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なぜ中国人の「爆買い」は消滅したのか…経済をボロボロにした習近平指導部が手を出した"劇薬"の正体

プレジデントオンライン / 2024年8月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomas Ragina

中国国内の消費が減速し、中国経済が失速している。大和総研経済調査部長の齋藤尚登さんは「若者の失業率が高止まりし、不動産不況が続いて節約志向が続いている。政府はクルマやエアコンに補助金を出して消費の活性化を図ろうとしているが、これは未来の消費の前借に過ぎない」という――。

■伸び悩む中国国内の消費

中国の消費が冴えない。

国家統計局によると、2024年4~6月の実質GDP成長率は前年同期比4.7%(以下、変化率は前年同期比、前年比)となり、1~3月の5.3%から減速した(以下、中国国内統計の出所は注釈のない限り国家統計局)。成長率を押し下げたのが消費であり、小売売上高は1~3月の4.7%増から4~6月は2.6%増に伸び率が大きく低下した。

中国の消費減速の背景には、いくつかの構造的要因がある。

1つ目は中国の発展度合いがそこそこに上がったことであり、これ自体はネガティブな話ではない。

個人的な話で恐縮だが、筆者が北京駐在を始めた2003年当時、「中国の経済規模は日本の3分の1程度で、人口は日本の10倍であり、1人当たりでは日本の30分の1程度にすぎない、だからまだまだ中国経済は成長が続く」などと説明をしていた。それが、駐在を終え、日本に帰国した2010年に中国の経済規模が日本を追い越し、世界第2位の経済大国となった。

2023年時点では、中国の経済規模は日本の4.2倍、1人当たりで見ても日本の4割強となった。2023年の中国の1人当たりGDPは1万2631ドルとなり、世界銀行が定義する高所得国の1万3845ドルまであと一歩に迫っている(ただし、為替の元安ドル高の影響、さらには足元のデフレ傾向もあり、2021年以降は1万2600ドル台で足踏みが続いている)。

■どんな農村部にもテレビや冷蔵庫が普及し尽くした

こうした中、かつては都市と農村で耐久消費財の普及に大きな格差があり、特に農村の新規需要によって消費が大きく押し上げられる時代があったが、それも終焉を迎えた。

耐久消費財の普及状況を見ると、2000年時点では都市と農村の普及格差は極めて大きかったが、これが急速に縮小していき、2020年になると洗濯機やテレビ、冷蔵庫など多くの白物家電で普及格差がほぼなくなった。新規需要が一巡した後は更新需要が期待できるにとどまるため、もはや消費の高成長は望むべくもない。

■景気テコ入れの「6兆円の補助金」は「需要先食い」

一方で、まだ農村のキャッチアップが期待できる、あるいは都市・農村ともに普及余地が大きい耐久消費財には、農村のエアコン、都市と農村の自家用車などがある。エアコンや自動車を対象に、購入に対する補助金を支給するなどすれば、より大きな効果発現が期待できることになるということだ。

中国政府は2024年7月25日、超長期国債の発行によって調達する1兆元のうち3000億元(約6兆2000億円)を投じて、車・家電の買い替えや、企業の設備投資を促すための補助金を増やすと発表した。

消費に関連して、車ではEVなど新エネルギー車の買い替え補助金を1万元から2万元に、ガソリン車は7000元から1万5000元に引き上げた。家電では、エアコン、パソコン、冷蔵庫など8品目が対象で、2000元を上限に販売価格の15%(省エネ・節水基準レベル2以上)~20%(同レベル1以上)を補助し、個人は1品目で1回利用できるとした。

実は2024年5月以降、同様の家電購入補助金政策を導入する都市が相次いだのだが、その際は販売価格の10%が上限とされていた。7月25日の政策はこれがさらにパワーアップした格好だ。

こうした購入補助金政策は、当面の中国の消費を下支えするが、需要先食いの面があることは注意する必要がある。結局、景気テコ入れのために強力な政策を打てば打つほど、ツケを後年に残しかねない。

■若年層の失業率が高止まり

2つ目の構造的な要因は3年にわたり維持された「ゼロコロナ」政策の悪影響であり、これは若年層の高失業率をもたらした。かつて毎月の給料を使い尽くす「月光族」と呼ばれ、消費性向の高かった若年層が、節約志向を強めているのだ。

若年層(16歳~24歳)の失業率は2020年以降のコロナ禍で大きく上昇し、2023年6月に21.3%を記録するなど、過去最高の更新が続いた。中国では大学の卒業者が毎年大きく増え、こうした人々が労働市場に参入する7月に若年層の失業率が跳ね上がる傾向がある。「卒業即失業」という言葉、あるいは卒業式のガウンを着用しゾンビ(あるいは死体)に扮した写真がSNS上でバズるなど、社会問題化していた。

こうした状況下で、当然、2023年7月に若年層の失業率がさらに上昇すると予想されたのだが、あろうことか当局は年齢層別の失業率の発表を取りやめてしまった。結局同年12月以降、発表が再開されたが、求職中の在学生を除くなど、従来と比べて失業率が低く出るように統計が変更されている。2024年6月の若年層の失業率は13.2%となったが、全体の5.0%と比べて著しく高い状況に変わりはない。

中国の田舎
写真=iStock.com/Noble Nature
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Noble Nature

■解雇コストが低い若者は「雇用の調整弁」

若年層の高い失業率の背景として指摘されるのが、大学卒業者が年々増加するなど高学歴化が進展する一方で、高レベル人材を必要とする産業の発展がそれに見合っていないという点である。教育部によると2023年の大学など高等教育就学率は60.2%(社会人入試、企業・団体派遣などを含むベース)であり、問題は高学歴者の就職難にとどまらない可能性が高い。

まず、若年層の失業率が上昇しやすい背景のひとつに、企業のリストラのしわ寄せが若年層に集中することがある。中国でも労働者保護の意識が高まりつつあり、ある程度の規模以上の企業などが会社都合で従業員を解雇する場合、勤続年数に応じた補償を行うことが義務付けられている。解雇の際のコストが低い若年層は雇用の調整弁として使われることが多い。

さらに、若年層の雇用吸収力が大きい産業が、政策の悪影響やコロナ禍、あるいは世界的需要減退によって不況に陥ったことが挙げられる。卸小売業やホテル・飲食業は「ゼロコロナ」政策による需要減退、教育や情報通信・ソフトウエア・情報技術サービス業は政府による規制強化によって大量解雇が相次いだ業種である。2021年7月には学習塾を全て非営利団体に移行させる規制が発表され、学習塾の9割以上が倒産を余儀なくされた。

巨大IT・プラットフォーム企業では規制強化による収益力低下と巨額の罰金などが響き、2022年以降、アリババ、テンセントなどがリストラを発表した。この他、中国版総量規制の導入を契機に、かつてない販売不振に見舞われた不動産業は大規模な人員整理を実施している。

もちろん、こうした状況は若年層に限られるわけではない。3年にわたった「ゼロコロナ」政策では多くの中小・零細企業(ほとんどが民営企業)が倒産を余儀なくされ、中低所得者層では「節約」や「最安値」が消費のキーワードとなっている。

■住宅ローンの繰り上げ返済で消費が抑制

3つ目の構造的な要因は、不動産不況による家計のバランスシート調整の影響だ。

中国人民銀行によると、個人向け住宅ローン残高の前期差は、2022年4月~6月以降に急減し、足元では純減(返済超過)となることが度々生じている。主因は、住宅需要が大きく減少したことであり、現地報道によれば、繰り上げ返済も急増している。

家計にしてみれば、住宅価格の上昇期待が住宅ローン金利など購入コストを上回れば、購入意欲は高まるが、不動産不況によって全く逆のことが起きている。居住目的で住宅を購入した家計が、住宅ローンの繰り上げ返済のために、資産運用を減らしたり、消費を抑制したりしている可能性がある。

■今後の中国の消費に期待はできない

国家統計局が発表する消費者信頼感指数(楽観と悲観の境目=100)は上海市でロックダウンが実施された2022年4月に急低下した。2023年1月の「ウィズコロナ」政策への転換後は、消費者信頼感指数も回復すると思われたが、一時的かつ小幅な改善にとどまり、その後は低空飛行が続いている。2024年6月は86.2ptにとどまった。

ちなみに、同指数が急低下した2022年4月は新築住宅価格が下落に転じた時期と一致しており、上記家計のバランスシート調整が、消費者信頼感指数の低迷に影響している可能性は極めて高い。不動産不況からの脱却は容易ではなく、影響が長期化する懸念がある。

以上をまとめると、当面は、自動車・家電購入刺激策の効果発現が期待できるが、それは一過性のものであり、中長期的に中国の消費に多くを期待することは難しいということだ。

会議で重要演説を行う習近平共産党中央委員会総書記
写真提供=新華社/共同通信イメージズ
会議で重要演説を行う習近平(しゅう・きんぺい)共産党中央委員会総書記。中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)は2024(令和6)年7月18日、4日間の日程を終え閉幕した。(北京=新華社記者/鞠鵬) - 写真提供=新華社/共同通信イメージズ

■インバウンド消費は「円安」に支えられていただけ

最後に、日本経済との関連では、中国人旅行者によるインバウンド消費に期待がかかるところである。

日本の観光庁「インバウンド消費動向調査」によると、2024年6月までの過去1年間の訪日中国人の旅行消費額は2019年比26.1%減とコロナ禍前を回復していない。これは中国人旅行者数が戻っていないことが主因であり、1人当たりの旅行消費額は35.6%増となっている。「買物代」に限ってみれば、中国人全体は2019年比37.5%減、1人当たりでは14.4%増だ。

ただし、同期間の人民元・円レートが39.5%の円安になっていることからすると、1人当たりで見ても元ベースの旅行消費額や買物代はむしろ減少している。中国人の購買力は低下しているが、円安の効果がそれを補っている格好だ。

今後、ややぎくしゃくしている日中関係が改善していけば、訪日中国人旅行者数は一段と回復する可能性が高い。円安効果がフルには反映されないにしても1人当たりの旅行消費額も堅調な推移が期待される。日本のインバウンド消費には増加余地が大きく残されているということだ。この点で、足元で急速に進んだ円高はインバウンド消費の増加に水を差しかねないだけに、注意が必要だろう。

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齋藤 尚登(さいとう・なおと)
大和総研経済調査部長・主席研究員
1998年大和総研入社。2003年から2010年北京駐在。2015年より主任研究員・主席研究員を経て、2023年4月より経済調査部長。主な研究分野は中国マクロ経済。2017年より財務省財務総合政策研究所中国研究会委員、2018年より金融庁中国金融研究会委員を務める。

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(大和総研経済調査部長・主席研究員 齋藤 尚登)

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