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「通勤電車内で昨日知ったことを思い出す」だけでいい…机に向かわずともできる科学的に証明された最強記憶術

プレジデントオンライン / 2024年9月2日 16時15分

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』著/安川康介

時間をかけて本を読んだはずなのに、どんな内容か忘れてしまった……そんな悩みとはもうおさらば。効率的に覚えられて、しかも忘れない。数々の研究で明らかになった最強の勉強法を紹介する。

■繰り返し本を読むのは効率が悪い覚え方

教科書よりも、綺麗にまとめたノートよりも、蛍光ペンよりも、勉強に役立つ道具は、「真っ白な1枚の紙」。何を言っているのかと思われるかもしれません。しかし、何も書かれていない紙こそ、最高の勉強道具だということは、科学的にも証明されているのです。

勉強法の研究は、世界で100年以上の歴史があります。その中から40冊以上の本と100本以上の論文を読み、学習効果が最も高いと実証された勉強法を調べました。そして、それは僕自身も実践し、学習効果を実感していた勉強法だったのです。

語学や資格試験などの勉強で本の内容を覚えようとするとき、多くの人が学生時代から続けている一般的な学習法の代表が、教科書などを繰り返し読む「再読」でしょう。残念ながら、科学的に見ると再読は学習効果が低いことがさまざまな研究でわかっています。

例えば、米国コロラド大学の大学生を対象にした研究。約1500~1700語の文章を、2回続けて読むグループと1回だけ読むグループに分け、2日後に文章の内容を問うテストをしたところ、両グループの成績に有意差はありませんでした。

再読の学習効果が低い理由の一つとして挙げられているのが、「流暢性の錯覚」と呼ばれる心理現象。2回目以降の読書では本の内容に慣れているため、理解を深めたり記憶を強めたりする脳の情報処理が行われにくくなると考えられています。

念のために言っておくと、再読に学習効果が全くないわけではありません。ただ漫然と再読すると、労多くして実りの少ない、効率の悪い勉強法になってしまうのです。

■凡庸な人が成績優秀に変わる科学的な勉強法

本の中で大事な箇所にマーカーやアンダーラインを引いたり、本の重要な部分をノートに書き写したりするのもポピュラーな学習法です。しかし、米国の大学生を対象とした研究によれば、文章を蛍光ペンでハイライトをしても、しなくても、学習効果に違いはありませんでした。ハイライトをしたことで、「勉強した気になっているだけ」ということもあるので注意が必要です。

文章をノートに丸ごと書き写しただけでは学習効果が上がらなかったという米国の高校生を対象とした研究もあります。教科書のポイントを綺麗にまとめたノートを作成して勉強した気でいる学生をよく見かけますが、学習効果はあまり期待できないのです。

では、科学的に見て記憶に定着しやすい勉強法とはどのような方法なのか。その一つが、「白紙に向かって、勉強したことを思い出しながら書き出す」という勉強法です。

白紙に向かって思い出す「白紙勉強法」の手順

僕は慶應義塾の付属高校を首席で卒業し、同大学医学部卒業時の成績は8位。日本の医師国家試験の後、米国の医師国家試験にも医学部卒業の直前に挑戦し、上位1%以内の高得点で合格もできました。こう言えば、「なんだ。自分は頭がいいって自慢かよ」と思うかもしれませんが、残念ながら僕の頭はいいわけではありません。自分よりも優秀な友人たちは周りにたくさんいますし、自分の記憶力が悪くて悲しくなることもあります。

では、なぜ凡庸な頭脳を持つ自分が今までなんとかやってこられたのか? その大きな理由の一つは、自分が行ってきた勉強法が、科学的にも効果の高い勉強法だったからだと思います。とはいっても、昔から自分の勉強法が、科学的に効果が高いのだとわかってやっていたわけではありません。あとになって学習に関する論文を読み込み、自分の勉強法に科学的な根拠があることを知りました。「なんだ、そんなことだったのか」と納得したのを覚えています。

■思い出す手がかりが少ないほど記憶は定着

勉強で覚えた内容を自分から、能動的に思い出すことを、専門的には「アクティブリコール」と呼びます。情報は脳にインプットするだけでなく、インプットした情報を脳からアウトプットすることで、記憶に定着しやすくなることがわかっています。情報を思い出す(使う)ことにより「この情報は重要」と脳に認識させるイメージです。

繰り返し読むより思い出すことを重視したほうが覚えやすい

僕がアクティブリコールの効果を特に実感したのは医学部時代です。医学部2年生のとき、春休みの直後に解剖学の試験がありました。解剖学は覚える項目が非常に多く、学年の半分近くが落とされてしまう試験でした。本来ならば休みをしっかり使って勉強するべきなのですが、僕はどうしてもインドでバックパック旅行をしたかった。解剖学の教科書は分厚く旅行に携帯できないので、重要なページだけコピーして携帯し、旅先で隙間時間に、白紙に書き出すというアクティブリコールを行いました。結果はどうなったか。インド旅行直後に受けた試験は、余裕を持って合格することができました。

アクティブリコールは、記憶を思い出す手がかりが少ない状態のほうが学習効果が高いことを示唆する報告があります。空欄問題や多肢選択形式問題を解くよりも、手がかりなしに記憶から情報を引き出すほうが、負荷が高く、記憶への定着が促される可能性があります。「白紙に向かって思い出す」勉強法を勧めるのは、脳に負荷をかけるためなのです。

アクティブリコールの効果は多数の実験で明らかになっています。例えば、心理学者のローディガーとカーピックが2006年に発表した研究があります。120人の大学生に14分間文章を何度も読み返す勉強と、7分間文章を読んで、次の7分間に文章の内容を思い出せるだけ書き出すアクティブリコールの勉強をしてもらった実験。被験者に2日後と1週間後に文章を思い出してもらったところ、アクティブリコールの勉強をした学生のほうが明らかに文章を覚えていたという結果になったのです。

アクティブリコールは知識の暗記だけでなく推論など、知識の応用にも効果があることがわかっています。また、方法もたくさんあります。本を開けないような満員電車の中で、昨日読んだり聞いたりした情報をただ思い出すことも、立派な勉強だと考えています。

■「人に教えるようにブツブツ呟く」が最強

効果抜群のアクティブリコールですが、僕はさらに学習効果を高める方法と組み合わせます。勉強した内容を白紙に書き出すときに、「誰かに教えるように」「ブツブツ呟きながら」書き出すのです。

時代劇ではよく、子どもが『論語』などの素読をするシーンが出てきますが、文章を黙読するよりも、声に出して読んだり、書いたりするほうが記憶しやすいことが、昔から知られています。専門的には「プロダクション効果」と呼ばれています。

自分が覚えたことを誰かに教えたり、教えようとしたりすることも「プロテジェ効果」と呼ばれ、脳内の情報整理につながり、記憶の定着を促すことが、研究で確かめられています。興味深いことに、実際に誰かに教えなくても、「誰かに教えること」を前提に勉強すれば、学習効果がアップするという研究報告もあります。例えば、読んだ本の内容を会社の同僚や家族に話すことで、本の内容を深く理解できたり、忘れにくくなったりする効果が期待できます。学校から帰ってきた子どもに、「今日はどんな勉強をしたの?」と質問してアクティブリコールさせることは、子どもにとって効果的な復習方法だと言えるでしょう。

アクティブリコール、プロダクション効果、そしてプロテジェ効果。3つを組み合わせると、「白紙に向かって、誰かに教えるように、声を出しながら書き出す」のが効果的な勉強法になるわけです。僕も医学部時代から現在に至るまで活用しています。

■一定期間に何度も復習すれば忘れない

学習効果を高めるには、勉強のスケジュールの組み立て方もポイントです。

ある学習範囲を一度に続けて勉強することを「集中学習」と言います。ただ、試験前にどれだけ一夜漬けで頑張っても、試験が終わると覚えた内容を忘れてしまうのは皆さんも実感があるでしょう。

せっかく頑張って勉強しても、時間が経てば、覚えたことを忘れてしまうのが人間です。ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスは、無意味な音節を覚える実験で、2日後には約4分の3、1カ月後に約8割を忘れてしまうことを記述、ここから有名な「忘却曲線」が生まれました。

一夜漬けはNG。復習を繰り返すと記憶が定着する

忘却曲線を乗り越えるためには「復習」が重要となります。脳の海馬という部位には、脳に入ってきた情報を長期記憶として保存すべきかどうかを仕分けする機能があります。一定期間内に何度も入ってきた情報は、「重要だから保存しよう」と、海馬は判断します。したがって、繰り返し復習するのが、記憶にとって肝心なのです。

長く記憶したければ、集中学習ではなく「分散学習」を意識してください。同じ学習範囲を同じ時間をかけて勉強するにしても、例えば7時間かけて一夜漬けをしても、長期的な学習効果はほとんどありません。勉強内容を小分けにして1日1時間ずつ、間隔を開けて勉強する分散学習のほうが、はるかに効果的なのです。

この分散学習と、先ほどのアクティブリコールを合わせた「連続的再学習」が最高の勉強法だと考えます。

また、同じ内容を集中的に勉強する「ブロック学習」よりも、近い分野で少しだけ異なる内容を交互に勉強する「インターリービング」のほうが、効果が高い勉強法です。例えば公認会計士の資格であれば、一日中財務会計の内容を勉強するよりも、財務会計と税務を交ぜて勉強したほうが長期的な記憶に定着しやすくなるでしょう。

異なる科目を交互に勉強すると効率よく覚えられる

米国南フロリダ大学の研究によれば、立体の体積の求め方について大学生にブロック学習とインターリービングをしてもらったところ、最終試験の正答率は前者が20%だったのに対して、後者は63%と大差がつきました。

■思い出せなくても勉強中なら気にしない

これらの勉強法は、資格や試験の勉強だけでなく、新しい知識を身につける場合、どのような状況でも役に立ちます。例えば、本を読んだ後、1週間後に内容のほとんどを忘れてしまう人が多いと思います。しかし、読書でもアクティブリコールと分散学習を組み合わせれば、どんな本の内容でも覚えやすくなります。

勉強中は白紙に向かっても思い出せずに、「覚えられない」と自信を失ってしまうかもしれません。ただ、一喜一憂する必要はありません。大事なのは、試験などの本番で効果を実感できること。本当に学習効果の高い勉強法をぜひ実践してください。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

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安川 康介(やすかわ・こうすけ)
米国内科専門医
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター初期研修修了後、2009年に渡米。University of Minnesota内科レジデンシー、Baylor College of Medicine感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。南フロリダ大学内科助教。

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(米国内科専門医 安川 康介 構成=野澤正毅 撮影(書籍)=市来朋久 図版作成=大橋昭一)

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