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タント、コペン、ミゼットIIが泣いている…世界に誇る最強コスパメーカー「ダイハツ」が不正に追い込まれたワケ

プレジデントオンライン / 2024年1月19日 6時15分

ダイハツ工業の試験認証不正に関する記者会見で陳謝する奥平総一郎社長(左)とトヨタ自動車の中嶋裕樹副社長=2023年12月20日午後、東京都文京区 - 写真=時事通信フォト

昨年12月、ダイハツ工業は新車の安全性能を確認する認証試験など25の試験項目で、174個の不正行為があったことを発表した。これを受け、現在も全国4つの完成車工場では生産を中止している。自動車ライターの小沢コージさんは「これだけコスパに特化した自動車メーカーは他になく、日本が世界に誇る文化といえる。不正の罪は重いが、なんとか立ち直ってほしい」という――。

■ダイハツの不正行為の悪質性

ま、まさかあのダイハツが……。

ユーザーはもちろんわれわれマスコミ関係者にとっても完全に寝耳に水であり、目を疑うニュースが飛び込んできました。昨年12月20日に突如発覚したダイハツ工業株式会社の前代未聞の認証申請における巨大不正行為です。

認証申請とは、新車を製造する際の車両の性能や安全性に対する確認テストのようなもの。具体的には国交省系審査官の立ち会いの下に行われる「立ち会い試験」と、書類のみの「届け出試験」があり、後者は基本メーカーが申請したデータがそのまま受理されます。

今回は主に届け出試験での虚偽が問題になっており、これは確定申告における税額申請のようなもので、疑いはまず持たれません。大前提となる信頼関係を利用して不正行為が行われたわけで、その悪質性が大きく問われているわけです。

試験のジャンルは大ざっぱに「静的」「動的」「衝突安全」「燃費」「排ガス」性能に関わるもので、振り返ると4~5月に類似不正が発生しており、深刻ではあるものの当初、不正行為はこの数件だけと考えていたと思います。

不正は不正ですが、普通にやればパスする試験を万が一の不合格を恐れ、合格マージンを取るために「不正をする」行為。具体的には、衝突時に内装が鋭利に割れないように事前に切れ込みを入れるような不正でした。

■「マジメゆえの不正」では済まされない

結果的にはそんなことをしなくても合格できたようで実力は十分なのに、万が一を恐れて細工しておく。いわゆる秀才がした「しなくてもよいカンニング」のようなもの。

神経質すぎてやる必要のない不正をしている部分もあり、リポートによれば「再テストする時間がない」「試験車両を用意する余裕がない」といった理由で、よっぽど時間がないのか……と知りつつ、ダイハツの上層部としてはそこまで深刻には受け取ってなかったと思います。たまたまこの数件なのだろうと。

ところが今回驚かされたのは、第三者委員会による調査結果で新たに174個という不正行為が発覚。さらに1989年から続いていたという歴史の古さ。多岐にわたる不正が長く続いたことから、前代未聞の全車出荷停止という措置が取られたのだと思います。さらに、先日一部車種においての型式指定取り消しも決まったようです。

たまたまの一過性の不正行為ではなく、長い時間染み付いた虚偽体質なのだと。

■ダイハツの傑作車たちが泣いている

正直、小沢はこの何十年間、何度もダイハツ開発者に会って開発ストーリーを聞いていますがとても信じられません。もちろん開発部と認証部署は完全に同じではありませんが、同じ開発部隊にあります。その組織の共有構造が諸悪の根源という説もありますが、それだけに信じられません。

報道された通りのトップからのプレッシャーなのか、トヨタへの忖度(そんたく)なのか、もっと他に理由があるのか。そこは今後の報告や沙汰を待ちたいですが、まずはこの不正を聞いて思い出すことがあります。

それは小沢が取材した数々のダイハツの平成の傑作車たちです。

例えば平成8年に出たダイハツ・ミゼットII。今となっては誰も乗ってない前代未聞の2人乗り軽トラック。名前やスタイルを見れば分かる通り、映画『三丁目の夕日』に出てくる「ダイハツオート三輪=ミゼット」の現代版。

ダイハツミゼットII
ダイハツミゼットII(写真=Comyu/CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers/Wikimedia Commons)

1950年代に生まれた昭和の名作の復刻版で、さすがに3輪車ではありませんでしたが、全長が2.8メートル弱と恐ろしく小さい。

すごいのはメーカー自身も多く売れるとは思っておらず、最初からほぼ手作り同然で、価格を抑えていること。46万9000~59万9000円と当時としても破格の安さでいろんな意味でマジメにミゼットの現代版を作り込んでいるのです。

■コスパをトコトン追求する

ホディは当時の軽トラ・ハイゼットの流用で、テールランプはキャリイ用。エンジンはあえてキャブレター仕様で、左側ドアのガラスはハメ殺しでメーターの水温計すら省いていました。ブレーキも当然前後ドラム式で、全然マニアックではないのです。

さほど売れないと知りつつ、マジメにコストダウンを図ったところにダイハツらしさが光ります。良くも悪くもコスパ追究が自分たちの最大のレゾンデートルであることが心底染み付いているのです。

彼らは決して「高くて良いモノ」を作ろうとは考えていません。「安くて良いモノ」をトコトン追究し、そこにはいろんなものを省略する姿勢があります。今回はそこがイキ過ぎたのかもしれません。

■コペンが教えてくれた大事なこと

2つ目の思い出は丸目2灯フェイスのキュートさが自慢の初代ダイハツ・コペン。

今2代目が出ている軽2シーターオープンカーです。初代には、当時一足先に出た同じく軽オープンのホンダ・ビート、スズキ・カプチーノとの露骨な違いをつくづく思い知りました。

L880K型ダイハツ・コペン アクティブトップをフロントから撮影
L880K型ダイハツ・コペン アクティブトップをフロントから撮影(写真=Tokumeigakarinoaoshima/CC-Zero/Wikimedia Commons)

というのも、今回も売りはコストパフォーマンスであり、パーツの共有性なのです。

競合2車はプラットフォームからほぼ完全新作。ビートはミッドシップ、カプチーノはFR、どちらもパワートレインは既存の改良版でしたが、骨格は新作。まさにバブル期の快作で、軽もオリジナリティに走ったのです。

しかし初代コペンはそれらとはある意味対照的でした。見た目はキュートで、走りも軽快でしたが、骨格は当時のムーヴと同じFFプラットフォーム

コストパフォーマンス優勢の姿勢が出ており、事実価格はビートやカプチーノより安く、ビートが約5年、カプチーノが約6年しか作られなかったのに対し、初代コペンは唯一10年間作られ、現行2代目も生まれました。

長い目で見るとその「使い回し作戦」は大成功。ビジネス的にも文化的にもスポーツカーを根付かせるためには長く作り続けなければならないのです。

同時にスポーツカーも決して走りやカッコ大優先で作ればいいってものじゃない。コストパフォーマンスと利便性も大事。その見過ごされがちな真実を教えてくれたのがコペンだと思います。

■スーパーカーブランドとは真逆の姿勢

最近では今や新国民車とも言うべきジャンルを作った軽スーパーハイトワゴン、初代タントもダイハツの傑作車といえるでしょう。

スライドドアが当たり前じゃなかった軽ワゴンの世界に、全高1.7メートル台の車高とスライドドアを持ち込み、いきなり月販1万台弱のヒットを連発。現在となっては、販売数では2011年発売のホンダN-BOXに越されていますが、しっかり人気ジャンルを創りました。

5BA-LA650S-GBQZ型ダイハツ・タント ファンクロスターボ2WDをフロントから撮影
5BA-LA650S-GBQZ型ダイハツ・タント ファンクロスターボ2WDをフロントから撮影(写真=Tokumeigakarinoaoshima/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

振り返ると、ダイハツの生んだ記憶に残るクルマは、なにか絶対的な価値というより、独特の大衆性やコストパフォーマンスに紐付いていたことに気付かされます。

いわばスーパーカーブランドとは真逆の軽&コンパクトカーメーカーならではの姿勢。美しく、楽しければどんなに高くても良い! というよりもこの価格でこの性能はどうです? というものづくりの姿勢。

■日本が誇るべき自動車文化

実は同様の姿勢を感じるメーカーが日本にはもう一社あり、それは永遠のライバルたるコンパクトカーメーカー、スズキ株式会社です。

同社もまたコスパに並々ならぬこだわりを持っており、ダイハツに負けず劣らず。ただし、体質はどこか異なっており、ダイハツがどこか関西系のノリを感じさせるのに対し、スズキには風光明媚(めいび)な浜松の明るさを想起させます。

いずれにせよ日欧米、最近では韓国や中国も行っている自動車づくりにおいて、ここまでコストに重きを置いているメーカーはないような気がします。一見中国は安いクルマを作りそうですが、なんだかんだ大型車指向ですし、韓国もまた行けば分かりますが欧州車チックなクルマがウケています。

そしてこの日本ならではの軽・短小&コスパ指向のものづくりは決して間違っているとは私には思えないのです。それどころか日本が誇るべき文化なのではないかと。

日本のものづくりは貧乏臭いという欧米志向の同業者もいますが、そのコスト追究姿勢が悪ければ全国展開する大手家具・インテリアメーカーも100円ショップもすべて悪になります。安くてうまいファミリーレストランチェーンも全く同じです。大衆を睨んだコスパ追究はこの時代にあって大切な企業姿勢ではあると思うのです。

ただし今回はやり方が間違っていた。追い込まれ過ぎていた。ある種のタガが外れ、さらに日本の性善説に基づく認証制度に甘えて30年以上も虚偽を続けてしまった。

そう簡単に間違いが正せるとは思いませんし、罪は重い。しかし自分はなんとか日本が誇るこの大衆的コスパ自動車メーカーの復活を願う限りであります。

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
自動車ライター
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(自動車ライター 小沢 コージ)

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