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1都3県で「衝撃の格差」が生まれている…これから「資産価値が上がる街」と「下がる街」大解剖

プレジデントオンライン / 2024年8月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dreamnikon

不動産価格が上がり続ける中、何を基準に住まいを探せばいいのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「人の出入りが激しい街、つまり新陳代謝が活発な街は、今後資産価値が上がる可能性が高い。この新陳代謝で比較すると、首都圏1都3県でも明暗が分かれる」という――。

■地価が上がっていく街の「法則」

全国各地で地価の上昇が話題になっている。今年の公示地価の発表にあたっては、全国住宅地の地価上昇率100位ランキングで千葉県がちょっとした話題になった。前年は上位100位を札幌市や恵庭市、千歳市などの各拠点ですべて独占され驚きの声が広がったが、今年はこのランキングに千葉県勢が20拠点もランクインしたのだ。

具体的には市川市および流山市から各8拠点、柏市2拠点、我孫子市1拠点であった。市川市も流山市も東京への通勤圏であることに加え、行政による豊富な子育て支援策が子育て世代の支持を取り付けたと言われる。

不動産業に長く携わっていると感じるのが、不動産が社会生活を営むための重要なインフラであることだ。人は暮らすために家を確保する。多くのサラリーパーソンは働くためにオフィスというハコの中で勤務する、商業施設で買い物をし、飲食を楽しみ、ホテルに滞在し、寛ぐからだ。

そして街の経済が発展し、地価が上昇するには一定の法則があることに気づかされる。街というプラットフォームで人の出入りが多い街ほど街に活気が生まれ、不動産が活発に動き、結果として地価が上昇するということだ。

■首都圏の「新陳代謝」を比べてみた

街にやってくる人が多いと、住宅の売買、賃貸借が活発になる。転入してきた人は街を探検し、たくさんの買い物をする。飲食店に顔を出し、お気に入りの店を見定める。街を出ていく人も多ければ、人の入れ替わりが起こり、商店主や大家も新しいトレンドに敏感になる。

これを私は「街の新陳代謝」と呼んでいる。一定数の人が常に「入れ替わる」状態にある街が、経済が成長し、結果として地価、資産価値が上がるのだ。

多くのお客さまやメディアからどのエリア、街の資産価値が上がるのか、とよく問われるのだが、実は新陳代謝が活発な街であるかどうかがその解答だ。そこで今回、首都圏(1都3県)における街の新陳代謝状況と地価の変動率について主要な街で比較を行ってみた。結果は驚くべき正確さで街の状況、今後の姿を映し出すものだった。表を参考にしながら順に解説しよう。

分析にあたっては各市町村別に転入者と転出者の合計を新陳代謝数とし、2023年中の数値を集計、23年1月1日の人口に対し、どれだけの新陳代謝が行われたかを代謝率とした。また公示地価は各自治体の平均値で変動率と1平方メートル当たりの単価(千円単位)で示した。

■「千葉都民」と揶揄されても地価は上昇

千葉県内で資産価値の上昇が期待できる街としては真っ先に浦安、市川、船橋が挙がる。いずれも代謝率が10%を超えている。つまり街の人口の1割相当が入れ替わり、地価は平均で7.8%から11.8%の高い伸びを示している。

以前からこの街に住む人たちは千葉都民などと揶揄されたが、交通利便性の良さに対する評価は変わらずに高いことが示されている。

さらに人気のつくばエクスプレス沿線の柏、流山も代謝率が10%程度。こちらも地価は7%台の上昇、人口も順調に増加していることがわかる。地価水準そのものも浦安、市川、船橋などよりも割安の点も人気だ。

【図表】千葉県内の「期待できる街」

■JR総武線沿線なのに元気がない街

いっぽうで元気がないのがかつての通勤圏だった街だ。四街道や佐倉はJR総武本線沿線で昭和から平成にかけては東京に通う通勤客に人気のニュータウンだった。しかし現在では都心に通うのにゆうに1時間以上かかることなどが敬遠され、代謝率も7%から8%、人の出入りは少なく、地価上昇率も1%台と上記5市との差が顕著になっている。

【図表】千葉県内の「厳しい街」

県の県庁所在地である千葉市内は、いずれも代謝率10%から11%と人の出入りは活発なものの、東京への通勤では上記5市に劣後。地価上昇率は小幅にとどまっている。

【図表】千葉市内

かつては観光地、別荘地として人気を博した館山、勝浦、鴨川といった半島の街は厳しい状況だ。鴨川はシーワールドや亀田総合病院などの街として有名。代謝率も10.9%を示しているが、地価上昇はなく、人口も減少傾向になっている。

【図表】房総半島

結論だ。千葉県内で資産価値の高くなる可能性が高い街は浦安、市川、船橋、柏、流山、この5つの街で決まりだ。

■埼玉で急成長しているのは川口と蕨

埼玉県はさいたま市大宮区、浦和区の安定ぶりが目立つ。代謝率は高く地価は順調に値上がりし、人口増の状態にある。急成長をしているのが川口と蕨だ。いずれも京浜東北線沿線で浦和や大宮よりも東京に近いことが成長の原動力になっている。

蕨駅西口ではタワーマンションが開発されており人気が高い。また川口は上野東京ラインの停車が決定し、東京までの利便性はさらに高まる。これからの更なる成長が期待される。

【図表】さいたま市内
【図表】京浜東北線沿線

人気の京浜東北線だが、大宮以北の高崎線沿線となるとおもわしくない。上尾、桶川、北本はいずれも代謝率が低くなり地価は伸びず、人口は減少傾向にある。宇都宮線も白岡で代謝率は8.6%。地価もほとんど上がっていない。背景はニュータウンのオールド化だ。

【図表】高崎線沿線

■東武線なら伊勢崎線より東上線に軍配

東武東上線はどうだろうか。朝霞、和光は狙い目だ。東京メトロにも乗り入れ、交通利便性は高い。代謝率が高く和光は18%台。地価上昇率は3.8%台。不動産価格も都心に近い割にリーズナブルだ。

だが東武東上線も北に向かうにしたがって代謝率が落ちてくる。高坂駅のある鳩山町には鳩山ニュータウンという1980年代に大変脚光を浴び、数々の街並み景観賞を受賞した街があるが、この街は代謝率が5.3%。やはりニュータウンが広がる小川町とともに地価は下落。住民の高齢化に伴い人口減少が続く街だ。

【図表】東武東上線沿線

東武伊勢崎線沿線に目を移す。比較的都心にアクセスしやすい越谷や春日部だが代謝率は7%から8%と低位。地価上昇は鈍く人口減が続く。さらに北に向かい加須になると地価は下落に転じている。東武線は東上線沿線に軍配が上がる。

【図表】東武伊勢崎線沿線

西武線沿線も元気がない。所沢で代謝率は8.8%、地価は2.58%の上昇を示すが、人口は減少傾向。飯能、秩父に入ると代謝率は下がり、地価は反応しない。

【図表】西武線沿線

結論だ。埼玉県内で資産価値上昇を享受したいのであればJR沿線、大宮以南。東武東上線は志木あたりまで。伊勢崎線は越谷まで。西武線は所沢でもやや不安といったところか。

■「住みたい街」横浜も人気なのは中央・北部だけ

横浜はSUUMOが発表する「住みたい街ランキング」の常連だが、横浜はあまりに広い。メッシュを細かくしてみると、資産価値上昇を期待できるのは市の中央と北部に限定される。みなとみらいのある中区、オフィス街が広がる西区、都心に近い神奈川区、港北区は代謝率が高く地価の上昇が顕著だ。

いっぽうでかつて人気だったニュータウンが広がる西部、南部はパッとしない。戸塚区、泉区、金沢区などの南部はすでに人口減少が始まっていて、ニュータウンが多いせいか代謝率が低く、地価上昇も限定的だ。

同様なことが西部の旭区や瀬谷区などで当てはまる。東急田園都市線を代表する街、たまプラーザを擁する青葉区は代謝率こそ10%台で活発なものの、地価上昇率は低く、人口減少が目立つようになっている。街のオールド化が懸念される。

【図表】横浜市内

■藤沢、茅ヶ崎の「湘南ブランド」は健在

川崎市は10万人の転入者と9万人の転出者で賑わう新陳代謝の街として有名だが、筆頭の武蔵小杉タワマン街を擁する中原区、隣接する高津区などは、代謝が活発で人口も増加している。いっぽうで新百合ヶ丘などの昭和時代のニュータウンが広がる麻生区などは代謝率が落ち、人口減少が始まっている。

【図表】川崎市内

湘南方面はどうだろうか。東海道沿線は藤沢、茅ヶ崎が元気。代謝率は高くはないものの、湘南ブランドを求める人は多く、地価は高水準を維持している。

しかし、相模川を渡り平塚を過ぎると状況は一変。かつて政治家や文豪が邸宅を構えた大磯、二宮から小田原にかけて代謝率は落ち、地価も上がっていない。真鶴にまでくると地価は下落している。

【図表】湘南エリア

■鎌倉は元気だが、三浦半島は厳しい

また鎌倉、逗子、葉山も湘南エリアと同様、一定のブランド力を形成して地価は上昇傾向にある。

【図表】鎌倉エリア

問題があるのが三浦半島である。横須賀は人口減少が止まらず、地価上昇も弱い。三浦になると代謝率が極端に落ち、不動産が動いていないさまが鮮明だ。

【図表】三浦半島

県央部は活発だ。厚木、海老名、大和といった街では代謝率は9%台、地価上昇率も4%から5%と順調な伸びを示している。湘南エリアよりも地価が低めなのでお手頃だ。

【図表】神奈川県央部

結論。横浜で資産価値に期待するなら中心部か北部。川崎は武蔵小杉一点買い。湘南は茅ヶ崎まで。相模川を越えないこと。三浦半島は厳しい。県央部は穴場。

■都心5区を凌駕する台東区、豊島区

最後に東京をみてみよう。都心部については代謝率が高く、地価上昇が顕著なのはあたりまえなので特にコメントはいらないだろう。面白いのが、インバウンドなどが集まる台東区や豊島区で人が活発に出入りしていることだ。地価上昇率も都心5区を凌駕している。人口増加も目立つ。

【図表】都心部

これが北東部の足立区、葛飾区、江戸川区になると途端に代謝率が落ち、地価上昇も都心に比べて緩やかになる。人口は伸びているので資産価値上昇は期待できるものの、相対的な劣後感は否めないところだ。

【図表】下町エリア

■中央線沿線は八王子あたりが「限界」

市部はどうだろうか。「住みたい街ランキング」常連の吉祥寺がある武蔵野市は代謝率13.3%。地価も上がっているが、住民の高齢化もあるのだろう。人口がわずかだが減少している。国分寺や立川も元気だ。代謝もよく地価は4%台の伸びだ。

気になったので、昨今マンション解体問題で話題の国立を見てみよう。代謝率は変わらないものの、地価上昇率が3.37%と、国立を挟む国分寺、立川の水準よりも一段落ちている。事件前の数値とはいえ、数字は正直だ。

中央線をさらに西に行くと、日野を過ぎて八王子あたりが限界だ。代謝率は8%に落ち込み、人口減少が顕著だ。青梅になると代謝率は6.9%。地価上昇を期待するのは難しいだろう。

【図表】中央線沿線

■東京はあまり西に行き過ぎてはいけない

意外なのが町田だ。代謝が弱く、地価上昇も2%にとどまる。人口も減少している。多摩方面も厳しい。武蔵村山や東大和といった都心までかなりの通勤時間を要する街になると代謝率も落ち、地価は反応しない。五日市線あきる野になると代謝率は6.9%。限界である。

【図表】その他市部

結論。東京は都区内が安定していて資産性が保てるエリアは広いが、できれば下町よりも山の手を選びたい。湾岸部のタワマンは武蔵小杉と同様に考えてよいが、長期保有せず、マーケットをにらみながらの早めの出口を探す投資金融商品と割り切ればよい。

市部は立川あたりまでが安定しているがさらに西は八王子が限界ラインとみる。多摩方面や立川から北も厳しい。東京はとにかく東西に広い。あまり西に行き過ぎないことだ。

人を集め続けている東京ですら、2030年以降はその吸収力が弱まり、人口減少に転じていくという。東京を取り囲む3県はすでにこの問題に直面をし始めている。だが人はエリア、街に満遍なく均等に住んでいるわけでも移動をしているわけでもない。人の新陳代謝が活発な街を選ぶことが資産性を維持する目の付け所である。ぜひ住まい探しのご参考にしていただければと思う。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。ボストン コンサルティンググループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。

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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)

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