なぜ政治家だけが領収書なしで非課税の裏金を使い放題か…橋下徹「これが抜本解決のための『4つの提言』だ」
プレジデントオンライン / 2024年2月9日 9時15分
早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。 - 撮影=的野弘路
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2024年2月16日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
パーティー収入「キックバック」問題をどう考えるか
自民党の各派閥が主催する政治資金パーティーにおける政治家個人への「キックバック」問題が紛糾しています。年明け早々の1月7日には、清和政策研究会(安倍派)から約4800万円のキックバックを受領してきた池田佳隆衆議院議員が逮捕されるなど、岸田文雄政権を大きく揺るがしています。事態の解明と今後の改革、わけても国民の政治不信の払拭に、どのような策が考えられるでしょうか。
■Answer
政治資金でも領収書がなければ原則課税とするべき
今回の政治の裏金問題(あえて政治資金問題ではなく裏金問題と呼びます)は、爆弾級の「政治とカネ」問題に発展しています。報道によれば、安倍派の議員は過去5年間で約5億円、二階派は1億円を超す裏金をキックバックされた可能性があるとのこと。しかし、これはまだ序の口です。政治資金規正法違反罪の公訴時効が5年だからこの額になるわけで、それ以前に遡れば、いったい総額いくらに上るのか。安倍派は20年以上前からこの仕組みを続けてきたという報道もあります。与党の大派閥による組織ぐるみの慣例だったとしたら、開いた口がふさがりません。
さて、刑事責任の追及は検察に委ねるとして、問題は今後の改革です。すでに巷では、パーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円以上」から「5万円以上」に引き下げる案や、政治資金パーティーそのものを禁止する案などが出ていますが、これらは些末な「周辺的課題」の解決案にすぎず、そこにこだわると、大事な「中心的課題」を見失ってしまいます。
今回の中心的課題は何でしょう。それは「政治家が税金も払わずに私腹を肥やしていたこと」にほかなりません。対する解決策は実にシンプルです。「政治家にも国民と同じ納税ルールを義務付けること」。現状、政治家だけに特例として免除されている申告・納税義務を国民と同レベルに徹底させ、違反の際はペナルティを科す。これだけで事態の99%は解決します。
検察OBなどは「4000万円以上の不記載でないと立件できない」と述べているようですが、それはあくまで政治資金規正法違反における刑事罰に関してのこと。「脱税」ペナルティとなれば話は変わってきます。
この原稿を書いている1月現在、民間人は確定申告作業に追われています。僕も例外ではなく、溢れかえる領収書を整理し、収入から経費をのぞいた所得がいくらになるか計算し、事務所の会計担当や税理士と打ち合わせを重ねています。この作業をおろそかにすれば、申告漏れとして追徴課税や加算税のペナルティを科されるだけでなく、社会的制裁も加えられ、もはやメディア出演や講演会の仕事はなくなるでしょう。だから数字を間違えないように必死になります。
確かに誰でも手元に残るお金を少しでも増やしたい。しかし数字をごまかしたり、ミスしたりすれば大きなペナルティが科される。ゆえに国民は地道にせっせと働き、正直に納税しているのです。ところが当の政治家たちときたらどうか。納税を免れる最強の財布を、複数確保しているのです。
自民党は旧文通費問題に関しても、のらりくらりと改革を避けてきました。国会議員は歳費(給与)とは別に月100万円を「調査研究広報滞在費」(かつての名称は文書通信交通滞在費=文通費)として受領しますが、これは使用基準も範囲も限定されず領収書も不要で情報公開もされません。にもかかわらず非課税なのです。まさに政治家にとって“第2の財布”。そこに新たに“第3の財布”として、キックバックが明るみに出たのです。
ちなみに“第4の財布”も存在します。政党から政治家個人に与えられる「政策活動費」は、2021年までの20年間で、主要政党において約456億円支払われました。最多はもちろん自民党で、約379億円。こちらも使途を明らかにしなくてもよく、領収書は不要で非課税です。
実際にどう使われているかはまったく不明ですが、僕が見聞きしたところでは、高額な飲み食いに始まり、高額な贈り物にも使われています。政治家の生活費に充てられている可能性もある。また、党公認の新人候補者への支援金に使われることもあります。立候補するには準備期間が必要です。新人候補者は安定した仕事を辞め、いつ解散総選挙になるかわからない期間を選挙準備に充てます。その間にも生活費や事務所代、人件費、交際費などがかかります。その分を支援するため、幹事長など党幹部の差配で新人候補者へかなりの額を渡すのです。
今回問題となっている派閥の裏金は、新人候補者を派閥に囲い込むためにも使われていたでしょう。
もちろん、これらのお金が「政治活動のために適切に使用した」のであれば非課税で問題ありませんが、そもそも領収書が必要とされていないので、適切に使用したことを誰が保証できるのか。また、政治家の生活費に充てられていたのなら、その分は本来「雑所得」として課税対象になるはずです。つまり、政治家が領収証をきちんと出して政治活動のために適切に使用したことを証明できない限り、国民と同様に納税させるべきなのです。
今は、領収書も出さずに何に使っても、それで私腹を肥やしたとしても、すべて非課税。政治家の特権中の特権です。
余談ですが、安倍晋三元首相の政治資金約2億円も、妻の昭恵さんに非課税で継承されました。国民なら、多額の相続税を納めさせられます。「政治家、いい加減にしろ!」と国民が憤るのも当然ではないでしょうか。
こういう議論になると「ならば100円のアイスを買っても領収書が必要なんですか?」「そんな面倒な事務はナンセンス!」「領収書整理に人手がかかるのでまた金が必要になる!」と逆ギレした議員もいましたが、もちろんたかが100円でも、経費なら僕らは領収書をもらいます。ちなみに自分で食べるアイスは「経費」では落ちません、自分の金で買ってください(苦笑)。ことほど左様に「経費」と「私費」の区別がついていない政治家が多いことに愕然とします。
今回、収入不記載を「事務ミス」と主張し、修正を試みる政治家もいます。でも、何のペナルティもなしで簡単に修正を認めたら世の中の無申告者は全員「ミス」で許されてしまいます。
これが民間であれば、仮に何年間も無申告で脱税を続けていれば、一気に信用も仕事も失います。政治家とて、いや政治家だからこそ、税逃れはミスであったとしても許されることではありません。
■「政治とカネ」問題抜本的解決のための4つの提言
整理しましょう。「政治とカネ」問題の抜本的解決に、以下の4点を提言します。
①政治資金は原則所得扱いにし、課税する
②領収書の裏付けのある適切な政治活動費は、非課税とする。つまり政治資金(所得)から領収書で裏付けられる適切な政治活動費(経費)を差し引いて、所得税を課す
③政治資金収支報告書は、確定申告書と同じ扱いにする。記載ミスに対しては所得漏れと同様の厳しいペナルティを科す
④国税庁の専門部署もしくは同等の権限と能力を有する調査機関を設けて、国民の納税を監視するのと同じように、政治家の政治資金をしっかり監視する
現在、デジタル化を進める政府ですが、まずは政治家自ら政治資金の動きを可視化するためにキャッシュレス化を徹底してはいかがか(米国ではとっくに実現していることですが……)。
23年10月からはインボイス制度も始まりました。より細かく税を徴収し、煩雑な作業を国民に強いる以上、政治家が自ら襟を正さないことには、国民は誰も納得しませんよ。我々民間人が100万円を手元に残そうとしたら、いったいどれだけの労力が必要か……。「たかが100万程度の不記載」と放言する永田町政治家のお歴々が、リアルな庶民感覚を持たないことには、国民の政治への信頼は回復しないと思います。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)
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