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臓器は元気でもこれがダメなら命取り…100歳研究で判明した血管老化を1日でも遅らせる生活習慣

プレジデントオンライン / 2024年8月25日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

■血管が老化すると認知機能にも影響が

110歳以上のスーパーセンチナリアンの多くは、100歳の時点でのADL(日常生活機能)が高く、自立した生活を送っていました。では、100歳になるまではどんな生活をしていたのでしょうか。

それを明らかにするために、私たち百寿総合研究センターでは神奈川県川崎市と共同で、85歳からの健康状態や生活習慣がどのように長寿に関わっているのかを調べる「川崎元気高齢者研究」を進めています。

この研究は17年にスタートしたもので、まず85歳から89歳までの自立した男女1026人を対象に基礎調査を行った後、その変化を追跡調査しています。どのような生活習慣や社会環境が健康状態に影響しているのかを明らかにすることで、自立から要介護に至るまでの過程を明らかにするのが狙いです。

40年には85歳以上の人口が1000万人に到達するといわれています。つまり10人に1人が85歳以上という時代です。85歳からの健康状態を調査することは、社会全体の介護負担を減らすためにも、とても重要なのです。

この研究はすでに開始から5年が経過していますので、元気に年を取る人と介護が必要になる人の違いが何によるものなのかが明らかになりつつあります。この先、5〜10年のうちには成果が出るでしょう。「川崎元気高齢者研究」以前の研究で、すでにわかっていることもいくつかあります。その一つが、血管の老化を遅らせることの重要性です。人間は細胞でできていますから、その細胞に栄養や酸素を運んでくれる血管はとても大切です。血管の老化は脳の血流にも影響するので、認知機能にも関わります。スーパーセンチナリアンが100歳時点で自立しているのは、この脳の血流が保たれていることも一因です。

血管の老化を遅らせるために大切なのは、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスクを下げることです。よく「年を取ったら好きなものを食べたほうがいい」と言われることがありますが、過去に心筋梗塞などを起こして血管に障害がある人は、高齢になってもコレステロール値を下げるためのコントロールを続けましょう。

血管の老化度は、検査で測定することができます。血管内にプラークがあるかどうかを調べる頸動脈超音波検査や、動脈硬化の程度を調べる血圧脈波検査などで、血管の状態がわかります。これらの検査は、人間ドックのオプションになっていることも多く、希望すれば受けることができます。

■身体活動が多い人ほど長生きする傾向に

血管の老化を遅らせることもそうですが、元気な百寿者になるために大事なのは、若いときからの積み重ねです。特に身体活動が多い人は、長生きする傾向にあります。定期的な運動を継続している人は、心機能が低下するほど分泌されるNT-proBNPの数値が低く抑えられていて、心機能が保たれていることがわかりました。

さすがに100歳を超えてハードな運動をしている人は少ないのですが、85歳以上で元気な人たちの7割くらいが散歩の習慣を持ち、その次に多かったのがラジオ体操などです。数はかなり減りますが、ゴルフ、水泳、ダンスなどを楽しんでいる人もいます。

川崎元気高齢者研究では、85歳以上の対象者に加速度計をつけてもらい、1週間の活動量を測定したところ、活動量が多い人ほどフレイルになりにくいことがわかりました。さらに、運動習慣がある人のほうが脳の萎縮が少なく、認知機能の低下が抑えられるといわれています。

フレイルにならないために効果があるのは、中〜高強度の運動です。たとえばウオーキングでも、ゆっくり歩くのではなく、少し早いペースで歩くなど工夫をすると、体に負荷がかかってフレイル予防につながります。

また、私たちの研究では、座っている時間が長い人ほどフレイルになりやすいというデータが出ました。つまり、家事をしたり庭の手入れをしたりと、1日の中で立って動いている時間が長い人ほどフレイルを予防できるということです。座っている時間をなるべく短くすることも、元気な百寿者になるための秘訣だといえます。

高齢になってから意識してほしいのが、たんぱく質の摂取です。若いうちは脂質やコレステロール値に気をつけたほうがよいですが、年を取ってからは筋肉量を維持することが大事になってきます。個人差はありますが、75歳以上になると筋肉量の低下を自覚しやすくなるといわれています。実際にはそれよりも前から筋肉量は減っているのですが、70代半ば頃から、段差でつまずきやすい、歩くのが遅くなるなどの変化が目立ってきます。筋肉量を落とさないために必要なのが、たんぱく質と適度な運動です。無理して肉を食べる必要はありません。私たちがこれまで調査した百寿者たちも、豆腐などやわらかいものを食べています。

たんぱく質の摂取に関しては、スーパーセンチナリアンの調査で、血液中のアルブミン濃度が高い人ほど死亡率が下がることがわかっています。アルブミンとは、血中のたんぱく質のこと。たんぱく質の摂取も健康長寿につながる可能性があるのです。

■「100歳」は目指す価値がある

私が調査した100歳以上の人たちは、若い頃から「100歳まで長生きしよう」と思っていたわけではありません。あくまでも自然体で日々を過ごしながら、気づいたら100歳を超えていたという人ばかりです。若い人たちから「将来が不安で長生きしたくない」という声を聞くこともありますが、100歳以上で生き生きと楽しく暮らしている人たちはいます。

先日、お会いした方は100歳を超えてから自分の本を出版していました。お孫さんの勧めでカルチャーセンターに2年間通い、自分で書き上げたそうです。100歳を超えても何かに夢中になっている人は元気です。そんな姿を見ていると、私自身も長生きに希望が持てるようになってきました。生きがいを見つけて日々を大切に過ごし、100年以上も元気に生きられるとしたら、それが理想ではないでしょうか。

今、老化研究の分野では、生物学的な“老化度”を測るための研究が進められています。生物学的な年齢というのは、体内の細胞や組織の機能によって定まります。スーパーセンチナリアンの「DNAのメチル化状態」を調べると、生物学的な年齢が実年齢よりも若いことがわかりました。

【図表】手軽に血管の状態をチェックできる2つの検査
撮影=遠藤素子

生物学的な若さを保つために、生活習慣や環境因子をどのように変えていけばよいかがわかれば、今後さらに健康寿命を延ばすこともできるでしょう。そうした研究が進み、多くの人が100歳を超えても元気に活動できるようになれば、きっと年を取るのが楽しみになるはずです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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新井 康通(あらい・やすみち)
慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター教授
医学博士。専門は老年医学。百寿者や110歳以上の「スーパーセンチナリアン」の疫学調査、バイオマーカー検査などを通じて、健康長寿のメカニズムを明らかにする研究に取り組んでいる。

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(慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター教授 新井 康通 構成=安藤 梢)

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