょう。みなさんの経験で、誰かの思いや考えを「違うよ」と指摘して、相手がそれを変えたことがあるでしょうか。あっても、ごく希(まれ)なケースではないかと思います。
変えるどころか、相手はますます自分のいったことに固執(こしつ)して、意固地(いこじ)になるというのが、通常のなりゆきです。それほど、人の気持ちを変えるのは難しいのです。その試みはほとんど徒労といってもいい。
相手の気持ちを変えようと一生懸命になっているのに、なかなか変えてくれなくて悶々(もんもん)として悩む、といった話を聞きますが、それが無駄骨に終わるのは必然。そのことを心得ていれば、わざわざ悩みを引き寄せることもないのです。
■評価を気にして悩むのは、建設的ではない
人間というものが人とのかかわりの中で生きている以上、周囲の評価がまったく気にならないという人はいないでしょう。
誰だって、いい人、素敵な人、と思われるほうが、嫌なやつ、ダサいやつ、と見られるよりうれしいに決まっています。
評価が低いと感じたら、なんとかその上昇をはかりたいと思う気持ちもわかります。
しかし、人の評価というものも、なかなかに変えがたいのです。ですから、評価を気にして悩むのは、建設的とはいえません。
「どうも、みんなから嫌われているみたい」
そう感じている人が、評価を変えようと悩んで、好かれるために、周囲の人に擦(す)り寄ったり、おもねったりしたとして、はたしてうまくいくでしょうか。
「なぁに、彼(彼女)、急にへいこらして。いかにも見え透いてて、なんか嫌な感じ」
こうなるのがオチでしょう。付け焼き刃は、たいがい見透かされます。
■人からの評価は変わったらラッキーと思う
ただし、嫌われていることについて、自分に思いあたるところがあって、それを改めようという意志がある場合は、自分が変わることで評価が一変することはあるでしょう。
たとえば、まわりに挨拶(あいさつ)もロクにしない、態度が横柄(おうへい)、言葉に気配りが足りない、といった人が、そのことに気づいて、一念発起して、自分からちゃんと挨拶する、腰を低くする、人を傷つける言葉を慎(つつし)む、という人に変わったら、周囲の視線は好感を持ったものに変わるかもしれません。
いずれにしても、前提は「人の評価はそう易々(やすやす)と変わるものではない」というところに置くべきです。そのうえで、評価を変えるためにできることがあったら、コツコツやっていけばいいのです。
そして、変わったらラッキーと思うこと。その心構えでいれば、いたずらに評価に惑わされることも、振りまわされることもないですよ、きっと……。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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