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「自民でも共産でもない選択肢」はなぜ拡がらないのか…維新、国民の「分裂」が避けられない状況にある理由

プレジデントオンライン / 2024年1月2日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

自民党の支持率低迷に伴い、野党の「協力体制」が水面下で動いている。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「反自民で反共産の『ゆ党』の立場を取る維新や国民民主は遅かれ早かれ与党と野党のどちらの立場を明確に取るかを迫られるだろう。さもなくば党内での分裂は免れない」という――。

■1強多弱から2大政治勢力へ

派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑で、自民党と岸田政権が急速に崩壊過程に入るなかで迎えた2024年は、野党陣営にも大きな変化を生んでいる。

野党第1党の立憲民主党が再び「野党の中核」の立ち位置を確立しつつあり、野党は予想を超えたレベルで、立憲のもとに結束を強めているのだ。昨年末の臨時国会終盤、立憲が提出した内閣不信任決議案に、同党と「野党第1党争い」をしてきた日本維新の会も、党首が与党への接近を繰り返してきた国民民主党も賛成し、全野党が「岸田政権NO」でまとまったのが象徴的だ。

敵失に負うものが大きいとはいえ、野党がこれほど大きな「構え」を築くことができたのは久しぶりだ。日本の政治は長く続いた「1強多弱」から「2大政治勢力による政権争い」へと、再びかじを切ろうとしている。

そしてこの状況下で、2024年前半にまず大きな変化を求められるのは、おそらく維新や国民民主などの「第三極」政党だ。彼らは否応なしに、与党・自民党と野党第1党・立憲民主党を中核とする二つの政治勢力のどちらにくみするかについて、何らかの答えを出すことを突きつけられるからだ。

■共産、社民、れいわとの「大きな構え」

最初に、昨年末の立憲の「大きな構え」構築の動きを、簡単に振り返りたい。

立憲民主党はまず、2021年の前回衆院選で一定の選挙協力を行った共産、社民、れいわ新選組の各党と、市民連合を通じて次期衆院選に向けた共通政策に合意した(12月7日)。岡田克也幹事長は「自公政権の限界があらわになるなかで、野党が力を合わせて大きな政策転換を図っていきたい」と語った。

特筆すべきは、この共通政策の中に「消費減税」が盛り込まれなかったことだ。

消費減税は立憲にとって、自らの目指す社会像、すなわち「支え合いの社会への転換」との整合性が取りにくく、できれば強く主張したくない政策だ。しかし、他の野党(特にれいわ新選組)は常に消費減税を掲げることを強く求めており、立憲は調整に苦慮していた。

立憲は11月に発表した新しい経済政策に消費減税を明記せず「現行の軽減税率制度を廃止し、給付付き税額控除を導入する」と記述するにとどめた。立憲の姿勢に市民連合が配慮した形で共通政策がまとめられ、他党もこの政策に「乗る」形となった。

立憲はこれまで、共産党との連携を「立憲共産党」と罵倒されたり、他の野党との間に「消費減税」でくさびを打たれたりして、立ち位置に右往左往する局面もあった。しかしこの政策合意によって、どうやらこれらの「呪いの言葉」を乗り越えて、2021年当時の状態まで野党の連携の形を戻すことができたようだ(この経緯については、昨年12月31日公開の記事「政権交代の兆しが見えてきた…『自公政権はイヤ』の受け皿になれなかった野党勢力が変えるべきこと」をお読みいただきたい)。

■維新と国民民主を野党陣営に引き戻した

驚いたのは、立憲がさらに、維新や国民民主をも野党陣営に「引き戻す」ことにも成功したことだ。

維新は21年衆院選で議席を伸ばして以降、立憲と野党第1党の立場を争っているし、国民民主は20年、立憲とのいわゆる「合流」を拒んだ議員で構成されており、玉木雄一郎代表は立憲の「逆張り」を狙うかのような言動を繰り返している。実際、臨時国会で成立した政府の2023年度補正予算案に、両党は野党でありながら賛成した。

二つの「ゆ党」の存在は、野党第1党の立憲に「指導力不足」というネガティブな評価を植え付ける要因となっており、立憲にとってはこれも頭の痛い問題だった。

ところが、自民党派閥の裏金問題が、この状況を劇的に変えた。

■官房長官不信任案、内閣不信任案で見えた「大きな構え」

国民の関心が「立憲は内閣不信任決議案を出すのか」に向かうなか、立憲は松野博一官房長官(当時)への不信任案提出という「くせ球」を投げた(12月11日)。裏金疑惑への批判の高まりを受け、両党は松野氏の不信任案に賛成。それを見越したかのように、立憲は満を持して内閣不信任案を提出した。

松野氏の不信任案に賛成した維新と国民民主は、内閣不信任案にも賛成せざるを得なくなった。「立憲が提出した内閣不信任案に全野党が賛成する」という「大きな構え」が出来上がった。

立憲は、同じ国会で政府の補正予算案に賛成した二つの「ゆ党」を、最後に野党陣営に引き戻すことに成功したと言える。これらの動きを受け、報道各社の年末の世論調査では、自民党の支持率が急落する一方、立憲の支持率は目に見えて上昇した。野党全体に対する好評価の果実を、第1党の立憲が多く受け取った形だ。

■自民党の延命を阻止するための「関係再構築」

臨時国会が閉会すると、立憲の泉健太代表は、記者会見(21日)で他の野党に向けこう訴えた。

「(野党が)『独立独歩でいきます』と言っていたら、自民党政権の延命を許してしまう。それは国民が望むことではない。自民党政権の延命を許さない、政治改革の政権をつくるんだと、各党に呼びかけていきたい」

発言は「維新、国民(民主)などと新政権目指す」と報じられ、党内には軽い動揺がみられた。過去に選挙協力の経験がある共産党などの野党と、「身を切る改革」をうたい、立憲とは目指す社会像が真逆の維新とでは、「協力」に対する党内の忌避感は大きく異なることをうかがわせた。

もっとも、泉氏の発言は、現時点で両党との連立を意図したものではないだろう。市民連合を介した政策合意によって、共産党や社民党など「目指す社会像が近い」野党との連携を再構築することに成功した立憲は、今度は「目指す社会像を共有できない」維新などの政党を、それでも野党陣営につなぎ止め、自民党の延命を阻止しなければならないのだ。

写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■泉代表が他党の「一丁目一番地」の政策を列挙した理由

泉氏の会見で筆者が地味に注目したのは「(政策の)すべてをやるといったらものすごい時間がかかり、政策のすり合わせも大変になる」「(他党と)協定をつくるとか、合意文を作ることを考えているわけではない」などの発言だ。「他の野党と連立に向けた政策協議を行うつもりはない」ということだろう。

泉氏は、裏金問題を受けた政治資金規正法の改正に加え「文書通信費の全面公開」(維新)「トリガー条項(の凍結解除)」(国民民主党)など、各党の「一丁目一番地」である個別政策の名を、わざわざ列挙した。「これらの政策を立憲として実現する。だから自民党ではなく野党陣営についてほしい」ということだ。

泉氏は「立憲の旗のもと、他党に協力を求める」という建前を維持している。立憲が3年前の2020年、当時の枝野幸男代表が国民民主党に「合流」を求めた時のやり方を踏襲しているようにも見える。

■立憲の「上から目線のメッセージ」の真意

ある意味「上から目線」ともみえる呼びかけに、維新や国民民主党が現時点で応じるとは考えにくい。維新の馬場氏も国民民主の玉木氏も、おそらく立憲を蹴り飛ばす。「立憲下げ」が大好きなメディアは「維新や国民民主にすり寄り、袖にされた立憲」と書き立てるかもしれない。

立憲はそんなことは織り込み済みだろう。それでも呼びかけるのは「いい加減『ゆ党』の立場をやめて、明確に野党陣営につくべきだ」という、両党に対する一種の警告だと思われる。あなた方が実現したい政策を立憲が全て実現すると言っているのに、それでも自民党にすり寄るのなら、自民党と「同じ穴のムジナ」と呼ばれることを覚悟すべきだと。

■自民党の崩壊が進むにつれて「ゆ党」ではいられなくなる

大阪万博問題を抱える馬場氏も「非立憲」に凝り固まる玉木氏も、本音では2024年通常国会では、政府の予算案に賛成したいのかもしれない。だがそうなれば、両党は明確に「自民党の補完勢力」と位置付けられる。立憲との選挙協力は不可能になるだろう。

一方、すでに選挙区が埋まっている自民、公明両との選挙協力ができるはずもない。このままでは次期衆院選は、自民・公明の両党、立憲など野党4党、そして維新と国民のいわゆる「三つどもえ」の構図となる可能性が高い。

それで党内が持ちこたえるだろうか。維新の「勢い」に乗って当選したが、大阪万博にあまり強い思い入れのなさそうな、大阪以外を選挙区に持つ議員たちはどう考えるのか。国民民主で連合の支援を受け、立憲とともに戦いたい組織内議員たちは、この状況で戦うことをよしとするだろうか。

都合良く立場を使い分ける「ゆ党」の立場は、時がたち自民党の崩壊が進むにつれて、どんどん許されなくなる。やがて「与党か野党か」が厳しく問われることになるのは必定だ。小選挙区制中心の選挙制度とは、そういう性質のものだからだ。

■「非自民・非共産」勢力は必ずまた失敗する

維新や国民がこの状況を打開するには、立憲民主党と国民民主党を分裂させて「非自民・非共産」勢力の結集を図り、新たな野党の「大きな塊」を作るしかないだろう。国民民主党を離党して、新党「教育無償化を実現する会」を結党した前原誠司氏が目指しているのは、おそらくこの形だ。6年前に自らが深くかかわった「希望の党騒動」の再現である。

だが、7年前に失敗したことが今回成功するとは、筆者にはとても思えない。

野党再編を成功させるには、主導する側に今の立憲を上回る求心力が必要だ。希望の党騒動の時の小池百合子東京都知事のような分かりやすい存在は、今回はいない。昨春ごろまでは勢いのあった維新も、大阪万博問題で陰りが見える。そもそも、立憲自身に分裂の芽がみられない以上、現時点での野党再編は絵に描いた餅に過ぎない。

■維新、国民に迫る「分裂の危機」

維新と国民民主の両党は、立憲に「のみ込まれる」ことを覚悟で野党の立場を明確にできなければ、いずれ分裂の危機に陥る可能性がある。現に国民民主は一足早く「与党か野党か」のスタンスを突きつけられて分裂した。以前にも指摘したが、再分裂の可能性は否定できない。そして、その波は近い将来、維新をも襲うかもしれないのだ。

立憲の岡田克也幹事長は、昨年12月28日の記者会見で、次の衆院選で政権交代を目指す考えを明確にした。かつて同党が「次期衆院選で議席を伸ばし、政権交代は次の次の選挙で」と発信していたことについて「その考えは捨てている。立憲民主党が前に出て政権を目指す」と語った。立憲にとっても、時間をかけて野党を育てる悠長な考えが、もう許されない状況になったということだ。

状況が劇的に変動している今、問われているのは自民党だけではない。次の衆院選をどうやって「政権選択選挙」に持ち込むか、そして実際にどうやって自民党から政権を奪い、その後安定した政権運営につなげていくのか、野党各党の執行部、そして全ての所属議員が問われている。

彼らが今年、どんな政治的選択をするのか、興味深く見守りたい。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。新著『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)9月上旬発売予定。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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