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閉店した元ラーメン店主が出題…追加具材「煮卵、チャーシュー、麺大盛、ネギ、海苔」を利益率の悪い順に並べよ

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 10時15分

アメリカの小麦不作などが影響し、麺の仕入価格が大幅に上がった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/pixelfusion3d

多くのラーメン店では客単価を上げるため「追加トッピング」を用意している。ただ、この中には利益率が低く、赤字覚悟の具材もある。公認会計士で元ラーメン店主の石動龍さんは「ラーメンそのものを値上げするのは難しいので、さまざまなトッピングを用意していた。ただ、利益率の低いトッピングばかり頼まれると、店としては困ってしまう」という――。

■「ラーメン店の倒産が過去最多」は当然

1月に「ラーメン店の倒産が過去最多」というニュースが世間を騒がせました。

東京商工リサーチの記事によると、2023年のラーメン店の倒産(負債1000万円以上)は45件(前年比114.2%増)で、前年の2.1倍と大幅に増えたそうです。

びっくりした人もいるかと思いますが、元ラーメン店主の立場からすると、「当然そうなるだろう」という感想です。食材を中心に原価が大幅に上がっているのに対し、賃金上昇は緩やかで消費者の財布に余裕が出た感覚は乏しいため、値上げを行うのが難しい状況が続いていたからです。

■食材や光熱費の値上げが相次いだ

私は2020年10月から2022年10月まで、地元の青森県八戸市で、公認会計士をしながら「ドラゴンラーメン」を経営し、時には厨房で調理にあたっていました。仕入れもすべて担当しており、食材の価格変化にも一喜一憂していました。

コロナ禍が落ち着き、外食需要が回復すると見込んで開店時期を決めたものの、振り返ってみると、コロナの影響は予想より長引いただけでなく、ウクライナ戦争など、予想できない環境変化もあり、開店の時期としては最悪に近いタイミングだったかもしれません。

2021年10月に、アメリカの小麦不作などが影響し、麺の仕入価格が大幅に上がりました。

さらに燃料価格の高騰により、電気代、ガス代も値上げされます。

採算を合わせるために苦労しているうち、2022年2月にはウクライナ戦争が勃発。世界有数の穀倉地帯が戦地になり、さらなる食材価格や燃料価格の高騰は明らかでした。

わずか2年の経営期間でしたが、食材や水道光熱費の値上げが相次ぎ、利幅が恐ろしいスピードで減っていきました。

■飲食店経営はますます厳しくなる

コロナ禍が明けて最悪の時期は終わったものの、そもそも飲食店は行列ができているような店を除いて、それほどお金が残りやすい商売とはいえません。

昨今の物価高であらゆるものの値段が上がり、経営はより厳しくなりました。食材だけでなく、包装資材、電気代、ガス代、人件費も値上がりし、高くなっていないものを探すほうが難しい状況です。

サラダ油など、コロナ禍前に比べて30~40%価格が上がったものも珍しくありません。

円安傾向が続いていることもあり、今後も物価高が収まる気配はないので、値上げできない飲食店の存続はますます厳しくなると予想されます。

■「テイクアウトのコーヒー」は完全な失敗

そんな中で何も対策をしないと、原価率は向上を続けてしまい、経営が苦しくなることは当然です。そのため、私も含め、多くの店主は、値上げをしたり、商品ラインナップを増やしてトータルでの原価率低減を狙ったり、新商品を導入して新規客の来店を狙ったり、さまざまな作戦を練り、実行していきます。

その時に私が行ったのは、テイクアウトコーヒーの販売や、トッピングの追加販売を狙うことでした。

持ち帰り用のコーヒーにふたをする店員
写真=iStock.com/kurmyshov
テイクアウトコーヒーの販売や、トッピングの追加販売を狙った(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kurmyshov

コーヒーについては、コンサート等が開催される公共施設内に店があったこともあり、原価率10%のコーヒーを200円で販売することで、食材原価上昇による粗利の減少をカバーする作戦でした。こちらはコンビニのコーヒーや自動販売機に勝つことができず、売上は多い日でも10杯程度で、完全な失敗に終わりました。

■「追加トッピングしてくれるお客さん」はありがたい存在

トッピングは売れれば客単価の向上につながり、粗利も増加します。

そのためにラーメンに追加トッピングをしてくれるお客さんはありがたい存在でした。

とはいえ、一口に「トッピング」と言っても、それぞれ利益率は異なり、ラーメン店経営者にとっては、うれしいトッピングとそうでないものがあります。

■「ラーメン店が頼んでほしいメニュー」はどれか

飲食店経営の理解にもつながりますので、クイズ形式で書きたいと思います。

ラーメン店の経営にあたって、次のうち最も好ましい顧客は誰でしょうか。

トッピングの販売価格はいずれも100円とします。

①海苔星人

海苔がとにかく大好きな正体不明の生物。ラーメンを食べるときは1セット3枚の海苔(縦10.5×横8.5センチ)を10セット追加でトッピングし、真っ黒になったラーメンを食べる。

②大盛野郎

一般サイズのラーメンではおやつにもならない大食漢。麺半玉(75グラム)が増量される大盛りを10セット追加する。スープがなくなっても卓上の醤油をかけて麺を食らう。

③ネギ魔人

麵やスープが見えるラーメンは食べない、という謎の哲学を持っている男。ネギトッピングを必ず10セット追加し、緑色になったラーメンを一気にすする。ネギが好きすぎで顔が緑色になっている。

④豚マニア

チャーシューがラーメンの本体と考える熱狂的豚信者。1枚あたり30グラムの厚切りチャーシュー(国産モモ)を10枚トッピングし、脂まみれになって店を後にするのが日常。

⑤味玉マン

ラーメントッピングの味玉が卵料理の中で最高と信じて疑わないマスクマン。味玉10個を必ずトッピングする。正体は鶏と人間のハーフだという噂もある。

チャーシュー、卵、のりなどがトッピングされたラーメン
写真=iStock.com/Thai Liang Lim
「ラーメン店が頼んでほしいメニュー」はどれか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Thai Liang Lim

■「値段が変動するもの」は好ましくない

まず、「③ネギ魔人」は、実は経営にあまりプラスにはなりません。

ネギは季節によって値段が変動し、高い時季は1本100円を超えることもあります。

すし屋と違い、原価が上がっても、販売価格を変動させる文化はラーメン店にはありません。そのため、原価が上がった場合は、店の利益が減ることになります。

トッピングで提供するネギは、一般的には1本の半分ほどです。

高い時季の場合、原価率が50%を上回ることになります。

2本の長ネギ
写真=iStock.com/kuppa_rock
トッピングで提供するネギは1本の半分ほど(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■国産豚モモ肉の仕入価格は安くても100グラム100円程度

続いて、「④豚マニア」も、「③ネギ魔人」に続いて、経営にはあまりプラスになりません。

国産豚モモ肉の仕入価格は安くても100グラム100円程度です。

チャーシューは調理の過程でスジや余分な脂を落とすため、仕入れた肉のすべてを商品化できません。30グラムのチャーシューを作るには40グラムほどの生肉が必要で、食材原価は40%となります。さらに、調理の手間もかかるため、たくさんチャーシューが売れても、ラーメン店の利益はそれほど増えないのです。

■麺1玉あたりの仕入価格は安くても50~70円前後

5人の中で真ん中くらいにありがたい顧客は、「②大盛野郎」です。

自家製麺を行わず、仕入れを行っている場合は、麺1玉あたりの仕入価格は安くても50~70円前後になると思います。私がラーメン店を経営していた当時は、1玉70円で仕入れていました。

調理前の中華麺
写真=iStock.com/YinYang
麺1玉あたりの仕入価格は安くても50~70円前後(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/YinYang

麺大盛り分が半玉として、原価35円になりますから、100円で売った場合、原価率は35%になります。

飲食店経営にあたって、目指すべき食材原価率は30%と言われています。麺大盛りは30%を超えているため、売上アップになってうれしいものの、特別利益率が良いとまではいえません。

■卵1個あたりの価格は15~20円程度

ラーメン店にとって2番目にうれしい顧客は、「⑤味玉マン」です。

ラーメン店では、卵はケース単位の仕入れが一般的です。

安い店からケースで購入すると、卵1個あたりの価格は15~20円程度です。

トッピングとして100円で売れば、食材原価は20%に抑えられるのですが、煮卵を作る作業にはなかなか時間がかかります。

それでも食材原価は目標値より低いので、ラーメン店にとってはとてもありがたい注文です。

■50枚1000円で買うことができる

5人の中で最もうれしい顧客は、「①海苔星人」になります。

海苔は安い店であれば、「全型」と呼ばれる縦21センチ、横19センチのものが、50枚1000円で買うことができます。トッピングのサイズにカットすると、全型1枚から4枚の海苔を作成できますので、トッピング1枚当たりのコストは5円です。100円のトッピングとして3枚1組で販売すると、100円の売上に対し、かかる原価は15円です。

また、準備の手間も海苔をカットするだけなのでほぼかかりません。

注文が入れば入るほど、原価率は15%に近くなっていきます。「①海苔星人」が大量に来店すれば、店の利益率は改善します。

一方、「③ネギ魔人」が大勢でやってきてしまうと、店の利益を圧迫する結果になるでしょう。

■焼肉店で最も利益率が高いのはウーロン茶

このように、飲食店の原価率は一律ではなく、メニューごとに変わってきます。

注文してくれれば儲けが多いものもあれば、中には赤字で提供しているメニューもあるでしょう。

例えば、焼肉店で最も利益率が高いのはウーロン茶だと言われます。

グラスに入ったお茶
写真=iStock.com/yankane
焼肉店で最も利益率が高いのはウーロン茶(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/yankane

こだわったウーロン茶を提供している場合は別ですが、ペットボトルのウーロン茶を提供するなら、グラス1杯あたりの原価率は20円程度です。販売価格は400~500円程度が一般的ですから、原価率は驚異の5%以下になります。

なかなかいないでしょうが、もしウーロン茶を大量に飲んでくれるお客さんが来たら、店にとってはとてもうれしい日になります。

■トータルで目標の原価率を目指している

お酒を提供する飲食店では、食べ物の原価率を高めに、飲み物の原価率を低めに設定して、トータルで目標の原価率を目指しているケースが多いです。

食べ物の原価率を40%、飲み物の原価率を20%で設定し、注文の割合が半々であれば、食材原価は30%に収まります。

私はラーメン店を閉店したあと、ワインを中心にした洋風居酒屋を共同で経営しています。

飲み物の中でも、ワインは比較的原価率が高く、焼酎やウイスキーの水割りは原価率が低く設定されています。

また、手の込んだ料理を出しているので、原価率はどうしても高くなりがちです。

■閉店ラッシュのいま、お気に入りの店を応援しよう

そのため、洋風居酒屋にとってうれしいお客さんとは、食べ物をあまり注文せず、原価率の低い水割りをどんどん飲んでくれる人になります。

石動龍『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)
石動龍『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)

逆に、原価率の高い食べ物をたくさん注文し、飲み物は頼まず、無料の水だけのお客さんだと、利益率が低くなってしまいます。

個人経営のレストランやラーメン店は、余裕のない資金繰りで経営しているケースも多いです。無くなってほしくない店があるなら、たまにウーロン茶など原価率の低い商品を注文すると、店に残る利益が増えて、経営が安定する確率も高いでしょう。

もちろん店に来てもらえるだけでも十分嬉しいのですが、ラーメン店をはじめ飲食店の閉店ラッシュが起きているいま、そんな経営者の「本音」についても少しだけ理解していただけると、皆さんのお気に入りのお店も閉店せずにすむかもしれません。

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石動 龍(いしどう・りゅう)
元ドラゴンラーメン店主、石動総合会計法務事務所代表
1979年生まれ。青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年10月に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干ラーメンの研究。著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。

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(元ドラゴンラーメン店主、石動総合会計法務事務所代表 石動 龍)

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