1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

画像診断など"医療AI"普及も慶應医学部教授が懸念「診断データベース蓄積する外国企業の支配下入り」の恐怖

プレジデントオンライン / 2024年4月27日 7時15分

■医療を助けるAIディープラーニング

生成AIが、世界を変えています。

医療でも間違いなく変化を起こしていきますが、最前線で本格的に実装されるのは、しばらく後のことになります。医療で使われる技術というのは、患者さんの命にかかわることですので、安全性の検証がすごく大事。それが人々の体にどういう影響を与えるのかという検証を踏まえて、実装されていくんですね。

今、医療現場で使われているAIというのは、数年前の第3次AIブームの時に世界を席巻したディープラーニングと呼ばれる技術です。囲碁の名人を打ち負かした(2016年3月に囲碁AI「Alpha GO」がトップ棋士に勝利)ことで有名になったと思うんですが、このディープラーニングを使った医療が、今まさに現場で実装され始めている。そんな段階です。

■画像診断と相性がよく既に強力なツールに

ディープラーニングと相性がいいのは、画像関連の分野。画像診断して腫瘍を見つけるなど、既に非常に強力なツールになっています。

今一番有効な使い方は、人と共存させながらチェックをすること。人間2人でダブルチェックをすると、2人目は手を抜くとは言いませんが、どうしても注意力が落ちてしまいます。AIにはそれがありません。AIにまずチェックさせたり、AIにサポートさせながら人間が見たりすることで、人間の知覚を拡張していくところに大きな役割があります。

とはいえ最終的な判断は、やっぱり医師が下します。AIが人間と置換するかどうかというのは、少しまだ早い部分があります。雑務的な部分をAIがさっと簡単にしてくれたり、馴れによって落ちてくる人間の集中力をサポートする。そのような形で使われているのです。

医療においては、注意事項が他のビジネスフィールドに比べてたくさんあります。一定規格の新製品を出すときに、日本だとPMDA(医薬品医療機器総合機構)、アメリカだとFDA(アメリカ食品医薬品局)など当局の認可が必要。検証のためどうしても時間がかかってしまうのです。AIの実装についても同じことが言えます。他のデジタル分野で、たとえばアプリを作るとか、ビジネス提案をするといった場合のスピード感とは違ってくるのです。

4~5年前から、アップルやグーグルなどテックジャイアントと呼ばれる企業が、それぞれ異なるアプローチで医療分野参入の戦略を打ち出してきています。でも彼らでもなかなか大きな成果を上げづらい。他の分野なら、日常生活をおくる中で生まれる、言葉は悪いですがそこらへんにある情報を基にしてもかまわないところがありますが、医療では精度の高いデータを取らないといけない場合が多い。そういう質の高いデータは溢れていないので、ある程度コストをかけて取りにいかないといけません。この点は、時間がかかったり、他のプレーヤーが苦戦する要因かなと思います。

■AIによる判断根拠を透明化していく

AIを実装するにあたっては、ブラックボックス問題への対応も必要になります。AIはアルゴリズムを用いて何らかの結果を提示するわけです。それがどういう基準に基づいて判断されているのかについては、多くの場合、企業の側がデータを持っているので、根拠がわからなくなってしまっているのです。それをどのように信頼しながら使っていくのか。

宮田裕章(Hiroaki Miyata) データサイエンティスト、慶應義塾大学医学部教授。1978年生まれ。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に、研究活動を行っている。

たとえば大きな懸念のひとつは、日本の医師たちが遠からぬ将来、皆、生成AIを基に診断をしてしまった場合です。診断のデータは医師たちのネットワークではなく、外国の企業に蓄積されるわけです。もし、ある企業がデータベースに蓄積したデータの公開を止めた場合、日本の医療は成立しなくなってしまう可能性がある。

生命に直結するアルゴリズムに関しては、日本側がデータをしっかり持って独自に積み上げられるようにするということが、やはり必要でしょう。独自のデータを持ち、プラットフォーマーにすべてコントロールされないようなセキュリティを確保していくことが、ブラックボックス問題に対するひとつの対策です。

もうひとつの対策として、判断の根拠になっているものを生成AIに示させるようなアルゴリズムをつくるということも挙げられます。それぞれの判断について、根拠を示しながら提案をしてくださいということ。根拠について透明化することも大事です。

■未病対策にこそAIが力を発揮し超高齢化社会の日本を支えてくれる

現状、画像診断など医師のサポートに使われているAIですが、未病対策にも有効だと思います。医療に関係する者として自戒を込めて言えば、今までの医療は多くの場合、病気になって、そしてそれがある程度進行して病院に来たところから始まるんですよね。もちろん、古くはそれが社会にとって一番良かった。あるいはそれしかできなかったわけです。

でも世界で最初に超高齢化社会に突入する国である日本では、病気になってからの治療モデルだけだと財政的にも厳しいわけですよね。

一人一人がその人らしい生き方をして、自然に健康が保たれる。あるいは病気になっても、障害があるとしても、それが人生の妨げにならない。年齢を重ねてもその人らしい暮らしができる時間が長い。そういう社会をつくることがすごく重要です。

たとえば認知症で言いますと、中等度以上になってから治す薬というのは、少なくとも今後15年は世に出ません。ですから認知症になる前の段階で改善をはかることが望まれます。多くの場合、その前の段階でフレイル(加齢による虚弱)に注意する必要があります。もちろんいろいろなプロセスがありますけど、身体が弱ってきて外出をしなくなって閉じこもり、その結果認知症が進行するという経過を辿ることもあります。フレイルが進行する前で改善できれば、未来を変えることもできるかもしれない。

フレイルの重要な予測因子として、歩行速度が挙げられます。まだ精度の問題はありますが、今はスマートフォンで、歩行速度が表示できるようになっています。これを使うことで認知症の手前の段階から、改善のアプローチをしていくことができるでしょう。

健康診断でわかることでもありますが、通常検診は1年に1回。1年の間にどんどん悪化しているかもしれない。ライフログ(人間の生活の様子をデジタルデータで記録)を活用すれば、歩行速度が落ちていった、運動できなくなっていった、睡眠の質が良くないということなどがわかり、病気になる前や症状が悪化する前のタイミングで改善のために介入していくことができます。

■バラつきのある医師の能力をサポート

医療・ヘルスケアという分野は、病気になってから治すというだけではなく、人々の健康を維持したりウェルビーイングを高めるために貢献するというように再定義して、人々の未来を一緒につくるような役割も重要な側面になるでしょう。

ある国は、プライマリードクターの役割を、地域の健康を診るということに位置づけています。その概念はものすごく素晴らしいのですが、待ち時間がすごく長くなり、現実的にはその仕組みは破綻しているようです。背中が痛いと感じて医者に診てもらうまでに、2週間。診てもらったら「整形外科に行ってください」。整形外科でちゃんと診てもらうのに、結果的に1カ月もかかってしまうというような状況です。その間に失われる命ももちろんいっぱいあるのです。

そこで、データとAIを活用する新しい医療のあり方を考えることは大事なことだと思います。生成AIに関しては、ふたつのフェイズで考える必要があると思います。現状で生成AIが即戦力となるのは、概要をつくる能力。患者さんに説明するときに、中学生の子供にわかりやすくとか、高齢者の方にわかりやすくというように、それぞれの患者さんにわかりやすい語彙でまとめる部分です。ただし正確な診断という点においては、現状まったく使いものになりません。

ただ生成AIはものすごいスピードで改善しているわけですよね。チャットGPTでも、前は嘘か本当か検証できなかったけれども、今は使い方を工夫すれば何を根拠にそういう言葉を作ったのか、引用元を提示させることができます。そういう正確性を担保した判断というところが、これから間違いなく発展していきます。

今すぐではないにせよ、いずれ生成AIが問診をサポートする、さらには代替していくようなフェイズに必ず入っていくと思います。そうなりますと、一人一人の医師の臨床能力がバラついている部分を、しっかりサポートしていくことが可能になる局面がやってくるでしょう。

■生成AIが問診を代替するフェイズがやってくれば医者格差リスク軽減

地域格差も少なくなっていくと思います。もちろん外科のような高度集約的な機能をどこでもまんべんなくできるようになるのは簡単ではありませんが、そういうものを除けばAIとデータ活用は、多くの人たちへの質の高い医療の提供と健康的な暮らしの寄与につながっていくと思います。

医師はそれぞれが、エビデンス・べースド・メディスンといって最良の根拠を基にした治療を行わないといけません。そのためにも一人一人が最新の論文を定期的に読んで自分をアップデートし、この症状の患者に対して世界中の薬の中で何が一番いいかと判断しないといけないのです。とはいえすべての論文を読むことなどできません。症状を打ち込めばおおまかな判断は高度なAIが当たりをつけてくれ、最後の決断は人間が責任を持って行うという方向にシフトしていくことも可能になるでしょう。

AIの発展で医師の役割がなくなるというよりも、これまでやっていたことの一部をAIに任せ、人間が注意力を使いながら行うべき分野が変わっていくという感じですよね。例として医師は患者さん一人一人のライフスタイルに注意を払いながら、普段どのように行動したらいいのかアドバイスをしたり、患者さんに寄り添う方向で役割を深めていくかもしれません。

■新ビジネスモデルで日本躍進の可能性も

AIを利用した医療はまだ始まったばかりですから、日本が世界をリードする可能性もあります。

現状の日本は、デジタル敗戦そのものですよね。デジタル技術を上手く生かせなかったことが「失われた30年」の大きな要因です。日本の医療界で象徴的なのは、コロナ禍においてファクスを用いて報告を行っていたこと。悪い意味で世界を驚かせてしまった。

そもそも数十年前のインフラを使い続けるのには、限界が来ています。これを一気に新しいデジタルを活用した仕組みに変えるべきタイミングだと思います。中国は10年前に国全体をデジタル化していってから躍進しましたが、日本が国全体をデジタル化する中で、新しい仕組み、世界をリードするようなものをつくっていくことは十分可能なことでしょう。

一方で高齢化が進む日本では、財政的に厳しい部分はあります。ただし公的私的なお金を使いながら医療を良くしていくということは、社会的にも承認される部分です。そこで、医療分野においてAIを使った新しい仕組みなりビジネスモデルをつくることができる可能性があると思います。

高齢化は日本だけの問題ではありません。中国は十数年遅れで日本よりも深刻な高齢化社会になっていきますし、西側諸国も同じような状況。課題先進国としての日本が、新しい市場をつくっていく機会があるわけです。これをポジティブな未来につなげられるかどうかが、非常に重要です。

プレジデントオンラインアカデミーはこちらから
動画でも学ぶ「実践! AI時代の新しい生き方」
プレジデントオンラインアカデミーでは、宮田裕章先生による「医療AIはどこまで進化しているか」のレッスンをご覧いただけます(2024年4月11日公開予定)

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月3日号)の特集「AI時代の生き方大全」の一部を再編集したものです。

----------

宮田 裕章(みやた・ひろあき)
慶応義塾大学医学部教授
1978年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。2015年より現職。専門はデータサイエンス、科学方法論。専門医制度と連携したNCD、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーのほか、厚生労働省保健医療2035策定懇談会構成員、厚生労働省データヘルス改革推進本部アドバイザリーボードメンバーなど。著書に『共鳴する未来』(河出新書)、『データ立国論』(PHP 新書)がある。

----------

(慶応義塾大学医学部教授 宮田 裕章 構成=本誌編集部)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください