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「頭のいい両親の子供なら頭はいい」は大間違い…遺伝学の研究者が語る「遺伝と子供の発達の真実」

プレジデントオンライン / 2024年4月17日 15時15分

写真=iStock.com/takasuu

遺伝子の及ぼす影響はどれくらいあるか。心理学者で遺伝学研究者のダニエル・ディック博士は「一般的に、子どもは(実の)親に似るものだが、子どもはすべて遺伝子の賽(さい)の目次第なので、どんな子になるかは全くわからない。頭のいい両親から平凡な知能の子どもが、外向的な両親から内向的な子どもが生まれることもある。私は『○○の遺伝子』というフレーズが大嫌いだが、メディアはこれが大好きで、アルコール使用障害の遺伝子、うつ病の遺伝子とするが、真実はもっと複雑だ」という――。

※本稿は、ダニエル・ディック(著)、竹内薫(監訳)『THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること わが子の「特性」を見抜いて、伸ばす』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■「子どもの行動」に遺伝子が与えている影響

遺伝子は、子どもがどれだけ口答えをするか、どれだけまじめに言いつけに従うか、どれだけ読書が好きか、どれだけ泣き虫か、さらには、サンタが家にやってくると聞いてどれだけパニックになるか、などといったことに影響を与えます。

本当なんですよ。私には6歳の姪(めい)がいますが、この子は家に誰かが入ってくることに恐怖を感じる子で、毎年クリスマスの夜には、「サンタさん、2階には上がってこないでね」というメモを家族で書くのです(もう一人の子どものことも考えた末、母親である私の妹が説得してたどりついた妥協案です)。

遺伝子は子どもの行動に大きく影響します。とはいえ、現実的にはその仕組みはどうなっているのでしょうか。

『なぜシマウマは胃潰瘍にならないか』(栗田昌裕・監修/森平慶司・訳、シュプリンガー・フェアラーク東京刊)などの著書で知られる研究者でベストセラー作家でもあるロバート・サポルスキーの「無の遺伝子」という論文が私は大好きです。

私は遺伝学の研究者ですが、サポルスキーがこの論文で述べたように、「○○の遺伝子」というフレーズが大嫌いです。

しかし、メディアはこのフレーズが大好きで、ニュースでもよく目にします。アルコール使用障害の遺伝子、うつ病の遺伝子、乳がんの遺伝子、攻撃性の遺伝子などなど。ところが、真実はもっと複雑なのです。

人間の遺伝子は約2万個しかなく、そのほとんどが目や耳、腕、動脈といったものを担当しています。人間の生態や行動様式のすべてに1個ずつ遺伝子が存在したとすれば、あっという間に数が足りなくなってしまいます。

ショウジョウバエでさえも約1万4000の遺伝子を持っていますが、人間の子どもはショウジョウバエよりもかなり複雑であることから、遺伝子の働きには何かもっと別のことが関係していると考えてよいでしょう。

■「ある特定の行動をさせる遺伝子」は存在しない

1つの遺伝子からもたらされる影響は大きいと、あなたも学生時代に生物の授業で習ったと思います(「メンデルの法則」などを覚えていますか?)。

しかし、非常にまれな単一遺伝子疾患(訳註:ある1つの遺伝子の異常によって発症する病気。メンデル遺伝病ともいわれる)を持たない多くの人にとって、遺伝子が個々の人生にどのような影響を及ぼしているかについては、とても複雑でわかりにくいものです。

社交性の遺伝子、恐怖心の遺伝子、スーパーのレジ待ちに耐えられずかんしゃくを起こしてしまう遺伝子といったものはありません。

一方、知性・思考力・理解力から個性・人格に至るまで、私たちの複雑に入り組んだ反応の仕方や行動については、おそらく何百、何千もの遺伝子の影響を受けています。

例えば、あなたのお子さんの心配や不安(あるいは衝動性、恐怖心など)に対する遺伝的な傾向は、心配や不安に影響を与える何千もの遺伝子のうち、どの「遺伝子型」を引き継いだかによって決まっているといえます。

研究と親を見て勉強している子
写真=iStock.com/Milatas

遺伝子型にはリスクを取ろうとするものもあれば、リスクを避けようとするものもあります。そして、あなたの子どもがどんな行動特性を持つかは、リスクをおかそうとする遺伝子と、自分を守ろうとする遺伝子を、どれだけ受け継いでいるかで決まるのです。

私たちの反応や行動の仕方が複雑なのは、本当にたくさんの遺伝子の影響を受けているからで、この事実は、「子どもは一般的に親に似るけれども、必ず似るわけではない」ことの説明にもなります。

■背の高い両親の間にも背の低い子どもが生まれる理由

バスケットボール選手同士のカップルから、背の低い子どもが生まれることがあります。背の高い人たちは、「背が低い遺伝子」(身長の伸びを抑える遺伝子)よりも「背が高い遺伝子」(身長を伸ばす遺伝子)をより多く受け継いでおり、そのために平均よりも高い身長になります。

ですが、彼らは「身長の伸びを抑える遺伝子」を受け継いでいないわけではなく、受け継いだ数が「身長を伸ばす遺伝子」よりも少ないだけなのです。

そして、私たちは遺伝子型を両親から半分ずつランダムに引き継ぐため、背の高い両親から「身長の伸びを抑える遺伝子」を偶然にも多く受け継ぐ可能性があるのです。

背の高い親は低い親に比べて「身長を伸ばす遺伝子」を多く持っているので、そのような可能性は高くはありませんが、起こり得ることではあります。だから、背の高い両親の間にも背の低い子どもができるのです。

頭のいい両親から平凡な知能の子どもが生まれることもあります。外向的な両親から内向的な子どもが生まれることもあります。

一般的に、子どもは(実の)親に似るものですが、子どもはすべて遺伝子の賽(さい)の目次第(つまり、父親と母親の遺伝子型のうち、どの50%が揃(そろ)うか)なので、どんな子になるかは全くわからないのです。

■脳の発達に影響を与えることで多様性をもたらす

研究者たちは現在も、病気や障害の原因となるすべての遺伝子を特定しようとしており、そのいくつかは見つかりましたが、その道のりは遥か遠くまで続いています。

私たちの行動特性はあまりに多様で、「この人は衝動的」「あの人は軽はずみではない」などと分類するのは難しいことから、人々のふるまいや行動、態度にはたくさんの遺伝子が関係しているに違いないとわかります。

これらの遺伝子は、ある特定の行動やふるまいをプログラミングしているのではありません。そうではなく、遺伝子は私たちの脳の形成・発達に影響を与えることで、行動に影響を与えているのです。

つまり、脳の構造と機能の個人差は極めて遺伝性が高く、すなわち私たちの脳は遺伝子の影響を強く受けていると言えます。

一方、私たちは脳の神経細胞(ニューロン)がどう“配線”されているかによって、どれくらい不安、苛立ち、報酬要求などを抱きやすくなるか、その傾向が決まります。脳は、注意力、記憶力、認知力、そして学習能力にも影響を及ぼします。

“空気を読む”といった複雑な作業や、概日(がいじつ)リズム(体内時計)や睡眠といった基本的な生体内作用にも、脳は影響します。

遺伝子は脳の発達に影響を与えることで多様性をもたらし、生物としても、行動の仕方においても、私たちが一人ひとり違った存在になるための基礎を築いているのです。

■遺伝子と環境の関係を理解し、親としての役割を最大限に果たす

私が取り組んでいるあるプロジェクトでは、なぜ一部の人はアルコール使用障害になるリスクが高いのか、その原因を解明しようと試みています。

研究の一環として、被験者の脳波を測定したところ、アルコール使用障害の人の脳には、そうでない人の脳と違いがあることがわかりました。多くの薬物を使用すれば、脳が変化することは容易に想像できるでしょうし、実際そうなのです。

しかし、最も興味深いのは、アルコール使用障害のある親を持つ子どもたちの多くには、アルコールを飲み始める前から脳波に親と同じような違いが見られるということです。これは、衝動性、報酬情報処理、認知制御に関わる脳の活動に影響を及ぼします。

また、このような脳の違いはアルコール使用障害だけでなく、ADHD(注意欠如・多動性障害)や行動障害、薬物問題を抱える子どもにも見られ、衝動性や自己抑制にも関連しています。

言い換えれば、一部の子どもは衝動的になりやすい脳を持ち、その結果、幼少時のADHDや行動障害から成長後の薬物使用問題まで、発達段階におけるさまざまな成育上のリスクを抱えることになるのです。

ダニエル・ディック(著)、竹内薫(監訳)『THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること わが子の「特性」を見抜いて、伸ばす』(三笠書房)

このように、遺伝子は脳の形成・発達に独特な影響を及ぼし、それが行動傾向にも反映されます。

しかし、それは始まりにすぎません。遺伝子がその人の人生に重要な役割を果たすもう一つの大きな要因は、私たちの生まれつきの傾向に直接影響を与えるだけでなく、環境とも深く結びついていることです。

遺伝子は環境と結びつくことによって、複雑かつ間接的に私たちの行動に影響を与えるようになります。

遺伝子と環境の関係を理解すれば、私たちは親としての役割を最大限に果たすことができるのです。

本稿では子供の行動に遺伝子が与えている影響を紹介しましたが、本書ではこのほか遺伝子と環境の相関関係を解説しています。是非ご一読ください。

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ダニエル・ディック 心理学者、遺伝学研究者
ラトガース大学ロバートウッドジョンソン・メディカルスクール教授。インディアナ大学で心理学博士号を取得した後、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究資金を獲得しながら心理学と遺伝学の境界領域の研究を続け、数々の学術賞を受賞。TEDx Talks、TIMEはじめ大手メディアのインタビューなど、広く一般向けの講演活動も積極的に行なう。

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竹内 薫(たけうち・かおる)
サイエンスライター
1960年、東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学専攻)、東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学理論専攻)。理学博士。大学院を修了後、サイエンスライターとして活動。物理学の解説書や科学評論を中心に100冊あまりの著作物を発刊。物理、数学、脳、宇宙など、幅広いジャンルで発信を続け、執筆だけでなく、テレビやラジオ、講演など精力的に活動している。

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(心理学者、遺伝学研究者 ダニエル・ディック、サイエンスライター 竹内 薫)

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