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「史上最大の節税」はこうして実現した…「1300億円以上の課税」を合法的に逃れた「武富士一族」という国税庁の悪夢

プレジデントオンライン / 2024年8月23日 8時15分

住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていなかった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

サラリーマンは税金を逃れられないが、富裕層・資産家の中には節税スキームを駆使する人もいる。元国税調査官の大村大次郎さんの書籍『脱税の日本史』(宝島社)より、武富士創業者一族による「史上最大の節税スキーム」についての解説をお届けする――。(第3回)

■竹中平蔵氏の「住民税脱税疑惑」

海外を使って税金を逃れるというわかりやすい例に、竹中平蔵氏の住民税脱税疑惑があります。

竹中平蔵氏は、小泉元首相から大抜擢され、日本経済の舵取りを任された人です。

彼は大学教授で経済のプロですが、自分自身の節税に関しても超絶のテクニックを持っていました。

彼がまだ民間人だったとき、法律のギリギリをついた節税をしていました。国会でも、一時問題になった住民税の脱税疑惑です。

これは究極の節税策だったのです。どういうことかと言うと、竹中平蔵氏は慶応大学教授時代に、住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていませんでした。

■アメリカでは研究、仕事は日本でしていた

住民税は、住民票を置いている市町村からかかってきます。だから、住民票を日本に置いてなければ、住民税はかかってこないのです。

本当にアメリカに移住していたのなら、問題はありません。でも、どうやらそうではなかったのです。

彼は当時、アメリカでも研究活動をしていたので、住民票をアメリカに移しても不思議ではありません。

でも、アメリカでやっていたのは研究だけであり、仕事は日本でしていました。竹中平蔵氏は当時慶応大学教授であり、実際にちゃんと教授として働いていたのです。

■所得税は日本で申告していた

竹中大臣はこの時期、所得税の申告は日本で行っています。もし竹中大臣がアメリカに居住していたということであれば、所得税も日本で申告する必要はありません。

なぜ所得税は日本で申告したのに、住民税は納めていなかったのか。

ここが竹中平蔵氏の疑惑の重大なポイントなのです。

住民税は、1月1日に住民票のある市町村に納付する仕組みになっています。1月1日に住民票がなければ、どの市町村も納税の督促をすることはありません。だから、1月1日をはさんで住民票をアメリカに移せば、住民税は逃れられるのです。

■「アメリカでの納税証明書」は提出しなかった

竹中平蔵氏は「住民税は日本では払っていないが、アメリカで払った」と主張しています。日本で払っていなくてもアメリカで払っていたのなら、ともかく筋は通ります。

それを聞いた野党は、「それならアメリカでの納税証明書を出せ」と言いました。でも竹中氏は、最後まで納税証明書を国会に提出しませんでした。

バツマークを指で作るビジネスマン
写真=iStock.com/masamasa3
「アメリカでの納税証明書」は提出しなかった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/masamasa3

住民税というのは所得税と連動しています。所得税の申告書を元にして、住民税の申告書が作成されます。

これはアメリカでも同じです。国内で所得が発生している人にだけ住民税がかかるようになっているので、アメリカで所得が発生していない竹中氏が、住民税だけを払ったとは考えにくいのです。

税制の専門家たちの中にも、竹中氏は違法に近いと主張をしている人もいます。

日本大学の名誉教授の故北野弘久氏もその一人です。北野教授は国税庁出身であり、彼の著作は、国税の現場の職員も教科書代わりに使っている税法の権威者です。左翼上がりの学者ではありません。

その北野教授が、竹中平蔵氏は黒に近いと言っているのです。

ただ、この脱税疑惑は、当時の小泉内閣の人気もあり、うやむやになってしまいました。

■武富士創業者一族の「史上最大の節税スキーム」

タックスヘイブンを使って税を逃れたケースとして、税務の世界では伝説となっている「史上最大の節税」というものがあります。

これは、武富士の創業者一族が行った節税スキームです。

武富士という会社は、創業者が一代で築き上げたものです。

かつては、東証一部上場しており、創業者が保有している株式の資産は巨額になっていました。

もちろん、創業者が株を持ったまま死亡してしまえば、遺族には莫大な相続税が課されるはずでした。

相続税を逃れるために、武富士一族はあっと驚くような節税を行ったのです。

武富士創業者一族の「史上最大の節税スキーム」
写真=共同通信社
武富士創業者一族の「史上最大の節税スキーム」(記者会見する武富士の武井保雄元社長、2001年5月8日) - 写真=共同通信社

■「タックスヘイブン」のオランダに会社を作った

そのスキームとはこうです。

武富士の創業者は、オランダに会社をつくり、自分の持っている武富士の株をそのオランダの会社に保有させました。

オランダは、ヨーロッパの中では税金が安く、また銀行の情報秘匿の伝統もあり、いわゆる「タックスヘイブン」のような国です。

オランダの会社の株は武富士の創業者が持っており、実質的に武富士の会社です。が、形式の上ではオランダの会社ということになっており、その会社の株は「海外資産」ということになっていたのです。

そして、そのオランダの会社の株を、香港に在住している息子に譲渡し、日本の贈与税を免れたのです。

■相続税だけでなく贈与税も逃れた

贈与税というのは、相続税の抜け穴を防ぐためにつくられた税金です。自分の資産を生前に家族などに贈与してしまえば、相続税は課せられなくなります。それを防ぐために、生前に贈与した場合も税金が課されるということになっているのです。

しかし、武富士一族は海外で資産譲渡を行うことにより、この贈与税を逃れたのです。

つまり、武富士一族が贈与税を逃れるスキームは、「海外の資産を海外に居住している者に譲渡すれば、贈与税はかからない」だから「資産を海外に移し、親族を海外に居住させ、海外で譲渡を行う」ということです。

■2600億円以上贈与し、贈与税1300億円以上を「無税」に

創業者氏から長男へ贈与された株式の時価は、推定2600億円以上でした。

2600億円を普通に贈与していたならば、贈与税として1300億円以上を払わなければなりません。それを無税で乗り切ったのです。

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写真=iStock.com/masamasa3
「贈与税1300億円以上」を無税で乗り切った(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/masamasa3

国税当局は、それでは腹の虫がおさまりません。実質的に日本の企業である武富士の株を自分の息子に譲渡しているのに、贈与税をかけることができないのです。

だから、国税当局は、「長男は香港に住民票を移しているが、実際は日本で生活しており香港に住民票を移したのは課税逃れのために過ぎない。実際は日本に住んでいたのだから、日本の贈与税はかかる」として追徴課税を課しました。

■逆に国税が約400億円支払った

しかし、武富士創業者一族はその処分を不服として裁判を起こしたのです。

この裁判は、最高裁まで争われ、最終的に国税は敗けてしまいました。最高裁では「当時、長男は香港に居住の実態があった」として、贈与税は課せられないという判断を下したのです。

国税は徴収していた税金を創業者一族に返還しただけではなく、税金を仮徴収していた期間の利子約400億円までを払うことになったのです。

武富士一族が利用した仕組みである、「海外の資産を海外に居住している者に譲渡すれば贈与税はかからない」というものは、法律の欠陥のようにも思われます。

実はこのとき国税当局は、この抜け穴をふさごうとしていました。平成15(2003)年の税制改正で「外国に住んでいる者に外国の資産を贈与しても、日本国籍を有するならば贈与税がかかる」ようにしたのです。

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写真=iStock.com/Algul
抜け穴をふさごうとしていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Algul

■税制改正の直前に駆け込みで実施した

しかし、武富士の創業者一族は、この税制改正の直前に駆け込み的に贈与を行ったのです。

平成15(2003)年度の改正により、「海外に5年以上居住し、日本国内に5年以上住所がない人が、海外の資産を贈与された場合は、贈与税がかからない」ということになっています。

だから、資産を譲渡される人が5年以上海外に住まなくてはなりません。

しかし、武富士一族がこの節税スキームを行ったときには、この「5年以上」という縛りがなく、ただ海外在住であればよかったのです。

そのため、このような莫大な贈与税を簡単に逃れることができたのです。

というより、武富士一族は、平成15(2003)年度の改正を見越して、その前にこの節税策を施したのでしょう。

一般庶民としては、非常に面白くない話ではあります。

ちなみに、武富士はその後、資金繰りが悪化して、会社は清算され消滅しています。

■「財団」を使った節税スキーム

昨今の金持ちの相続税逃れの手段として、「財団」をつくったり、財団に寄付をしたりすることがあります。

財団というのは、まとまった財産を元手にして、何かを行う法人のことです。つまりは、資産家などが自分のお金を拠出して団体をつくり、何かの事業を行うのです。

そう聞くと非常に素晴らしいもののように聞こえますが、実態はそうではありません。

資産家が財団をつくったり財団に寄付をすれば、税金がかかりません。財団を作れば、資産家は税金を払わずに自分の財産を他の人に移転することができるのです。

財産を自分で持っていれば、死んだ後、遺族に相続税がかかります。死ぬ前に遺族に引き渡せば贈与税がかかります。

そこで、資産家は、財産を持っていればいずれ税金で持っていかれてしまうので、財団をつくって財産をほかに移すのです。

■「財団」は闇に包まれている

「でも財団をつくったら、そのお金は社会のために使われるのだから、資産家は損をするじゃないか」

などと思う人もいるかもしれませんが、それは早計です。

大村大次郎『脱税の日本史』(宝島社)
大村大次郎『脱税の日本史』(宝島社)

財団のお金の使い道は、実は闇に包まれています。

「財団は構成員の協議で財産の使い道が決められる」というのが建前です。でも、財団の構成員は資産家の息がかかった人です。だから、財団の財産の使い道は財団を作った人の思いのままです。

第三者を財団の中に入れなくてはならないという法律もなければ、財産の運用をチェックする外部機関もないのです。

また、財団の構成員には財団から給料が払われます。資産家は合法的に財産を身内に移転することができるのです。

某有名自動車メーカーの創業者や電機メーカーの創業者など、「財団」を作っている資産家はたくさんいます。彼らは一応「いいこと」をしているかもしれませんが、彼らが税法上の大きな特典を得ていることは見逃せない事実です。

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大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官
1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。100冊以上の著書があり近著に『マスコミが報じない“公然の秘密”』(かや書房)。YouTubeで「大村大次郎チャンネル」配信中。

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(元国税調査官 大村 大次郎)

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