三流上司は「もっと訪問数を増やせ」、二流は「5件増やせ」、では一流上司は…頭のいい人の"数字"の使い方
プレジデントオンライン / 2024年5月9日 15時15分
※本稿は、斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「数字」への畏怖と憧れが計算力を強くする
瞬時に複雑な暗算をして、会議中も鋭い指摘を連発する先輩。ツールを使いこなして売上や業績を分析し、魅力的な企画や経営戦略を立てる同僚。
チームの意見を取りまとめて、具体的な数値目標や方針をすぐに決定する上司。
数字を使って仕事をしている人たちを見ていると、
「仕事ができて羨ましい」
「なぜ、あんなにも速く計算できるのだろう?」
そう思うことはないでしょうか。
ビジネスとは、数字を追いかけることの連続です。目標売上○○億円、目標利益○千万円を目指す、固定費の○○%削減を目指すなど、現場では常に多くの数字が飛び交っています。
これらの数字を自在に操り、瞬時に解決へ導く能力こそが「計算力」。仕事ができるビジネスパーソンの多くは、この計算力を使いこなしているものです。
■数字はあいまいさを具体化できる
計算力を使えるようになれば、売上や業績、受注件数を瞬時に計算して考えることで、自社の利益を客観的な数字として捉えることができます。
たとえば、高い計算力を持つ「すごい上司」がいるチームでは、ビジネス現場でよく耳にする「もっと訪問件数を増やせ」「もっと頑張れ」「最近、どうも顧客の反応が鈍いから、なんとかしろ」といったあいまいな指示が下ることもありません。
このような指示は、一見それらしいことを言っているように感じますが、実際には何も言っていないのと同じです。
訪問件数をもっと増やせという「もっと」とは、具体的に何件なのか。もしそれが1日5件だとしたら、なぜ5件なのか。そこまで計算して具体的な数字で語ることで、現場は動き出せるのです。
数字に強い上司なら、そのあいまいさを数字に落とし込んで、「今月は目標まで○○万円足りていないから、最低でも○件受注を増やす必要がある。だから、訪問件数をあと5件増やそう」
というように、誰もが理解できる共通言語に変換することができます。
■セールストークに説得力を持たせられる
数字に敏感な部下がいれば、「そもそも、訪問件数を増やせば本当に売上は上がるのか」という疑問が提示されることもあるかもしれません。
計算力の高い人が集まれば、数字を使って有意義な議論を進められます。計算の結果、「訪問件数を5件増やす」ことが売上増加に効果的だとわかれば、納得感を持って仕事を進めることもできますね。
また計算力の使い方を知っている人は、自分の話に説得力を持たせることもできます。
たとえば、次のようなセールストークではどちらのほうが導入したいと思えるでしょうか。
A社
弊社の最新コピー機に交換していただければ、コストをぐっと削減できてお得です。大容量トナーを採用しているので、今のように頻繁に交換する必要もないんですよ
B社
弊社の最新コピー機に交換していただければ、現在使用しているものと比べて○○万円削減できます。大容量トナーを採用しているので、毎日○枚印刷する場合でも○カ月に1度の交換で済むんですよ■“元・数学苦手族”でも最前線で活躍できる
A社のセールストークでもコピー機を交換するメリットは伝わりますが、具体的なイメージを掴みやすいのは明らかにB社です。それにB社の営業であれば、今後質問したいことが出てきたときも、数字を使って詳しく教えてくれそうな安心感があります。
実際にはコピー機本体の価格や予算を考慮する必要がありますが、仮にA社とB社の商品価格が同じくらいであった場合、多くの人がB社と契約したいと思うのではないでしょうか。
このように、計算力を応用して話せるようになると、話に具体性が生まれ、信頼を獲得しやすくなります。「仕事ができる人」と思われる機会も増え、重要な場面でも意見を通しやすくなるのです。
一方で、数字に苦手意識があると、このような話を聞いても
「それは元々頭の回転が速くて要領がいいからだ」
「学生時代から数学が得意で、成績もよかったに違いない」
「文系人間で勉強も苦手だったから、同じようにはいかない」
と思ってしまう人もいるでしょう。
しかし、諦める必要はありません。現実には高い計算力を発揮して、ビジネス現場の最前線で活躍している“元・数学苦手族”も大勢います。計算力が高いかどうかは、決して学生時代の成績や得意科目で決まるものではないのです。
■無意識に使っている「計算力」
計算の得意不得意に個人差があるとしても、ほとんどの社会人はすでに「計算力」を身につけています。
なぜなら、私たちは日常生活の中で当たり前に計算を行っているからです。
たとえば、出張や帰省で地方に行っていた社員が、お土産にお菓子やミカンを持ってきてくれたとしましょう。上司から「みんなに配っておいて」と言われたらどうしますか?
ほとんどの社会人が、計算しなきゃと意識することなく、
「24個入りか。うちの部署は12人だから、1人2個ずつ配れるな」
「○○さん、実家がミカン農家って言ってたもんな。数は中途半端だけど、ちょっと大きいミカンを2個分と考えれば、全員に3個ずつ行き渡りそうだ」
などと頭の中で考えて、部署の人たちに配りにいくはずです。
取引先に手土産を持っていく場合も同じでしょう。お世話になっている人や会議に参加する人数を考えて、なるべく全員に平等に行き渡る量のお菓子を購入するはずです。
そして、会社を訪問するときには、あらかじめ電車の時間や駅からの距離を調べて、約束の5~10分前ぐらいに着くよう逆算して向かう。もはや社会人の常識と言われるくらい当たり前のことですが、これこそが「計算力」なのです。
■普段の自炊で無意識に考えるクセがついている
また、計算力はプライベートでも活かされています。
たとえば、普段から自炊をする人の中には、「この商品は普段よりいくら安いのか」を考えながら買い物をしている人もいるでしょう。なるべく食費を抑えようと思ったら、パッケージに書かれている100g当たりの価格を確認して、少しでもお得なものを選ぶはずです。
夕食を作る際も、「3分の1くらい残った人参があるから、これと今日買った食材を組み合わせよう。大根は2分の1残して明日の夕食に使おう」など、冷蔵庫の中身や翌日のことを考えながら料理する人が多いのではないでしょうか。
手慣れた人なら、「今ご飯を3合炊いたら、今日の夜と明日の朝の分を除いて2合ぐらいは余るはず。4食分は冷凍できるな」と無意識のうちに考えるクセがついているかもしれません。
■計算力は「先読み」の力
仮に料理をしなかったとしても、家を借りるときに「家賃は相場と比較してどうなのか」を考えたり、自動車を購入する際に「何年ローンなら組めそうなのか」を検討したりと、日常のあらゆる場面で計算は登場します。
計算力とは、ほとんどの社会人がすでに身につけている能力であり、この社会で生きていく上で欠かすことのできないものなのです。
もしかすると、「そんな算数レベルの計算の話じゃないんだ」
と思う人がいるかもしれません。「知りたいのは生活の知恵ではなく、仕事で使える計算テクニックだ」という意見もあるでしょう。
しかし、これらの計算を速くできることが「計算力のある人」や「仕事ができるすごい人」と思われる第一歩。計算力を高めるためのコツもまた、小学校で習う「足す」「引く」「掛ける」「割る」の四則演算にあったりするのです。
それに、計算の意味を『広辞苑』で調べてみると、次のように定義されています。
①はかりかぞえること。勘定。また、見積り。考慮。
②演算をして結果を求め出すこと。
これを見ると、計算という言葉が「数学的な方法で答えを導く」というニュアンスだけで使われるものではないとわかります。数字を見て考えることも、また計算。むしろ、これこそが計算力の本質であるとも言えるのです。
■瞬間的に考えられ、それが習慣になっているか
先ほどの例に戻りましょう。
お気づきかもしれませんが、私たちが普段何気なく行っている思考プロセスは、「計算」そのものです。
スーパーに買い物へ行く。今日や明日の自分が困らないために、お米を一度にいつもの倍炊く。こういったアクションを起こすには、はじめに考えるプロセスが必要になります。
何も考えずにいたら、今買う必要のない商品を大量に買ってしまったり、お米も炊きすぎて消費しきれず捨てるしかなくなってしまう、といったことになりかねません。計算力がないと、さまざまな場面で損をしてしまうのです。
しかし、不要なものを手当たり次第に購入したり1人暮らしなのに理由もなく10合もお米を炊いてしまったりする人は、現実にはほとんどいないでしょう。
なぜなら、何度も述べているように、すでに多くの社会人が計算力を身につけているからです。
「仕事ができる人」になるには、もともと持っている計算力を高めていけばよいのです。
肝心なのは、「瞬間的に考えられるか?」「それが習慣になっているか?」ということです。数字や事実を目の前にした瞬間に、脳ミソをフル回転させる。これが自然にできるようになると、計算力は上がっていきます。
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経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。
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(経営コンサルタント 斎藤 広達)
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