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河野太郎氏の「都合のいい情報」で医療現場は大混乱…医師が「マイナ保険証は使えない」と断言する3つの理由

プレジデントオンライン / 2024年8月22日 10時15分

紙の保険証を使うことは可能(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/78image

河野太郎デジタル担当大臣が進める「マイナ保険証」に批判が集まっているのはなぜなのか。医師の森田洋之さんは「河野太郎氏および政府はマイナ保険証のデメリットを伝えず、都合のいい情報だけを発信している」という――。

■「12月で紙の保険証が廃止」はデマ

マイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」の導入にともない、「今年12月で紙の保険証が廃止になる」という話が広まり、医療現場に混乱が生じています。

ただこの話は実は半分は本当、半分はデマです。12月に紙の保険証の新規発行がストップするだけで、それ以降も紙の保険証を使うことは可能です。

■河野太郎大臣の情報発信に原因

なぜこのようなデマが広まったかと言うと、ひとえに河野太郎デジタル担当大臣の情報発信に原因があると言っていいかと思います。

2022年10月に河野大臣は記者会見で「2024年秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と表明し、「マイナ保険証のかわりに紙の保険証が廃止」という誤解の「素地」を作りました。

またその後2024年4月には、「デジタル大臣 河野太郎」名義で、「自民党所属国会議員各位」あてに送った文書が問題になりました。

その中で河野大臣は「マイナンバーカード保険証の利用率が低迷しています。その原因は、医療機関の受付での声掛けにあると考えられます」と決めつけ、さらに「マイナンバーカード保険証での受付ができない医療機関があれば、マイナンバー総合窓口にご連絡くださいますよう」と、暗に「通報」を促すような文面で、マイナ保険証普及を訴えていました。

この問題がメディア・国会で追及され始めると、河野大臣は2024年6月11日の定例記者会見において、「何事もやりすぎということにならないように気をつけていただく必要はある」と発言。まるで「混乱の原因は医療機関の説明にある」とも取れるもの言いに、ネット上には「責任逃れだ」という批判が相次いで投稿されました。

■厚労省から送られてきた「不都合なことは隠したポスター」

私が運営するクリニックにも、厚労省から下記のポスターが送られてきました。

厚労省から送られてきたポスター
筆者提供
厚労省から送られてきたポスター - 筆者提供

「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」という文章が書かれていますが、「発行」が「紙の保険証の新規発行」を指すなら、確かに間違いではありません。

既存の「紙の保険証」が引き続き使えることも書かれていますが、かなり小さな文字で、不親切な見せ方と感じる人もいるでしょう。

その一方、「マイナンバーカードをご利用ください」「今回お持ちでない方は次回ご持参ください」は大きく書かれています。

■「紙の保険証」は12月以降も使用できる

ちなみに、「※12月2日時点で有効な保険証は最大1年間有効です」と書かれていて、「現在使用している紙の保険証はあと1年で使えなくなる」かのように読めますが、これも事実ではありません。

マイナ保険証の利用登録をしない人には、紙の保険証の有効期限が切れたのち、保険証の代わりに下記の「資格確認書」(画像は現時点の草案)が送られてくる予定です。

内容は現行の保険証とほぼ同じですね。

資格確認書のイメージ
資格確認書のイメージ(出典=協会けんぽ資料)

要するに、今後も紙の保険証を使えるということです。

なのに、厚労省のポスターにはそういう説明が一切ありません。不安をあおる情報発信であり、非常に問題だと思います。

■河野氏および政府の情報発信は問題

河野大臣および政府がマイナンバーカードの普及を目指すのは理解できます。マイナンバーカードの普及により、手続きの簡素化や行政の効率化ができれば、社会全体に大きなメリットがあるでしょう。

ただ、情報発信の仕方は問題です。政府に都合のいい情報しか出さない、という手法は、国民の代表たる政治家が採用してはいけないものだと思います。

閣議後、記者会見する河野デジタル相、2024年8月15日
写真提供=共同通信社
河野太郎氏と政府の情報発信は問題(閣議後、記者会見する河野デジタル相、2024年8月15日) - 写真提供=共同通信社

■マイナ保険証の「3つのデメリット」

そもそもマイナ保険証の普及とは、国民を騙すような情報発信をしてまで達成すべき目標なのでしょうか?

私は鹿児島でクリニックを経営していますが、その経験から申しますと、マイナ保険証には3つの大きなデメリットがあり、現状はメリットを上回っているのではないかと思います。

まず、マイナ保険証だと「災害時・通信障害時に対応できない」のが問題です。

マイナ保険証とは要するにマイナンバーカードそのものです。マイナンバーカードを病院に置いてある機械にピッと通すと、番号などが病院に通知される仕組みになっています。

そのため、マイナ保険証には「保険証番号」が記載されていません。

ということは、災害時・停電時などで機械が動かない場合、医療機関には保険証番号がわからない、ということになります。その場合当然ながら病院も患者さんも困ってしまいます。

■「災害時は無料受診」のウソ

この問題について、政府は「災害時は保険証がなくても特別に無料受診できるようにするから大丈夫」と答えています。

ただ、政府が医療費を負担してくれるのはおそらく大地震や洪水といった大規模災害の場合に限られるでしょう。

マイナンバーを読み取る機械はちょっとした停電でも使えなくなります。台風で数時間にわたり停電になることもありますが、その際も政府が医療費を負担してくれるのでしょうか? 残念ながらその可能性はまずないでしょう。

災害時でなくとも、「通信障害」や「機器の不具合」は発生します。その際にいちいちマイナ保険証が使えないのは大きなデメリットと言えるでしょう。

暗い部屋で輝く懐中電灯
写真=iStock.com/Toru Kimura
ちょっとした停電でも使えなくなる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Toru Kimura

■「非常時のためにアナログを残しておく」発想は重要

災害時にも使えるように、カードに保険証番号を記載する等の対策が必要ではないでしょうか。

「すべてをデジタル化するのではなく、非常時のためにアナログを残しておく」

という発想は重要だと思います。

マイナ保険証の2つ目のデメリットとして、「電子カルテの統一化は無理」という問題もあります。

政府は、マイナ保険証の導入などのデジタル化で、病院と薬局で薬剤情報を共有したり、病院同士で電子カルテなどの情報を共有したりして国民の健康管理に貢献する、といった主張をしています。

しかし、これはほぼ不可能です。

■「電子カルテ」はいまだに「CD-R」でやり取りしている

というのも、未だに病院間の情報のやり取りは「CD-R」が主流だからです。これだけインターネットが普及しリモート化が進んでいる中でも、インターネットを介した情報共有はほとんど行われていないのが現状です。

この原稿を執筆している最中にも、私のところに他院からCD-Rが届きました。そこには、患者さんのCT画像、MRI画像などが閲覧ソフトと一緒に入っており、また採血・血圧・薬剤データなどの情報がPDFファイルで入っていました。

CD-ROM
写真=iStock.com/Lerachka
いまだに「CD-R」でやり取りしている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Lerachka

■「データのフォーマットが不統一」で共有できない

病院がこうしたデータをネット経由で共有しないことには理由があります。「ネット経由で個人情報が漏洩することを防ぐ」というセキュリティー問題もありますが、もっと大きな問題として、「データのフォーマットが不統一」で共有できないのが現状だからです。

病院・診療所の電子カルテの「システム」は、さまざまな会社が独自の仕様で作っています。会社ごとにCT画像のファイル処理の仕方、採血データのファイル処理の仕方がまったく違うため、データをそのまま送ってもまったく読み込めないということが起こります。

電子カルテ自体はここ20年ほどで導入が進み、いまではほぼすべての病院に配備されていますが、フォーマットが全く統一されていないのが現状なのです。

「マイナ保険証」に切り替えてもこの問題が解決されるはずもありません。おそらく今後も当分は「病院間の電子カルテ情報の共有は無理」なままでしょう。

もちろん、電子カルテのフォーマットが統一化されている国もありますので、絶対に無理ということはありません。ただ、統一するのはかなりの大ごとで、壮大なシステム構築が必要になります。

■そもそも政府が信用されていない

最後に「そもそも政府が信用されていない」という問題もあります。

マイナ保険証に限らずマイナンバー制度全般に言えることですが、個人番号に銀行口座や保険証番号など諸々の個人情報を紐づけることは、国家による国民生活の統一管理にも繋がります。

病院受診や買い物など生活の至る所にマイナンバーカードが必要になれば、やろうと思えば政府は国民の諸々の権利を制限できるわけです。それに不安を感じる人がいるのは自然なことではないでしょうか。

もちろん、手続きが簡略化されたり、生活が便利になったりするのは良いことです。

それに、デンマークやスウェーデンなど北欧の国々のように、国政選挙の投票率が高く政権交代も頻繁で政治家と国民の距離が近い国家、つまり政治への信頼度が高い国家なら、国家による情報管理も問題ないかもしれません。

■「都合のいい情報しか出さない政府」では信用されない

しかし、記事冒頭のポスターのように、「都合のいい情報」しか出さない政府に対して、情報の統一管理を許すのは危険だと感じる人が出てくるのは当然です。

「政府がそんなことをするわけがない」という意見もあると思います。

ただ、実際にカナダではトルドー政権がコロナワクチン接種義務への抗議デモに参加した人の銀行口座を凍結し、大きな騒ぎになりました。

こうした強硬手段をとられると、自由な議論などできません。全体主義・ファシズム化に向かう、国家による言論統制と言っていいでしょう。

私達はいまそうした大変な時期を迎えており、いろいろな意味で政府の行動をしっかり見定めていく必要があると思います。

決して他人任せにせず、ましてや国任せになどせず、国民全員でしっかりと考えていきたい問題です。

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森田 洋之(もりた・ひろゆき)
医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表
1971年、横浜生まれ。南日本ヘルスリサーチラボ代表。日本内科学会認定内科医、プライマリーケア指導医。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を終了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2020年、鹿児島県南九州市に、ひらやまのクリニックを開業。医療と介護の新たな連携スタイルを構築している。著書に『破綻からの奇蹟~いま夕張市民から学ぶこと~』(南日本ヘルスリサーチラボ)、『医療経済の嘘』(ポプラ新書)、『日本の医療の不都合な真実─コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』(幻冬舎新書)、『うらやましい孤独死─自分はどう死ぬ? 家族をどう看取る?』(フォレスト出版)などがある。

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(医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表 森田 洋之)

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