「勤続30年で1707万円の退職金」が転職でパーに…元国税局職員が教える「退職金を減らさずに済む投資以外の方法」
プレジデントオンライン / 2024年8月26日 10時15分
※本稿は、小林義崇『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■1年間未納するだけで60万円も減ってしまう
会社を辞めるとそれまで加入していた厚生年金から自動的に外れ、新たに「国民年金」に加入する必要があります。この手続きは、原則として退職後14日以内にお住まいの市区町村の役所で、基礎年金番号がわかる書類を持参して行います。
その後は、毎月1万7千円ほどの国民年金保険料を納める必要があります。会社員の厚生年金保険料は給料から天引きされますが、退職すると自ら国民年金保険料を納めなければいけません。
納付方法は、年金事務所から送られてくる納付書を使う方法と、口座引き落としがあり、引き落としなら払い忘れを防げます。
もし、国民年金保険料の納付を怠って未納状態になると、将来の年金が減るおそれがあります。たとえば、国民年金の保険料を「1年間・未納」のまま放置していたら、65歳から受け取れる年金が年額で約2万円減ってしまうのです。
長生きして年金を30年以上受け取れるとしたら、たった1年の保険料未納で合計60万円もの年金が減ることに。1年分の国民年金保険料は20万円ほどなので、それで60万円をもらえなくなるのは損ですよね。
■国民年金保険料は「免除」や「猶予」ができる
とはいえ、失業中で収入が減っていたら、国民年金保険料を納めるのが難しいケースもあるかもしれません。すぐに転職先が見つからなかったり、自身や家族の病気などで仕事復帰まで時間がかかったりして失業手当の期間(90~330日)も切れれば、毎月の国民年金保険料を払いたくても払えない可能性もあります。
そのようなときは、ぜひとも国民年金保険料の支払いを「免除」や「猶予」してもらう手続きを済ませておきましょう。
これによって、保険料の負担を抑えられるほか、老後の年金や、障害基礎年金や遺族基礎年金(『僕らを守るお金の教室』(サンマーク出版)296ページ参照)がもらえなくなったり、減額されたりするリスクを下げられます。
■学生時代や失職中の保険料は追納したほうがいい
国民年金の保険料免除制度は、その名のとおり保険料の負担を免除してもらえるしくみです。実際に免除される保険料の割合は、前年の所得金額によって全額/4分の3/半額/4分の1と段階があります。
保険料免除制度にはデメリットもあり、保険料を免除してもらった分、将来支給される老齢基礎年金が減ってしまいます。
ただし、免除期間の分も本来の年金の2分の1は支給されるしくみなので、単に保険料を払わず未納にしておくよりはずっとマシです。
20歳から60歳までの40年間、国民年金保険料を納付していた場合、将来受け取る老齢基礎年金は年額79万5千円(2023年4月時点)。この40年間ずっと免除を受けていたとすると、保険料を支払うことなく老齢基礎年金を年額39万7500円もらえます。
また、免除を受けた人には「追納」が認められていて、経済的にゆとりが生まれたら、後から免除期間の国民年金保険料を納めることができます。これにより、将来の老齢基礎年金を2分の1ではなく満額にできます。
なお、追納ができるのは「免除や猶予を受けた期間から10年以内」という期限があり、免除を受けた期間の翌年度から数えて3年度目以降に追納すると支払う保険料に一定割合が加算されます。
後から納めて年金を満額受け取りたい人は、できるだけ早めに追納しましょう。
■「未納状態」で放置は一番やってはいけない
こちらは、20歳から50歳未満で前年所得が一定以下の場合、「保険料の支払いを待ってもらえる」しくみです。
免除と違い、猶予を受けたら後で「追納」して必ず保険料を納める必要があります。この手続きを怠ると、将来受け取る年金が少なくなってしまいます。
追納するには、まず最寄りの年金事務所で追納の申請をして承認を受ける必要があります。承認を受けると納付書をもらえ、これを使って納付します。国民年金の免除と猶予、どちらの場合も「前年所得」が重要な判定ポイントですが、失業したばかりの人は前年所得が高く、制度を利用できないおそれがあります。
つまり、実際はお金がないのに「お金がある人」という扱いになってしまうのです。しかし、そのようなときも、市区町村の役所や年金事務所に、失業したことを知らせると免除や猶予を受けられる可能性があります。
このほか、産前産後の期間など、国民年金保険料の負担を特別に免除や猶予してもらえる制度がいくつかあります。とにかく、国民年金保険料の支払いに困ったら、最寄りの年金事務所で相談しましょう。
将来の大切な年金を守るためにも、「未納状態」で放置が一番いけません。
■扶養家族がいる人が退職する場合
会社を辞めると厚生年金を外れると書きましたが、健康保険については「続ける(任意継続する)」か、「脱退する(「国民健康保険」に移行する)」かを選択できます。
この選択によってその後の保険料の負担が変わります。慎重に考えたいところですが、「絶対にこちらが有利」と言えるものではありません。まず、たとえ任意継続を選ぶにしても保険料の負担は増えます。会社に勤めている間は、健康保険料は会社と従業員が折半して払います。
でも退職すると全額自己負担。退職時の標準報酬月額に基づき健康保険料が計算され、全額自己負担となるため、支払う健康保険料は在職時の2倍になります。
では国民健康保険のほうが負担は軽いかというと、そうとも限りません。国民健康保険料の計算は市区町村によって異なりますが、家族の人数に応じた加算などがあり、任意継続の保険料よりも高くなるおそれがあります。
ではどうすればいいかといえば、「扶養家族がいる場合は任意継続を選ぶ」がいいと思います(※)。
なぜなら、会社の健康保険は扶養家族が何人いても保険料が増えないから。国民健康保険料は家族の分だけ負担が増えます。単身者であればどちらを選んでも保険料の負担はそこまで変わりません。
※夫婦共働きで会社員をしていて、夫が退職するようなケースであれば、子どもを妻の扶養に入れることで国民健康保険料の上昇を抑える方法も有効です。世帯で見ると……妻の健康保険(妻本人分&子ども分)+夫の国民健康保険(1人分)
■転職ブームだが、退職金が減るのが心配
ただし、任意継続を選択した人も、退職した後の2年目は、任意継続をやめて国民健康保険に切り替えたほうが得な可能性が高いです。
国民健康保険の保険料は前年所得をベースに計算されます。退職した翌年に前年所得が大きく減っていれば国民健康保険料は小さくなります。しかし、2年目も任意継続を続けていると、任意継続は退職前の収入ベースで保険料がかかるため、負担が大きくなってしまうのです。
なお、任意継続ができる期間は最長2年間。その後は必ず任意継続を脱退するので、国民健康保険に移行するか、再就職先の健康保険に加入することになります。
転職を重ねた場合、気になるのが「退職金」。たびたび転職すると、退職金が少なくなる可能性があります。
日本の退職金制度は、今なお多くの企業で終身雇用を前提に設計されていて、勤続年数が長くなるほど退職金の伸び率が高くなります。
厚生労働省(中央労働委員会)によると、大卒の人が大企業に勤めた場合の退職金(自己都合退職)は、勤続3年で約32万円ですが、勤続30年で約1707万円まで増額します。勤続年数の差が10倍に対して、退職金はなんと約53倍も差がつくのです。
■「iDeCo」で節税しながら貯蓄しよう
自己都合退職の場合は、定年退職や会社都合退職に比べて退職金が大きく減ってしまいます。
日本政府は多様な働き方を推進していますが、退職金制度は会社ごとに決めるもの。
会社としては「長く勤めた人に報いたい」方向に動きます。今後も退職金制度は大きく変わらないかもしれません。
そこで、1つの会社に縛られない生き方を望む人にすすめたいのが、「退職金を自ら準備する」という方法です。
なかでも、単に貯金するのではなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用して、節税しながらお金を増やしていく方法がおすすめです。
iDeCoに加入すると、毎月一定のお金を掛金として払い、これを運用した金額を「老齢給付金」として原則60歳以後に受け取れます。いわば、つみたて投資で老後資金を作っていくイメージです。
かつては、「老後資金は年金と退職金でなんとかする」のが一般的でしたが、今はその2つに頼りにくい状況です。iDeCoで不足分を補うことが1つの対策になります。
iDeCoは、「掛金を出したとき」「運用しているとき」「給付金を受け取るとき」の3段階それぞれに節税効果があります。
まず掛金を出したときは、全額が所得控除になり課税所得から差し引けます。たとえば月額2万円(年間24万円)をiDeCoの掛金として出すと、その人の課税所得から24万円を差し引け、所得税や住民税を節税できるのです。
■受け取る時は「退職金扱い」がいい理由
また、iDeCoの運用中に生じる利益は非課税なので、運用を続けている限り税金はかかりません。
運用中に出た利益をそのまますべて再投資できるので、効率的に資産を増やせます。
加えて、60歳以後に一時金で受け取るときには受取額が課税対象になるのですが、退職金と同じ扱いになる点も魅力的です。
なぜ退職金扱いがいいかというと、退職金には「退職所得控除」という大きな控除を使えるため、所得税や住民税が低くなるからです。
退職金の退職所得控除は勤続年数が長くなるほど多くなりますが、iDeCoも運用期間に応じて退職所得控除が増えます。仮に30歳から60歳までの30年間iDeCoで運用した場合、退職所得控除は1500万円となり、受取額が1500万円以内であれば税金は一切かかりません*。
ちなみにiDeCoは一括ではなく分割(年金方式)で受け取ることも可能で、この場合は退職金ではなく公的年金と同じ扱いに。
「公的年金等控除」が適用されるのである程度の節税効果はありますが、翌年の国民健康保険料が増えるなどのデメリットがあるので、基本的には一時金で受け取ったほうが節税効果は高いです。
あえて分割で受け取るべき状況があるとしたら、「一時金で受け取るとつい使ってしまいそう」といった場合に限られます。
■「節税」と「老後の備え」が一挙にできる
「投資は怖い」と思っている人でも、iDeCoは安心して利用できます。iDeCoでは、掛金の運用方法を指定でき、
①元本確保型(定期預金・保険)
②元本変動型(投資信託)
の2タイプを組み合わせて設定します。なので、投資で積極的にリターンを狙いたければ投資信託を多く選び、元本割れを絶対に避けたいなら定期預金や保険で運用するといった調整が可能です。
気をつけたいのは、iDeCoに加入している最中に亡くなった場合、遺族が5年以内に死亡一時金の請求をしないと、受け取れなくなってしまうこと。そのため、家族が知らないところでiDeCoに加入していると、もったいないことになりかねません。
ぜひ家族と相談して無理のない金額でiDeCoを始めて、節税で今のお金を防衛しながら、老後のお金の不安も解消していきましょう。
「節税」と「老後の備え」が一挙にでき、まさに一石二鳥です!
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フリーライター
国税局の国税専門官、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所に勤務。2017年、金融関係のフリーライターに転身。著書に『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)、『あんな経費まで! 領収書のズルい落とし方がわかる本』(宝島社)などがある。
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(フリーライター 小林 義崇)
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