連日1500枚以上のチラシを仕分け、配り続ける…小学校の先生が「断捨離したい」と訴える"3大隠れ業務"
プレジデントオンライン / 2024年8月19日 9時15分
■「給料増」より「仕事減」を求める理由
学校の仕事量の多さは、海外と比較すると一目瞭然です。
図表1を見てわかるように、日本の学校の業務量は、海外の先進諸国の学校と比べて圧倒的に多いです。
「登下校の時間の指導や見守り」や「給食指導」や「家庭訪問」など、日本以外ではやっていない国が多いのです。そのため、多くの教員が朝から夕方まで休憩もなく働き続けていることは前回記事で紹介しました。
だから、最近、教員の働き方や給与を定める法律「給特法」の見直しで、残業代の代わりに給与に上乗せされる「教職調整額」を月給の4%から10%以上に引き上げようとする動きが出ても、同職からは
「もっと抜本的な改革を!」
「待遇改善でなく、長時間労働の縮減を!」
「給与増より、仕事減を!」
「長時間労働を助長する危険がある!」
「働かせ放題に納得させるための上乗せか⁉」
といった反応が多くありました。
■部活動については改革が進んでいるが…
“教員不足”の問題も大きく取り上げられるようになりました。この教員不足の問題の解消は、“給与改善”だけでなく“労働環境の改善”もセットで行わないと進みません。
教員を疲弊させる業務としてよく挙げられるのは、部活動の指導、通知表の作成(実は学校が作成しなければならないという法的な義務はありません)、生徒が帰宅した後のトラブル対応(万引き、ケンカ、近所迷惑、SNSなどのトラブル)です。
そこで、働き方改革の一環として、部活動の改革が少しずつ進んでいます。教員の残業や自宅に持ち帰っての仕事が少しでも減ることが目的の1つです。
たとえば、これまで教員が行っていた休日の部活動指導や大会の引率を、地域のスポーツクラブや民間企業・団体などに移行し始めています。
※文部科学省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」
しかし、部活動の他にも減らしていく仕事が山ほどあります。そこで今回は、部活動と違って目立たず、一般の方には知られてないけれども、削減に向けて改革していくべき学校の仕事を3つ知っていただきたいです。
■応援団の指導担当になると残業必至
1つ目は、「運動会の応援団」です。
運動会の応援団は、学校の子どもたち全員がなるわけではありません。主に高学年のクラスから赤組4名、白組4名ほどから組織されます(学校の規模によって違います)。
応援団の指導担当になると、運動会が始まる約1カ月前から教室の子どもたちが下校した放課後に仕事をする時間が全てなくなります。放課後に会議や研修がない平日の放課後は、全て応援団練習をするからです。
その分、他の業務が減ることもありません。普段の業務プラスαです(休憩時間ももちろんありません)。応援団練習にかける時間は、学校や地域によって違いますが、私の経験では10時間~15時間が多かったです。
6時間目が終わってからすぐに応援団練習が始まり、定時(私の場合、17時)の30分ほど前に応援団練習が終わります。片付けなどするとあっという間に定時です。そして、定時を過ぎてから残業して授業や学級、行事の準備をすることになります。小さなお子さんがいる先生は、すぐに退勤しないとなりませんので、家に仕事を持ち帰ることになります。
■負担軽減のための輪番制がかえって負担に
また、応援団の指導担当は、私の経験では2年交代の学校が多かったです。1人の教員に毎年、固定で担当させるのはあまりにも負担が大きいからです。だから、1年目はサブとして指導し、そして2年目はメインとして指導(自分以外の教員がサブ)するローテーション制の学校が多いのです。
ローテーション制、輪番制のメリットは1人の教員に負担がずっとかからないところです。しかし、デメリットは担当が変わると、引き継ぎに時間がかかるところです。記録で撮った昨年度の運動会の映像を見直すところから準備が始まります。この映像を見直す時間も他の業務をする時間を削って行っています。
結果、残業や仕事の持ち帰りにつながっているのが現実です。昨年度の映像の見返しのほかに、指導内容の検討や指導計画の作成などで5時間ぐらいかかります。
大変だったのは、「応援団の担当」に加えて、「運動会の団体演技の指導担当」と「6年生の学年主任」と「修学旅行の準備」と「教育実習の担当」と「研究授業」と「生活指導主任」の仕事が1カ月の中で重なったときです。明日の授業の準備もままならない状態でした。
■余裕のない教員から民間へ委託するのはどうか
応援団による応援合戦があると、たしかに運動会は盛り上がります。コロナ禍のときは応援合戦がなく、さみしく感じました。しかし、いざ応援団が再開してみると、休憩時間もとれていない、給食をゆっくり食べる余裕もない、残業や持ち帰りの多い今の学校教員の働き方では、指導をする余裕は全くないのが実情です。
でも、子どもたちが活躍できる場が少しでも増えればと思い、教員たちは応援団指導をしているのです(例年通りの応援団を望んでいる教員や親御さん、地域の方もおられます)。ちなみに、運動会の応援合戦は、学習指導要領に「しなければならない」と書かれていません。
応援団は、冒頭に書いた通り、所属する子どもが高学年の数人に限られています。体育の水泳指導や中学の部活指導が民間に委託されるようになってきているのと同様に、地域や民間との連携を進めていくのが教員の「持続可能な働き方改革」の第一歩になると考えます。子どもたちのその保護者、そして学校と地域の理解が進めば改善するはずです。
■就学時健康診断が貴重な休憩時間と丸被り
2つ目は、「就学時健康診断」です。
これは新1年生が入学前に視力や聴力や内科、眼科などの健診を受けるものです。来年度、小学1年生になる年長の園児が、11月ごろに小学校に来て、さまざまな健診を受けます。
長年、小学校が会場になり、教職員が企画案をつくり、新1年生の住所に案内葉書を出し、当日の誘導や案内や健診もしています。しかし、そもそも法的には、この業務は学校の教職員が行うものではありません。教育委員会の業務です(ただ、入学予定児童数が多く、会場や健診に関わる人員などの確保が困難なため、各学校に業務が下りてきているのが実情です)。
※就学時健康診断の実施について(通知)
しかも、この就学時健康診断は放課後なので、教職員の休憩時間中に行われています。私の場合、休憩時間は15:15〜16:00に設定されています。就学時健康診断は、学校の規模によって違うのですが、14:30ごろから16:00ごろまでと休憩時間に被っていて、振り替えもありません。
就学時健康診断の担当になった教員と教務主任、養護教諭の業務は以下のようなもので、負担はかなり大きいです。
① 事前に案内はがきを郵送する
② 講堂まで誘導する
③ 自転車で来校した保護者のために運動場に駐輪場を設ける
④ 検診をする教室や講堂をきれいに掃除して、検診ができるように机や椅子を移動させたり、置いたりする(そして、検診が終わったら元の場所に戻す)
⑤ お医者さんを検診場所まで案内する
⑥ 視力検査や聴力検査などは教員が行う
⑦ 保護者が持ってきた書類や検査結果の記入した書類に漏れがないか確認したり、回収後に名前の順番に並べ替えたりする
⑧ 就学時検診の実施にあたって、企画書を作成し、部会で検討し、職員会議で提案する
■よりハードな教育委員会の働き方改革も必須
また、内科検診や眼科検診は学校の近くの病院の医師が来て行いますが、視力検査や聴力検査は医師でもなく養護教諭でもなく、教員が行います。そのため、医師と同じレベルでは検査できません。事前に、かかりつけの眼科や耳鼻科で医師に受けた検査結果と違った場合、親御さんからクレームを受けることもあるのです……。
就学時健康診断の実施にかかる時間は、新1年生への案内葉書作成に最低2時間、企画書の作成と検討に最低2~3時間、前日の会場準備に1~2時間、当日の案内・診断に2~3時間です。その後の片づけや書類整理に1時間程度です。
法的にも、学校の業務ではないので、学校の教職員以外に移行していくのがいいかと考えます。たとえば、法律通りに、教育委員会が主導となり、区役所や区民センターで実施するのです。そのことが教員の業務改善、適正化の第一歩になるかと考えます。
もちろんそのために、教育委員会で勤務する方の業務の見直し、改善も必要になります。教育委員会で働かれる方の業務量は学校の教職員よりももっともっとハードだからです。
それができないようなら、休憩時間と重ならないように冬休みに日を設定するか、休憩時間の振り替えをしっかりと設定すべきです。
新1年生の子どもたちと保護者には、学校説明会と学校公開日を設けれるだけでいいはずです。それと、必要に応じて教育相談を個別に受けられるようにすればいいはずです。
■1日1500枚以上のチラシを仕分けて配布
3つ目は、「チラシの配布」です。
学校には、さまざまな機関などから1年生から6年生の子ども全員分のイベントチラシや新聞が届きます。年200日ある登校日のほぼ毎日です。
届いたチラシの束を職員室で各学級の子ども分に仕分けて、それを学級担任が子どもに配布します。これがものすごく手間です。せめて、各クラスの児童数に分けたうえで届けてほしいものです。
多いときは、1人の子どもに1日4~5枚あります。私がこれまで勤めた学校の規模は、1学年2学級、全6学年12学級で、児童数は380人程度でした。つまり、1500~1900枚を毎日のように処理しているのです。
■「枚数が足りない」と保護者からクレームも…
しかも各クラスで配布した際、子どもに配りミスがあると、保護者から「枚数が足りない」とクレームを受けることもあります。
イベント主催側としては、多くの子どもが集まる学校に配ってもらうのは効率的かと思いますが、学校としては仕分けする余裕も、子どもたちに配る余裕も一切ありません。授業時間や朝の会の時間も削られてしまいます。学校でのチラシ配布がなくなれば負担がかなり減るかと思います。
実は数年前、学校の教職員の働き方改革として、文科省からも通達がありました。
※≪関係府省・関係団体の皆様へ≫学校における働き方改革の推進について
※学校における働き方改革について
しかし、いまでも全く変わらずイベントの案内チラシが届いています。
■子どもに向き合う貴重な時間が削られている
学校は教育、授業をすることが本道です。イベント案内は学校外で工夫して行ってもらいたいといのが教員としての本音です。「なぜ、朝の時間や授業時間などの貴重な時間を割いてまで、教室で子どもたちに学校外の主催イベントのチラシを配っているのか……」とモヤモヤしながらプリントを配っています。
学校が作成するプリント以外のチラシなどの配布を取りやめることは、教員の日々の業務改善の小さな積み重ねになります。子どもに向き合う時間を少しでも多くすることにつながります。
以上、削減していくべき教員の3つの業務について紹介してきました。しかし、これは氷山の一角です。本来は教員の業務ではないのに、慣例的に教員が負担し続けている業務はほかにもたくさんあります。このような実態を多くの方に知っていただき、「働かせ放題」の現状を一刻も早く改善する方向へ議論が進んでほしいと思います。
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公立小学校教諭
1978年生まれ。奈良教育大学卒業。2児の父親。関西の小劇場を中心に10年間演劇活動。令和6年版教科書編集委員を務める。著書に絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)、『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、『教師のしくじり大全 これまでの失敗とその改善策』(フォーラムA企画)などがある。教師向けの情報サイト「みんなの教育技術」でコラムを持つほか、Voicy「しくじり先生の『今日の失敗』」でパーソナリティを務める。
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(公立小学校教諭 松下 隼司)
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