待合室を見るだけでわかる…医師・和田秀樹「高齢者が罹るには危険信号」の医者を見抜くシンプルな方法
プレジデントオンライン / 2024年8月11日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『どうせ死ぬんだから』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■薬の副作用は高齢者ほど出やすい
年を取れば、一人でいくつもの病気を抱えていることが多く、病気ごとにそれぞれの医者から薬を処方されるのはよくあることです。
病気そのものを治療する薬のほかに、血圧、血糖値、コレステロール値をコントロールする薬や、別に困ってもいないのに骨粗しょう症の薬を追加されてしまったりします。
「食後のデザート」なんて冗談を言いながら、あちこちの病院からもらった薬を何錠も水で流し込んでいる高齢者はどこにでもいるでしょう。
私は基本的に、安易に薬を出すべきではないと考えています。
言うまでもなく、100%安全な薬などありません。副作用がない薬などないのです。
一度に飲む薬の量や種類が多くなればなるほど、副作用の出る確率も高くなります。いろんなデータによれば、6種類以上飲むと副作用が急に増えるといわれています。
しかも薬の副作用は、若い人よりも高齢者のほうが出やすい傾向にあります。
高齢になるほど、薬を飲んだときの肝臓の代謝機能や、腎臓の濾過機能が落ちてくるので、薬が体内に残る時間が長く、飲み始めてすぐ副作用が出なくても、しばらくしてから思わぬ影響が出ることもめずらしくありません。
多剤服用による腎機能障害のリスクも高まります。
検査や薬が「出来高制」だった頃は、医療を行えば行うほど病院の利益が増える仕組みだったので、病気を治すためだけでなく、万が一に備えてとか予防のためにとかいう名目でたくさんの薬が出されていました。いわば薬の押し売りです。
ところが、点滴や投薬をいくらやっても収入が同じ入院医療の「定額制」が導入されたために、ある老人病院は検査も薬も3分の1に減らした。
その途端、点滴のしすぎや多剤服用のせいでぼんやりと寝たきりになっていた高齢者の大半が、意識もしっかりして歩けるようになったといいます。
こういう事例が日本中の老人病院で頻発したというのですから、驚くほかありません。
■薬をやめさせてくれない医師への声かけ
薬の副作用についてはほとんど話さない医者が多いのですが、疑問点は気後れせずに聞いておくべきです。ある程度聞き出しておけば、自覚症状が出てきたときにも冷静に対処できます。
うるさがるタイプの医者でも、こちらが録音したり、メモ帳に話を書き込む姿勢を見せると、多少は緊張して、かなりわかりやすく説明してくれることも多いはずです。
そして、ときには薬を捨てる勇気も必要です。
薬のなかには抗がん剤のように副作用が織り込み済みのものや、副作用が出ても飲み続けないと生命に関わる重要なものもあります。
たとえば心不全の薬、抗パーキンソン薬、重度のうつの場合の抗うつ剤などは、勝手にやめてしまうと病気が悪化することが多いでしょう。
一方で、降圧剤など体に良いとされている薬でも、飲まなかったからといっていきなり調子が悪くなることはありません。
「この薬を飲んでから調子が悪いんですけど」と訴えても、医者によっては、「それでも薬がちゃんと効いて血圧は正常になっているのだから」とやめさせてくれないことが多々あるわけですが、そこは年の功です。
「年金があまり多くないもので薬代も痛いんですよ」とか何とか、適当なことを言えばいいと思います。
■「体調が悪い感」が続く限り、免疫機能は必ず下がる
仮に、処方された薬が血圧や血糖値を下げて、心血管障害、脳血管障害のリスクを減らすことになるかもしれません。
しかし、「体調が悪い感」が続く限りにおいては、免疫機能は必ず下がりますから、その分がんや感染症になりやすくなるくらいのことは少なくとも考えておいたほうがいいでしょう。
「いま飲んでいる薬はこういう副作用が出て調子が悪いので、同じような効果が期待できるものではっきりとしたエビデンスの出ている薬に変えてください」
と要求したっていいと思います。アメリカ国立衛生研究所のホームページには、一般的に使われている薬や治療法のエビデンスが載っていますから、医者であればそのデータを読み取るくらいは簡単なはずです。
もし、それで担当医の機嫌が悪くなるようなら、大事な命を任せるに足る医者ではない、と見切ってしまったほうがいいと思います。
■高齢になったら大学病院より地域の町医者
では、良い医者、良い病院を探すにはどうすればいいのか――。
私は高齢になったら大学病院より地域の経験豊富な町医者にかかることをおすすめします。
大学病院では高度な専門治療が受けられ、あらゆる担当科がありますから、複数の病院をはしごする必要がなく便利です。大学病院を信頼し、通院している高齢者も少なくありませんが、高齢者にとって、大学病院がベストな選択とは言えません。
その理由は、本書で詳しくお話ししているように人間全体ではなく個別の臓器を専門に診る臓器別診療にあります。順天堂医院など、総合診療が充実している大学病院もありますが、ほとんどの場合、臓器別に専門分化されています。
中高年までの患者さんなら、臓器別の高度医療による治療は有効だと思います。実際、多くの難病患者さんたちが、専門性の高い臓器別診療のおかげで命をながらえてきましたから。
しかし、高齢者は一つの臓器だけでなく、複数の臓器にガタがきているのが普通です。
■優先すべき治療を踏まえて、服用する薬の数を減らす
たとえば、高血圧でコレステロール値が高いうえに、軽い糖尿病も抱えているという人はめずらしくありません。
その場合、循環器内科で降圧剤やコレステロール値を下げる薬を処方され、内分泌・代謝内科では血糖値を下げる薬を出される。尿もれが頻繁に起きてくれば、泌尿器科で膀胱収縮を抑える薬が処方されるでしょう。
ところが、前述したように、高齢になればなるほど多剤服用による副作用のリスクが高まっていく。
臓器別診療は、薬の副作用や自分の専門外の臓器疾患なども見極めて、患者さんの健康を総合的に考える、という診療にはなりにくいのです。
高齢者の治療に必要なのは、「臓器は診れども人は診ず」という臓器別診療ではなく、「この人には5つの疾患があるけれど、腎機能や肝機能も低下しているだろうから、優先すべき治療を踏まえて、服用する薬の数を減らそう」といったように、患者さんの年齢や体調、臓器疾患を全部ひっくるめて診ることができる総合診療です。
高齢になったら大学病院より、身体全体の状態を把握してケアしてくれるような町医者で経験豊富な人に診てもらうほうが、よっぽど元気が保たれると思います。
■和田秀樹が思う良い病院を見極めるポイント
「良い医者」を見つけるのは簡単ではないかもしれませんが、端的に言うと、心のケアをしっかり行ってくれる医者は信用していいと思います。
病気を治療するだけにとどまらず、患者さんの不安が消えたか、治療によって生活の質は向上したか、といった総合的な視点を持った医者こそ、本当の「総合診療医」です。
しかし、そういう医者が少ないのも事実ですから、複数の病院を回ってその手の自分に合う良い医者を探すしかありません。
私が思う良い病院とは、「待合室の患者さんが元気な病院」です。
よく待合室に老人がたむろして社交場のようになっている病院があります。かたや、同じ地域にある同じような規模なのに、老人が寄り付かない病院もあります。
何が違うと思いますか?私が見るところ、一番大きいのは医者の「人柄」の違いです。
社交場になる病院の医者は、老人に圧倒的人気があります。その人気も腕がいいということではなく、「話をよく聞いてくれる」とか「会うだけで元気が出てくる」といった理由なのです。
じっくり話を聞いてくれて、しっかり寄り添ってくれるかかりつけ医を見つけることができたら、しめたものです。
もし、そのかかりつけ医の手には負えない専門治療が必要な病気になったら、かかりつけ医に適切な専門医を紹介してもらえばいいでしょう。
■自分に合う良い医者の探し方
そして、かかりつけ医は、何より「自分に合っている」ことが大切です。診療も医者と患者の信頼関係のなかで行われるものですから、相性が悪いとどうしても良い診療ができません。
相性のいい医者を選ぶことが、そのまま心身の健康につながることも多い。いくら腕が良くても、会っているだけで気疲れするような医者は良い医者とは言えません。
医者との出会いには運もあるでしょうが、運を高めたければ、場数を踏むことです。たくさんかかっているうちに、「この先生に会うと気持ちが楽になる」「相性がいい」とわかってきます。
高齢者の場合、「本人だけの名医」が存在すると言っても過言ではありません。できれば、病院に行くのが楽しみになるような気の合う医者なら最高です。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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