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指示待ちならまだマシ…「指示通りにすらできない新人」を大量につくり出してしまう上司の2パターン

プレジデントオンライン / 2024年5月7日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

部下が「指示通り」に仕事を進めてくれない。一体なぜなのか。農業研究者で『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』の著書がある篠原信さんは「部下は『指示通りにやっているか』を見てくる監視の目が怖いのだろう。手元の作業よりも上司の視線や顔色ばかりに意識が集中し、どうすればよいのかを考える余裕を失っているのだ」という――。

■失敗すると「すみません!」とパニックになる新人

最近、「指示待ち人間はまだいい、指示通りにさえできない人間が多くて困る」という声を聞くようになった。指示通りにできない人間はその人間の責任であって、上司の責任ではない、と考えての発言なのかな、と思う。もちろん、その通りのケースもあるだろう。けれど、「指示通りにできない人間」を、上司が作ってしまっているケースが少なくないのではないか、という気がしている。

私の職場に来たばかりの新人で、失敗したら「ああ! すみません! どうしよう!」とパニックになってしまう人がいた。もしこのパニックをそのままにして私が次々に指示を出したり「ここはこうするってさっき教えたでしょ!」と厳しめの言葉で教えたりしたら、恐らくその人は「指示通りにできない人間」になってしまうだろう。私の指示も耳に入らないくらいにパニックになってしまうからだ。

■上司の視線が気になって失敗してしまう

私自身も経験があるけれど、上司にジ~ッと作業を見つめられると、手元の作業よりも上司の視線の方が気になってしまう。そのため、手元がおろそかになり、失敗してしまう。すると上司からすかさず「そうじゃない! さっき教えただろ! こうだよ、こう!」と、厳しい叱責がくる。

そうなると、「どうしよう、叱られた、どうしよう、もう叱られたくない」という強迫観念で頭がいっぱいになり、手元の作業ではなく上司の視線にますます意識がフォーカスしてしまう。指示内容も手元の作業もみんな頭に入らなくなり、上司の視線にばかり意識が集中して、もはや自分が何をやっているのかもわからなくなってしまう。これが「指示通りにできない人間」の状態のように思う。何を隠そう、中学生くらいまでの私がこれだった。

私の父は「カンテキ」というあだ名がつけられるほど、短気だった。短気なうえに指示があいまいだから、いったい何をしろと言われたのかわからない。で、一応言葉の字面通りの作業にとりかかったら「ちがーう!」という怒鳴り声が来て、パニック。「こうしろって言ったろ!」というその指示もあいまいで、一応言われた通りにしてみても「ちがーう!」。もう、頭真っ白。

■指示を無視したら、父が満足する結果になった

中学生になり、私は反抗期に入った。それもあってか、父から「あれをこうしとけ」という、いつものあいまいな指示が来た時、いったん父の指示の言葉を無視した。で、目の前の現象をよく観察し、「これ、こうなっているのか。となると、多分これが問題なんだな。これを解決するには、こうしたらよさそうだな」と、やるべきこと、手順を観察したことから自分で考え、父の指示をあえて無視してやってみると「お、お前も察しがよくなったじゃないか」と父もご満悦。

内心、「なんや! 指示通りしたら叱られて、指示を無視して目の前の現象をよく観察して、自分で考えたほうがいいんかーい!」と、衝撃の発見をした。以後、私は、出された指示をいったん忘れて、目の前の現象をよく観察し、何が問題なのか、それを解決するにはどうしたらいいのかを自分で考え、最後にもう一度指示の言葉を思い出すようにした。「なんだ、こんな指示の出し方じゃこんな風に誤解しかねないのになあ」と内心ブツクサ文句言いながら実行すると、指示した側はご満悦、という体験が増えた。

二人の頭部に電球と歯車のイメージ
写真=iStock.com/Feodora Chiosea
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Feodora Chiosea

■教え方が細かすぎると今度は頭に入らない

「指示通りにできない人間」になってしまう体験として、もう一つのパターンがある。短気すぎて事細かに教えるのが大嫌いな父とは正反対に、微に入り細に入り、隅々まで教えようとしてくれる人がいる。ところがそれらの指示や教えてくれた情報量が多すぎて受けとめきれない。キャパオーバー。頭から煙が出てしまう。でも教える側は「あ、これはね、こうするとこうなってしまうことがあるから気を付けてね。ちなみになぜそうなるかというと……」と果てしなく情報を提供してくれる。

しかし私は、それに取り組むのが初めて。そもそもこれが何なのか、見当もつかない。見当もつかないものを説明されても頭に入ってこない。親切心で教えてくれているのだけど、ほとんどの言葉が素通りしてしまう。

で、とりあえずやってみるけれど、「さっき教えたでしょ! ちゃんと話を聞いて!」と叱られる。いや、聞くにしても情報量が膨大すぎて全部こぼれ落ちちゃうんですけど? と文句を言いたいけれど、教えた側は「教えたのにちっとも覚えない」と不満顔なので、それで文句言うとさらに怒りそう。で、黙るしかない。でも、やはり指示通りになんかできやしない。

■「手元の作業に集中させるゆとりを与えない」のが共通点

この手の「『指示通りにできない人間』製造機」に出会ってしまったとき、私は次のように克服した。「すみません、情報が多すぎて覚えきれないんで、私が質問したことだけシンプルに教えて頂けますか?」と頼んで、目の前の現象を観察し、疑問に思ったことを質問することにした。「これはどうするんですか?」と訊く。すると「あ、それはね、こうするんだけど、そうしない場合はどうなるかというと……」と、また果てしなく言葉がドバーッと来るので制止して、「すみません、一つ一つお尋ねするので、答えは一つだけで」とお願いし、自分が観察して疑問に思ったことに答えてもらうことで、仕組みを理解するように努めた。

「『指示通りにできない人間』製造機」には、上記のように、ろくに指示を出さずに厳しく接するタイプ、指示を事細かに大量に出して相手をパンクさせてしまうタイプ、の2種類があるように思う。そしてこの2種類に共通しているのが、「手元の作業に集中させるゆとりを与えない」ことだ。

■指示通りできない人は「監視の目」を恐れている

指示が多いか少ないかが問題なのではなく、自分の出した指示通りにやっているかどうかを見てくる「監視の目」が怖いのだろう。その目が、視線が、言葉が怖いから、手元の作業よりも、上司の視線や顔色ばかりに意識がフォーカスし、目の前の現象を観察するゆとりを失い、どうすればよいのかを考える余裕も失い、パニックになってしまうのだろう。

手に虫眼鏡をもちスーツを着た男
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

私自身が「指示通りできない人間」だったので、どう指導したらそうならずに済むのか、考えるようになった。いろいろ試行錯誤した結果、最も有効なのは「私が見ている間は安心して失敗してください。むしろ失敗を楽しんでください。私は失敗が大好きなので」と伝えることだった。

仕事を始めたばかりの新人には、危険のない、失敗しても差し支えない作業を選び、一度教えれば頭に入る程度の指示に絞って作業してもらう。そしてあえて教えない部分を残して、わざと失敗するように誘導する。すると案の定、失敗してくれる。

■失敗を使って問いを重ねると理解が進む

その時、私は「せっかく失敗したのだから、一緒に何が起きたのか、観察して楽しみましょう」と呼び掛ける。「ここはどうなっていますか?」と問いかけると、新人さんは見た通り「こうなっています」と答えてくれる。私は「おお、そうですね!」と嬉しそうに返事をする。何か見当違いのことを言っても否定せず、能動的に答えてくれたこと自体に驚き、喜ぶようにすると、相手も安心して発言するようになってくれる。

篠原信『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』(文響社)
篠原信『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』(文響社)

そして「ではここは?」「なぜこうなったのか、仮説を立てられます?」などと、問いを重ねる。問われると、新人さんは見た通りに答えてくれる。問いかける際に「ここはこういう仕組みになっているんですけど、だとしたら、ここをこうしたらどうなると思います?」と、情報を加えながら問いかけると、不思議なもので、「答える」という能動性があるからか、こちらの提供した情報を頭に入れたうえで答えてくれる。

こうして問いを重ねると、目の前の「失敗」と呼ばれている現象について、いったい何が起きて、それはなぜ起きて、どうすれば解決するのか、という仮説まで思い浮かぶようになる。その上で「ではどうしたらいいと思います?」と最後に問うと、これまでの観察から十分な情報を得ているから、「こうしたらいいと思います」と妥当な答えを返してくれる。「では、やってみてください」というと、十分な理解の上で作業を進められる。

■指示通りに動けて、自分の頭で考えて行動できるようになる

面白いことに、こうした「失敗の観察」を少し繰り返すだけで、以後、失敗してもパニックにならなくなる。失敗した時は何が起きたのか観察し、そこからとれるだけの情報を取得し、どんな仕組みなのかを推測し、どうすれば結果が改善するのか仮説を立てればいいのだ、ということが体感できるかららしい。このように、目の前の現象を観察する癖がつくと、こちらの指示が少々あいまいでも自分で観察して情報を補い、処理できるようになる。指示通りに動けて、「自分の頭で考えて行動する」。

1、2週間も指導をすると、「失敗を恐怖し、パニックに陥る」という症状からのリハビリが終わり、以後、自分で考えて行動してくれるスタッフに育つ。私の指示が曖昧過ぎて、どちらの意味か分からない場合も、「篠原さん、この作業はこの場合とあの場合の二通り考えられ、恐らくこっちだと思いますが、それでよかったでしょうか?」と訊いてくれる。私は「よく気がついてくれました、その通りです」と驚かされることがしばしば。

■上司も一緒に「失敗を楽しむ」体験をするといい

大切なことは、恐怖のあまりに上司の視線や言葉に囚われてしまう状態を作り出さないこと、失敗を恐怖し過ぎないことだろう。それを実現するためには、むしろ「失敗を楽しむ」くらいの体験をしてもらったほうがいい。そして「楽しむ」際には、一緒に観察を楽しむこと。観察を促すために、上司が問いを発し、スタッフがそれに答える。目の前の現象をよく観察すれば何をなすべきかが見えてくるのだ、という体験をしてもらう。そうすると、「指示通りにできない人間」や「指示待ち人間」をさらに飛び越えて、「自分の頭で考えて行動できる人間」に育つように思う。

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篠原 信(しのはら・まこと)
農業研究者
学生時代に塾を主宰。不登校や学習困難児などを指導。部下指導や子育てについてツイッターでつぶやく。著書に『自分の頭で考えて動く部下の育て方』(文響社)『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法』(朝日新聞出版)『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』(実務教育出版)『思考の枠を超える』(日本実業出版社)、『そのとき、日本は何人養える?』(家の光協会)、『世界をアップデートする方法』(集英社インターナショナル)。

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(農業研究者 篠原 信)

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