1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

凡人は事実を知っても放置して不健康なまま…76歳医師が野菜摂取量が60g不足と知った後の模範的行動に学べ

プレジデントオンライン / 2024年8月31日 16時15分

「治る」「奇跡の治療法」と書かれた本は本当に信じて買ってもいいのか? 眉唾な本を見極めるポイント、知識を実践するためのコツとは。本当に信じてもいい健康本の選び方を、医師であり作家の鎌田實氏が教える。

■「肥満はいけない」はウソになっている

良い健康本とは、読者が前向きになれる本だと思っています。たとえば最近は、認知症に関する本も多く出版されていますが、過激な表現で読者を脅すスタイルの本も多いでしょう? でも、年齢を重ねれば、多少のもの忘れをするのは当たり前です。テレビを見ていても、俳優の名前がすぐには出てこなくなります。過度に心配するよりも、生活習慣を見直して楽しく毎日を過ごすことが大事です。それを促してくれる本はいい本です。

固定観念や常識を覆してくれる本も良い本だと思います。たとえば「肥満はいけない」と言われ、2008年からメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の特定健康診査・特定保健指導が始まりました。それ以降、日本中の人がメタボはダメだと思ってきました。たしかに40歳から65歳までの人がメタボになると、その後に脳卒中や心筋梗塞、認知症などの問題が起きやすくなります。しかし、65歳以上の人は、少し太っているくらいのほうが長生きしていることが、最近の研究でわかりました。それを本で知ることができたら、毎日の過ごし方がポジティブに変わると思いませんか?

実際、メタボ検診ではBMI値が25を超えるとダメだと言われてきたのですが、24から27ぐらいであれば、寿命にほとんど影響はありません。元気に好きなことをしている人が多いのです。反対にBMIが18.5以上は正常だと言われてきましたが、20を切ると寿命が短いことがわかってきました。

コレステロールにしても、40歳ぐらいの人にとってはコレステロール値が高いことがリスクになります。ところが高齢になると、コレステロール値が高い人のほうが長生きしています。これを「コレステロールパラドックス」といいます。コレステロール値が高いということは、栄養が行き届いていることになり、それが長生きにつながっていると考えられます。とすると美味しいものを食べた人が“勝ち”ともいえるのです。極端にコレステロール値が高いと死亡率が上がります。しかし、病院で言われている悪玉(LDL)コレステロールの正常上限値140を超えても、180ぐらいまでは寿命に大きな影響はありません。反対に悪玉コレステロールの値が低いのはいいと昔は言われていたのですが、80などに下がってくると栄養が足りずに肺炎を起こしやすくなり、誤嚥性肺炎などで亡くなっている例が多いのです。アメリカ医学会では70歳以上の人にコレステロールを下げる薬は出さない「賢い選択」運動が進められています。

こうした事実がわかると、これまでラーメンを食べるのを我慢していた40代、50代の人が65歳を超して一人暮らしになって、食事の準備が面倒なら、週一度くらいはラーメンを食べても問題ありません。こうした意外な事実をエビデンスとともに教えてくれる本に出合うと、私たちの健康意識、行動意識をポジティブに変えてくれますし、人生が楽になると思います。

■「医師の意見」はエビデンスにならない

ただし、エビデンスの有無は確認したほうがいいです。健康本の中には、「それ、医師のあなたがいいと思っているだけですよね?」という眉唾な本もたくさんあります。それを見極めなければなりません。

エビデンスには4つほどのレベルがあります。

【図表】本を選ぶときに意識したい「エビデンスレベル」

1つ目は「知人、著名人、患者個人の発言や発信」。2つ目は「医師や専門家のデータに基づかない意見」。3つ目は「症例報告」です。そして最後が「実際に研究や試験を行った結果」となりますが、このうち、信頼に足るエビデンスといえるのは最後の一つだけです。症例も信頼できるように感じるかもしれませんが、偶然に効いた、よくなったという可能性が否定できないので、エビデンスとしての信頼性はそれほど高いといえません。そう考えると、「絶対に治る」「奇跡が起こる」などと書かれた本は内容を疑うべきです。エビデンスに基づかず、症例報告だけの可能性があるからです。

エビデンスを確認するには本の最後のほうに論文などの引用一覧があるかどうかを見るといいでしょう。また、図表や数値に引用元の記載があるかどうかチェックします。僕は引用元を検索して、信頼できるかどうかを確認しています。

一方で「名医が教える」といったタイトルの健康本も少なくありません。これもある程度は事実ではあるものの、オーバーな表現だと感じます。ある領域の専門家が専門分野について書いているのであれば、その狭い領域においては、それなりに造詣の深い内容が書かれている確率は高いと思います。ほかの本では得られない情報が得られる可能性があるのです。その意味では「名医」の知見といえるでしょう。ただこの場合も丸ごと信じるのではなく、本当だろうかと半分は疑問を持ちながら、自分にとって参考になる情報かどうかを見極めるといいでしょう。書店でパラパラと見て、写真やグラフ、イラストなどが自分と波長が合うかどうかも大事です。半分は信じながら、本当だろうか? という気持ちを最後までなくさないようにしながら読んでみるといいでしょう。参考になるエッセンスは吸収して実践してみればいいのです。

■「名医が教える」が信じられない理由

僕の考える名医とは、多くの症例数を持っている医師です。ただ、症例数の多い医師が誰にでもわかりやすく本を書けるかといえば、それは別の問題です。その人がやってきたことは正しくても、表現する力があるかどうかは疑問です。「名医」の本を選ぶときには、表現する能力があるかどうかも、見極める必要があります。数多くの大腸がんの手術を経験している大腸の専門家の医師が大腸にいい生活習慣を一冊の本にまとめたとしても、それが読者にとって役立つ内容かどうかはわかりません。ですから、タイトルに「名医が教える」と書かれていて、著者が本当に名医だったとしても、その本が本当にいい本かどうかは、別問題だと考えておいたほうがいいでしょう。

専門的な領域では、数多くの論文を発表している人は、名医といえるかもしれません。ただ、論文を書く力はあっても、それを一般の人にわかりやすく表現する能力があるかは疑問です。一般の人にもわかりやすく教えてくれなければ、行動変容は起きません。書店で本を買うかどうか迷ったときには、「著者の言うとおりに自分の生活を変えてみよう」という気が起きるかどうかで判断するといいでしょう。やってみようと感じるのであれば、買って実践してみてください。「名医」と書かれているだけで、つい買ってしまう人は失敗のもとです。判断するリテラシーを高めて、タイトルに騙されないようにしてください。

健康本は次々と新刊が発売されるので「あれもこれも読まなければ」と思ってしまうかもしれませんが、数多くの本を読めばいいというものではありません。やはり自分にしっかり響いた本を何度も繰り返し読んで、それをものにするのがいいでしょう。得た知識の5割ぐらいは実践に移してください。

また、次々と新しい本を読んでしまうと、どの本の内容も中途半端になってしまいます。健康になるためにたくさんの本は読んできたけれど、何一つ自分の行動変容、実践には移っていなかったということになりかねません。知識は増えても自分の実生活の中で実践できていない健康本は意味がありません。

そのためにはわかりやすい本、実践しやすい本を選ぶ必要があります。僕自身も健康本の著者として、どんな本が読みやすいか、実践しやすいかを研究しています。さまざまな本を買って読んでいますが、やはり写真やイラストが多いと理解しやすいと感じます。そして、どの章から読んでもいいように工夫されている本は、読みやすいと思います。最初から最後まで順番に読んでいくのは大変です。

僕が本を書くときには、気になったところから読んでも内容がわかるように工夫しています。小説の場合は、そういうわけにはいきませんが、健康本の場合には編集の仕方で可能です。どこから読んでもいい本には、おもしろい本が多く、気になるところを読み終わったら最初に戻って、最後まで読み切ることも少なくありません。

■「行動が変わるか」を基準に選んでほしい

僕はいい本に出合うと、マーカーを引いたり、書き込みをする箇所が多くなります。たとえば、健康本を読んでいるときにBDNF(脳由来神経栄養因子)など、少し専門的な言葉が出てきたとします。BDNFには認知症になりにくくする効果があります。アジやサンマなど脂ののった青魚のDHAやゴマや赤ワインはBDNFを増やしてくれます。また、運動するとBDNFが増えます。これを読んだだけでは、忘れてしまいます。そこでBDNFに印をつけて「これが認知機能に影響を与える」などと書き込みをしておくのです。すると、もう一度読んだときに、思い出します。

健康本を読んで、自分流に目標をつくり直すこともしています。たとえば「野菜は1日350g以上食べよう」と書かれていたとします。しかし、どのくらい食べれば350gになるのか、よくわかりません。厚生労働省の調査によると、日本人の野菜の平均的な摂取量は成人男性で290g程度で、60gが足りないそうです。ミニトマト1個は、10g程度です。そこで「ミニトマト6個分の野菜が足りない」と考えれば、わかりやすくなります。

また、塩分を減らすと高血圧が減ることはよく知られています。それだけでなく、塩分を減らすと胃がんが減ることもはっきりしています。ですから、塩分摂取量が多い青森・秋田・岩手・長野は他の都道府県に比べて、少し胃がんに罹る人が多くなっています。一方で、だし文化が発達している関西は、だしを使うことで、しょうゆや味噌の使用量を減らし、塩分の摂取が少ないために、胃がんに罹る人の数は少なくなっています。

つまり、塩分を減らすことで高血圧、脳卒中、胃がんを減らすことにつながるわけですが、厚生労働省は男性が1日7.5g以下、女性は6.5g以下に抑えるのがいいと言っています。これではよくわかりません。そこで、僕はいま食べているよりも、まず1g減らすことを心がけています。1gを減らすためにはどうすればいいか。調べてみると、標準的な梅干しは1個当たり、1〜2.5gの塩分が含まれています。僕は夏バテしないように、梅干を時々食べていますが、1g減らすためには、1回に食べる量を1個から半分にすればいいことがわかります。大雑把でいいから実践可能な方法に工夫するのです。

■良書があなたの習慣を変える

僕はできるだけ目標を低く設定するようにしています。「自分でできた」という達成感が大事ですし、三日坊主になるのを防ぐこともできるからです。1日の運動量にしても、「1日8000〜1万歩歩かなければいけない」と考えている人が多いのですが、それはできる人が実践すればいいのです。人は普通に生活しているだけで1日4000歩は歩いていると言われています。家の中で、あるいは通勤などでその程度は歩いているのです。とすれば、あと10分ほど歩けばいいのです。これなら誰でも実践できます。

健康本はあなたの行動が変わるかどうかを基準に選んでください。

紹介の三冊

----------

鎌田 實(かまた・みのる)
医師・作家
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『だまされない』ほか多数。

----------

(医師・作家 鎌田 實 構成=向山 勇)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください