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「味噌汁は加熱するから酵素が死んでしまう」は二重に誤解している…発酵食品が健康にいい本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年4月19日 8時15分

麹菌が米や麦や豆に生えたものが「麹」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/masa44

発酵食品はなぜ健康にいいのだろうか。日本醸造協会理事の村井裕一郎さんの著書『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)より解説をお届けする――。

■「麹」「酵母」「酵素」の違い

発酵を理解するための重要な概念、「麹」「酵母」「酵素」について解説していきましょう。

「こうじ」「こうぼ」「こうそ」と、ひらがなにすると、すべて一文字違い、そのうえ酵素と酵母は漢字までよく似ているので、混乱する人が多くいらっしゃいます。

発酵のことがよくわからなくなるのも、大きな要因はこの混乱によるものです。

逆に言えば、この3つの違い、とりわけ「酵素」についてわかれば、発酵を原理的に理解したと言っても過言ではありません。

■発酵に使う微生物は3種類

日本で発酵に使う微生物は3種類で、そのうちの2つが、麹菌を含むカビと「酵母」です。

「酵母」は微生物なのです。そして、麹菌(カビ)が米や麦や豆に生えたものが「麹」です。

麹は発酵食品をつくる原料として使われたり、最近では、塩麹のように麹自体を直接食べることもあります。

「こうじ(麹)」……米や麦や豆などに麹菌が生えた食品原料
「こうぼ(酵母)」……微生物そのもの

では、「酵素」とは何でしょうか。

酵素は、物質です。私たちの身体の中で消化や吸収、代謝など、ありとあらゆる活動を促進する働きを担っています。

その種類は数千種類にも及ぶとされています。

■微生物が物質を変化させるときに使う「道具」が「酵素」

酵素は、生き物の体内で生み出されますが、そのすべての働きを紹介すると辞書1冊分程の量が必要になるため、発酵に関わる酵素、その中でも代表的なものだけを取り上げましょう。

代表的な酵素の1つに、「アミラーゼ」があります。

この酵素は、私たちの唾液にも含まれており、口の中に入っているデンプンを糖に変える働きをします。

さて、発酵とは「微生物の活動によって物質が変化すること」とお伝えしてきましたが、微生物が物質を変化させるときに使う「道具」が「酵素」なのです。

■デンプンを分解して糖にしている

アミラーゼがデンプンを糖に変えるという現象を詳しく見ていきましょう。

デンプンは高分子化合物と呼ばれる物質です。高分子とは簡単に言えば、他の物質よりも大きいものを指します。

人間が体内で消化するには大きすぎて取り込めないため、デンプンを小さく壊す必要があります。そのためのペンチやハサミのようなものが、酵素なのです。

【図表1】混乱しやすい「麹」「酵母」「酵素」の違い
出所=『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)

つまり、酵素であるアミラーゼは、高分子であるデンプンを分解して糖にし、体内に取り込めるようにしているわけです。

こうして、食べ物を体内に取り込んでいくプロセスを「消化」と言います。

実際にパンやご飯を噛んでいると、だんだんと甘くなってきますが、唾液の中のアミラーゼがリアルタイムで口の中のパンやご飯のデンプンを糖に変えているからです。

人間は高分子のデンプンのままでは味を感じることができません。糖になって初めて甘味を感じることができます。

■アミノ酸になることでうま味を感じることができる

ちなみに、1つの反応に対して1つの酵素が専用に働きます。

デンプンを細かく切るのはアミラーゼですが、アミラーゼがタンパク質を切ることはできません。

一方で、タンパク質を切る酵素であるプロテアーゼがデンプンを切ることもできません。

プロテアーゼはタンパク質を切ることでアミノ酸に変化させます。アミノ酸になることで、人間はうま味を感じることができるようになります。

この、デンプンを糖に変えるアミラーゼ、タンパク質をアミノ酸に変えるプロテアーゼが、発酵に関わる酵素としては代表格ですが、他にも脂肪を分解するリパーゼ、繊維質を分解するセルラーゼなど、様々な酵素があります。

■35~40度で活溌になるものが多い

また、酵素は特定の環境でしか働くことができません。

温度としては、人間の体内で働く酵素は体温と同じくらいの35~40度で活溌になるものが多いです。

環境が酸性かアルカリ性かによっても、比較的強い酸性やアルカリ性の環境でも働くことができるもの、中性に近い場所でないと働けないものなど様々です。

では、食材が発酵するとき、酵素はどのような働きをするのでしょうか。

麹菌は、自分の身体の外に酵素であるアミラーゼやプロテアーゼを分泌することができます。

そのため、麹菌が生えている麹には、麹菌が分泌したアミラーゼやプロテアーゼなどの酵素がたくさん含まれています。

【図表2】酵素の役割
出所=『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)

■タンパク質を切り刻んでアミノ酸に変える

例えば、その麹を米と混ぜると、麹の中に存在するアミラーゼが米のデンプンと反応して、デンプンを切り刻み、糖に変えます。

このデンプンが切り刻まれて糖に変わった甘い液体が、甘酒です。

また、この糖は、お酒の発酵においてはアルコールのもとになります。

同様に、大豆と麹を混ぜると、麹の中のプロテアーゼが大豆のタンパク質と反応してタンパク質を切り刻みアミノ酸をつくろうとします。その結果、うま味のある味噌や醤油になっていきます。

塩麹で肉が柔らかく、うま味が増すのも同じ原理です。麹に肉を漬けておくと、麹の中のプロテアーゼが肉のタンパク質を切り刻んでアミノ酸に変えるため、肉は柔らかく、また、うま味が増すことになります。

■「酵素が生きて体内に入る」は間違い

酵素について、今一度、詳しくまとめておきましょう。

・酵素はタンパク質でできた物質
・酵素は生き物が自分でつくり出すことができ、様々な反応を促進する役割がある
・酵素はたくさんの種類がある
・酵素は1つの反応に対して1つが専用に働く
・酵素は特定の環境でないと働くことができない
・発酵の過程で物質が変化するのは、酵素が働いているから

酵素はタンパク質でできた物質であり、生き物ではありません。

比喩的な表現として「酵素が働く」「酵素が生きて体内に入る」「酵素が死ぬ」といった表現をしたりすることがあるため、酵素を生き物だと考えている人が多くいらっしゃいますが、酵素はあくまで物質です。

また、食べ物の中にある酵素が人間の体内で働くことは、(ごく一部の酵素を除き)基本的にはありません。

酵素は肉や魚と同じタンパク質でできているので、ほぼすべての酵素は胃で消化されます。

胃を抱えている人
写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov
ほぼすべての酵素は胃で消化される(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov

■酵素は熱に弱い

例えば、麹菌の出したプロテアーゼ(酵素)を、私たちが腸で食べ物の消化にそのまま使うということはできません。

もしも、食べ物として食べた酵素が体内でも働いたら、人間の身体もタンパク質でできていますから、内臓や血管などがドロドロに溶けてしまいます。

また、酵素はタンパク質なので熱に弱いです。

肉や魚、卵などに熱を加えると色が変わったり固くなったりして、まるで違う物質のようになりますが、それはタンパク質が変化するからです。

同じように、酵素も熱を加えると変化します。熱を加えて変化してしまうと酵素として働くことはできません。

■酵素そのものが健康に良いわけではない

では、酵素が体内で働くわけではないのに、なぜ、発酵食品が身体に良いのでしょうか。

それは、微生物が出す酵素が切り刻んだ、消化がよく、様々な栄養が豊富に含まれた食品を食べるからです。

しかし、「酵素」そのものが栄養素のように何か健康に良い物質である、というイメージは根強いです。

さらに、「酵素は熱に弱い」「酵素は生き物である」というイメージもあり、「発酵食品は生で食べなくては酵素が死んでしまうから意味がない」という話が生まれます。

私もよく、「味噌汁は加熱するから酵素が死んでしまうという話を聞いたのですが?」という質問を受けます。これは、誤解に誤解が重なった質問です。

味噌汁
写真=iStock.com/Yuuji
「味噌汁は加熱するから酵素が死んでしまう」は二重に誤解している(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Yuuji
村井裕一郎『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)
村井裕一郎『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』(あさ出版)

このような誤解は、日本特有のものです。私が交流する海外の発酵愛好家の方で、このような勘違いをされている方はほぼいらっしゃいません。

そもそも、英語で酵母はYeast(イースト)、酵素はEnzyme(エンザイム)と表記します。ですから、日本語における「酵母」と「酵素」のように字面からの勘違いが起きようがないのです。

味噌そのものが、微生物が酵素の力でたくさん栄養を生み出した素晴らしい発酵食品なので、安心して味噌汁を加熱して良いとお伝えしたいです。

発酵食品が身体に良いのは、酵素によって産み出された様々な栄養のおかげなのです。

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村井 裕一郎(むらい・ゆういちろう)
糀屋三左衛門代表取締役社長、日本醸造協会理事
1979年、愛知県豊橋市生まれ。2002年に慶應義塾大学経済学部、2004年に慶應義塾大学環境情報学部卒業。2006年にアメリカのサンダーバードグローバル国際経営大学院にて国際経営学修士(MBA)取得。その後、室町時代の創業以来、種麹を作ってきた家業である株式会社糀屋三左衛門、またその研究開発企業である株式会社ビオックに入社。以来、得意先である味噌、醤油、清酒、焼酎などの醸造メーカーと関わり「発酵」のプロとして家業に携わる。2016年に家業を継ぎ第二十九代当主に就任。各種セミナーや執筆など、麹、発酵の魅力を発信する活動にも力を入れる。2022年には京都芸術大学大学院学際デザイン研究領域修了(芸術修士)。2023年より公益財団法人日本醸造協会理事。その他、2019年公益社団法人豊橋青年会議所理事長、豊橋市男女共同参画審議会委員など地域社会活動の役職も多数務める。

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(糀屋三左衛門代表取締役社長、日本醸造協会理事 村井 裕一郎)

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