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ユニクロなど1970万円分を集団窃盗…ベトナム人が「万引き目的の来日」を繰り返していた根本原因

プレジデントオンライン / 2024年3月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/carterdayne

今年2月、ユニクロの衣類など66件(総額約1970万円)の万引きを繰り返したとして、ベトナム人の男女4人が逮捕された。万引きGメンとしても活動する万引き対策専門家の伊東ゆうさんは「日本製の衣類や医薬品、健康食品などは質が高く人気があり、どの国でも容易に換金できるため、転売目的の窃盗犯に狙われやすい」という――。

■「窃盗目的」での来日を繰り返していた

2024年2月、ユニクロなど大型量販店を中心に大量万引きを繰り返していたベトナム人男女4人が、福岡市中央区の商業施設にあるユニクロの店舗で衣料品87点、およそ35万円分の商品を盗んだ容疑で福岡県警に逮捕された。

警察発表によれば、逮捕された4人は、ベトナム本国在住である40代後半の女から「万引きして稼いでおいで」と指示を受けて、初めから窃盗目的で来日。2018年から2023年までの間、福岡市のみならず関東や関西の商店でも犯行を繰り返して、これまでに少なくとも66回の犯行が確認されている。

その被害は、計5237点、合計で1970万円。異なる店舗で、断続的に犯行が繰り返されたことが、万引きの範疇とは思えぬ大きな被害を生んだ最大の要因といえるだろう。

■見通しのいい出入り口は防犯効果があるはずが…

「小さな店に寄りつくことなく、各地の大型店舗を中心に狙え」
「スーツケースを店内に持ち込むことなく、商品を持ち出して店外で詰めろ」

指示役とされる現地在住の女は、ベトナム国内で人気のあるダウンジャケットやカーディガン、セーターなどを中心に、色やサイズを指定したうえで盗ませていた。その他、狙う店や用いる手口まで指示していたとされ、この事件の主犯格として逮捕状が発布されている。

実行犯が犯行に用いたのは「カゴヌケ」もしくは「持ち出し」と呼ばれる手口で、アパレルショップ特有の開放的な出口を悪用する大胆なものだ。出入り口の見通しが良いと、一見して防犯力が高く思われがちだが、見通しが良いのは窃盗犯も同じこと。そこに人目がなければ、瞬時に隙をつかれて、いとも簡単に商品を持ち出されてしまうのである。

逮捕された4人は「生活費が足りず苦しかったからやった」などと容疑を認めているそうだが、逮捕者のなかには指示役の女から借金返済を求められてやったと供述する者もいて、その背景には想像以上の闇深さが垣間見える。

■日本語のタグが付いていると「プレミア商品」に

ベトナム国内にもユニクロのショップはあるのだが、なぜわざわざ来日してまで日本のユニクロストアを狙うのだろうか。

その理由は、防犯体制の違いによる盗みやすさも確かにあるが、なによりも「日本モノのプレミア感」が大きい。ベトナム国内では、日本語の商品タグが付いた同社製品の方が人気で、同国のオークションサイトでも、より高く売れるのだ。

現代万引きの主役は、大型量販店とスマートフォンに違いなく、犯行に至るまでのハードルは相当に低くなった。入札によって変わる売価を眺める楽しさもあるらしく、いわばゲーム感覚で盗品を処分している者まで存在する。店から換金率の良い商品を盗み出してしまえば、その後はスマートフォンひとつで現金化できるため、これを手軽に感じて常習化してしまうのだろう。

実際、今回逮捕された4人による被害品をみれば、ユニクロの商品以外に、他の量販店で盗んだと思しきサプリメントや化粧品、高級歯ブラシや歯磨き粉なども数多く並んでいた。

東京千代田区の秋葉原にあるドラッグストア
写真=iStock.com/chris-mueller
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chris-mueller

■質が高い日本製品はどの国でも価値がある

彼らの狙う商品は、多岐にわたっており、被害店舗の取扱品目によって異なる。たとえば食品スーパーであれば高級果実や生鮮食品、菓子、嗜好(しこう)品などが中心に狙われ、なかでも米や酒類、ブロック肉、コーヒーなどの被害が目立つ。

今回、大きな被害が明るみになったユニクロだけでなく、ドラッグストアの被害も深刻だ。高額商品の部類に位置する化粧品や美容液、風邪薬、痛み止め、胃薬、強壮剤、サプリメント、シャンプーセットなどの大量盗難が全国で相次いでおり、一度の被害で商品棚がスカスカになることも珍しくない。

最近では、粉ミルクやニベアクリーム、特定の強壮剤、高級湿布薬の大量盗難が相次ぎ、その対応に苦慮した。日本製の衣類や医薬品、健康食品などは質が高く人気があるため、どの国でも容易に換金できる。だからこそ、狙われてしまうのだ。

■「怪しい動きの仲間」が店員たちを翻弄

ベトナム人窃盗団の多くは、見張り役と実行役、運転手役に分かれて行動し、犯意成立要件や既遂時期を悪用するような手口で犯行に至る。広い売り場を有する店舗を好み、細い通路や柱の陰、棚が高い場所で隠匿行為に及ぶのだ。前もって店内を偵察するのは当たり前で、店側の警戒に気付けば挑発するように店内を徘徊(はいかい)して、商品を出し入れするような動作を繰り返して挑発する輩までいる。

犯行の途中で仲間を呼び集め、店内を別々に素早くも怪しく行動することで、注視する売り場スタッフや保安員を翻弄(ほんろう)。追尾者を右往左往させ、そのどさくさに紛れて、高額商品を盗み出すという手口もあった。

彼らの逃げ足は速く、たとえブツ(被害品のこと)を取り返すことはできても、共犯者全員を捕まえられるケースは稀だ。昨今の窃盗団は、警戒の網にかからぬよう行動範囲を広げて神出鬼没に暗躍しており、その動向すらつかみきれない。一度狙われてしまえば、系列店が軒並みやられてしまうことになるため、商品を守る立場にある者の負担は大きい。

■「盗まれるほうが悪」というおかしな風潮

いまなお現場に立つ筆者の肌感でいえば、コロナ以降、ベトナム人による大量万引きは減少傾向にある。かつては、各警察署においてベトナム語の通訳不足に頭を悩ませていた実態もあったが、そうした光景を見る機会は減り、常習者の多くがコロナ禍で帰国を余儀なくされたと感じるほどだ。

おそらくは、店内で警戒される機会が増え、万引きしにくくなってきた側面もあるのだろう。彼らの狙う商品は決まっているし、人着(人相や着衣)もわかりやすいため、入店に気づくことさえできれば充分に警戒できるのだ。そのためなのかは不明であるが、果実や盆栽、自動車などを盗む者が増え、スマホを利用した詐欺や麻薬売買など、より割のいい犯罪にシフトする者も目立つ。

ベトナムでは、「盗まれるほうが悪」とする風潮が強く、その感覚は特異だ。それを裏付けるがごとく、これまで捕捉してきたベトナム人被疑者の多くは、明確な証拠があるのに容疑を否認して、反省のない態度で居直ることばかりであった。

その厚かましさには呆れるばかりだが、日本の警察は外国人犯罪に厳しく、万引きをして捕まり被害申告されてしまえば、被害の大小にかかわらず立件される。ドリンク1本、わずか数十円の被害で逮捕され、帰国を条件に釈放される事案もあった。来日されるベトナム人の皆さんには、日本で真面目に働く同胞のためにも、いかなる犯罪行為も慎むよう強く警告しておきたい。

■万引きの認知件数は24年ぶりに増加

警察庁の「犯罪統計資料」によると、令和5年内の日本全国における万引き認知件数は9万3168件で、前年に比べて9570件増加している(11.4%増)。警察庁による「万引き被害全件通報」の通達(平成22年)がされて以降、年々減少していた認知件数が上昇に転じたのは、24年ぶりのことになる。年間被害総額を8089億円とする説もあるが、正確な数字を出すのは不可能なことといえるだろう。

万引きの認知件数が増加した主たる要因を挙げれば、店舗の大規模化や盗品換金のしやすさをはじめ、レジ袋有料化に伴うマイバッグ利用の推奨、セルフレジやレジカートなどの普及が大きい。レジ袋の有料化により、大きなバッグを持ち込むことの不自然さがなくなり、それをいいことに大量の商品を一気に持ち出す者が後を絶たないのだ。

参考記事:エコバッグにマスク姿の「不審者」だらけ…万引きGメンを悩ますレジ袋有料化の“副作用”

その多くは換金目的の犯行で、匿名性の高い商品取引アプリなどで売却する。環境を守るための政策が犯行を誘発して、商店の安全安心と利益を奪う結果は皮肉なことで、その損失分が価格転嫁されることで消費者負担が増している事実も見逃せない。

■「万引き天国」と言われる現状を変えられるか

さらにはセルフレジやレジカートなどを悪用する新たな手口も出てきている。これらを導入している店舗では、売り場で商品を隠匿する者が減り、詐欺的なレジ不正で商品を盗み出す者が増えているのだ。たとえ悪意があったとしても、スキャンに失敗したなどと言い訳しやすいため、不正行為が横行してしまうのだろう。

これは、昨今頻発している無人販売店における盗難被害についても同じことがいえるが、セルフレジの導入により削減可能とされるはずの人件費より、不正や盗難による被害が上回ってしまうケースまで散見される。いくら防犯カメラで牽制しても、それなりの覚悟を持った窃盗犯の犯意は強く、人による対応がなければ被害を減らすことはできないだろう。

セルフレジでイチゴの箱をスキャンする女性の手
写真=iStock.com/FatCamera
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FatCamera

万引き防止対策は、生産性が皆無であることから、後回しにされることが多い。売ることを第一に考えれば、それも仕方のないことといえよう。しかし、すべての面において被疑者が有利で、万引き天国と言われても仕方のないような現状は、常に歯痒く打破したいところだ。

予算をかけずに、万引き被害を減らしたいなら、積極的な声かけをもって顧客と関わるほかない。防犯カメラの存在で犯行を思いとどまる者は少ないが、店員の声かけによって思いとどまる人は、たくさんいるのである。

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伊東 ゆう(いとう・ゆう)
万引きGメン
1971年生まれ。99年から5000人以上の万引き犯を補足してきた現役保安員。万引き対策専門家。著書に『万引き老人』(双葉社)や『万引き 犯人像からみえる社会の陰』(青弓社)など。テレビ出演や映画『万引き家族』の製作協力も。大学や警察、検察、自治体での「万引きさせない環境作り」講演も多数。 HP:https://u-itoh.net/

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(万引きGメン 伊東 ゆう)

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