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アルツハイマー病の元凶毒素アミロイドβを脳から洗い流す「眠り方」とは…寝ついてすぐ突入する時間が最重要【2023編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2024年5月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/selvanegra

2023年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年10月23日)
自律神経の中でも副交感神経を支配するのが迷走神経だ。しっかり働くと副交感神経の機能が高まり体は安らぎ心も安定し、すこやかに過ごせるという。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんは「迷走神経のはたらきぶりは、“睡眠力”で決まる。睡眠不足や睡眠の質が悪いと脳と心の障害をも引き起こし、認知症の発症リスクを上げることも指摘されている」という――。

※本稿は、小林弘幸『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■「やっぱり睡眠力は大事」と思える健康被害の数々

睡眠力の低下(※)が、健康に与える悪影響ははかりしれません。

※経済協力開発機構(OECD)の調査(21年)では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、33カ国(平均8時間28分)のなかで最下位

2023年、北海道大学大学院・先端生命科学研究院の研究チームが、北海道寿都町在住の35人の睡眠記録を精査し、睡眠不足が腸内環境にどのような影響を及ぼすか調査した結果を報告しました。これによると、睡眠時間が短い人ほど、「αディフェンシン」という物質の分泌量が減少することがわかりました。この物質が減少すると、腸内環境が大きく乱れることになります。

αディフェンシンはある腸内細菌が食物繊維をエサにして作り出した物質で、腸内に侵入した病原体を攻撃するはたらきを持っています。

これは、免疫力を高めてくれる善玉菌にも影響を与えていると言います。睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。このメラトニンは、幸せホルモン「セロトニン」を材料にしてつくられます。セロトニンの約90%が腸で作られています。つまり、腸内環境が悪化すると、メラトニンがうまく作られなくなるのです。

こうして腸内環境が乱れると、さらに睡眠力を下げるという負の連鎖に陥ります。

腸内環境だけでなく、寝不足によって血管も大きなダメージを受けます。良い睡眠がとれていないと、本来、血管を拡張させる副交感神経が機能せずに、交感神経が優位の状態になります。

■6時間以下の睡眠時間の人は28%糖尿病リスク上昇

血管が収縮して、狭くなった血管を血液が流れるわけですから、流れを良くしようと血圧を押し上げます。これが慢性的な高血圧の原因です。血圧が高くなると、血管がボロボロになり、血のかたまりである血栓ができやすくなります。その血栓が心臓でつまれば心筋梗塞に、脳にたどり着くと脳梗塞を引き起こします。血圧が高くても自覚症状はありません。高血圧が「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれるゆえんです。

さらには、糖尿病のリスクも引き上げます。6時間以下の睡眠時間の人は、6~8時間の人と比べて、28%も糖尿病リスクがあることが世界中の論文をまとめた研究により明らかになっています。

睡眠の変調は、食事や運動などほかの生活習慣を乱し、自律神経のバランスも崩します。均衡が崩れ、さまざまなホルモンの分泌をコントロールする迷走神経が機能しなくなることで、食欲やエネルギーバランスに作用する「レプチン」や「グレリン」などに影響をおよぼします。

食欲をおさえるレプチンの分泌が減り、食欲を高めるグレリンの分泌だけが増えれば、当然、肥満も促進します。

さらに、睡眠不足と肥満が重なれば、血糖値の上昇をおさえるホルモン「インスリン」の効き目が悪くなる。これが糖尿病を発症させる原因の一つです。

睡眠をおろそかにすると、迷走神経の乱れを引き起こす――。その結果、自律神経のバランスが保たれなくなり、知らず知らずのうちに重篤(じゅうとく)な病気を引き起こす「ダメージ」を蓄積しています。

脳の神経回路のイメージ
写真=iStock.com/Naeblys
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Naeblys

■睡眠不足は、脳と心の障害をも引き起こす

さらに、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が発表した「睡眠不足による精神面に与える影響についての調査」(13年)でも興味深い結果がみられています。

この実験では、健康な男性に「8時間」と「4時間」で睡眠時間を分けて調べたところ、「4時間」の人には、道徳的行動が低下していたことがわかりました。

つまり、睡眠が足りないことで、社会的な善悪の判断力などを低下させる可能性があるということです。睡眠不足は、脳のなかでもとくにネガティブな情動刺激に反応する「扁桃体(へんとうたい)」を活性化させてしまいます。「怒りの発生源」とも言われる扁桃体が強くはたらくことで、善悪の判断がつかないような横柄(おうへい)な振るまいをしてしまうかもしれません。

パワハラやカスハラ(カスタマーハラスメント)など、ハラスメントをくり返す不愉快な人は、良い睡眠ができてないことが背景にあるのかもしれません。また、睡眠不足が、うつ病を引き起こしやすくなることは広く知られています。うつ病患者の約9割に、なんらかの睡眠障害があるとも言われているくらいです。

さらに、しっかり眠れていないと認知症の発症リスクを上げることも指摘されています。

認知症の6割を占めるアルツハイマー型認知症は「アミロイドβ」というたんぱく質の「ゴミ」が原因の一つと考えられています。脳には脳脊髄(のうせきずい)液という液体が流れていて、本来、アミロイドβなどの毒素は洗い流されていきます。そして、驚くべきことに、睡眠中のその排出速度は、起きているときの2倍以上と言われています。

ちなみに、脳のゴミを排出するスピードがアップするのは、寝ているときのなかでも「ノンレム睡眠」の間です。ここで「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」について少し解説しておきましょう。

レム睡眠とは、浅い眠りで、体は眠っていますが、脳は活発に動いている状態。眼球もキョロキョロ動いているし、夢もみます。

わかりやすく言うと、レム睡眠は、「体の緊張をとるための眠り」です。一方、ノンレム睡眠は深い眠りのこと。しっかり脳が休んでいる状態で、眼球も動きませんし、夢もみないとされています。

小林弘幸『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(フォレスト出版)
小林弘幸『自律神経のなかで最も大切な迷走神経の整え方』(フォレスト出版)

言わば、ノンレム睡眠は「脳を休ませる眠り」です。睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠を1セット(約90分)にして4~5回くり返していますが、眠りに入ると、まずノンレム睡眠から始まります。

この最初に訪れるノンレム睡眠が、一晩のなかでもっとも眠りが深くなる時間です。その後、ノンレム睡眠とレム睡眠をくり返しながら、徐々に眠りが浅くなり朝を迎えます。

睡眠中は、迷走神経(※)を含む副交感神経が優位になりますが、正確には、ノンレム睡眠のときと考えて良いでしょう。レム睡眠では、血圧や心拍数、呼吸など、大きく変動するほど交感神経もしっかりはたらいています。

※迷走神経は自律神経のなかでも、副交感神経を支配する重要な神経。体中を巡っており、脳からの指令を臓器に伝え、内臓の状態を脳に伝える役割。しっかりはたらくと副交感神経の機能が高まり、体は安らぎ、心は安定。すこやかに過ごすことができる。

迷走神経を整えるためには、寝ついてすぐに突入するいちばん深い眠りを活用したいものです。

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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。

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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)

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