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世界3大投資家ジム・ロジャーズ「新NISA、私ならこう儲ける」

プレジデントオンライン / 2024年1月12日 10時15分

超円安に物価高――。2024年から始まった「新NISA」を攻略し、資産を拡大させる秘訣を世界3大投資家のジム・ロジャーズが初公開する。「プレジデント」(2024年2月2日号)の特集「金持ち家族 貧乏家族」より、記事の一部をお届けします――。

■2024年の世界経済 私はこう予測する

日本の株式市場は、1989年12月に史上最高値を記録しましたが、その後は長い間、下落が続いていました。ところが、2013年になってようやく上昇に転じ、いま30年以上前の最高値に近づいています。日本の株式市場が復活した理由は主に2つあります。

一つは中央銀行である日本銀行がETF(上場投資信託)を買い始めたことです。日銀によるETFの買い入れは10年に始まりましたが、13年4月には「量的・質的金融緩和」が導入され、日銀によるETF保有残高を年間1兆円増やすことが決まりました。その後も買い入れ額は増加していったのです。

もう一つは、税制優遇制度の導入です。政府は国民にも株式を買わせるため、14年にNISA(少額投資非課税制度)を導入しました。こうした税制優遇措置は、日本独自のものではありません。多くの国で導入されています。目的は、国民に株式を買わせて株価を上昇させるためですが、大概の場合、成功しています。

そして日本では、24年から新NISAがスタートし、非課税枠が広がりました。加えて日銀には、ETFを購入する余力がまだ残っています。よって、日経平均株価は遠からず4万円を突破する可能性があると考えています。

ただ私は、24年以降の世界情勢を楽観視していません。日経平均が最高値を更新したとしても、以前のように日本人の誰もがお金持ちになり、幸せになれるとは思っていません。

では、24年以降の世界経済はどうなるのでしょうか。私は非常に大きな問題が発生すると予測しています。

さまざまな報道を見ていると、世界中で多くの人が不満を抱えていることがわかります。それは今後も増えていくでしょう。この問題をいかに早く解決するかが課題ですが、各国の中央銀行や政治家にとっては、非常に難題です。簡単に解決できる唯一の方法は、借金をし続け、お金をばらまくことです。ただし、この方法による効果は長く続きません。一時的には問題を解決するかもしれませんが、その後は非常に大きな痛みが伴うでしょう。そして、世界中の国々は経済的に大きく衰退するはずです。25〜27年には世界中にとても不幸な国民があふれると考えています。

不幸に陥った国民は、不満を募らせます。すると政治家は、外国人に責任を転嫁します。たとえば、トランプ氏は米国のすべての問題の責任を外国人に転嫁しました。見た目や文化の違う外国人に問題を押し付けるのは簡単だからです。国民の不満は貿易戦争に発展し、さらには銃撃を伴う戦争に発展してしまう可能性もあります。人々は歴史の教訓を全く生かすことができません。銃撃戦が始まったら、ひどいことになります。私が日本政府の責任者だったら、できるだけその戦争からは自国を遠ざけようとするでしょう。日本では人口が減っており、若者も非常に少なくなっています。戦争で戦える兵隊も限られています。その意味でも、日本政府はもっと24年以降の世界情勢を心配するべきです。

ただ、世界的な経済危機がいつ起きるか、私にもわかりません。兆候はどう見極めればいいでしょうか。大きな危機であっても、最初はごく小さな国や企業の破綻から始まることが少なくありません。小さな問題が起きても、世界中の誰もが「たいしたことはない」と考えます。それから数週間、数カ月が経過したとき、世界に大きな経済ショックをもたらします。

もしも、次のショックのきっかけが日本であれば、それは非常に大きな世界的な危機につながるでしょう。いまの日本の状況を考えると、日本が発端になる可能性を否定できませんが、私自身は「日本から始まることはない」と思っています。日本の国民や企業は、これまで何十年もの間、政治家や日銀から言われたことに従ってきました。今後も政府が政策を打ち出せば、それに従うでしょう。ですから、日本がきっかけになって、危機が始まる可能性は低いと考えています。それよりも欧州やアメリカから問題が始まる可能性が高いと考えています。

■1ドル200円台の時代が到来する可能性

とはいえ、日本は大きな課題を抱えています。株価の上昇によって24年は23年よりも幸せを感じる年になるかもしれませんが、長続きしないでしょう。みなさんは聞き飽きているでしょうが、日本では人口減少が続いています。総務省が23年7月に発表した同年1月1日時点のデータによると、日本の人口は09年をピークとして14年連続の減少となりました。

日本人は子どもを産まなくなり、移民の受け入れにも消極的です。さらに日本政府は莫大な借金を抱えています。根本的な対策を講じなければ50年後、100年後に日本は存在しないかもしれません。私は日本が大好きなので、そうなってほしくないと願っていますが、それが現実です。

円安も日本を衰退させる原因となります。いまの日本の通貨は、80年代後半の円安水準にあります。しかし私は、この時期まで円安にならなかったことにむしろ驚いています。もっと早い段階で円安が起きると予測していたのです。なぜなら、日本政府は何十年にもわたって巨額の借金を積み重ねてきたからです。借金の多い国の通貨は安くなるのが普通です。にもかかわらず、円安にならなかったのは、日本の国民が円を買っていたからでしょう。日本政府が日本の国民に対して、「円を買いなさい」と言えば、国民は素直に「はい、そうします」と従ってきました。

70年代後半〜80年代の日本を振り返ってみると、いまとは全く違う国でした。出生率もいまより高く、国としてはもっと成長していました。当時の円相場は1ドル200〜300円を超えていましたので、今回の円安でも、そこまで進むこともありうると見ています。いまよりも人口動態が良く、借金も少なかった当時よりも、円安が進む可能性はあると考えているのです。人口が減り、借金の増えている国に投資したいと思う人はいません。

自国の通貨を安くして成功した国は、いままで見たことはありません。しかし、円安は悪いことだけではありません。あなたが輸出に関わる仕事に就いているなら、円安の恩恵を受けているでしょう。あるいは観光業に関わっているのであれば、外国人観光客によって富がもたらされたでしょう。ですから、すべての人にとって円安がマイナスではありません。変化が起きると損をする人がいる一方で、誰かが得をするのです。短期的に見れば円安で恩恵を受ける企業もあり、株価は上がるかもしれません。そして史上最高値を更新するでしょう。しかし、長期的に見ればプラスにはなりません。

実際に、日本にとって23年は、物価高と円安のダブルパンチで多くの人が苦しんだ年でした。私は今後も円安が続くと考えています。世界的に緩和傾向にあるように見えるインフレが再び加速する可能性もあります。円安とインフレによって、日本が海外から買うものはすべて値上がりして、日本は深刻な問題を抱えることになります。

日本人はかつて大金持ちでした。いわゆる富裕層は少なかったかもしれませんが、豊かでした。私はいまでも、かつてのニューヨークでの出来事を思い出します。ニューヨークでは「日本人があらゆるものを買い尽くしにくる」と恐れられていました。89年には三菱地所がロックフェラー・センターを買収しました。当時のロックフェラー・センターは富の象徴でした。日本株式市場が急騰し、日本に世界中のお金が集まり、日本人は我を忘れてあらゆるものを世界中で買い漁りました。

いまの日本人には信じられないかもしれませんが、日本は常にお金で大変な目に遭ってきたわけではありません。ではなぜ、いまの日本はこれほどお金で苦しんでいるのでしょうか。どうすれば日本経済は復活するのでしょうか。まず取り組む必要があるのは少子高齢化対策だと私は考えています。前述のように14年連続で人口が減っているのは、日本人が子どもを産まなくなったことが原因です。一方で高齢化が進んでいます。高齢者が増えると、その生活を支えるために多くの労働者が必要になります。しかし、日本は少子化によって労働人口が減っています。これは日本だけでなく多くの先進国が同じ問題を抱えていますが、日本の労働人口の減少は他の国々よりもはるかにスピードが速くなっています。

日本政府はいますぐ、子どもを増やすか、移民を増やすか、あるいは両方が必要ですが、どちらもしていません。歴史上、移民を受け入れてきた国は、多くが成功しています。なぜなら、移民は新しいアイデアをもたらしてくれるからです。そして新しいエネルギーが生まれ、国が発展します。

私が暮らしているシンガポールは50年前、200万人ほどが住んでいる埋め立て地にすぎませんでした。そのときから技能が高い移民を受け入れたことで、いまのような成功を手に入れました。アメリカも150年前に移民を受け入れ始めました。どんな移民でもいい、誰でも受け入れるという政策をとったのです。その結果、移民のさまざまなサクセスストーリーが生まれました。日本でも小さな政策はいくつか実行されていますが、十分ではないと私は考えています。

2つ目の課題は借金を減らすことです。日本の借金はここ数十年で急増しています。借金をしてお金を使うことは、その場しのぎにしかならないでしょう。一時的には効果が得られますが、長くは続きません。必ず崩壊します。その状態が日本では何十年も続いているのです。借金の最大の問題は「誰かがそれを返さなければならない」ことです。元本だけでなく、利子も支払う必要があります。借金を減らさなければ、日本の活力を取り戻すことはできないでしょう。

ジム・ロジャーズの提言1
日本の円安はさらに加速する。
少子化問題や日本の借金の現状にもっと目を向けなさい
ジム・ロジャーズ氏

■投資で成功する人 投資で失敗する人

少子化や借金の増加によって、日本のファンダメンタルズは悪化しています。それでも株価が上昇しているのは、多くの新しい資金が市場に流入しているからです。資金が集まれば株価は常に上昇します。それを考えれば、しばらくの間、日本の株式市場は上昇が続くでしょう。

こうした時期に成功する投資初心者もいます。買ったものすべてが上がるからです。市場がいい局面に入って実際に儲かり始めると誰もが興奮します。しかし、彼らはいま何が起きているかを理解できていません。「私は賢いから株で儲けられる」「私はいつもこうなる」と思ってしまいます。「私は頭がいい」「儲けるのは簡単だ」と考えるのです。しかし、これは破滅の始まりです。

若くて愚かでもそこそこの経験があれば、投資で一時的な成功を手にすることはできるでしょう。しかし、その富はすぐに失うことになります。投資の世界で長く生き残りたいのであれば、世の中で何が起きているのかを理解する必要があります。歴史を振り返れば、世界中でどんなことが繰り返されてきたのかが理解できるでしょう。

それを乗り越えて本当の成功を手に入れるには、自分自身がよく知っていることだけに投資する必要があります。そして、手っ取り早く儲けようとは考えないことです。なかには短期売買が得意な人もいます。私はその一人ではありませんが、歴史上には短期売買が得意な人たちの偉大なサクセスストーリーがいくつかあります。しかし、多くはありません。多くの人が短期売買にチャレンジしても、ほとんどの場合はうまくいかないからです。だから私は警告します。短い期間で大きく儲けることができる人はごくわずかであることをよく理解してください。

相場が上昇しているときには、耳寄りな話があなたの耳にも多く入ってくるでしょう。投資先が賢くて誠実なビジネスをしていれば、彼らに投資することであなたも儲けることができるかもしれません。しかし、彼らがどうやって儲けたのかを理解できないのであれば、投資をしてはいけません。そんなときには細心の注意を払い、耳寄りな話には近づかないことです。それはあなたを破滅させます。

私が言うような「自分自身がよく知っているものだけに投資する」ことは「つまらない」と感じる人も多いはずです。しかし、私が言いたいのは「成功したければ、退屈になれ」ということです。土曜の夜にバーで儲け話に耳を傾けてはいけません。そんな場所からは距離を置き、退屈に耐えなければならないのです。もしあなたが人生で25回しか投資できないとしたら、あなたは慎重になるでしょう。それを肝に銘じてください。

■あなたが新NISAで購入すべき商品とは

24年からは、新NISAがスタートしました。あなたも投資でお金を増やそうと考えているでしょう。新NISAにはつみたて投資枠と成長投資枠があると聞いています。前者には年120万円、後者には年240万円まで非課税で投資ができます。そして非課税枠は合計で1800万円に達します。また、非課税の期間が恒久化されたので、新NISAによって多くの人が投資に参加し、株式などを長く保有することにつながるでしょう。

【図表】新NISAは恒久的に非課税で投資可能

あなたが適切な投資先を判断できるなら、新NISAは資産を増やすためにとても有効な手段です。前述のように同じような制度は世界中にあって、国民の多くが利用しています。「税金を支払わずに投資してお金を最大限増やす」という選択肢があるとすれば、誰しも投資をしたくなるものです。その結果、多くの人が非課税投資制度を利用し、株式市場を押し上げることに成功しています。ただし、注意は必要です。日本ではいま株価が上昇していますが、上昇相場はいつか終わります。そのときに市場で何が起きるか、人々がどう行動するか、本を読んで勉強してください。それはあなたの資産が全滅することを防いでくれます。

次に訪れる危機は、私の生涯で最悪の事態をもたらすと思います。08年のリーマンショック以降、世界中で借金が急増しています。そんな状況で危機が起きれば、恐ろしいことになるはずです。何に投資すればいいのか、生き残るためにはどうすべきか、しっかりと考える必要があります。何に投資すればいいかを考えれば、価格が下がったときに何をすればいいかがわかるはずです。「なぜ、それを買ったのか」あなた自身が理解しているからです。もし、買った理由がわからなければ、誰かのせいにするしかありません。

実際に危機が訪れると、ほとんどすべての資産が下がります。多くの投資家は損をします。そのときに大事なのは感情的にならないことです。口座の資産がみるみる減っていくのを目の当たりにすれば、誰しも動揺して冷静な判断ができなくなってしまいます。多くの場合は損切りをしたほうがいいのですが、感情的な行動はあなたの損失をより拡大することになります。特に自分が何に投資しているかを理解していない場合にはパニックに陥るでしょう。だからこそ、自分がどんな投資をしていて、危機のときにどんなことが起こるのかをよく理解しておく必要があるのです。

ただし、次の危機はいつ起こるかわかりません。危機を恐れて何もしなければ資産を増やすことはできません。資産を増やしたいと思うなら、新NISAを利用して、いますぐあなたが理解しているものに投資すべきです。理想をいえば、適切な国、適切な投資対象、適切な業界を選んで投資することです。しかし、それは難しいでしょう。であれば、世界中の株式に投資したほうがいいでしょう。たとえば、ETFは、多くの銘柄に分散されている商品です。ほとんどの投資家にとって世界株に投資するETFを保有することは、ベストな選択になると私は思います。

■資産拡大のための投資の秘訣

「資産のどれくらいを投資すべきか」との質問をよく受けますが、それはあなたにしか決めることはできません。もし、「自分が何に投資すべきか」がわかっている人なら、資産のすべてを市場に投入すれば、大金持ちになれる可能性が高くなります。しかし、市場のことをよく理解できていないなら、すべての資産を市場につぎ込んではいけません。学びながら一部の資産を市場に投じて、より多くの知識を得ることができたら、投資資金を増やしていけばいいでしょう。そうすればお金持ちになれるかもしれません。

雑誌などには、お金持ちになった人のストーリーがよく紹介されています。それを目にしたとき、多くの人は「自分にもできそうだ」と思うはずです。たとえば、彼らの中には、かつてアマゾンやアップルの株を買って大きな資産を築いた人もいるでしょう。アマゾンの株式は20年で50〜60倍程度になっていますし、アップルは500倍以上になっています。当時、あなたにも同じように株を買うチャンスはあったはずです。「もし自分も買っていれば、お金持ちになれた」と考えてしまうかもしれません。しかし、現実はそう簡単ではありません。ほとんどの人はそのときに株を買うことはできず、お金持ちになれません。

誰かの成功ストーリーを羨んだり、真似たりするのではなく、あなた自身が学び、自分の知っているものに投資しなければ成功できないのです。

私自身がどのように考えて投資をしているか、少しご紹介しましょう。私がいま注目しているのはコモディティ(商品)です。多くの人には投資対象としてなじみがないかもしれませんが、商品には原油やガソリンなどのエネルギー、金や銀などの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったものがあります。すべてが投資対象となっています。私は長い間、商品に注目し投資を続けてきました。それは長期的に見て、商品ほど儲かっている資産は少ないからです。多くの人はすでに知っているかもしれませんが、たとえば私は66年から74年にかけて砂糖への投資で大きな利益を手にしました。そのとき砂糖の先物価格は1.4セントから66セントへ45倍にも上がったのです。

そもそも株式と商品の相場は、逆相関の関係があります。つまり、株式が上昇するときには商品が下がり、商品が上がるときには株式が下がる、逆に動くのです。そして、およそ18年サイクルで両者の優位性が入れ替わります。過去を振り返ると70年代は商品相場が過熱して株式市場は不振でした。当時の米国は史上最悪のインフレの状態にあり、商品価格が上昇を続けたのです。砂糖以外にもトウモロコシは295%の上昇、石油も70年代に15倍に上昇しています。さらに、金や銀は10年間で20倍以上も上昇しているのです。その後は株式の時代が到来しました。

そしていま、しばらく続いた「株式の時代」が終わり、「商品の時代」に転換しようとしています。私は世界のインフレが再加速する可能性があると見ていますので、ポートフォリオにある程度の商品を組み入れておくのもいいと考えています。商品への投資はインフレや株式市場の下落に対しヘッジ機能の役割を果たしてくれます。物価が上昇すれば商品の価格も上昇するので資産の目減りを防ぐことができますし、株式などとは違う値動きをすることが多く、株価が下がった分を補ってくれる可能性があるのです。

商品への投資は以前よりも簡単にチャレンジできるようになっています。商品関連のETFやインデックスファンドを利用すれば、個人でも気軽に投資ができます。大きなリスクを取らなくても、商品相場の上昇を自身の資産に取り入れることができるようになっているのです。

前述のように商品には金や銀などの貴金属も含まれます。物事がうまくいかないとき、人々は常に金に価値を見出し、同様に銀にも価値を見出しました。タイミングがよければ、金や銀を買ったり、買い増したりすることは有効だと考えています。

ただし、金はすでにドル建てで史上最高値に近い水準で取引されています。しかし、銀は史上最高値の60%まで下落しています。私がいま買うとすれば、金よりも銀を選ぶでしょう。銀は工業用途や投資向けに需要が高まっています。持っていても損はしないと考えます。私は金や銀を定期的に買い続けていますが、金や銀は基本的に「保険」と考えています。万が一のときに資産を守る手段として持っているのです。たとえば、金の価格は米ドルが上がれば値下がりし、値下がりすると値上がりする傾向にあります。歴史的に米ドルが弱くなると、金や銀を買う人が多くいました。今後も同じことが起こるでしょう。

【図表】金は依然として高値だが、銀は最高値の約60%の価格まで下落している

金や銀を「資産のどれくらいの比率を持つべきか」と聞かれることもあります。これは、人によって異なります。ただ、私自身のポートフォリオの中では、5〜10%を占めています。あなたが金や銀に詳しいのであればもっとたくさんの資金を投資してもよいと思いますが、そうでないなら、多くを保有するべきではないでしょう。

農業分野ではインデックスファンドを買っています。米国の取引所に上場しているロジャーズ農業インデックスファンドです。東京証券取引所にも農産物などのインデックスに連動するETFが5銘柄上場されているようです。これらは、個別銘柄を探すのが面倒な人でも投資が可能です。まとまった資金がなければ、定期的にETFを購入していってもいいでしょう。

ただし、投資する前に自分で学んでください。投資で成功したいと考えるなら、とにかく自分の興味や関心のあることに集中することです。あなたがファッションに関心があるなら、毎日ファッションについてインターネットなどで調べているのではないでしょうか。だとすれば、あなたはすでにファッションの分野で、他の多くの人よりも何歩も先を歩いています。その知識をさらに深めて投資に生かすことができれば、成功確率はぐっと上がるでしょう。あなたが関心のある分野で変化に気づいたら、さらに調査しもっと深く研究してください。好きなものを理解し、投資をするのです。

そのときに忘れてはいけないのは、投資で成功する秘訣です。それは「安く買って、高く売る」ことです。その意味で私は、ウズベキスタンの株も保有しています。ウズベキスタンは中央アジアにある旧ソ連の国です。ソ連崩壊後は独裁者がさらに国情を悪化させましたが、現在は別のリーダーに交代しています。同国には金やウラン、天然ガス、原油などの天然資源があります。観光資源も豊富です。その点に期待して私はこの国に投資を始めているのです。具体的にいえば、ETFに似た投資ファンドを買いました。ウズベキスタンは将来、もしかすると「アジアの虎」になる可能性があると期待しています。ただ、この投資は多くの人に勧められるものではありません。

アメリカの金利が上昇したことでアメリカの企業の社債に興味を持っている人も増えているようです。社債は企業が設備投資や事業資金を調達するために発行する債券です。投資家はその債券を買うことで定期的に利子を受け取ることができます。満期になれば元本が戻ってきます。投資する際に利子率が確定するので、確実なリターンを得たい人に好まれます。しかし、社債を発行した企業が破綻すれば、利子が支払われない、元本が戻ってこないリスクがあります。

同じようにアメリカが発行する債券が米国債です。企業と米国の信用度を比較すれば、米国のほうが破綻リスクは低くなりますが、米国債よりも社債のほうが利率は高くなります。その意味で社債は米国債よりも魅力的な投資先といえますが、その分、リスクが高いことに注意してください。実際に投資をする際には企業の選別が非常に大事です。過去に米国の最大手の企業が破綻したケースは何度もあります。たとえばGM(ゼネラルモーターズ)は世界一の自動車会社でしたが、09年6月に日本の民事再生法にあたるチャプター・イレブン(連邦破産法11条)の適用を申請し、経営破綻しました。負債総額は1728億ドルで製造業では世界最大の規模でした。

GMはかつて世界で最大の自動車会社でした。当時、日本の自動車会社がアメリカに進出を考えていると知らされたGMの幹部は、その事実を笑い飛ばし、全く気にしませんでした。しかし、数十年後には破綻し、いまではトヨタが世界一の自動車メーカーになっています。

企業の経営状況を見極める指標には、バランスシート(貸借対照表)をチェックしたり、自己資本比率を確かめたりする方法がありますが、GMのケースを考えても、それが難しいことがわかります。社債は利回りの面で魅力的ではありますが、投資には十分な注意が必要です。

ジム・ロジャーズの提言2
自分は何に投資をしているか
100%理解できないなら投資先に選んではいけない
ジム・ロジャーズ氏

■次に買うべきは中国株であるのか

中国への投資を考えている人もいるでしょう。いま中国の株価は下がっています。一般的に株価が下がっているときに買うのはよいことです。しかし、あなたが中国のことを何も知らないなら、中国株は買うべきではありません。自分が何に投資すべきか判断できない限り、投資をしてはいけません。

中国経済は新型コロナウイルスの大流行で大きな影響を受けました。そして不動産業界では、バブルが弾けました。中国はいま苦しんでいますが、投資家の立場からすれば、安値で買えるのはチャンスです。歴史的に見ても、株価が下がったときには、産業や企業、あるいは国に投資するには、よい時期であることが多いのです。そう考えるなら、いまは中国に投資するのによい時期かもしれません。

問題は中国がいつ復活するかです。不動産バブルが崩壊し、「デフレスパイラルが日本のように30年続くか」と聞かれれば「それはないかもしれない」と答えます。では、15年で復活するのか。それはわかりません。大きなバブルが破裂したのですから、戻るまでにはそれなりの時間がかかります。

中国の不動産バブルは、私たちがこれまで見てきた中で最も大きなバブルでした。だからこそ、リカバリーまでには時間がかかるのです。ただ、いつかは復活するでしょう。それを前提にすれば、安いときは買い時といえます。私の言うことを鵜呑みにして投資することはお勧めできませんが、世界中を見渡しても、投資すべき場所は多く残っていません。中国はその一つです。

21世紀に新たに覇権を握る国があるとすれば、中国以外に考えられないからです。20世紀にアメリカが覇権を握ったときも大不況で、さまざまな大企業が破綻しました。いまの中国も景気減速によって多くの企業が破綻していますが、それも世界の覇権を握るためのステップだと私は思います。こうしたことは、歴史を振り返ればたびたび起きてきます。イギリスも同じです。覇権を握るときにさまざまな破綻を経験しました。長い視点で見れば、中国でいま起きていることは短期的なものであって、そこからしっかり反発できると私は見ています。

そして中国が世界の覇権を握ることになれば、人民元が基軸通貨になるでしょう。問題は米ドルやユーロのように電子で簡単に取引ができないことです。私も人民元を少し保有していますが、もっとオープンに取引ができるようにならなければ、基軸通貨になるチャンスはありません。そのため、人民元が基軸通貨になる時期は、まだまだ先だと考えられます。

中国に限らず、自国以外の国によい投資機会は必ずあるはずですから、それを探して資産を保管したほうがいいでしょう。私が子どものころ、アメリカ人は日本の製品をバカにしていました。そのとき、日本に投資していれば巨大な富を手にしたでしょう。

投資機会を見つけた国について詳しければ、その国の中で投資対象を探せばいいのです。もし、その国に詳しくなければ、もっと興味のある国について調べてみてください。自分の資産を運用する、お金を儲けるには他人の意見を聞くのではなく、自分の好きなものを自分で調べてチャンスを見出さなければなりません。他人の言うことを聞いても当てにならないかもしれないからです。

借金が少ない国に投資を検討するのはよいことです。危機が起きたときに人々が最初にすることの一つは、負債を確認することだからです。その意味で借金が少ない国を探すことはよいことですが、該当する国はほとんどありませんので、よく調べてから投資をしてください。

【図表】投資先として検討している国の借金の多さを調べるのも手

話は変わりますが、現在の私のポートフォリオの大半は米ドルです。米ドルのキャッシュやMMF(マネー・マーケット・ファンド)などで保有しています。次の危機がやってきたとき、安全資産と見られている米ドルは、いまよりももっと買われるはずです。ただ私は米ドルが安全資産だと思っているのではありません。世界中の投資家が米ドルを安全資産だと考えているため、米ドルの価値が上昇すると思うので、私は保有しているのです。

米ドルがバブルになったとき、米ドルを売って何を買えばいいのか、私にはまだわかりません。どの通貨がいいか見極めはついていないのです。正しい回答は、おそらく人民元だと考えますが、人民元は簡単に取引ができる通貨ではないので、いまのところどうなっていくかは未知数です。

■幸せになるためにお金をどう使うべきか

私が繰り返し伝えてきたように、自分で学び、自分の理解しているものに投資すれば成功を手にすることは可能です。そのときに、手に入れたお金を何に使えば人は幸せになれるのか。それは人によって異なります。実際に投資で大金を手にしたとき、あなたはこう考えるでしょう。「私は賢い!」「ほかに投資すべきものを探そう」と。そしてお金を失います。成功したときには窓を閉めて、お金をクローゼットに入れて、気持ちが落ち着くまでしばらく距離を置いたほうがいいでしょう。

十分に熱が冷めてから、お金をどうするか考えてください。そのときは、自分がハッピーになれることやよいことに使ってください。貯金することも悪いことではありません。私に子どもができたとき、最初に買ってあげたのは貯金箱でした。そうすれば、子どもたちは貯金のすばらしさを学ぶでしょう。お金をもらったら貯金箱に入れる、お金は使うものではないことを学びます。それが正しいかどうかは、20年後に聞けばわかります。私の子どもたちは、お金は貯めるものだと学んだと思います。

そして自分の情熱を追求することを忘れないでください。若い日本人であろうと、年老いた日本人であろうと同じです。そのためにお金を使ってください。人生で幸せな人は、自分の情熱を追い求める人です。幸せな人のほうが不幸な人よりも成功するのが普通です。仮に成功しなくても幸せであれば、気にならないでしょう。大学に通う学生も、定年退職した人も、対象は何でも構いません。自分の情熱を追求してください。そうすれば、よい人生が送れるはずです。

ジム・ロジャーズの提言3
耳寄りな情報は危険だ
100%理解できるものだけに投資をしなさい
ジム・ロジャーズ氏

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ジム・ロジャーズ(じむ・ろじゃーず)
投資家
ロジャーズホールディングス会長。1942年、米国生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。73年にクォンタム・ファンドを設立し、ヘッジファンドという手法にて莫大な資金を運用して財を成した。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『大転換の時代』(プレジデント社)、『世界大異変』(東洋経済新報社)など著書多数。

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(投資家 ジム・ロジャーズ 構成=向山勇 編集協力=花輪陽子、アレックス・南レッドヘッド 撮影=Luxpho Pte Ltd(原 隆夫))

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