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なぜホリエモンは「民間初の宇宙ロケット」に乗り出したのか…「日本でのロケット開発はチャンス」と考える理由

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 8時15分

実業家の堀江貴文さんが出資するインターステラテクノロジズの本社=3月21日、北海道大樹町 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

実業家の堀江貴文さんが出資する宇宙スタートアップ「インターステラテクノロジズ」は、民間企業で初めて宇宙空間までロケットを飛ばすことに成功した。事業を始めて10年目の2023年には、文部科学省からの補助も取り付けている。なぜ堀江さんは宇宙事業のためにここまでやるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(前編/全2回)

■帯広から車で小1時間、広がる宇宙基地

いつでもどこでもホリエモンと呼ばれてしまう堀江貴文がファウンダーを務めるインターステラテクノロジズ(IST)。ロケットの開発、製造、打ち上げサービスを行う会社だ。事業開始は2013年で、従業員は150人(2024年4月)。

本社があるのは北海道の大樹町だ。帯広市から南に35キロの場所で、車で40分ほど走るとそこに着く。ただし、冬は路面に雪があったり、凍結したりするので、50分から1時間はかかる。

大樹町の主要産業は農業と酪農だが、航空宇宙産業の拠点でもある。同町は1980年代、「航空宇宙産業基地」の候補地とされた。以来、町と参加企業が「宇宙のまちづくり」を進めている。町には参加した企業のほか、ロケットの宇宙港、「北海道スペースポート(HOSPO)」がある。

ISTの本社、工場は広い畑のなかに建っていた。大学の体育館を少し大きくしたくらいの建屋だ。黒い壁にオレンジ色で社名のイニシャルレター(頭文字)ISTが浮かび上がる。あたりを払うという威容を感じる。

■「MOMO」の次に打ち上げを目指す「ZERO」

2019年の5月、ISTの本社から車で十数分走った海沿いにある射場から自社製造の小型観測ロケット「MOMO(モモ)」3号機を打ち上げた。同型ロケットの全長は10.1メートルで直径は50センチ。全備重量は1220キログラムだ。

そしてMOMO3号機は国内の民間企業が単独で開発したロケットとしては初めて高度100キロメートルの宇宙空間に到達した。

現在、同社が開発を進めているロケットZERO(ゼロ)は人工衛星を打ち上げるためのものだ。同機が搭載する人工衛星は地球表面から高度2000km以下とされる地球低軌道(LEO=low Earth orbit)を周回し、地上にデータを送ってくる。人工衛星を載せるので、ZEROはMOMO型よりも格段に大きい。全長が32メートルで直径は2.3メートル。全備重量は71トン。

例えば新幹線の車両の長さは25メートルだ。ZEROを打ち上げるとは、新幹線車両にロケットエンジンを搭載し、宇宙空間へ発射するようなもの。ISTの百数十人は途方もないことに挑戦している。その推進力となっているのがファウンダー(創業者)のホリエモンだ。

なぜ、こんなに大きなものを打ち上げるために彼は奔走しているのか。

■インターネットの次は「宇宙ビジネス」が来る

ホリエモンは宇宙ビジネスに20年前から注目していた。すでに2005年には「なつのロケット団」という宇宙開発を目指すための民間組織に参加していたのである。インターネット興隆期に人に先駆けて地歩を築いたように宇宙ビジネスにも早めに参入していたわけだ。

加えて外的な要因もある。これまで宇宙輸送サービスはアメリカ、ロシア、中国の寡占状態だった。ところがロシアのウクライナ侵攻により、様相が変わった。ロシアは制裁によりロケットの重要部品が手に入らなくなり、開発が止まったとされる。

また、日本にとっては経済安全保障の観点から国内での打ち上げ、宇宙輸送サービスに力を入れる必要性が高まった。文科省が日本の宇宙ビジネス企業を支援するようになったのもこうした背景と関わりがあるのだろう。日本の宇宙ビジネスがさらに伸びていくのはこれからなのである。

実業家の堀江貴文さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
実業家の堀江貴文さん。インタビューはISTの本社内で行われた - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■ロケットは「打ち上げ成功」がすべてではない

わたしがホリエモンをインタビューしたのは大樹町の本社内である。

――民間ロケット企業には御社だけでなく、カイロスを打ち上げたスペースワンもあります。さて、ロケット会社を評価する際、どの点を見ればいいのでしょうか? 打ち上げの成功率ですか?

打ち上げの成功は重要です。しかし、成功に至る技術的マイルストーンというのがあるんです。そのマイルストーンを達成したかもまた、企業を評価する際の観点でしょう。ロケット製造にはロケットにしか使わない技術がいくつも盛り込まれています。当初、僕らが簡単にできるだろうなと想像していたところで苦労したり、逆に難しいと思っていたところは意外と苦労しなかったりしました。

例えばターボポンプという機械式のポンプがあります。ターボポンプは燃焼室に燃料と酸化剤を送る心臓部で、ロケットエンジンのなかでもっとも開発が難しい要素のひとつとされています。今回、僕らは冷走試験をやり、ターボポンプが目標の回転数で良好に動作していることを確認しました。これはZEROの初号機を打ち上げるための大きなマイルストーンです。

――ターボポンプ、聞いているだけで頭が痛くなりました。ロケット技術、難しいですね。

ですよね。難しくて、ロケットにしか使われない技術なんですよ。これまで日本で、実用化に成功した会社ってIHIしかなかった。IHIしか作っていなかったので、「ターボポンプは難しいぞ」って聞いていたんです。

■「日本の企業はものづくりのレベルがめちゃくちゃ高い」

それが、やってみたらできた、と。ロケットの製造って、ターボポンプに類するような難しい技術をいくつも乗り越えていかなければならない。それはもう大変です。ですが、僕らだけでやっているわけじゃありません。パートナー企業の技術精度が高いからやっていられる。いや、日本の企業はやっぱりものづくりのレベルがめちゃくちゃ高いです。

――投資家はベンチャー企業を見る時、「やっぱり経営者だ。人だ」と言います。サイバーエージェント社長の藤田晋さんは「ロケット開発の話は難しくてよくわからないけれど、あのホリエモンがやるからきっと成功する」と言っていました。

ありがとうございます。確かに投資家は経営者、見ますよね。

――投資家が見ているのはロケット技術もさることながら、堀江さんでは。投資家は堀江さんが走り回って開発費用を集めているところを見ています。それにしても、昨年、文科省が研究開発費用を補助してくれることになりましたね。よく出したというか。

開発中のロケットエンジン
撮影=プレジデントオンライン編集部
開発中のロケットエンジン。小型観測ロケット「MOMO」よりも格段に大きい「ZERO」の打ち上げを目指している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■僕の仕事は「とにかく優秀な人材を集める」

はい、1社あたり最大140億円です。ただし、当初は20億円です。これからひとつひとつのフェーズを乗り越えていかなくてはならない。

※1:2023年9月29日、ISTはスタートアップ等による研究開発を促進する文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に採択された。同事業はSBIR(Small Business Innovation Research)制度において、スタートアップ等の有する先端技術の社会実装の促進を目指すもの。宇宙(宇宙輸送/スペースデブリ)、核融合、防災分野の研究開発型スタートアップ等が対象になっている。宇宙輸送分野の基金総額は350億円で、フェーズ3までの合計で1社あたり最大140億円が交付される。

これは大変なことです。でも、補助を受けるまでに5年くらいかかりました。議員や官僚の方々にお目にかかって話をしていったのです。なかでも応援してくれたのが今枝(宗一郎)さんという衆院議員や文科省の方々でした。

でも、僕だけでやったわけじゃないんですよ。うちの社長の稲川(貴大)もこういう仕事に向いているんです。稲川は元々政治家の息子です。さいたま市議会議員の息子で、交渉も上手だし、思い切りがいい。

東京工業大学の大学院から大手光学機器メーカーへ内定していたのを蹴ってうちに入ってくれた。新入社員第一号みたいな人です。うちは僕だけが頑張っているわけじゃない。僕の仕事は走り回ることだけじゃなくて、とにかく優秀な人材を集めること。

■あきらめずに最後までやる社長は強い

――先ほど、ISTのオリエンテーションを聞いて、ロケットビジネスには2種類あるとわかりました。ひとつはロケットを打ち上げて軌道に届ける輸送ビジネス。もうひとつは人工衛星を作る衛星製造ビジネス。そして、ISTはふたつともやっている垂直統合の会社だと。ロケットの打ち上げと衛星の製造の両方をやっているのだから、お金はいくらあっても足りないですね。

もちろんです。お金も足りないし、人もまだまだ必要です。スタートアップには両方とも重要です。

僕自身、みんなに言っているのは、「人は採れるときに採れ」。そこが絶対だと思ってる。僕はスタートアップの経営を何度も経験しています。結論として、成長するスタートアップは人材と社長です。そして、社長はあきらめちゃいけない。あきらめずに最後までやる社長が強い。

例えば、オイシックス・ラ・大地の社長、高島(宏平)さんとか、よくやりきったねと思う。オイシックスはライバルの「大地を守る会」を買収しました。そして、その大地を守る会出身の会長が東電の処理水放出について、「放射能汚染水を流し始めた」とXで発言したら、高島さんが会長を停職処分にした。結果、会長が自ら辞任しました。

手厳しいやり方に見えますが、そうしたことも含めてあの手この手でやりきる力がないとスタートアップなんて成功しないんですよ。

堀江貴文さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

■ふるさと納税がなければつぶれていたかもしれない

――確かに。堀江さん、見ているとあきらめないですね。ずーっと仕事をしていて、ロケット開発費のために走り回ってます。中小企業の社長の典型で、いつも汗を流して走っている。

ええ、そうですよ。昨年のことですが、某IT企業の経営者とサウナに入って、サウナ室で口説きました。「そろそろ宇宙に出資したほうがいいんじゃないですか」って。

その方には断られてしまいましたが、他の経営者につないでもらって、僕がオンラインミーティングで投資を依頼しました。

その方は「わかった。出資はできないけれど、ふるさと納税で出します」。企業版ふるさと納税で10億円を出してもらいました。それがなかったら、うちはつぶれていたかもしれない。

■イーロン・マスクでさえ自己資金だけではやっていけない

――ロケット開発は最初に大金が出ていって、量産してやっとお金が入ってくるのですね。イーロン・マスクだってスペースXには相当、お金をつぎ込んだと聞きました。

イーロン・マスクはスペースXの立ち上げの時、自己資金で1億ドル(150億円)を出しています。それでも足りずにアメリカ政府へのロビー活動に精を出している。

うちも5年かけて、文科省からの補助事業に採択()されましたが、それでもまだ不十分。またすぐ動かなきゃならない。ほんと、中小企業の社長の典型ですよ。もうお金は出ていくばっかり。

それでもいいことはあります。日本のロケット開発の様子が変わってきたこと。JAXA(宇宙航空研究開発機構)がH3ロケットの打ち上げに成功して、次のフェーズに進むことになりました。

※2:ISTは2024年3月にJAXAと「打上げ輸送サービスの調達に関する基本協定」を締結した。協定はJAXAが公募した超小型衛星ミッションで開発された衛星を打ち上げる民間事業者とのそれだ。JAXAはスタートアップ等による宇宙輸送サービスの事業化を打ち上げ発注契約によって支援する。

工場
撮影=プレジデントオンライン編集部

■「怒ったんですよ、僕は」

――JAXAはいずれ輸送系ロケットの開発から退き、基金を民間企業に差配する役割に移るといわれています。JAXAにいたロケット開発の技術者はどうなるのでしょう。

開発現場が好きな人は民間に行くでしょう。そうなんです。うちにも技術者が来ています。

ほんとは昔、うちで採れたかもしれない人材だったけど、会社の人間が「うちはちっちゃいベンチャーだから、君はJAXAに行ったほうがいいよ」なんて言った。怒ったんですよ、僕は。そんな遠慮してないで、いい人材を採ることがスタートアップが成長するための原動力なんだからって。

うちだったら新しいエンジンをどんどん作れますし。エンジン開発はやっぱり大切ですが、タンクの溶接って想定以上でした。ISTは、コア技術を内製することで、ロケットの低コスト化や量産化を目指しています。タンク溶接も大きな開発マイルストーンの一つです。今は治具を使った手溶接でやってますけど、量産時はもちろんロボット溶接になります。

■ISTは「宇宙への輸送業」

ロケットを量産した後の打ち上げサービスの輸送費用は8億円以下を目指しているという。「それでも他の民間会社に比べたら安いです。アジア、中東の会社はそれくらいの金を出す余裕はありますよ」(堀江)

同社はISTを「宇宙へ行く佐川急便」と表現する。つまり、人工衛星を軌道に載せる。その後、人工衛星は働く。

地球や宇宙の観測を行う。気象データをはじめとするさまざまなデータを収集し、科学的研究や予測に活用する。そして、放送や通信の送受信だ。科学実験や地球環境の監視も行う。

IST
撮影=プレジデントオンライン編集部
宇宙事業はかつて夢見たロマンではなく、気象データや放送・通信の発達に欠かせないビジネスになっている - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■宇宙開発は実生活に欠かせないものになっている

また、衛星通信ではイーロン・マスクがスターリンクのサービスを始めている。

宇宙から災害現場を特定し、ウォッチする効用もある。アマゾンの熱帯雨林で火災が起きた場合、衛星からの監視で場所を見つけ、消火に結びつけることもできる。

宇宙開発は夢やロマンといった抒情的な表現で語られる仕事ではなく、現実の生活に欠かせないものになっている。

ISTがやっているロケットの打ち上げサービスは人工衛星を運ぶだけの輸送サービスと捉えられがちだ。だが、軌道に乗った人工衛星が地球に送ってくるデータには計り知れないほどの価値がある。得るもののほうが大きいのがロケット輸送サービスだ。

それを考えるとロケット輸送サービスはかつての東インド会社のそれに似ている。東インド会社の船は喜望峰をまわってアジアへ向かい、香辛料を手に入れて戻ってきた。ISTを東インド会社になぞらえるとしたら、ホリエモンたちがやっているのは出資者を集めて、船を建造している段階だ。まだまだこれからだ。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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