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まずは「決算説明会資料」に目を通す…企業を調べるときに投資のプロがやっている「IR資料読み」のコツ

プレジデントオンライン / 2024年4月27日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cnythzl

企業について調べるとき、投資のプロはどうやっているのか。公認会計士の川口宏之氏は「IR資料でもっとも読みやすいのは決算説明会資料だ。これを読めば会社の全体像がイメージできるようになる」という――。

※本稿は、川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■有価証券報告書を全部読むのが面倒なら「決算説明会資料」

ほとんどの上場企業のホームページには、株主や投資家に対して財務状況を公表するIR資料が掲載されています。IRとは、「Investor Relations」の略称で、「投資家向け広報活動」などと言われています。会社の経営状態や財務状況、決算内容、将来的な見通しなども含めて、投資家がその会社に投資するにあたって必要とされる、さまざまな情報を公平に開示することです。

それらの資料を読めば、その企業の姿がわかります。

しかし、IR資料のメインとなる有価証券報告書は、100~200ページ近い分量があるため、情報量が多いうえ無味乾燥な文章や数字の羅列で理解しにくいという人もいるでしょう。

そんな人におすすめのIR資料が「決算説明会資料」です。

決算書を読む際に補助的に使えるため、本稿ではそれらについて解説しましょう。

■フォーマットが自由ゆえに見やすく作られている

決算短信や、四半期報告書を含む有価証券報告書は、あらかじめフォーマットが決められています。したがって、会社独自の表記はできません。

その意味では非常に堅苦しい開示資料とも言えるのですが、最大のメリットは他社比較が容易にできることです。

会社ごとに表現方法がバラバラだったら、必要な項目を探すのもひと苦労です。したがって、表記方法が統一されていることは、決算書を素早く読み込むためにも、とても便利なのです。

これに対して、開示資料の一種ではありますが、有価証券報告書などに比べてはるかに自由な表現が可能なものもあります。「決算説明会資料」がそれです。

ちなみに、決算短信は証券取引所によって、有価証券報告書は金融商品取引法によって、作成・開示が義務付けられていますが、決算説明会資料はなんの義務もありません。会社によっては、いっさい作成していないところもあります。

作成・開示すらなんの縛りもないのですから、表現方法が自由なのも当たり前と言えば当たり前です。実際に複数社の資料を見比べると、その違いがよくわかります。

恐らく、決算短信や有価証券報告書に比べて、非常にわかりやすいと思います。見どころとなるべき数字を大きく表記したり、過去からの業績推移をグラフや一覧表で表したりと、有価証券報告書に記載されている無味乾燥な文章とは違い、極めて平易な書き方がされています。

■決算説明会資料は会社のすべてを語るものではない

ただし、2つほど注意点があります。

まず、決算説明会資料だけでその会社の本当の姿を知るのは難しいということです。なぜなら、ここに記載されている内容の多くが損益計算書に基づいた情報だからです。貸借対照表に代表される財務情報は、ほとんど掲載されていません。

次に、会社側が好きなように作成できる資料なので、自分たちにとって都合の悪い情報を、意図的に隠している恐れがあることです。

逆に、掲載されている情報は、会社にとって都合のいい情報ばかりの場合もあります。

さらにもうひとつ言うならば、決算説明会資料は誰のチェックも受けていないということです。

もちろん、社内チェックはありますが、有価証券報告書のように、監査法人のチェックは受けていません。決算短信も表向きは監査法人のチェックを受けていないことになってはいますが、前述したように決算短信と有価証券報告書の数字に違いがあるのは望ましくないので、実際には、ほとんどの場合において、監査法人が目を通しています。つまり決算説明会資料は、決算短信や有価証券報告書に比べて信頼性に劣るとも言えるのです。

■一般的な知名度が低い会社を理解する手がかりになる

ただし、決算説明会資料は、会社を知るひとつの手掛かりとしては有効です。

たとえば、よく知らない会社の事業内容。味の素のように、誰もが会社名を知っていて、どういう商品をつくり、販売しているのかがおおまかにわかっているような会社ならともかく、現在、東京証券取引所などに上場されている会社のなかには、社名を聞いただけでは何をメインの事業にしているのか、想像もつかないような会社もあります。特に、個人向けではない、対企業のビジネスを中心にしているBtoB企業であればなおさらです。

この手の会社の中身を知りたいというとき、恐らく決算短信と有価証券報告書だけでは、なかなかイメージできません。そういうとき、決算説明会資料に併せて目を通すと、その会社のおおまかな姿がイメージできるのです。

■統合報告書には何が掲載されているのか

最近、「統合報告書」を作成している会社が増えています。これも決算説明会資料と同じように、作成が義務付けられているものではありません。あくまでも会社の任意です。したがって、監査法人のチェックは受けていませんし、フォーマットも各社独自のものになっています。

「統合報告書」という名称を初めて聞いた人は、恐らくこんなことを考えたのではありませんか。「何を統合したの?」と。

統合報告書とは、「有価証券報告書や決算短信に掲載されている財務情報に非財務情報を加えたもの」と考えていただければいいでしょう。

さらに言うと、有価証券報告書は基本的に過去の企業経営の成績を、貸借対照表と損益計算書、キャッシュ・フロー計算書という財務三表で表現したものであるのに対し、統合報告書は将来、会社の経営をどうしていくのかというような、将来に軸足を置いて説明している点が大きな違いです。

非財務情報とは、財務三表以外の会社情報のことです。といっても、これではなんのことかわからないと思いますので、いくつか代表的な非財務情報を挙げてみましょう。

・ビジネスモデル
・事業戦略
・CSR
・ガバナンス

以上が、代表的な非財務情報です。

ビジネスモデルと事業戦略の関係性は、事業戦略がビジネスモデルに組み込まれていると考えていただければいいでしょう。つまりビジネスモデルとは、売上を上げるための製品・サービス、事業戦略、収益構造、想定顧客などを含む概念です。

■企業の活動が社会に及ぼす影響に配慮する「CSR」

では、「CSR」「ガバナンス」とは何を指すのでしょうか?

・CSR

CSRは「Corporate Social Responsibility」のことで、「企業の社会的責任」と訳されています。

ちょっと曖昧な言葉ですが、要するに会社も社会の構成員のひとつなのだから、「利益のためならなんでもやる」というのではなく、自分たちの活動が社会に及ぼす影響に配慮し、あらゆるステークホルダー、つまり消費者、取引先、投資家、地域、従業員も含めて、すべての利害関係者からの要求に対して適切な対応を取るという意味です。近年、話題になっているESGやSDGsへの対応もそのひとつと言っていいでしょう。

ESG、ゼロカーボンエミッション環境技術コンセプト持続可能な開発目標グリーンシーズンの道路のトップビュー環境とビジネスの成長を一緒に持続可能な資源
写真=iStock.com/Sakorn Sukkasemsakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sakorn Sukkasemsakorn

ちなみにESGとは、E(Environment:環境配慮)、S(Social:社会性)、G(Governance:企業統治)の3つの観点から会社を分析し、それらに配慮した経営を行っている会社に投資するという、ある種、投資家に課せられた責務のようなものです。

・ガバナンス

そしてガバナンスですが、ESGにも含まれているもので、「企業統治」を意味します。企業統治と言うと、なんのことかよくわからなくなってしまいますが、要するに「健全な企業経営が行われるような監視・統制が確立されているかどうか」ということです。正式には「コーポレート・ガバナンス」と言います。

■いわば「内容が充実した会社のパンフレット」

統合報告書には以上のような非財務情報がふんだんに盛り込まれており、かなり立派なつくりになっています。写真も豊富に使用されていて、フルカラーのものが大半です。

別な見方をすると、内容が充実した会社のパンフレットみたいなものです。したがって、読んでもらいたい対象者も投資家だけでなく、取引先や顧客、就職活動中の学生など、より幅広くなります。特にBtoB系で、一般の人から見ると中身がよくわからない会社の場合、会社を知ってもらうという意味でも有効です。

ただ、非財務情報に関しては数値化しにくい面があるので、特に投資家の立場からすれば、どう評価すればいいのかわからないという問題があります。

これに関しては、株価は必ずしも財務データだけで決まるものではない反面、最近は機関投資家の間でも、非財務情報を重視する動きがあったりするので、その意味で統合報告書を出す会社が増えつつあるとは思うのですが、会計士の立場から言わせてもらうなら、やはり数値化できないものは、「よくわからない」というのが正直な感想です。

したがって、いくら非財務情報が重要だといっても、最終的には利益に反映されるようにならなければ、なんの意味もないと考えています。ビジネスモデルにしても、ガバナンスにしても、あるいは環境対応にしても、最終的には売上増と利益増につながり、さらには財務状況の改善に反映されることが重要なのです。

■投資家は特に目を通しておきたい「中期経営計画」

中期経営計画とは、3~5年程度の経営計画をまとめた資料です。

3年後、あるいは5年後に、この会社はこうなっていて、売上や利益はこうなるという目標を示すのと同時に、現状とのギャップを社員全員が認識することで、その目標に向かって努力するために設定されるのです。一種のロードマップのようなものと考えればいいでしょう。

これも、「なんとでも書けてしまう」などと言うと身も蓋もありませんが、参考情報のひとつとして目を通しておいたほうがいいIR資料です。

中期経営計画も、決算説明会資料や統合報告書と同じで、監査法人のチェックを受けずに開示することができるため、バラ色の将来計画を出すこともできます。

とはいえ一応、上場企業が外部に対して「わが社はこの3年(あるいは5年)で、どのような課題に取り組み、それを達成することによって、売上や利益をこのように伸ばしていきます」ということにコミットしたものですから、それに向けてどのような経営努力をしていくのか、といった経営の方向性が見えるという点で、特に投資家などは目を通しておくべきだと思います。

■長期経営計画はあくまで参考程度に

ちなみに、各企業はこの中期経営計画をベースにして、さらに毎年の目標を設定するわけですが、この1年ごとの目標を設定したものを「短期経営計画」などと呼びます。

川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)
川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)

また、それとは逆に10年程度の長期的なビジョンを策定するケースもあり、これを「長期経営計画」と言います。

問題は、これらの経営計画を本当に達成できるのか、ということです。短期経営計画に関しては、1年後の目標なので、その間に不測の事態が生じて未達に終わるという可能性はそれほど高くありません。

しかし、3~5年、あるいは10年先の経営計画となると、先が長いだけに、その間に不測の事態が生じて計画が未達に終わるリスクが高まります。

たとえば最近の事例を挙げると、2020年に入ってから深刻化した新型コロナウイルスのパンデミックがあります。

恐らく2019年の時点で、未知のウイルスが世界中に広まり、経済活動が大幅に後退させられるような事態に陥るなどということは、誰も想像していなかったでしょう。当然、パンデミック以前、たとえば2019年時点に策定され、2022年に最終年度を迎えた中期経営計画は大半が未達で終わったはずです。

ましてや10年先の長期経営計画になると、そこまで先のことを読み切ることはできません。したがって、中期経営計画や長期経営計画は、あくまでも参考程度に見ておく、というくらいに考えておけば十分です。

基本的な情報は有価証券報告書を読み解けばわかりますので、ここで紹介したIR資料すべてに目を通す必要はありません。しかし、目的によっては役に立つ資料もありますので、知識として知っておくに越したことはありません。

現在は、IR資料の大半が企業のウェブサイトで公開されていますので、一度目を通してみることをおすすめします。

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川口 宏之(かわぐち・ひろゆき)
公認会計士
1975年栃木県生まれ。有限責任監査法人トーマツ(旧・監査法人トーマツ)、みずほ証券(旧・みずほインベスターズ証券)、ITベンチャー企業の取締役兼CFO、独立系の会計コンサルティングファームを経て2019年に独立。著書に、『カンタン図解で圧倒的によくわかる! 【決定版】決算書を読む技術』(かんき出版)、『この1冊ですべてわかる 決算書の基本』(日本実業出版社)などがある。「公認会計士・川口宏之オンラインスクール」主宰。

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(公認会計士 川口 宏之)

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