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「最悪の就職氷河期」以上にカネも夢も希望もない…政府の大失策が招いた「若者が結婚しない問題」の本質

プレジデントオンライン / 2024年8月23日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■日本に「ラストチャンス」はもうやってこない

「失われた30年」と言われますが、この30年はある意味では「産まれてくるはずの子どもたちが失われた30年」でもありました。それは同時に「結婚が失われた30年」です。

本来発生したであろう結婚や出生が失われた裏で、生み出されてしまったのが氷河期世代の若者です。

氷河期世代とは、1990年代~2000年代前半にかけて就職期を迎えた世代で、1970年から1982年に生まれた世代を指します。2024年現在では、主に40代前半から50代になっています。

ちなみに、1995年に25歳だった氷河期世代の若者が50歳を迎えたのが2020年ですが、この年の国勢調査で50歳時未婚率(生涯未婚率)は男女とも過去最高記録(男28.3%、女17.8%)を打ち立てています。

少子化問題について、政府もメディアも毎年のように「今年がラストチャンス」などと言いますが、日本の少子化は1990年代に確定しており、ラストチャンスはすでに随分前に終了しています。

日本の少子化対策が根本的に外れであることは、当連載でも何度も指摘してきた通りですが(〈「子育て支援」はむしろ少子化を加速させている…マスコミがばら撒いた「子育てには金がかかる」という呪い〉参照)、そもそも、今の出生数が減少し続けているのは、結婚した夫婦が子どもを産んでいないからではありません。

■日本から「母親」が消えてしまった理由

これも過去に何度か書いていますが、一人の母親が産む子どもの数は1980年代と比べても減少しているわけではなく、出生数が減っているのは産む母体としての母親の数が減少した「少母化」によるものだからです(〈政府の対策は「ひとりで5人産め」というようなもの…人口減少の本質は少子化ではなく「少母化」である〉)。

なぜ「少母化」が起きたかといえば、1990年代後半から2000年代前半にかけて「本来は来るはずの第3次ベビーブームが来なかった」からです。

1970年代前半、日本は第2次ベビーブームを迎えました。その時に生まれた子どもたちが結婚適齢期を迎えるのがちょうど1995年以降だったわけですが、タイミングが悪いことに、その時期日本はバブル崩壊後の大不況時代に突入していました。新卒有効求人倍率がもっとも低くなり、若者の完全失業率がもっとも高かった時期です。

ベビーブームどころか、当時の若者は自分たちの就職や生活に汲々としていて、結婚どころではなかったでしょう。

当時、氷河期世代の若者が置かれた環境は悲惨だったのですが、その悲惨な環境を放置した結果が現在の少子化につながっています。

■20代の名目所得は20年超で1%しかあがっていない

では、氷河期世代と比べて、今の令和の若者の環境は良くなったのでしょうか。

いいえ、むしろ、それ以上に最悪な状況にあります。冒頭で、「生まれてくる子どもたちが失われた30年」と表現しましたが、同時に「若者の経済環境がまったく改善されなかった30年」でもあります。確かに、求人倍率や失業率という見かけ上の雇用環境の数字は格段に改善されていますが、氷河期より今の若者のほうが経済的に苦しくなっています。

国民生活基礎調査より、氷河期渦中であった2000年から2023年までの20代の所得の推移を見てみましょう。グラフは、2000年を1とした場合の推移で示しています。

【図表1】20代実質可処分所得2000~2023年推移

確かに、2000年と比べれば、20代の名目所得はわずか1%とはいえ増えています。しかし、23年もかかって1%しかあがっていないことのほうが異常です。

■就職氷河期よりも最悪な時代を生きている

加えて、その途中においては、リーマンショック後の2010年ごろにかけて名目所得は減少し続けた挙句、やっと23年前と同等に戻ったにすぎません。要するに、若者の所得はここ20年余もまったく増えていないということです。

そして、問題は名目所得ではなく、可処分所得のほうです。いわば、額面の給料が多少増えたところで、それ以上に税金や社会保険料などの国民負担が増加しているために、令和の若者の手取りは2000年の若者の手取りよりむしろ10%もマイナスとなっています。さらに、最近では物価高もあり、実質可処分所得で計算すれば、2000年対比でマイナス16%にもなります。

就職先がなく失業率も高く、就職しても給料があがらなかった最悪の氷河期時代の若者よりも、令和の若者の経済環境のほうが悪化しているということになります。

繰り返しますが、第3次ベビーブームを消失させた要因は、当時の若者の経済環境の悪化によるところが大きかったわけですが、それらがほぼ30年近くまったく改善されないまま現在に至っているのです。

■国民負担率が増えるほど婚姻数も出生数も下がる

直近では企業の賃上げのニュースも話題になっていますが、賃金があがればいいという問題ではありません。もちろん賃金があがることは喜ばしいことですが、「給料があがった以上に国民負担で引かれる金額が増えて手取りが減っている」という状況こそが問題なのです。

少なくともここ20年スパンで見れば、国民負担率が増えれば増えるほど婚姻数も出生数も下がり続けるという完全に強い負の相関があります。私はこれを「国民負担率増による少子化のワニの口」と呼んでいます。

【図表】国民負担があがれば婚姻数・出生数は減る

手に入れてもそれ以上に持っていかれる。まさに、児童手当など給付を拡充するといいながら、子育て支援金などの新たな負担増を課す政府の少子化対策と一緒です。

■若者が若者のうちに結婚できなくなっている深刻さ

働いて額面の給料をあげても、それ以上に持っていかれて、手もとに残るお金がそれ以前より少なくなってしまう。そんなことをされれば、誰もが学習性無力感を植え付けられます。頑張っても意味がない、頑張れば頑張るほど巻き上げられると思い知らされるからです。無力感に苛まれれば、人間は行動をしなくなります。

抑制される行動の最たるものが、結婚や家族を持つことなどの行動です。今や結婚や子育ては、コストやリスクが伴う上に、ある程度の経済的余裕がなければ手出しのできない領域になっています。

事実、少子化によって全体の児童のいる世帯数は激減していますが、こと世帯年収900万円以上の世帯に限れば、2000年と比較しても、児童のいる世帯はまったく減っていません。減っているのはかつて子育て世帯のボリューム層である所得中間層が減っているからです。これは、つまりは、若者が若者のうちに結婚できなくなっていることによります。

内閣府が実施している国民生活に関する世論調査から、長期間の20代の若者男女の「将来の経済的不安(今後の収入や資産の見通しについて不安である)」の推移を追えば、いかにこの期間、継続して経済的不安ばかりを募らせてきたかがわかります。

渋谷
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

■この状況は明らかに政治の失策である

例えば、データのある1996年の20代の「将来の経済的不安」は、33%に過ぎませんでしたが、2023年には73%へと増加しています。氷河期世代の若者より、令和の若者の経済的不安が、実に2.2倍にも増えているということになります。

【図表3】若者の「将来の経済的不安」と初婚率

そして、初婚の多い25~29歳男性の人口千対初婚率と照らせば、「経済的不安」が高まれば高まるほど初婚率は減るという強い負の相関関係にあります(相関係数▲0.8696)。

氷河期世代の若者よりも手取りが少なくなり、経済的不安が高まっている令和の若者。まさに今、「結婚が失われた30年前の再生産」が行われていると言えるのではないでしょうか。しかも、それは誰のせいにもできない、どうにもならないような原因からではなく、明らかに、可処分所得を減らし続けた国民負担増による政治的なミスによるものです。

■若者を守るために40代が犠牲を強いられている

氷河期世代より過酷な令和の若者の現状を正確に把握した上で、今の若者に対して必要な措置を講じることは急務ですが、さりとてそれは若者だけを救えばいいという話ではありません。令和の若者の経済的不安を募らせているのは、自身の経済環境だけではないからです。

一部の企業では、人手不足の折、20代の新卒採用のために初任給や20代の年収をあげるかわりに、40代の年収が抑えられている例もあります。40代での早期退職も増えています。企業は、全体の人件費を増やすのではなく、それを若者に振り分けてしのごうとしているのでしょう。割を食うのは40代です。

20代の実質可処分所得が2000年対比で16%減であることはすでに述べましたが、40代のそれもまた低下しており、同2000年対比で17%減です。20代も減っていますが、40代もそれと同等以上に減っているわけです。

横断歩道と日本の人々
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■将来の不安を払拭しなければ婚姻数は増えない

つまり、氷河期世代の若者は20代から40代にかけてずっと実質可処分所得が減り続ける人生であったわけですが、ここにも、今の20代の若者が「将来の経済的不安」を募らせる要因が隠されています。

20代の若者にとって、40代の上司や先輩は、自分の20年後の姿です。その20年後が明るくないのに、今の若者に将来の希望を持てというのは無理があるでしょう。

30年前の就職氷河期ならぬ「令和の結婚氷河期・出生氷河期」を発生させないためには、若者もおじさんも、未婚も既婚も、子無しも子有りも、「頑張って働いた分はちゃんと手に入れられる」という当たり前の状態に戻し、「だからこそ安心して今、お金を使っても大丈夫だ」と皆が思えるような全体の底上げにつながる対策が必要だと考えます。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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