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ビジネスの成功に何が一番重要か…そんな質問に世界のコンサル業界を革新したBCG創業者が明確に答えたこと

プレジデントオンライン / 2024年1月24日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirsak

ビジネスで成功するには何が必要か。元ドリームインキュベータ代表で経営コンサルタントの古谷昇さんは「小さな会社は戦略がないとあっけなくポシャッてしまう。しかし、戦略は万能ではないし、お手軽な思いつきにすぎない粗製濫造のものも混在している。戦略コンサルティングというコンセプトを最初に提唱したBCG創業者のヘンダーソンは、著書の中でビジネスで成功するには何が必要かと聞かれて、『成功の一番の鍵は運である。そして二番目が戦略だ』と述べている」という――。

※本稿は、古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■まずはビジネスの意外な真実から

十数年の経営コンサルタント経験を積めば、誰だって、まあオレもなんとか人並み以上に仕事ができるようになったんじゃないか、くらいの自信はできる。現実に私もBCGでシニア・ヴァイス・プレジデントになっていた。

ところが、そんなとき突然、大きな転機が訪れた。

DI(ドリームインキュベータ)の創業話である。当時BCGの社長だった堀が、いきなり独立を私に告げた。

青天の霹靂、寝耳に水――と、あのときの様子と以後の経緯を記せば、読者の方たちにもそれなりに興味深く読んでもらえるはずの話が書けそうだ。しかし、それはここでは省いて、結果のみ記す。

BCGでの仕事は主に大企業相手のコンサル、DIの創業目的はベンチャー育成。ついでにいえば、DIでの年収はBCGのときの4分の1以下になる。仕事面、生活面、その他もろもろのことを考えると大きな冒険ではあったが、私は最終的に新天地での新たなスタートを選んだ。

それから数年。いろんなベンチャーの育成を手がけてきて、いくつか面白いことに気がついた。

なんといっても、その第一は「戦略」についてである。

いわずもがなだが、経営コンサルタントの生命線は「経営戦略の立案能力」ということになる。BCGでは、戦略を大企業に売っていた。いまは、大企業に加えてベンチャー企業にも戦略を売っている。あるいは指導、アドバイスしている。

そこで質問。経営戦略がより必要なのは、大企業のほうでしょうか、ベンチャー企業のほうでしょうか?

じらさずに即答しておく。正解はベンチャー企業のほうなのである。

■戦略なき小さな会社は危険すぎる

意外な答えだと感じて当然。経営戦略のプロである私たちも、頭ではこれを理解してはいたが、ほんとうにしみじみ「わかった」(=理解する×こなれる)のは、DIでベンチャー育成を実際に手がけてみてからなのだ。

ベンチャー企業の人たちは、だいたい「やるべきことはわかっているが、人がいないのでできていないだけ。戦略より営業を紹介してくれ」と考えている。

ちなみに、コンサルティング会社が売る戦略は安くはない。いや、一般的にいえば高い。だからベンチャー企業だと、戦略に予算をかけようとはなかなか考えづらい、という現実もある。

しかし、ほんとうはそれではダメなのだ。

ベンチャー企業のような小さな会社ほど、あらかじめキチンとした戦略を立てて経営に当たらないと、それこそちょっとした風に吹き飛ばされてあっけなくポシャッてしまうことにもなりかねないのである。

不況と業績の低下に不安やストレスを感じているビジネスパーソン
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

このことは、以下に記していく話を読んでいただいた後なら、まさに「しみじみ」わかっていただけると思う。

それでも、使える資金が少ない企業には戦略立案料が高くて払えないという問題は残るが、これも大丈夫。コンサル会社に戦略を発注する資金的余裕がないなら、あなた自身が戦略を立てて会社に提案すればいい。

これならタダだし、もちろんのことあなたの評価は大いに高まる。もちろん、コンサル会社によっては、対価を成功報酬やストックオプションなどで受け取るところもあるので、キャッシュが苦しいベンチャー企業でも検討してみることは可能だ。

■人により大きな差が生まれる「戦略」の本当の意味

ところで、まずは素朴な疑問。いまでは戦略という言葉が当たり前のように使われているけれど、みなさんほんとうに戦略の意味をわかって使っているのだろうか。

というのは、戦略を定義しようとすると、意外と難しいのである。

だから、そもそも戦略って何なんだ? ここから入ってみたい。

実は、DIを立ち上げてしばらくして社員募集をしたとき、経営コンサルタントの経験者だけでなく、さまざまな業界からいろんな人が応募してきた。そんな中の一人に、ある大手の投資銀行から転身してきたAがいる。

Aが「実に面白いんですけどね……」と語ってくれたところによると、彼が投資銀行でM&Aの仕事をしているとき、お客さんに対して「ウチは戦略的アドバイスを含めてM&Aをお勧めしています」といっていたらしい。

面白いというのは、その「戦略」なるものに、人によって大きな差があるというのだ。

たとえば、その投資銀行は、ある業界シェア3位のメーカーに対して、「業界5位のB社と一緒になれば、シェアが増えて業界1位になれますよ」とアドバイスしたことがあった。さすがにこれだけでは、いわゆる戦略なのかどうかの判断はちょっと難しい。

そこで、ちょっと中身を見てみる。

その投資銀行のある担当者は、今日は業界3位のメーカーがお客さんだからと、『会社四季報』と『マーケットシェア事典』を引っ張り出して眺めた。

すると、かの3位企業のシェアは17%で、1位企業は25%であった。さらに、2位企業以下はシェア争いが混沌としていて、2位19%、4位14%、5位9%、6位7%……と続いていた。

当然のことながら、5位以上の会社と一緒になれば、単純計算でシェアが25%を超え、業界1位になれることは誰にでもわかる。

自分のところより下位はM&Aの対象にできるとしても、シェアが拮抗(きっこう)している4位企業を無理矢理に買収するのは決心しづらいかもしれない。じゃあというんで、彼は業界5位のB社とのあいだのM&Aを提案することにした。

これは戦略じゃありません、断じて。

■同じ提案でも中身が全く違う

対して、ある別の担当者もお客さんに「業界5位のB社とのM&A」を勧めたとする。ところが、じゃあ、これも戦略ではないんだな、と思ったら大間違い。結果として同じ提案になったとしても、実はこちらは立派な戦略だった、ということがあるのだ。

この担当者は、『会社四季報』や『マーケットシェア事典』を見たところまでは同じでも、そのあとが違った。

彼は、たしかに2つの会社のシェアを足せば1%の差で業界一位になれるが、それは単に表面上のことにすぎないことを知っている。だから当然のこととして、2つの会社の内容をつぶさに分析してみた。

たとえば、両社の経営資源にはどういう重なりがあるか。一緒になると余分になるものが出てくるケースは当たり前にある。M&Aとなれば、そういうものは切り捨てないといけないかもしれない。逆に、M&Aによって両社の強みと弱みをうまく相互補完できて、労せずして企業体力がグンと増す部分だってあるだろう。

もちろん、M&Aをする際のコストの問題、それ以前に業界1位になることでほんとうにメリットがあるのかなどの業界特性や経済性、販売チャネルなどを考慮に入れて分析しておくべきことは他にもたくさんある。

そういうものをあらゆる角度から考えてみたら、この二つの会社は意外なほど相性がいい、ということがわかった。

こうしたさまざまな熟慮の結果として、彼はお客さんに業界5位のB社の企業買収を提案した。

これなら、立派な戦略である。

事業の合併および買収のコンセプト
写真=iStock.com/Parradee Kietsirikul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Parradee Kietsirikul

■戦略に対する2つの誤解

Aの提案は前者だったか、後者だったのか。

AはDIで活躍しているのだから、答えは後者ということになる。

前者のような提案は、単なる表面的な「思いつき」でしかない。後者の、Aがしていたような、あらゆる角度からの調査、検討、分析がなされていることで、提案に「深み」があって初めて戦略と呼ぶに値する。

戦略に対する誤解を生んでいる原因の1つがこれだ。

同じ提案であってもお手軽な思いつきにすぎない粗製濫造のもの、よく練られていて立派な戦略になっているもの、世の中にはこの2種類が混在していて、それが物事を難しくしている。冷汗、脂汗を流して知恵を絞り、全身全霊を傾けて戦略を立てているつもりの私たちにとっては、なんとも迷惑な話である。

よく考えられた戦略は、壁にぶち当たって低迷していた会社を劇的に甦らせるだけの、驚くべき力を持っているものだ。私はこれまでのコンサルタント生活を通じて、そういう事実をたくさん見てきた。

そんなときお客さんからは、経営コンサルタント冥利(みょうり)に尽きる、というほかないほど感謝されることにもなる。

かといって、戦略というものは万能ではない。

これが、戦略に対する2つ目の誤解である。

■「戦略は万能」は大間違いである

万能説というのか、たとえば「気功」では、気を流すと病気が治るといわれている。これはたぶんウソではなくて、気功が非常によく効く人もいるのだと思う。

しかし、これがエスカレートして、気功をマスターすれば病気など何でも治る、ガンも治ってしまうということになったら、明らかにウソである。

ガンを予防する紅茶キノコ、野菜スープ、トマトさえ食べていれば大丈夫、こうした類の万能説はあとを絶たない。そして、溺れる者は藁をもつかむで、この間違った万能説が意外なほど世に受け入れられたりするのだ。

戦略もこれと似たところがあって、戦略さえあればもう大丈夫、落ち込んでいたウチの会社もこれで一気に復活だね、というわけにはいかない。

BCGの創業者ブルース・ヘンダーソンも同じく、戦略は万能ではないといっている。

そもそも、戦略コンサルティングというコンセプトを最初に提唱したのは、ブルース・ヘンダーソンである。

彼は、自分が生み出した戦略コンサルが周りの誰にも受け入れられないのに苛立って、ではオレがその効用のほどを実証してみせてやろうじゃないかと、それまでいたコンサル会社を飛び出してBCGを創業した。

結果、ヘンダーソンの信念は見事に証明されて、BCGはみるみるめざましい躍進を遂げた。

■戦略は二番目に大事。一番大事なのは…

最初は冷ややかな目で見ていた他のコンサル会社も、これを静観しているわけにはいかないと、いっせいに追随して戦略コンサルに参入した。かくして、いまでは世界中のコンサル業界が、例外なくすべて戦略コンサルで商売するようになっている。

古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)
古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)

世界のコンサル業界を変えてしまったほどのコンセプトをつくったヘンダーソンが、その著書の中で、ビジネスで成功するには何が必要かと聞かれて、「成功の一番の鍵は運である。そして二番目が戦略だ」といっている。

二十数年前にBCGに入社したとき、創業社長ヘンダーソンの著書からこの言葉を見つけた私は、ああ、この人いいことをいうなあ、と大いに感心したものだ。

たしかにそうである。戦略があればビジネスは成功するのかといったら、それはウソだ。戦略はビジネスにおいて1、2を争う大切な要素だが、運も大切だろうし、他にも大切なことがいくらでもある。

すなわち、戦略は万能ではないのだ。

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古谷 昇(こたに・のぼる)
経営コンサルタント
1956年、東京都生まれ。1981年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(計数工学修士)。1987年、スタンフォード大院経営工学修士(MS)。1981年、ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。1991年、同社ヴァイス・プレジデント就任。同社シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年、株式会社ドリームインキュベータ(DI)設立、代表取締役に就任。現在、参天製薬(株)、(株)ジンズホールディングス、サンバイオ(株)、(株)メドレーの社外取締役を務める。また、PEファンドのアドバイザーやベンチャー企業へ投資、経営アドバイスなども行っている。

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(経営コンサルタント 古谷 昇)

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