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スター・ウォーズのホログラム、ガンダムのスペースコロニーが現実に…SFをリアルにする宇宙ビジネス最前線

プレジデントオンライン / 2024年2月25日 11時15分

出所=『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』

宇宙ベンチャーによる人工衛星打ち上げが急増し、民間企業が月着陸をも目指す時代。国立天文台の台長特別補佐・平松正顕さんは「宇宙開発の中でも、以前はSFの中だけの話だった技術が進化し、宇宙開発が現実味を帯びています。映画『スター・ウォーズ』でおなじみの、遠隔地に人の姿を3次元で投映するホログラムも、地上と国際宇宙ステーションとの間で成功しています」という――。

※本稿は、平松正顕『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』(協力:ナゾロジー、秀和システム)の一部を再編集したものです。

■ガンダムみたいなスペースコロニー建設のための真面目な論文

SFチックな宇宙ビジネス関係の話をご紹介します。

2020年代に入ってから宇宙ベンチャーによる人工衛星打ち上げが急増し、民間企業が月着陸をも目指す時代になっています。以前はSFの中の話だった技術が現実味を帯びています。

SFにもよく出てくるのは、宇宙に浮かぶ巨大都市「スペースコロニー」です。有名なのは、物理学者ジェラード・オニールが構想した「オニール・シリンダー」。2本の巨大な円筒形のコロニーを並べてそれぞれ回転させることで人工重力を生み出し、内部に暮らせる環境を作ります。

円筒は長さ32km、直径8km、収容人口は1000万人。一方で現実の宇宙には有人基地は国際宇宙ステーション(幅110m)と中国宇宙ステーションしかなく、合わせても滞在できるのは10名ほどです。

なぜSFに追いつけないかと言えば、宇宙に打ち上げられる物資に限りがあるからです。国際宇宙ステーションは40回以上のロケット打ち上げに13年を費やして完成しましたが、そのペースではスペースコロニーは全然無理。「じゃあ、そもそも宇宙にあるものを使えばいいのでは?」と至極シンプルなアイディアが出てきました。

それは、太陽系にたくさん浮かんでいる小惑星を使うもの。アメリカ・ロチェスター大学の大学院生ピーター・ミクラフチッチさんたちは、コロナ禍のストレスを解消するクレイジーな研究として、スペースコロニーを題材に取り上げました。小惑星にはとてももろい性質を持つものもありますが、それを逆に利用します。ミクラフチッチさんたちのアイディアは、以下のようなものです。

まず、もろい小惑星を見つけたら、軽くて丈夫なカーボンナノファイバーでできた伸縮性メッシュでふんわり包みます。その後、小惑星にロケットを取り付けて回転させます。もろい小惑星は遠心力で徐々に壊れていき、破片は外に飛び出していきます。それをメッシュでキャッチするのです。メッシュはある程度伸び、そこに小惑星の岩石がたまっていきます。すると、有害な宇宙線を防いでくれるシールドのできあがり。内部には空間ができるので、そこをコロニーにするのです。

この方法なら、直径300mの小惑星をもとにして60平方kmの面積を持つコロニーができる、というのがミクラフチッチさんたちの見立てです。もちろん現時点では机上の空論。

しかし、ライト兄弟が初めて飛行機で空を飛んでから60年余りでアポロが月に行ったことを考えると、100年後には思ってもいない未来が実現している可能性も十分にあります。重要なのは、夢に向かって打ち込む人の情熱です。

■ハンマー投げや大砲で打ち上げるクレイジーな発射システム

宇宙に行く方法といえば、ロケット。しかしそんな固定観念にとらわれないイノベーターは世界に何人かいるようです。ここでは、ロケットを使わないで宇宙に人工衛星を打ち上げようとする2つのアイディアをご紹介します。

ひとつは、ハンマー投げのように衛星をぐるぐる振り回し、遠心力を使って高速で空高く投げ飛ばすシステム。アメリカの「スピンローンチ」という企業が開発しています。高さ50mにもなる円形加速器をアメリカ・ニューメキシコ州に建設し、すでに何度も打ち上げテストをしているというから驚きです。

円形加速器の中にはハンマー投げ選手も真っ青の巨大な腕が設置されていて、打ち上げるペイロードを腕の先端に取り付けます。加速器の中は減圧されているので、空気抵抗は気にしなくても構いません。この腕をぐるぐる振り回すことでペイロードを秒速2kmまで加速、ちょうどいいタイミングでペイロードを分離して、空に放り投げるのです。

【図表2】ハンマー投げのように打ち上げる発射システム
出所=『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』

打ち上げテストでは長さ3mの物体を高度8kmまで到達させています。ただしこれはあくまでもテスト。宇宙に到達させるための本番の加速器はさらに3倍大きなものになり、2026年の初打ち上げを目指しているようです。

別の方法を考えているのは、同じくアメリカの「グリーンローンチ」。衛星を振り回すのではなく、大砲のように打ち出す形式を取ります。長い筒に水素と酸素などを充填し、このガスを爆発させることでペイロードを発射するのです。

この方式では最大で秒速11.2kmを記録したことがあるようですが、グリーンローンチでは秒速6kmほどにとどめ、衛星や発射装置へのダメージを軽減する予定だそうです。とはいえ、秒速6kmというのはマッハ17にも達する猛烈な速度です。

スピンローンチにしてもグリーンローンチにしても、これだけで地球周回軌道に物体を打ち上げることはできません。小さなロケットごと打ち上げ、ある程度の高度に達したらこのロケットを噴射して最終的な軌道に衛星を投入する計画です。

いずれも普通のロケットより安く打ち上げられるというのを利点にしています。一方、どちらもものすごいスピードで振り回されたり撃ち出されたりするので、衛星にかかるGはとても大きくなります。

グリーンローンチでは最大3万Gとのこと。1kgの物体に30tの重みがかかるのと同じですので、衛星の開発は難しいはず。もしかしたら、従来の衛星とはまるで違う物体を打ち上げることになるのかもしれません。

■SFファン待望! 宇宙と地球でホログラム状態での会話成功

映画「スター・ウォーズ」で、青白い光で主人公の前に現れるレイア姫。それは、ホログラムと呼ばれる空間に浮かんだ3次元映像で、本人はそこにはいません。遠隔地に人の姿を3次元で投映することができるホログラムはさまざまなSFにも登場しますが、現実世界でも役に立つ時代が近づいていそうです。

実験に成功したのは、地上と国際宇宙ステーションの間。送られた映像は、宇宙飛行士の健康を管理する「フライト・サージャン」であるジョセフ・シュミット博士のものでした。

【図表3】宇宙と地球でホログラム状態での会話成功
出所=『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』

宇宙飛行士は、マイクロソフト社が開発した複合現実(MR)グラスであるホロレンズを装着し、地上から送られたシュミット博士(の3次元映像)とリアルタイムに会話することに成功したのです。NASAはこの技術を、「ホログラム」と「テレポーテーション」を組み合わせて「ホロポーテーション」と呼んでいます。

MRは、完全にCG世界に入る仮想現実(VR)とは違って、グラスをかけた人がいる実空間に別の場所にいる人の3次元映像を重ねて映し出すものです。

限られた人たちと閉鎖空間に長く一緒にいることを強いられる宇宙飛行士にとっては、MRで別の人と話すという体験はストレスの軽減にもつながるかもしれません。離れて暮らす家族(の3次元映像)と会話を楽しむのもいいでしょう。また、複雑な実験装置の使い方をわかりやすく説明したり、今回のように医学的なアドバイスをしたりと、さまざまな用途が検討されています。

平松正顕『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)
平松正顕『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)

国際宇宙ステーションは秒速7.7kmという高速で飛行していますので、そこに3次元映像という大容量データを送ることは簡単ではありません。実際、送られた3次元映像はスター・ウォーズで描かれたようななめらかなものではなく、ブロックノイズが目立ちます。ストレス軽減のためには、データ容量を増やすなどしてもう少し本物に近い映像がほしいところです。

現時点でまだ発展途上とはいえ、ホロポーテーションの応用先は宇宙に限りません。深海探査や極地探検はもちろん、単身赴任のお父さんがMRを使って家族と同じ時を過ごすことだってできるでしょう。「まるでそこにいるような体験」にするには技術の進展がもう一歩必要かもしれませんが、SFで見るような世界はもうそこまで来ているのです。

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平松 正顕(ひらまつ・まさあき)
国立天文台 台長特別補佐
国立天文台 台長特別補佐、天文情報センター 周波数資源保護室 講師。総合研究大学院大学 先端学術院 天文科学コース 講師(併任)。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程修了。博士(理学)。専門は電波天文学、科学コミュニケーションなど。月刊『星ナビ』の連載や、講演、文部科学省「一家に1枚宇宙図」の作成など、宇宙の面白さを共有する活動を積極的に行っている。また、最近は暗い星空など天文観測に適した環境を守る仕事を進めている。著書に『宇宙はどのような姿をしているのか』(ベレ出版)がある。

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(国立天文台 台長特別補佐 平松 正顕、ナゾロジー)

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