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ディズニーランドの"名物"はこうして生まれた…お掃除キャストが「ミッキーの絵」を地面に描き始めたワケ

プレジデントオンライン / 2024年8月10日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marvin Samuel Tolentino Pineda

なぜディズニーランドは人々から愛されているのか。元オリエンタルランド社員でソコリキ教育研究所代表の大住力さんは「ウォルト・ディズニーは『ディズニーランドは永遠に未完成』と考えていた。その発想がスタッフに共有されており、新しいサービスやおもてなしを生み出す原動力になっている」という――。

※本稿は、大住力『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

■ウォルト・ディズニーが考える「あいさつとは何か」

ウォルト・ディズニーは、コミュニケーションをとても大切にしていました。

ある人が彼に「あいさつとは何ですか?」と聞いたところ、彼は「『あいさつ』っていうのは、頭を下げ、声を出すことではなく、“気持ちを伝える”コミュニケーション」と答えたといいます。

また、ある人が彼に「仕事とは何ですか?」と聞くと、彼は「『仕事』っていうのは、相手の気持ちをどう動かし、どう行動を変えるかというコミュニケーション」と言ったそうです。

彼にとってコミュニケーションとは、単に「話す」や「互いに理解する」ことではなく、それを超えて相手の心を動かし、相手の行動を変えるエネルギーそのものなのです。

今、世の中のコミュニケーションの在り方は大きく変わってきています。紙の資料から、データで情報を共有するようになった職場も多いでしょう。また、メール以外の、チャット、SNSなどの手段で連絡をとるようにもなりました。

しかし時代が変わっても、ウォルト・ディズニーが大事にしていたFace to Faceのコミュニケーションは必要だと私は考えています。

ウォルトディズニーの像
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wirestock

■ディズニーの会話の基本は「聞く」ことにある

ディズニーには、そもそもコミュニケーションの基本は話すことより聞くことという考え方があります。メンバーと信頼関係を築くためには、「聞く」に重点を置き、会話をストロークにしていくのがポイントです。

ストロークとは、相手の話を軸に話を展開して、会話を増やしていく方法です。相手を話の中心に置き、相手が自分でアクションを起こせるようにしていきます。

ストロークの会話には多少慣れが必要です。次の5ステップを繰り返してコツをつかんでください。ここでは、メンバーが自分から話をしてきた場合の会話の展開法を説明します。(図表1)

【ステップ1】話したいことをすべて話させる
相手が話を始めたときは、相手の目に視線を合わせ、途中で口を出さずに、うなずきながら聞きます。はじめは、話したいことをすべて話してもらいます。
声に出して相づちを打ってもらったほうが話しやすい人もいるので、そこは相手を見ながら変えていきましょう。

【ステップ2】相手の話にリアクションをする
相手の話を一通り聞き終えたところで、こちらも「そうなんですね」「初めて聞きました」などと言葉を返します。ここでは、相手の話を否定も肯定もせず、相手の言葉を真摯に受け止めます。

【ステップ3】相手の言いたそうなことを言葉にして返す
話の中から相手の言いたいことを予測し、「あなたは**したいのですね」とこちらが言葉にして伝えます。
これで共感の気持ちが相手に伝わり、相手は「自分の話をちゃんと聞いてくれた」ということを認識します。こちらの解釈が間違っていた場合は、事実や気持ちを確認していきます。

【ステップ4】「次の行動」を具体化する
相手に話をさせて、思いやアイデアを引き出すだけでは仕事は進みません。次は、相手の視点を未来の方向に変え、具体的な行動ができるように導いていきます。
たとえば、メンバーからの提案に対しては、リーダーが「あなたの結論としては、新しい業界にも営業の販路を広げたいということですね?」と確認しながら、そこから1つひとつ、「今メンバーができること」を言葉にしていきます。

【ステップ5】相手の行動を褒めて終わる
最後は「このアクションでどんな結果が出るかはわかりませんが、やってみる価値は大きいと思います。主体的な意見をありがとう」のように、相手の仕事ぶりや考え方、行動力を具体的に褒め、応援する姿勢を見せて会話を終わります。

【図表1】「ストローク会話法」の会話例
『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』より

■アドバイスはお客の目線にたっているのか

メンバーへのアドバイスは、ゲスト目線や相手の視点を心がけましょう。

ただ、ていねいにアドバイスをしても、それがメンバーに腹落ちしていなければ、アドバイス通りには動いてくれません。前向きに返事をしていたとしても、実際に動けていなければ、リーダーのアドバイスは伝わっていないということ。

では、どんなアドバイスをすれば、相手が自然と動けるようになるのでしょう。コミュニケーションにおける大切なポイントは、ゲスト(お客様)の視点に立てるエピソードや自分が体験したエピソードをもとにアドバイスをすることです。

理屈を話しただけでは、自分の身近な問題としてとらえられないものです。エピソードをまじえて伝えると、場面がリアルに浮かび、メンバーの心に強く残ります。

私がディズニーランドのショップで働いていたとき、ゲストが店に入って一番に目につくところに、ミッキーマウスとミニーマウスの半円形の800円ほどのポーチが置かれていました。けっして高価でも、豪華でもなく、正直イケてない商品でした。

ゲストはこの商品を手に取るのですが、実際に購入する人はほとんどいません。さらにキャストが商品をきれいに並べ直さなければならないので、手間もかかりました。

そのときの私は「ゲストが店に入って一番に目につくところには、一番売れる商品を置くのがいい。そうすればゲストも喜ぶし、店の売上も上がって、みんなハッピーになる」と考えていたので、一番人気がある1600円ほどの光り輝くディズニーグッズに置き換えました。

当然、よく売れ、店の売上、ゲストの満足度も上がったように思えました。

ウォルト・ディズニー・スタジオの入り口
写真=iStock.com/Razvan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Razvan

■一番売れるグッズよりも「ミッキーマウス」が大事なワケ

ところが、リーダーがその結果を見て、私に言ったのです。「あなたは仕事がわかっていないね」と。

さらにこう言いました。「あなたはディズニーランドが自分の職場だから、毎日当たり前にここに来ている。けれど、来園されるゲストは、半年前、1年前から計画を立てて、ずっと前から楽しみにして、ここに来ているんじゃないか? そういうゲストが、店に入って最初に見たい、感じたいものは何だと思う?」と。

リーダーのこの言葉には衝撃を受けました。自分がディズニーランドを訪れるまでのゲストの生活を、リアルに想像できていないことに気づかされたからです。

ミッキーマウスとミニーマウスは、ディズニーのスター。もともと置いていたポーチは、ディズニーランドを象徴するような商品です。リーダーは私に言いました。

「この商品を店頭に置くことで、来店してくださるゲスト1人ひとりに、あなたに代わって『ディズニーランドによく来てくれたね』とあいさつをしてくれているんだよ。ゲストはまず、その気持ちが一番ほしいんだよ。商品はその次なんだ」と。

グッズの1つひとつにメッセージがある。ただ売れればいいという考えで店作りをしてはいけない。ゲストの本心をもとに、サービスをしなければならないと思った出来事でした。

■掃除スタッフの「ミッキーアート」はどうやって生まれたのか

ディズニーでは、「WHY?(常に現状を疑え)」という問いかけの言葉が本当によく使われます。この根本にあるのは、ウォルト・ディズニーの「ディズニーランドは永遠に未完成」という考えです。「仕事は永遠に100%完成することはない」ということなのです。

この考え方がきっかけで、組織改革がおこなわれたり、新しい商品や新しいサービスが誕生したりすることもよくありました。

ディズニーのパークでは、掃除を担当するスタッフを「カストーディアルキャスト」と呼びます。

このキャストが、地面に溜まった雨水を絵具代わりに、ほうきを筆代わりにして、ディズニーキャラクターの絵を地面に描く「カストーディアルアート」は、今ではパークの名物です。

このアート活動のきっかけになったのが、秋によくおこなわれていた落ち葉の掃除でした。パーク内の落ち葉を効率良く掃除する方法は、マニュアルに記載されています。

柄の長いブラシを使い、外側から内側へ、自分自身が左回りに円を描くように動きながら、落ち葉を集めていくのです。この方法で落ち葉を集めると、落ち葉の山が3つできます。

ある日、キャストたちの間で「あれ? これミッキーの顔と2つの耳に見えない? なぜ、今まで気づかなかったんだろう?」という話になりました。3つの落ち葉の山が、ミッキーマウスの顔の形に見えたのです。

そこで、お客様に“落ち葉のミッキー”を見せたところ、とても喜ばれました。キャストの「なぜ、お客様がハッピーになるちょっとしたことをしていなかったんだろう?」という話から、やがてカストーディアルキャストが地面に描く“アート”へと発展していったのです。

■「ディズニーランドは永遠に未完成」から学べること

掃除をしながらお客様にアートを見せるのは、働く側にとっては手間のかかることです。

でも、ディズニーには「仕事は永遠に未完成だから、もっと完成に近づけよう、そのためにまだできることがある」という考え方が組織に浸透しており、お客様に喜んでもらえる場があります。

大住力『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』(あさ出版)
大住力『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』(あさ出版)

キャストにとっては、そのひと手間は「かける価値」があることなのです。「もっと良くできないかな?」や「このままでいいの?」などの「WHY」を常に問い続けることは、慣れるまでは実に体力、気力のいることです。

しかし、1人ひとりがこうした意識で行動し、習慣化すると、これが組織の「当たり前」になり、会社のサービスのレベルが上がっていきます。そうした質の高い仕事の中にこそ、やりがいや、次につながる大きなチャンスがあるのだと私は思います。

まずは、「なぜ?」「もっとできるんじゃない?」というメンバーのアイデアから始まる行動をリーダーがうながし、実践できる職場にしていってほしいと思います。

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大住 力(おおすみ・りき)
ソコリキ教育研究所代表
Hope&Wish公益社団法人 難病の子どもとその家族へ夢を代表。大学卒業後、株式会社オリエンタルランドに入社。約20年間、人材教育、東京ディズニーシー、イクスピアリなどのプロジェクト推進、運営、マネジメントに携わったのち退職。その後、「Hope&Wish公益社団法人 難病の子どもとその家族へ夢を」を創設。2020年に同法人は日本における「働きがいのある会社ランキング小規模部門第3位」、アジア地域における「働きがいのある会社ランキング中小企業部門第17位」を受賞。東京2020オリンピック・パラリンピックのボランティア人材育成統括も務める。これまでに業種業態を超えた行政、企業、団体に講演、人材教育指導、コンサルティングをおこなっている。『一度しかない人生を「どう生きるか」がわかる100年カレンダー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マンガでよくわかる ディズニーのすごい仕組み』(かんき出版)など、著書多数。

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(ソコリキ教育研究所代表 大住 力)

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