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「100歳でマラソン」百寿者研究でわかったヨボヨボしない人ほど血中濃度が低いホルモンと長生きしやすい性格

プレジデントオンライン / 2024年8月24日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GMVozd

■日本人女性の平均寿命はいずれ90歳に到達する

慶應義塾大学医学部で百寿者研究が開始されたのが1992年。当時、元気な100歳の代表といえば「きんさん・ぎんさん」が有名でしたが、今、ニュースで目にする100歳の方々はもっとパワフルです。マラソン大会や水泳大会に出場していたり、まだ現役で働いていたりと素晴らしい活躍をされている人が増えています。高齢者の年の取り方は変化しているのです。

昔にさかのぼると、80年代には、「人間の寿命は85歳を超えることはない」などと言われていました。しかし、2000年代に日本人女性の平均寿命は85歳を超えました。ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響で以前より短くなったものの、それでも87歳(23年時点)で世界一を誇ります。このままの傾向が続けば、いずれ平均寿命は90歳に到達するでしょう。

日本では、百寿者の人口は53年連続で増え続けています。しかし、その一方で110歳を超える人――スーパーセンチナリアンの数はほとんど増えていません。

20年の国勢調査のデータを見ると、100歳以上は約8万人、105歳以上はその8.2%の6515人、さらに110歳以上となると141人しかいません。前回、15年の調査ではスーパーセンチナリアンが146人だったので、その数は減っていることになります。100歳以上の人口は約20%も増えているにもかかわらず、110歳以上の人口が増えていないことを考えると、いかにスーパーセンチナリアンになるのが難しいかがわかります。

では、どんな人がスーパーセンチナリアンになれるのか。これまでの調査でわかったのは、スーパーセンチナリアンは100歳時点で自立した生活を送っている割合が高いことでした。00〜02年に実施した「東京百寿者研究」で100歳以上の304人を調査したところ、ADL(日常生活機能)のスコアで「自立している」「ほぼ自立している」と判定された人は約20%でした。その20%の人々は、さらに105歳まで長生きする確率が高いことが明らかになったのです。

■年を取っても衰えない理由

元気に年を取っていくための秘訣(ひけつ)は、スーパーセンチナリアンから学ぶことができます。私たちの百寿者研究によって、彼らに共通する医学的特徴が明らかになってきました。

一つは、心臓や血管系の病気になりにくいこと。特に、心筋梗塞や狭心症などのリスクを高める糖尿病の有病率が低いことがわかっています。スーパーセンチナリアンを含む百寿者の血液を調べたところ、NT-proBNP(神経内分泌因子)の血中濃度が低いほど長生きする傾向がありました。

NT-proBNPとは心臓から分泌されるホルモンの一種で、心臓の機能が低下するほど数値が高くなります。スーパーセンチナリアンは100歳時点でのNT-proBNPの数値が、他の百寿者よりも低い傾向にありました。つまり、100歳を超えて長生きする人たちは,心臓や血管の老化が遅いということです。

【図表】「元気な100歳」の3大条件

近年では高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の治療が進み、血管の状態がよいまま高齢期を迎える人は多くなってきました。今後さらに平均寿命が延びていくとすれば、生活習慣病の減少もその理由の一つになりうるでしょう。

スーパーセンチナリアンに共通する特徴のもう一つは、認知機能を維持していること。100〜104歳で亡くなった人と、105〜109歳で亡くなった人、110歳以上まで長生きした人の100歳時点の認知機能を比べると、スーパーセンチナリアンが最も高いことがわかりました。

認知機能がしっかりしていて、身の回りのことを自分でできている人ほど、スーパーセンチナリアンになれる可能性が高いのです。自立した生活を送る百寿者の中には、仕事を続けている人もいれば、趣味や運動などにアクティブに取り組んでいる人もいます。

そして、フレイルになりにくいこともスーパーセンチナリアンの特徴です。フレイルとは加齢によって心身が衰えた状態のことで、歩行速度が落ちたり、握力が低下したりといった身体的な変化から、物忘れや気分の落ち込みなど精神的なものまで含まれます。フレイルは健康な状態と介護が必要な状態の中間であり、フレイルになると健康寿命が縮まるといわれています。スーパーセンチナリアンはフレイルになるのが遅く、自立した生活に必要な筋力や可動性、健康なメンタルを維持している割合が高いのです。

今の65〜75歳の歩行速度や握力などの身体能力は、10年前の高齢者と比べて上がっています。運動習慣を取り入れてフレイルを予防すれば、これからますます元気な百寿者が増えていくでしょう。

【図表】100歳を超えても自立している人は2割

■遺伝の影響は約25%しかない

私がこれまで調査を続けてきた中で、印象に残っている百寿者の女性がいます。彼女が100歳のときにお会いしたのですが、ご自宅にうかがって思わず「100歳の方はどこにいますか?」と聞いてしまうほど若々しくて、見た目は80歳くらいにしか見えませんでした。話をしていても声がしっかり出ていて、受け答えもはっきり。週1回、電車に乗って銀座へ買い物に行くのが楽しみなのだとおっしゃっていました。こんな100歳がいるのか、と驚きました。その後、彼女は110歳を超えて元気に長生きしたのです。

ほかにも、登山クラブに入り2000メートル級の山に登っている人や、理容師の仕事を続けている人もいます。110歳になっても手芸を続けて、訪問するたびにハンカチなどをプレゼントしてくれる人もいました。こうした元気な百寿者の存在を知れば、私たちが100歳以上の人に持っているイメージはかなり変わるのではないでしょうか。

では、長生きできる人には、生まれ持った資質があるのか。私たちの研究では遺伝子についても調べているのですが、実は寿命に対する遺伝の影響は多くても25%ほどしかないことが明らかになっています。そのほかの食事や生活習慣、職歴、性格といった環境要因が、長生きできるかどうかに大きく関わっているのです。

百寿者の性格には共通の傾向があることもわかってきました。認知症ではない百寿者70人に、「神経症傾向」「外向性」「開放性」「協調性」「誠実性」の5つの指標で性格を分類するNEO-FFI人格検査というテストを受けてもらった結果、長生きをする人には「誠実性」と「開放性」の特徴が強く表れました。

百寿者の多くに当てはまる「誠実性」とは、「毎朝6時に起きる」「30分ウオーキングをする」などと決めて、それをやり続けられるような性格のこと。家族からすると頑固に見えることもありますが、自分で決めたことをきっちり守り、規則正しい生活をしている人に共通する性格なのです。

一方の「開放性」は、新しいことが好きでチャレンジ精神が旺盛な性格のこと。百寿者には、地域の集まりやボランティア活動などにも積極的に参加している人が多くいます。また、ストレスをためこまず、くよくよしないのも「開放性」の特徴です。

100歳を超える方々は、少なからずつらい経験をしてきています。百寿者の88%は女性ですが、ご主人を亡くされている方がほとんど。中にはお子さんを亡くされている方もいます。しかし、それをいつまでも思い悩むのではなく、乗り越えている。元気で長生きするためには、どんなときでも人生を前向きにとらえる姿勢が大事だといえます。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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新井 康通(あらい・やすみち)
慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター教授
医学博士。専門は老年医学。百寿者や110歳以上の「スーパーセンチナリアン」の疫学調査、バイオマーカー検査などを通じて、健康長寿のメカニズムを明らかにする研究に取り組んでいる。

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(慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター教授 新井 康通 構成=安藤 梢)

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