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「もしトラ」を前提としてはいけない…それでも知っておきたい「トランプ再選」で起きる"悪いことと良いこと"

プレジデントオンライン / 2024年8月24日 8時15分

米ノースカロライナ州での選挙集会で話すトランプ前大統領(=2024年8月14日) - 写真=ゲッティ/共同通信社

ドナルド・トランプ氏が米国大統領に再選されたら何が起きるのか。大統領選を約50年間見てきた元外交官の宮家邦彦さんは「今の段階では『もしトラ』を前提としてはいけない。だが、再選した場合には米国の安全保障政策が再び大きく変化する可能性は否定できない」という――。

※本稿は、宮家邦彦『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■「もしトラ」を前提としてはいけない

米大統領選に関して日本でも、気の早い人たちは「もしトラ」(もしトランプが再選されたら)とか、「ほぼトラ」(ほぼトランプ再選は決まった)などと言い出している。

だが「もしトラ」とは、結局選挙戦から退いた弱いバイデン候補以外に民主党の「有力候補がいない」ということでしかなかった。また「ほぼトラ」とは、「共和党予備選に限れば」トランプ候補の勝利が決まった、というだけの話だろう。

筆者は「もしトラ」を前提とした書籍を現時点で書くような「知的勇気」を持ち合わせていない。「競馬の予想屋」じゃあるまいし、9月第1週のレイバーデー(労働者の日)・ウィークエンドまでは踏み込んで予想するつもりはない。理由は簡単。同週末は米国で夏休み最後の連休となる時期であり、昔から無党派有権者の多くはそのときの米国経済情勢を見たうえで投票態度を決めると言われているからだ。

すでに2024年3月に行なわれた世論調査でも、サウスカロライナ州でトランプ氏に投票した共和党員のなかで「今後トランプ氏が有罪となれば、投票態度を再考する」と答える有権者が多かった。2024年5月30日にトランプ候補は、ポルノ女優への不倫口止め料支払いに関するニューヨーク州の刑事裁判で有罪評決を受けた。CNNなど中道・リベラル系メディアはこのニュースを連日勝ち誇ったかのように逐一報じている。

■予測不能な「政治プロセス」が始まる

トランプ氏が抱える裁判の行方は11月5日大統領選投票日における無党派層の投票行動を左右するに違いない。対するバイデン氏も6月27日のテレビ討論会での「老醜」は目を覆うばかり。民主党内で「バイデン降ろし」が始まり、7月21日、選挙戦からの撤退を表明した。

今年の共和党大会は7月中旬にミルウォーキーで開かれ、民主党大会は8月中旬にシカゴで開催されるが、何が起きるか正直言ってよくわからない。共和党大会の2日前にはトランプ氏が銃撃され、民主党ではバイデン氏が、後任として副大統領のカマラ・ハリス氏の支持を決めたが、彼女の評価はあまり芳しくない。

今回は、従来の大統領選挙戦ノウハウを知る者にとっても、まったく異例の、予測不能な、新しい「政治プロセス」が始まる可能性が高い。

■トランプ現象は「少数派に転落する経済弱者白人層の逆襲」 

というわけで、本書はトランプ候補の勝利を前提とした予想本ではない。筆者の関心は、今年の大統領選挙の「勝者が誰か」よりも、「トランプ現象」の背後に見え隠れする米国社会の大きな潮流が、いかなる方向へ進むか、そして世界や日本にどのような影響を及ぼすか、である。仮にトランプ氏が落選しても、それで「トランプ現象」自体は終わらない。「トランプ現象」はトランプ氏個人がつくった政治現象ではない。「トランプ現象」の本質は「少数派に転落する経済弱者白人層の逆襲」だからだ。

ジョージ・バーナード・ショーは「すべての歴史は両極端間にある世界の振動の記録にすぎない。歴史の一期間とは振り子のひと振りでしかないが、これがつねに動いているので、各世代は世界が進歩していると思っている」という言葉を残した。本書における筆者の仮説は、ショーの言う「歴史」と「世界」を「政治」に置き換えてみれば、「すべての政治は両極端間にある政治の振動の記録にすぎない。政治の一期間とは振り子のひと振りでしかないが、これがつねに動いているので、各世代は政治が進歩していると思っている」となる。だが、これだけでは聡明な読者の方々に満足いただけないだろう。万一、本当に「もしトラ」になってしまったら、おそらく世界は「大混乱」に陥るからだ。

宇宙から見た地球のイメージ
写真=iStock.com/Thaweesak Saengngoen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thaweesak Saengngoen

■トランプ再選の悪いニュースと良いニュース

ワシントンには当初、今回の大統領選挙を「老人(バイデン)vs狂人(トランプ)」と評する向きすらあった。それはともかく、もし本当にトランプ候補が勝利した場合、米国の安全保障政策が再び大きく変化する可能性は、残念ながら否定できない。詳細については本編を熟読いただくこととし、ここでは筆者の現時点でのトランプ再選に関する見立てを、悪いニュースと良いニュースに分けて、以下のとおり披露することとしたい。

【悪いニュース】

①外交・対外関係に関する比重は低下

「トランプ現象」の本質は米国内政の不可逆的な変化、とくに「少数派経済弱者に転落する白人男性・低学歴労働者・農民層の逆襲」であり、第二期トランプ政権の優先順位は内政となる。されば、外交の比重が低下するのはおそらく不可避であろう。

②トランプ候補の特異な性格

一部には、トランプ候補は「自己愛性パーソナリティ障害(NPD)」、すなわち「自己評価が過剰に高く、他者からの賞賛を欲するが、異常なほど自信がなく、自己の失敗を認めない」性格の持ち主との評すらある。真偽は不明だが、第一期トランプ政権を見れば頷ける分析である。

③反対派の大量粛清

第二期トランプ政権の最大関心事は「闇の政府(ディープ・ステート)」への報復となるだろう。過去8年間自分を批判してきた(おそらく、トランプ氏より能力のある)政治家・官僚に対し徹底的に復讐するはずだ。数少ない共和党良識派が大量粛清される恐れもある。

■NATO同盟は弱体化、中東地域の混乱は続く

④戦略のないトランプ外交

第二期トランプ外交は、国際的関与が前提だった従来の米外交とは異なるので、「戦略性」を見失う恐れがある。トランプ氏は外交よりも内政、とくに自己の名誉回復に最大の政治的精力を傾注する可能性が高いからだ。

⑤NATO(北大西洋条約機構)同盟は弱体化?

トランプ氏の対露宥和政策でNATO同盟は弱体化し、欧州「第二冷戦」は西側の敗北となるかもしれない。

⑥混乱が続く中東地域?

中東では米国の軍事関与が一層低下するが、トランプ政権のイスラエル支持は変わらない。されば、ガザ戦争で窮地に追い込まれたネタニヤフ首相が復権する一方、米国との対決は不可避と覚悟を決めたイランが核武装に向かう恐れすらある。

⑦対中抑止が弱体化するインド太平洋?

インド太平洋方面では、同盟国を重視しないトランプ政権のもと、従来の同盟強化の議論に代わり、貿易戦争が再発する恐れがある。経済面、軍事面で米中間の緊張状態は続くだろうが、QUAD(日米豪印戦略対話)や同盟国との連携は停滞するだろう。

■予測不能性が発揮される「中・露・イラン・北朝鮮」

【良いニュース】

①トランプ本人の経験の蓄積

さすがのトランプ氏も4年間、曲がりなりにも米国大統領職を経験している。生来の癖や性格は変わらないだろうが、大統領に就任した2017年当時ほど予測不能な統治は行なわないのではないか、という淡い楽観論もないわけではない。ただし、こればかりはやってみないとわからない。

②国民・スタッフのトランプ慣れ

仮にトランプ氏が変わらないとしても、トランプ氏の側近やスタッフの多くはトランプ式意思決定に慣れているはずだ。2017年以来、彼らの多くはトランプ氏の性格を逆手に取りつつ、米国にとって望ましい政策を不完全ながらも立案実行してきた。

③同盟国の巧みな対応

宮家邦彦『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)
宮家邦彦『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)

この点は米国の同盟国も同様に違いない。第一期トランプ政権発足以降、西欧NATO諸国はトランプ氏の言説に文字どおり翻弄されていた。当時は「日本の安倍首相はなぜトランプとウマが合うのか」とよく聞かれたものだ。彼らのトランプ「慣れ」の研究もかなり進んだに違いない。

④翻弄される中露イラン北朝鮮等

トランプ氏の予測不能性が最も発揮されるとすれば、むしろ中露など潜在的敵対国に対してではないか。とくに、これらの国々が国際政治上問題のある行動を新たに取った場合に、トランプ氏がいかに反応するかは、本人も含めて誰も予測できない可能性がある。

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宮家 邦彦(みやけ・くにひこ)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年神奈川県生まれ。78年東京大学法学部卒業後、外務省に入省。外務大臣秘書官、在米国大使館一等書記官、中近東第一課長、日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、在イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任。2006年10月~07年9月、総理公邸連絡調整官。09年4月より現職。立命館大学客員教授、中東調査会顧問、外交政策研究所代表、内閣官房参与(外交)。

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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 宮家 邦彦)

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