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一流は本を読む前にYouTubeのネタバレ動画でこっそり予習していた…名著や難解本の理解が深まる納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年8月31日 7時15分

ビジネス書のベストセラー著者である入山章栄氏がこっそり教える、難解な本も理解でき、気づきを得て、読み通せる方法とは。

■3つのタイプによって読み方はまるで違う

僕はつい最近まで、本を読むのが苦手でした。わずかではありますが、ADHD(注意欠如・多動症)の傾向があり、注意を持続させるのが難しいのです。本を読み始めても、最初の1〜2ページでいろんなことを考えてしまい、気もそぞろになってしまいます。自分でビジネス書や経営書を書いているにもかかわらず、そんな状況ですから「本を読んでいる人はすごい!」と、ずっと思っていました。

さすがにそれではいけないと思い、“本を読む習慣をつけよう”と工夫するようになりました。たとえば、日本経済新聞の夕刊で書評欄を担当しているのですが、これは本を読めない僕が強制的に本を読むために引き受けた仕事の一つです。3週間に1冊、絶対に読まなければなりません。すでに3年ほど続けていますが、最初のころは3週間かけて1冊の本を泣きながら読んでいました。それでも、1年ほどが経過すると、「昔より明らかに読めるようになったな」との感覚を覚えました。いまでは2、3日で読めるようになっています。

「本の帯のコメントを書いてほしい」といった依頼も多く来ます。これも、できるだけ受けるようにしています。また、先日、池上彰さんとの共著で『宗教を学べば経営がわかる』(文春新書)を出版しました。このときは池上さんが選んでくれた本を僕がひたすら読んで、対談をする形をとりました。これはサボるわけにはいきません。

本を読むのは慣れです。同じように本を読めないと感じている人は、読書会に参加するなど、強制的に読まざるをえない状況に自分を追い込むといいと思います。しばらく続ければ読むことに慣れて、興味が出てくるはずです。

実際に本を読むときには、本のタイプを3つに分けて、読み方を使い分けています。

それは、
1 「これは絶対に自分の学びになる」と確信できる本。
2 知人やメディアなどで「タメになるよ」とおすすめされた本。
3 特に興味もないけど、もしかしたら“自分の幅を広げるかも”と考えて、「知の探索」のために買った本。
です。

■予習してから読んだほうが理解は深まる

1は、いわゆる古典、名著と呼ばれている本です。たとえば、松下幸之助さんの『道をひらく』(PHP研究所)やスティーブン・R・コヴィーの『完訳7つの習慣』(キングベアー出版)などは、このタイプに入ります。古典や名著には、さまざまなところにエッセンスがありますから、「すみずみまでしっかり理解すること」が重要です。そのためには、本を読むときも、いきなり読み始めるのではなく、準備が必要です。僕は、YouTubeの解説動画を事前に見たり、要約を読んだりして、予習するようにしています。そうすると、本を読んだときに細部まで理解できます。

最近も池上さんからマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)が宿題で出たときに、YouTube解説動画を見て、概要を理解してから読みました。難解な本でも予習してから読むことで、ぐっと理解が深まります。

2の本は「きっとこんなことを教えてくれるだろう」と仮説を立ててから読んでいます。そうすることで、重要なポイントを意識しながら読むようになります。仮説が外れたとしても「意外にこの辺が面白かったな」といった、別の気づきがあります。

3の本は、とにかく最後まで読むことを優先します。これはアメリカにいたときに身に付いた読書法です。当時は、とにかく大量の論文を読まなければなりませんでした。まずは、ざっと読んで全体を把握してから、次に2回目を読みます。本も論文も1回読んだだけでは、よく理解できません。2回目を読むことで、自分の知りたいことや興味のあることに、より多く気づきます。ですから、本当にいい本は、2回読むことを前提にして、読み始めるといいでしょう。その場合、1回目に真面目に読みすぎると力尽きて、2回目を読む気力を失ってしまいます。

分厚い本を読み切るのは、マラソンに似ています。2kmの地点で汗だくになってしまうと、「まだ40km近くも残っているのか……」と心が折れてしまいます。飛ばし飛ばしでもいいので、まずは、42kmを走ってみることが大事です。走るのが無理なら、途中で自転車に乗ってもいいですし、車に乗ってもいいのです。とにかく、ゴールしましょう。

実際に走り切ってみると、飛ばし飛ばしでも、達成感が得られます。本であれば、仮説を立てて、ポイントだけサクサク読んでいくことで、「この本には全体でこんなことが書いてある」ことが何となくわかります。それで興味が湧いたら、2回目にチャレンジするのです。「次はもう少しこんなところを意識して読もう」と考えながら読みます。この方法をとると、かなり深く全体を理解できるようになります。

■アウトプットしないと知識は身に付かない

そして、どんなタイプの本にも共通するのは、本を読んですべての内容を理解する必要はないことです。たとえば、経営者の本を読むとき、経営者も経営手法も非常に多角的です。無理にすべてを学ぼうとするのではなく、あなたが興味のある部分にフォーカスして読むことで、実践的な知識が身に付きます。たとえば、「その経営者の性格に興味がある」、あるいは「なぜ部下を引き付けることができたかに興味がある」など、あなたが惹かれる部分に絞って、そこだけ読むといいでしょう。とくに経営者の本の場合は、「困難に立ち向かって乗り越える」パターンが多くあります。もし、経営者のチャレンジに興味があるなら、困難に陥っているパートだけを読めばいいのです。

本を読んで得た知識をしっかり定着させるには、やはりアウトプットすることが有効です。インプットとアウトプットはワンセットです。多くの人はインプットだけをしようとするために、本の読み方がわからなくなってしまいます。アウトプットを前提に本を読めば、本から何を得るべきかが決まりますから、本の読み方も自然とわかってきます。

僕の場合は、書評もそうですし、池上さんと共著の本もそうですし、帯コメントを書くのも、すべてアウトプットです。たとえば、書評は500文字程度ですが、批評をこの文字数にどうまとめようかとアウトプットを意識して読んでいるので、読書の効率も上がるのです。あなたが本を読むときにも、漫然と読むのではなく、「note」や「X(旧ツイッター)」など、アウトプットする場をつくっておき、必ず感想を書くようにするといいでしょう。アウトプットは成果物です。すぐに成果物を出すことは大事です。本を読んだら、できるだけ早く感想を書く習慣を身に付けるといいでしょう。

ポイントは習慣化です。読んだ本の数を意識する必要はありません。たとえば「3日に1冊読んでnoteに感想を書こう」などと、ハイペースの目標を立ててしまうと、疲れて長く続きません。本を読むのが苦手な人は、月1冊でもいいと思います。その代わり月に1冊と決めたら「絶対に読む」「必ず、アウトプットをする」、そういった状況をつくるのが大事だと思います。

■アマゾンで探すより書店に行くべき理由

本を読む目的は、「知の探索」です。可能な限り幅広い分野から選ぶことが大切です。そもそも人は、ゼロからは何も生み出せません。新しい知(アイデア)は「既存知と既存知の新しい組み合わせ」で生まれます。ただ、人の認知には限界があるので、放っておくと目の前の知だけを組み合わせがちになります。そして、新しい組み合わせには限界が訪れます。

「新しい知を生み出したい」と考えるのであれば、自分の目の前にあるものではなく、できるだけ離れた、遠くにある知を幅広く探索して、それをあなたが持っている知と組み合わせることが必要です。これが知の探索です。ですから、本を読むときにも、自分の興味からできるだけ離れた本を積極的に読む必要があるのです。

自分の興味のある分野の本だけを読むのであれば、SNSのレコメンド(お勧め)と同じです。アマゾンで本を買うときも、自分の好みに近いものが「おすすめ」に出てくるので、結局、同じような分野の狭い範囲のものしか読まなくなってしまいます。それでは、認知が広がりません。アマゾンにリコメンドされそうもない本をいかに読むかが大事です。

著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、僕のお勧めは書店に行って、本棚の前で目を閉じて、1冊取り出します。その本をレジまで持っていき、絶対に買って、必ず読み切ることです。タイトルを見ていたら、選ばなかっただろう本から、新たなヒントが得られるかもしれないのです。

同じように、自分と同じ分野の人の本は、できるだけ読まないほうがいいでしょう。同じ分野の本ばかり読んでいると、そこから上に行けなくなってしまいます。たとえば、孫正義さんにあこがれて、孫さんの本ばかり読んでいる人もいるでしょうが、それでは孫さんを超えることはできません。

僕の周りで突き抜けている人は、同業者がしていることには、興味をもっていません。同業者が書いている本も絶対に読みません。僕は経営学者ですが、他の経営学者が何を言っているか、どんな本を書いているかは、1mmも興味がありません。

■ビジネス書の「帯」は外したほうがいい

本を読むことは「知の探究」ですから、良書「だけ」を厳選して読むことは意味がないと思います。できる限り、他の人が読まないような本を読むことがいいと思います。ベストセラーを読めば、常に学びが得られるかといえば、そうとは限りません。それが本の面白いところでもあります。反対に売れていない本でも、何らかの学びがあることがあります。

多くの本を読んでいると、時に「これはすごい!」と感動する本に出合うことがあります。たとえば経営者の本では、ユベール・ジョリーの『THE HEART OF BUSINESS』(共著、英知出版)がダントツです。本当の意味で、名著だと僕は思います。ユベール・ジョリーは、2012年に倒産寸前まで追い込まれていたアメリカの家電量販店「ベスト・バイ」のCEO(最高経営責任者)に就任しました。そして、会長を含めた8年の在任期間で、同社の経営を再建したのです。

彼は「人とパーパス(企業の存在意義)」を重視しました。そして、人を中心に置いた経営を実践するために、役員会での月次レビューは、「人」→「ビジネス」→「財務」の順番で行ったのです。一般的な会社では、最初に今月の業績など財務の話から入り、次にビジネスの戦略的な話をして、終わってしまいます。まれに人事の昇格の話をすることもありますが、最後の最後です。

僕は月次レビューのくだりを読んだときに、鳥肌が立ちました。会社にとって、もっとも大事なのは、「人」です。財務は、すでに終わった期間のパフォーマンスの数字でしかありません。それに一喜一憂しても仕方ないのです。やはり本質は人材です。「人に優先順位を置くのは当然だ」と考えている経営者は多いと思いますが、月次レビューで、人事を重視しているとの話は聞いたことがありません。

書店には「年商100億円社長の初著書!」のような煽り文句の本が並んでいますが、いざ読んでみるとどれも似たような内容だったなんてことも。同じような本を読みたくないなら、帯を外して、タイトルだけで内容を見極めるのも一つの手。本を選ぶときから、「知の探索」は始まっています。

紹介の書籍三冊

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)他

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(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄 構成=向山 勇 撮影(書籍)=市来朋久、早川智哉)

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