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住宅ローンを「急いで繰り上げ返済」してはいけない…マイナス金利解除の今こそ知るべき"家買いの新常識"

プレジデントオンライン / 2024年4月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sommart

日銀がマイナス金利を解除した。これから家を買う人や、すでに住宅ローンを組んでいる人が注意すべきことは何か。スタイルアクト代表の沖有人さんは「住宅ローンを組んでいる人には、今は繰り上げ返済をおすすめしない。これから買う人には金利の影響よりも着目してほしいポイントがある」という――。

■基本は「金利を低く、金額を多く、期間を長く」

日銀が17年ぶりに利上げを行った。これからマイホームを購入する人も、既に住宅ローンを組んで購入している人も今後の金利の動向が気になるところだ。金利に敏感である人は情報感度の高い人だ。なぜなら、金利が1%上がると、住宅ローンの返済額は約18%も増えるからだ。金利による返済額の変化はこれだけ大きい。毎月の返済額は物件価格と金利の組み合わせで決まる。これからは物件価格の高騰と金利高の二重苦に悩まされるかもしれないが、それ以上の戦略を立てて対処しよう。

私は住宅ローンの借り方を指南する立場にある。不動産購入ではローンは最重要事項である。その指南方法は「金利を低く、金額を多く、期間を長く」と説明している。金利は低い変動金利を選び、頭金をなるべく入れずにできれば全額ローンとして、期間は最長の35年で借りた方がいいという考えだ。まずこれが基本だと心得よう。

今回の日銀の政策により、住宅ローンの変動金利が上がる可能性が高まった。これに先立ち2022年12月から長期金利の上昇を容認していた。これは長期固定金利の上昇を招き、変動(約0.4%)と固定(約1.9%)の金利差は1.5%程度に開いていた。ここまで開いていると、固定を選ぶ人がほぼいない状態となる。同じ借入額でありながら、月の返済額が28%も差がつくからだ。

■焦点は「変動と固定の金利差がどうなるか」

これから購入する人の今後の焦点は、「変動金利が上がるか」のように言われているが、そうではない。もし、変動金利が0.3%上がったら、家を買うことをやめるのだろうか? マイホームを取得する人は多くの場合、家族がいて、家が欲しくなるタイミングは、結婚や子どもの小学校入学前などが多い。欲しいタイミングで最も有利なローンを選ぶだけの話である。

だからこそ、焦点は「変動と固定の金利差がどうなるか」に尽きる。そこで、2つの金利の特徴を把握しておこう。変動金利は短期プライムレート、固定金利は10年国債の利回りを基準として決定されるケースが多い。期間が1年以内の短期と長期の違いで金利の変動幅は3倍以上異なる。金利は上がるにしても短期金利は長期金利のように大きく上がることはない。また、金利が下降局面ではこの差が縮まりやすいが(以前は金利差が0.5%くらいまで縮まったことがある)、上昇局面では広がりやすい傾向にある。現時点でその差が1.5%もあり、金利上昇局面の時にその差が広がりこそすれ、縮まるとは考えにくい。

■金利は銀行の我慢比べが続く可能性が高い

変動金利について、貸し出す銀行の立場でも考えてみよう。9割以上が借りる変動金利は住宅ローンの主力商品であり、その差別化は金利ぐらいしかない。もし、金利を上げたら、他行に顧客を持っていかれるだけだ。特に住宅ローンが業績に大きく影響するネット銀行がそんな選択を取るのは自殺行為に近い。

その熾烈な顧客獲得競争の中、頭金が必要な時代が終焉し、フルローンで借りている人は半数以上に上っている。こうした状況では、金利は我慢比べが続く可能性が高く、上がっても0.1~0.2%にとどまると私は予想している。その恩恵は借り手側にあると言っても過言ではない。

そうなると、当面、固定金利を選択することも、変動から固定に借り換えをすることも現実的な選択肢ではない。

財務グラフの前のコインスタックの上にあるパーセンテージサイン
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■元本の減り方が鈍くても、物件価格はそれ以上に上昇している

次に、借りた後に変動金利が上がるリスクを考えよう。そこで知っておきたいのは2つのルールだ。変動金利には「5年ルール」と「125%ルール」がある。5年ルールとは、金利の見直しは半年・1年で行われるものの、5年間は返済額が変動することがないというもので、125%ルールは見直し後の返済額が、前回の1.25倍以上には増えないというものだ。この2つのルールがあるがゆえに、あっという間に返済に困る事態にはならない。

たとえ、元本の減り方が鈍っても、物件価格はそれ以上に上昇しているから心配に及ばない。既にマンションデベロッパーが仕込んだ土地は2割程度高くなっており、それが新築として2年後に出てくるので、相場が上がることが決まっているからだ。

金利が上がることで、日本人はローンを精神的に負担と考える人が多い。金利が高くなるなら、繰り上げ返済したくなるかもしれない。その際には、以下のロジックで検討しよう。

■住宅ローンで余剰資金を持つことが「転ばぬ先の杖」

以前、金利が2%程度の際には、ローンは繰り上げ返済することを私は勧めていた。例えば、こんな具合だ。

「繰り上げ返済はノーリスクの金融商品に投資しているのと同じことになる。金利が2%なら、確実に2%の金利を得たことと同じ意味を持つ。普通預金に入れておいてもスズメの涙ほどの金利しかつかない時代に、住宅ローンの繰り上げ返済は確実にノーリスクで金利分の利回りを稼いでくれる優等生の金融商品である」

しかし、状況は変わった。子どもの進学や親の介護などでまとまったお金が必要になるケースが増えているが、個人にまとまった資金を低金利で貸してくれるローンは住宅ローン以外に存在しない。もしものために、住宅ローンで余剰資金を手元に持っておくことが「転ばぬ先の杖」になる可能性がある。繰り上げ返済するなら、退職金や相続などでまとまったお金が入り、出費の予想も立つようになってからでも遅くないと今では考えている。

家と電卓のミニチュア
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■急いで繰り上げ返済をしたら損になる

だから、1%未満で急いで返す意味はあまりない。それも残債が4000万円を切ったら、住宅ローン控除の0.7%の還付額が減るだけなので、逆に返しては損になってしまう。返済するなら、住宅ローン控除がなくなる少なくとも10年経過後にする方が正解になる。

また、金利が上昇する局面では不動産価格が下がるケースがあり得る。この際は、借り換えよりも物件を売却して住宅ローンを返済することも有効な選択肢になる。保有資産が目減りし、金利負担が増えるのだから、売るのは合理的な決断の1つになる。しかし、利上げの幅は大きくはないので、不動産価格への影響も軽微だと思われる。そうなると、価格が上昇中の現在、売却は不動産価格が下がり始めてからでも遅くはないと私は考える。

金利の影響が軽微だからこそ、安心して別の論点に着目した方がいいことになる。金利上昇が予想できる状況にある時、それを補塡(ほてん)して余りある政策が取られていることが多い。建物にかかる消費税増税の際に、駆け込み需要を抑制するために減税を組み合わせることはこれまでもよくあったことだ。今回注目すべきは、主に「省エネ」という名のついた断熱性能の良い住宅に対する税制と補助金だ。

■「省エネ」と「贈与の特例」が鍵になる

税制の1つ目は、住宅ローン控除で、所得税などから還付される。この減税制度で金利は0.7%まで補塡されているので、今の変動金利水準がたとえ上がっても、借りた方がマイナスローンで得になる。住宅ローンを借りると金利を払うどころか、キャッシュが増えるケースの方が多いのだ。

2024年においては、新築は省エネ基準適合をしていないと、その対象額はゼロになった。省エネ基準適合で3000万円、その上のZEH水準で3500万円、またその上で長期優良・低炭素住宅の場合4500万円となっている。中古も同様で、省エネ基準適合以上なら、3000万円だが、それ以外は2000万円だ。ここでの1000万円の違いは年7万円、ペアローンなら14万円、それが新築なら13年間で累計91万~182万円、中古なら10年間で70万円になる。つまり、新築で最大4500万円差は累計409万5000円の現金の差を生むことになる。

税制の2つ目は、現在は自宅取得に限定した贈与の特例を受けられる金額枠は500万円である。「質の高い住宅」の場合では、500万円増えて1000万円になる。例えば、断熱等性能等級4以上にすれば、500万円の贈与税85万円が免除される。これに加えて、暦年贈与の非課税枠が毎年110万円ある。

コインスタックの上にあるオレンジ色の家
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■親から住宅資金の贈与を受け、省エネ住宅を選ぶのが吉

ついては、変動金利が上がる話にかこつけて、親からの住宅資金の贈与を打診し、ダメなら借りることを相談してみよう。もし借りられるなら、この低金利時代なので、借用書には金利0.1%でもいいので書いておこう。そして、暦年贈与110万円の枠を毎年使おう。つまり、1000万円借りて、10年で返すとしても、暦年贈与との相殺で無税にできることになる。

これらの贈与を組み合わせるためにも、取得する物件は新築なら「質の高い住宅」から選び、中古なら断熱リフォームをしてから入居するようにしよう。このリフォーム代金の最大8割が補助金で戻ってきて(地域や対象商品などによる)、数年の光熱費削減額で回収できることもある。リフォーム代も住宅ローンを組んでいるので、返ってきた補助金で仲介手数料の支払いを相殺することも可能となる。これ以外にも、リフォーム促進税制というのがあり、リフォームで支払った金額の10%が所得税から還付されたり、固定資産税の1/3の減額もある。

■「省エネ」は補助金と減税の宝庫

また、こどもエコすまい支援事業という補助金もある。高い省エネ性能(ZEHレベル)を持つ新築の注文住宅や分譲住宅を購入する際に、子育て世帯または若者夫婦世帯には、1戸あたり100万円の補助金が出るようになっている。先ほどの中古のリフォームにも補助金は最大200万円出るものもある。

これらのすべてを満たす方法はやや複雑なので、詳細は住まいサーフィンの会員限定で別の機会に詳しく説明したいが、とにかく住宅は国も自治体も省エネが推奨されており、補助金と減税の宝庫であるので使わない手はない。それは変動金利の上昇分をすべてまかなうだけの金額になっていることを覚えておこう。

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沖 有人(おき・ゆうじん)
スタイルアクト代表
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人系・不動産系のコンサルティング会社を経て、1998年に現スタイルアクトを設立。住宅分野において、マーケティング・統計・ITの3分野を統合し、日本最大級の不動産ビッグデータを駆使した調査・コンサルティング・事業構築を得意としている。設立当初から運営している分譲マンション価格情報サイト「住まいサーフィン」(https://www.sumai-surfin.com/)の会員数は、現在30万人を超える。中でも、自宅投資の基礎などを沖自ら解説している「沖レク動画」は人気コンテンツとなっている。『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)、『タワーマンション節税! 相続対策は東京の不動産でやりなさい』(朝日新書)など著書多数。

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(スタイルアクト代表 沖 有人)

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