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日本にとって「トランプ再登板」は良いことだらけ…米大統領選の裏で動き出した「岸田降ろし」の最新動向

プレジデントオンライン / 2024年8月12日 9時15分

ドナルド・トランプ大統領(2017年当時)(写真左=Shaleah Craighead/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons)と岸田文雄首相(写真右=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

今年11月のアメリカ大統領選挙は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が対決する。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「これで高齢者同士の『老老対決』は回避できた。日本でも『ポスト岸田』をめぐり麻生氏と菅氏が『老老代理戦争』をしているが、そんなことをしている場合ではない」という――。

■バイデン大統領のように岸田首相も撤退?

「バイデン大統領(81)の撤退表明で、後継候補に女性のカマラ・ハリス副大統領(59)がなったように、日本でも岸田文雄首相(67)が自民党総裁選挙から撤退して、旧岸田派で女性の上川陽子外相(71)を担ぐなんてこともあるんじゃないか?」(自民党旧安倍派衆議院議員)

こんな声が聞かれるようになったのは、バイデン氏が大統領選挙からの撤退を表明し、数日が経過した7月下旬ごろからだ。

旧岸田派の議員に聞けば、「そんなことはありえない。首相は再選に向けて気力がみなぎってるから」という答えが返ってくるのだが、内閣支持率は超低空飛行を続けており、パリ五輪が終わり、お盆も過ぎた後、「不出馬」を表明する可能性も少なくない。

その鍵は麻生太郎副総裁(83)の動きにある。岸田首相が再選に向け正式に出馬すれば、旧岸田派の約40人はまとまる。しかし、自民党に所属する衆参の国会議員票371と地方票371の合計で争われる選挙では、少なくとも麻生派55人の協力がなくては勝てない。

■動き出した「タフネゴシエーター」

岸田首相と麻生氏は、6月18日(ホテルオークラ内の日本料理店「山里」)と同25日(帝国ホテル内の鉄板焼き店「嘉門」)で会談して以降、表立った接触はない。

むしろ、麻生氏との接触を強化し、出馬に必要な推薦人20人の確保に動いているのは、トランプ政権時代、通商交渉をめぐってトランプ氏から「タフネゴシエーター」と称賛された茂木敏充幹事長(68)である。

茂木氏は、「トランプ再登板」を視野に、東南アジア4カ国歴訪(7月28日~8月4日)で存在感を示すと同時に、旧茂木派の鈴木貴子青年局長らがセットした若手との宴席に顔を出し、「東大からハーバードで頭が良く、実際に仕事もできるが、気難しくて気を遣う」(経産省官僚)といった負のイメージの払拭と、「『もしトラ』が現実になれば、自分しかいない」という売り込みに努め、麻生氏の支持を得ようと躍起だ。

■「ポスト岸田」はトランプ氏と渡り合えるか

もう1人のキーマン、菅義偉前首相(75)は、6月6日、麻布十番の高級寿司店「おざき」に、加藤勝信前厚労相(68)や小泉進次郎元環境相(43)らを集め、事実上、「岸田降ろし」に大きく一歩を踏み出した。

加藤厚生労働大臣と、衆議院議員 小泉進次郎
加藤厚生労働大臣(写真左=厚生労働省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)と、小泉進次郎元環境相(写真右=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

筆者は、周辺への取材から、ごく最近まで、菅氏の脳裏には、「加藤首相、石破茂幹事長(67)、小泉官房長官」という青写真があったと見ている。ただ、石破氏は7月27日、鳥取県米子市での講演で出馬に意欲を見せながらも、決断は「お盆あたりが1つの区切り」と煮え切らず、誰を首相に推し立てるか、その動きを加速化できないでいる。

先の麻生氏で言えば、「東大→ハーバード」で、身長186センチと見栄えもいい小林鷹之前経済安保相(49)を、また、菅氏で言えば、小林氏よりも若い小泉氏を推し立てるプランもなくはない。

しかし、「若く経験も浅い彼らが、ディールを好む老練なトランプ氏と渡り合えるのか?」(前述の旧安倍派議員)、「トランプ氏という不安定要素を考えれば、岸田首相のままでどこが悪いのか?」(前述の旧岸田派議員)という声があるのも事実だ。

■不死身のトランプ氏にハリス氏が迫る

アメリカ大統領選挙に目を転じれば、7月14日の銃撃事件で得たトランプ氏の勢いは、ハリス氏の表舞台への登場によって止まったと言っていい。

「事件直後の共和党大会は、これまでに見たことがない熱狂ぶりで、トランプ支持者ではない党員まで彼に賛辞を送る状態でした。しかし、今の勢いは民主党のハリス陣営にあると思います」(元「ミルウォーキー・ジャーナル・センチネル」記者)

事実、ハリス氏が、7月に集めた選挙資金は3億1000万ドル(約450億円)を超え、トランプ氏が集めた1億4000万ドル(約200億円)の2倍以上となった。

8月4日に公表されたCBSテレビなどによる世論調査では、ハリス氏が50%と、トランプ氏の49%をわずかながら上回り、、ブルームバーグなどによる激戦7州に関する調査でも、ミシガンやペンシルベニアなどで、ハリス氏がトランプ氏を上回った。これらの事実は、党大会を8月19日に控えた民主党にとって明るい材料である。

■無党派層を取り込める良識派コンビで勝負

そのハリス氏は、副大統領候補に、ミネソタ州のティム・ワルツ知事(60)を選び、激戦州での遊説をスタートさせた。

本命視されたペンシルベニアのシャピロ知事(51)は、ガザ攻撃を継続するイスラエルに抗議する声が全米で拡大する中、ユダヤ教徒であることがネックになったと見られる。

ワルツ氏自身は、激戦州のウィスコンシンに隣接する州の知事で、州兵、教師、アメリカンフットボールのコーチ、下院議員などさまざまな経歴を持つ庶民派知事だ。

対するトランプ氏が、「ハリスはインド系から突然黒人になった」と人種差別的な発言で物議を醸し、副大統領候補であるバンス氏も、「ハリスは、チャイルドレス・キャット・レディー(子がいない寂しさを紛らわせるために猫を飼う女)だ」などと発言し炎上していることを思えば、良識派のハリス氏とワルツ氏のコンビであれば、無党派層や、ダブル・ヘイター(バイデン氏もトランプ氏も嫌と考えていた有権者)からも支持を得やすい。

大統領選で注目すべきなのが、首都ワシントンD.C.界隈の不動産の動きだ。

たとえば、民主党から共和党に政権が交代しそうな場合、やがて3000人から4000人規模のスタッフが入れ替わることになる、選挙前から街のあちらこちらに「For Rent(空室有)」の看板が目立つようになる。「現職が負けそうだから、ひと足早くワシントンのマンションを引き払って、地元で弁護士でもやるか……」という人が増えるからだ。

その点、今は、そういう動きは全くない。つまり、民主党関係者は、「出遅れはあったがハリス氏が絶対に勝つ」と確信しているのだ。

アメリカの投票会場
写真=iStock.com/adamkaz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/adamkaz

■選挙当日までの数字はあてにならない

とはいえ、支持率の数%差などは誤差の範囲だ。8年前の2016年11月7日、ロイター通信と市場調査会社イプソスによる世論調査で、「民主党・クリントン氏の選挙人獲得予測は303人で、当選に必要な270人を大きく上回る」という予測が発表されたことがある。

11月7日と言えば、大統領選挙の前日である。しかし、蓋を開けてみると、勝ったのはトランプ氏。ニューヨークで取材しながら、「数字は本当にあてにならない」と実感したものだ。

選挙本番は11月5日で、まだ3カ月ほどある。その間には、今、日程でもめているが、大統領候補者や副大統領候補者による討論会がある。

また、一定の支持者がいる第3の候補、ロバート・ケネディ・ジュニア氏(70)がどう動くのか、世界同時株安の行方はどうなるのか、そして、ロシアやイスラエル情勢がどう変化するのかなど不確定要素も多い。現時点で「ハリス対トランプは全くの互角」、そう申し上げるしかない。

■「オバマの傀儡」より「トランプ再登板」

1つ言えるのは、トランプ氏が勝利したほうが日本にとって都合がいいということだ。

ハリス氏が大統領になった場合、基本的にはバイデン氏の路線を踏襲する。ハリス氏の選挙は、オバマ元大統領の選挙を支えたデービッド・プルーフ氏やオバマ氏からバイデン政権に送り込まれていたアニタ・ダン氏ら「チーム・オバマ」が支えている。

ハリス氏自身は、女性でインド系、そして検事出身という特性を活かし、当選すれば、外交では国際協調路線、内政では中低所得者への支援や環境対策に重点を置くと見られるが、それらは、良く言えば、オバマ氏やバイデン氏が敷いてきた安定したリベラル路線の踏襲であり、悪く言えば「オバマ政権の傀儡」に過ぎない。

これに対し、トランプ氏が再登板することになれば、国際社会には大きな変化が生じる。もちろん悪い影響もあるだろうが、膠着(こうちゃく)状態にある国際情勢に風穴が開くという点では「買い」だ。

共和党が、トランプ氏の考えを反映し公表した政策綱領やトランプ氏の発言などから、日本に関係が深い部分をまとめておく。

■これまでの異常な円安ドル高に終止符

アメリカ第一主義の経済政策

トランプ氏は5月23日、SNSで円安ドル高について、「アメリカにとって大惨事だ」と投稿し、7月16日のブルームバーグとのインタビューでも「ドル高是正」に言及した。

インフレ抑制には「ドル高」が望ましいが、製造業復活のため、利下げに踏み切り、日米の金利差を縮小して「円高ドル安」に舵を切る可能性が大きい。

中国への「最恵国待遇」を撤廃する貿易政策

中国からの輸入品に60%超の高関税をかける。米中貿易戦争が再燃し、国内経済立て直しに追われる中国は台湾統一への道のりが遠のく。

他方で、アメリカ国内で輸入品消費が減退するなど、保護主義政策による景気の悪化で、これまでの異常な「株高・ドル高」は一変する。

同盟国にも負担を求める安全保障政策

日本や韓国には駐留米軍の経費増額を、NATO加盟国には国防費の支出増加を求める方針だが、交渉の余地あり。仮に、負担を求められても、資金さえ出せばアメリカ軍の支援が得られるとも解釈できる。

トランプ氏なら、ロシアやイスラエル、北朝鮮に対して強いメッセージを送ることができるため、ウクライナや中東で続く戦闘の膠着状態を打開できる可能性もある。

「パリ協定」など無視の環境対策

「化石燃料を掘りまくれ」と指示することで、アメリカ国内のエネルギーコストが下がり、日本なども天然ガスなどを安く輸入できるようになる。

バイデン政権のEV(電気自動車)促進策を転換するため、ハイブリッド車に比べEVへの対応が後手に回ってきた日本の自動車産業はひと息つける。BYDなど中国のEVメーカーの動きも牽制できる。

■「老老代理戦争」をしている暇など日本にはない

もともと、「中曽根―レーガン」や「小泉―ブッシュ」のように、日本は共和党の大統領のほうが与しやすい。それは「安倍―トランプ」も同様であった。

スポーツに例えると、トランプ氏の政策には、柔道なら「指導」、サッカーなら「イエローカード」を出したい部分が多々あるが、どこに、どんな球種のボールを投げてくるかわかりやすいという点で、日本など受ける側も対処しやすい。

そうした中、日本では、アメリカよりひと足早く、9月後半には次の首相が決まる。当然ながら、アメリカの大統領がどちらに転んでも、十分交渉ができる安定した政権作りが求められるは言うまでもない。

また、アメリカでは、退任を待つだけのバイデン政権がレームダック化し、来年1月までの半年間、本格政権が始動しないため、その間、中国やロシア、それに北朝鮮の暴走を抑えることも重要な責務となる。

アメリカでは、バイデン氏の撤退によってトランプ氏との「老老対決」は回避できた。日本も麻生氏と菅氏とで、「ポスト岸田」をめぐり「老老代理戦争」をしている暇などない。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)

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