夫婦で「一日中、何をするのも一緒」はムリ…子が巣立った中高年の夫婦の家の中心に設置すべき家具の種類
プレジデントオンライン / 2024年5月18日 15時15分
※本稿は、水越美枝子『40代からの住まいリセット術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■タイ生活で得た自宅設計の3つのポイント
バンコクから帰国後、私は友人とともに、住宅の設計を中心に手がける設計事務所を設立しました。
そして、その2年後に自宅の設計をすることになりました。
自分の家を設計するときには、自分なりの「居心地のよい住まい」を実現させるために、「働く主婦」という生活者としての目線と、タイで得た生活しやすい住まいのポイントをもとに、以下の3つをコンセプトに据(す)えました。
②いつ、だれが来ても「大丈夫!」と言える家
③ダイニング・テーブルが中心となる住まい
●時間効率がよい家
共働きの家庭では、子どもが小さいころはとくに、時間に追われます。掃除や整理整頓に明け暮れているようでは、仕事と家事だけで手一杯。とても家族とじっくり向き合う時間などとれません。
私は、この問題を動線と収納の見直しで一気に解決して、時間効率のよい家を実現しようとしました。
いつも片付いていて家事効率がよい状態であれば、ゆとりも生まれるだろうと思ったのです。そして、「洗面所というリセット・ポイント」を中心に、設計することにしました。
■死角を利用して見せたくないものをしまう
●いつ、だれが来ても「大丈夫!」と言える家
仕事柄、クライアントにイメージをつかんでもらうために、ときには自宅でも打ち合わせをします。また、建築やインテリアの雑誌の取材者など来客も多く、そのままついでに打ち合わせをすることもあります。
このような仕事上の必要性もあって「いつ、だれが来ても大丈夫な家」にしたかったのですが、それを可能にするために、私は、フォーカル・ポイントを利用して、積極的に見せる場所と、死角を利用して見せたくないものをしまう場所を、間取りに反映させました。
じつは、これが家族にとっての住み心地のよさを手に入れる鍵にもなりました。
すなわち、いつ来客があってもいいように、「日常的に見た目をよくする意識」を持つことで、住まいの機能性と精神的満足を両立することができたのです。
●ダイニング・テーブルが中心となる住まい
当時は、夫も私も仕事が忙しい時期でした。まだ小さかった子どもたちの食事も、勉強も、そして家族の会話も、ぜんぶダイニング・テーブルで行えるようなリビング・ダイニングなら、一緒に過ごせる短い時間を有意義に使えるのではないかと思い、そこを家の「中心」にしようと思いました。
「場」をきちんと設ければ、そこにいる時間が増えます。するとおのずとコミュニケーションも活発になります。
小学生だった子どもたちが高校生、大学生、社会人になり、コミュニケーションのありかたは変わっていきましたが、ダイニング・テーブルはその間、家族がともに過ごす場として立派に活躍してくれました。
■住まいが支える家族のつながり
私は、自宅の設計で得た効果をクライアントにも実感してもらいたいとの思いから、提案する設計のなかにこれらの要素を盛り込んでいます。
たとえば、小さな子どもがいるクライアントには、ダイニング・テーブル中心の住まいを提案するという具合です。
しかし最近では、中高年にこそ、「ダイニング・テーブルが中心の住まい」をすすめたいと考えるようになりました。
子どもたちが独立し、夫婦ふたりだけの暮らしがやってきたとき、家族のコミュニケーションのありかたは変わります。
子どもを介してなんとなくつながっていたお互いの存在を、改めて見つめ直すようになるでしょう。そのとき、家族が集まる場だったリビング・ダイニングのリセットが必要になります。
これまでのリビング・ダイニングは、子どもを中心に一家が集まり、にぎやかな場所だったかもしれません。そして昼間の時間は、妻だけの砦(とりで)だったかもしれません。
そこがこれから先、ふたりで多くの時間を過ごす場所となるのですから、新たな使いかたに合わせて変えたほうがよいと思うのです。
新婚当時に戻ったように、「一日中、何をするのも一緒」という夫婦は、実際のところ、そう多くはないでしょう。
■中高年のカップルにとって理想的な関係性
私がおすすめするのは、もっとあっさりしたプラン。
たとえて言うなら、小さなテーブルで、ふたりが面と向き合って、互いの目を覗(のぞ)き込んでいるのではなく、大きなテーブルのはす向かいにいて、それぞれが本を読んだり、アルバムを整理したり、思い思いのことをしているイメージです。
同じ空間を共有し、お互いの気配は感じているけれど、パートナーがやりたいことを尊重する「つかず離れずの関係」。これが中高年のカップルにとって現実的であり、ひとつの理想ではないかと思うのです。
家族のコミュニケーションのとりかたも時の流れで変わるということを、頭の片隅にとどめておいてください。
同様に、そこに住まう人の構成も年齢も、それにともなって体力も、年々変わっていきます。
とはいえ、家は一生に一度か二度の大きな買いものです。古くなったから、合わなくなったからといって、洋服や靴を買い替えるようなわけにはいきません。
いっぽうで家族の歴史が積み上げられてきた家には愛着もあります。住み慣れた愛着のある家を、工夫を凝(こ)らして、自分仕様にカスタマイズしていくというのも、住まいを楽しむひとつの方法です。
■住まいが「とりあえずでいい」は大間違い
仕事や趣味ではなかなか妥協しないのに、人生の大部分を過ごす住まいだけは「とりあえず」のままというのは、どこかおかしなバランスです。
ぜひみなさんにも、「居心地のよい住まい」の暮らしを味わっていただきたいと思います。
さあ、住まいのリセットを始めましょう。
もちろん、リフォームや建て替えをしないと解決できない構造上の問題もありますが、小さな改善策を積み重ねて「住み心地のよさ」を手に入れる方法は、たくさんあります。
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一級建築士
日本女子大学非常勤講師、NHK文化センター講師。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年からバンコクに渡り、住宅設計のかたわら「住まいのインテリア講座」を開催、ジムトンプソン・ハウスのボランティアガイドも務める。帰国後、1998年一級建築士事務所アトリエ・サラを共同主宰。主に住宅設計(新築・リフォーム)の分野で建築デザインからインテリアコーディネート、収納計画まで、人生を豊かに自分らしく生きる「人が主役の住まい」づくりを提案。著書に『がまんしない家』(NHK出版)、『増補改訂版 いつまでも美しく暮らす住まいのルール』『一生、片づく家になる!』(以上、エクスナレッジ)、『理想の暮らしをかなえる50代からのリフォーム』(大和書房)など多数。
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(一級建築士 水越 美枝子)
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