「日本産白桃のショートケーキ」が飛ぶように売れる…甘いもの大好きな外国人が「シャトレーゼの味」を推すワケ
プレジデントオンライン / 2024年8月27日 10時15分
■“日本クオリティ”をどうやって海外に届けているのか
山梨県の甲府市に本社、工場を持つシャトレーゼは主力商品の和洋菓子の製造販売に加えてワイナリー、ホテル、ゴルフなどの運営事業を行っている。グループの従業員数は4200人で売上高は1484億円。海外進出している店舗の売り上げも入っている。[連結対象:菓子(国内外)、ワイナリー2、ホテル11、ゴルフ場20=2024年3月期]
同グループ菓子部門の成長に力を発揮しているのが「ファーム・ファクトリー」という製造、物流、販売のシステムだ。生菓子は日持ちがしないため、通常であれば店鋪のなかで製造する。それに対してシャトレーゼは工場で作る。まず工場が契約している農場から牛乳、乳製品、果実などの素材を調達し、製造する。
できあがった商品は専用便で各店舗に配達し販売。工場で大量生産しているため、価格を抑えることができる。物流は専用トラックなので、作りたてを素早く国内の店舗に配送できる。しかも、2024年には海外店舗を合わせて1000店舗を超えた。ここまで大きな生菓子の製造販売チェーンはシャトレーゼだけだ。
さて、ここからが本題だが、海外の店舗でも、シャトレーゼはファーム・ファクトリーを上手に援用した製造、物流システムを構築した。そのため、商品の質を落とすことなく、しかも、日本で売る場合とあまり変わらない価格で販売している。
■ケーキ台は冷凍、果物は冷蔵してアジア各国へ
現在、シャトレーゼが海外に展開している店舗数は計177店舗(2024年6月末時点)だ。
国別では次の通り。
シンガポール 42
インドネシア 41
マレーシア 21
タイ 4
ベトナム 4
UAE 3
わたしはシンガポールでも現地取材したがシャトレーゼは同国内でナンバーワンの店舗数を誇るスイーツ・チェーンになっていた。他のアジア地域でいえば、香港が店舗数が最大で、現在、もっとも伸びているのが人口2億7000万人の国、インドネシアとのこと。
前述の通り、海外店舗への輸送はファーム・ファクトリーシステムを応用している。具体的には船便と航空便の使い分けだ。
ケーキの台の部分、つまりスポンジケーキと生クリームは瞬間冷凍したものを船便で運ぶ。日本からインドネシア、ベトナム、タイで約10日間、シンガポールなら1週間といったところである。台の上に載せる日本産の果物は冷蔵にして飛行機で運ぶ。
店舗ではケーキの台の部分は解凍する。そして、空輸した新鮮な果物をその上に載せる。果物は季節によって変わっていく。春はイチゴ、夏であれば白桃、秋になればシャインマスカットなどのぶどうだ。
■各国に共通するのは「モナカアイス」人気
ケーキの台は船便、果物は航空便で運び、店頭で合体させるのがシャトレーゼの創案だ。台の部分を船で輸送することで商品の価格を抑えている。もし、ケーキ全体を毎日のように空輸していたら、ケーキひとつの値段がバカ高いものになってしまうだろう。
同社海外事業部の部長、渡邊秀太郎はメールの回答で次のように教えてくれた。
「アジア各国への輸出方法はどこも基本は冷凍船便です。そうして商品価格を適正にしています。国によって売れる商品は少しずつ違っていますから、ひとことでは申し上げられません。全体感としてお伝えできるのは『アイスクリーム』です。
昨今、日本のアイスクリームがアジアで流行っているという報道がありますが、確かにアイスクリームの販売比率は各国で年々伸びています。特にクリーム系のモナカアイスの支持は高いです。
シャトレーゼの海外展開は路面店ではなくショッピングモールが中心です。これまでは食べ歩きの需要を狙ってアイスクリームのバラ販売に注力してきましたが、今ではアジアでも家庭用冷凍庫の普及率が高まっていますから、持ち帰り需要を作っていこうと取り組みを始めています」
■「日本産果物」のケーキをリーズナブルな値段で
わたしが訪ねた店舗はバンコクの中心、BTS(スカイトレイン)のチットロム駅に直結しているモール、セントラルワールドのなかにある。セントラルワールドにはショップ、レストラン、フードコート、スーパーマーケット、シネマコンプレックスがあり、店舗の数は500以上。巨大モールである。
シャトレーゼの店舗があるのは3階。エレベーターを上がっていくと、目の前にある。並んでいたのはケーキ、焼き菓子、和菓子、せんべい、実演販売のアップルパイなど、店頭の様子は日本の店舗と変わらない。また、販売するだけでなく、店内にはカフェがあり、カフェラテ、抹茶ラテなどが飲める。
店舗に掲げた看板の表記はアルファベットだった。店内の値札はタイ語と英語の表記で、ところどころに「日本直輸入」と書かれた文字が貼ってあった。
イチゴのショートケーキがホール(14センチ、直径)で850バーツ。約3400円。日本だと2700円だから、日本人観光客にとっては少し高いと感じるかもしれない。しかし、日本産果物と生クリームを使っていることもあって、タイ人は非常にリーズナブルな値段だと捉えている。高価なケーキとは思っていない。
ちなみにわたしが訪ねた7月は日本産イチゴの旬が終わっていたので、ショートケーキはカリフォルニア産のイチゴを使ったとのこと。
■タイ人だけで運営するローカル店舗
話をしてくれたのはマネージャーのワンウィモン・チュライスィンさん、そして店長のオーラピウンさんだ。ワンウィモンさんの通称は「ミュー」。なぜ「ワンウィモン」が「ミュー」になるのかは定かではない。
ともあれ、彼女のことはミューさんと呼ぶことにして話を進める。彼女はセントラルワールド店のマネージャーではなく、タイにある店舗すべての担当。日本語を解す人だけれど、日本に留学したわけではなく、バンコクの商工会議所にある日本語学校で学んだと言っていた。
「日本には個人的な旅行で2度、行きました。一度はシャトレーゼの本社と工場を訪ねました」
同社に入って6年目で、最初は菓子類の輸入手続きをやっていた。現在は店を回って運営についての相談に乗ったり、新店舗の開発なども担当している。
ミューさんは言った。
「タイには常駐の日本人社員はいません。タイ人だけでシャトレーゼ店舗の運営、販売促進などをやっています。時々、スーパーバイザーとして日本人社員がやってきます」
シンガポールのシャトレーゼには日本人社員が常駐していた。そこに比べるとタイはローカル化が進んでいる。
■夏は白桃のショートケーキが一番人気
ミューさんは続ける。
「セントラルワールド店はタイにある店舗のなかで売り上げは一番ではありません。しかし、初めて出した(2017年)店です。こちらにいる日本人駐在員の方、家族にはなじみのある店だと思います。
今のお客さんの大半は欧米人観光客と地元のタイ人です。以前、セントラルワールドには伊勢丹が入っていたので、日本人のお客さんが多かったのですが、撤退した後は少なくなりました。欧米から来た方たちが日本風のケーキを食べています」
同店で客を問わず、いちばん人気がある商品は「日本産の生の果物と生クリームを使ったケーキ」だ。夏であれば白桃を載せたもの、秋はシャインマスカットだという。
「タイ人は非常に甘いものが好きです。そしてタイのケーキはバタークリームのものが多いです。普通のタイ人にとって、シャトレーゼの生クリームは甘く感じません。しかし、だんだん慣れてきたようです。甘くなくて、きめの細かい生クリームを喜んで食べてくれます」(ミューさん)
■タイでは「シャトレーゼ」が発音しにくい
生の果実であればどこの国のものでもいいわけではない。あくまで「日本産」でなくてはダメなのだ。その日、まず売り切れたのは日本産の白桃が載ったケーキだったのである。
また、タイの店舗ではタイ産の果物を載せたケーキを売ったこともある。今年(2024年)の3月、プラムマンゴーというタイの特産品を生クリームのケーキに載せてみた。タイの従業員が考えたものである。しかし、客はプラムマンゴーが載ったケーキよりも日本産のイチゴのショートケーキを買っていった。やはり日本産果物が人気だった。
マネージャーのミューさん、店長のオーラピウンさんと話していると、ふたりとも「シャトレーゼ」という単語の「ゼ」の音を「セ」と発音していた。しかも、非常に言いにくそうなのである。
「どうしてですか?」とわたしは訊ねた。
すると、ミューさんが「タイ語には『ゼ』の音はないんです」と答えた。
「ない音を発音するのは難しい。お客さんも『シャトレーゼ』とは言いにくいと思います。そこはお店が損をしているところかもしれません。しかし、慣れれば言えるようになります」
■売れないものは「日本的なビジネス」で解決していく
海外への進出で成功するには商品がよくて、価格がリーズナブルなだけでは足りない。その国の文化を知り、文化に合わせる姿勢が必要になる。ミューさんたち、現地で運営するタイ人は日本人が気づかない細かい点をアドバイスする役目を担っているわけだ。
さて、セントラルワールド店で売れるのは日本産果物と生クリームのケーキだけではない。
「和菓子ではバターどら焼きが人気です。タイ人の好きな甘いバタークリームと甘いあんこの組み合わせだから、嫌いなタイ人はいません。また、お客さんの目の前で作っているアップルパイも売れます。アップルパイは冷凍の生地と中身を持ってきて店で焼いています。
アイスクリームも売れます。タイは一年中、暑いから、いつでも売れます。自宅に冷凍冷蔵庫があるタイ人はパックのアイスクリームを買っていきます。パックのアイスクリームはこれからもっと売れるでしょう」
商品のなかで、生菓子に比べると動きが鈍いのが、マドレーヌ、フィナンシェといった焼き菓子だ。だが、ミューさん、オーラピウンさんたちはギフト用の詰め合わせにして販促した。すると、売れるようになった。彼女たちは売れない状態をそのまま放置するのでなく、アイデアを出して改善している。日本的なビジネス手法で問題を解決している。
■世界一の微笑みで、世界一の果物を売る
わたしが話を聞くためにテーブルに腰を下ろしたら、瞬時に店長のオーラピウンさんが「届いたばかりです」と山梨産の白桃をむいて、フォークをつけて出してくれた。一緒に紙コップに入った冷たい水も出してくれた。海外の店でここまでサービスされることはよくあることではない。果物をむいて持って来るなんて、まるで日本の田舎の実家を訪ねた時のような接遇だった。
また、オーラピウンさんの接客を見ていると、欧米人であれば英語で、日本人であれば日本語で、タイ人であればタイ語で話す。極上の微笑みとともに抑制された声で「おいしいよ」と声をかける。商品を買っていった人に対しては「ありがとうございます」と胸の前で手を組み、拝むようにして送り出す。さすが「微笑みの国、タイ」の人たちである。
タイのスタッフの接客サービスは日本や他のアジア諸国を超えている。何より笑顔が身についている。はにかみながら、それでいて、とびきりの笑顔をサービスしてくれる。わたしは果物については日本産が勝っていると感じる。しかし、微笑みと接客サービスについてはタイの人たちにはかなわない。それがわたしの実感だ。
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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