「80点とれたらゲームを買ってあげる」は逆効果…小中学生4万人調査で判明した子どもを伸ばす声かけ
プレジデントオンライン / 2024年9月1日 9時15分
※本稿は、川島隆太『脳科学研究がつきとめた「頭のよい子」を育てるすごい習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「脅し」「報酬」は成績向上には効果なし
明日はテストなのに、子どもがまったく勉強しようとしない──。そんなときには、いったいどんな声かけがベストなのでしょうか。
「テストの点数が悪かったら、今月のおこづかいは“なし”だからね!」
「テストが80点以上だったら、欲しがっていたゲームを買ってあげるよ」
意識せずにこんな「声かけ」をしている親御さんは少なくないでしょう。
しかし、親御さんがよかれと思って発した言葉でも、それが不安をあおったり、ごほうびを約束したりするような声かけだと、子どもの成績には悪影響にしかならない可能性が高いといえます。
■小中学生4万人調査でわかった家庭の「超」重要習慣4つ
なぜなら、私たちの研究グループが行った研究で、「目的意識を持って自主的に学習する子どもほど学力が高くなる」傾向があることが明らかになったからです。
不安感やごほうびからは、目的意識は芽生えない、ということです。
それでは、いったい何が子どもの目的意識を引き出すのでしょうか──。
仙台市の小学5年生から中学3年生、約4万3000人を対象にした調査・分析から、次の要素が浮かび上がってきました。
■[習慣1]家族にしっかり話を聞いてもらえる環境がある
「家の人に話をしっかり聞いてもらっている」という項目に対して、成績上位4分の1グループは約60%が「当てはまる」と回答しました。対して、成績下位4分の1グループは約50%と、約10%の差がありました。
「なんだ、10%か」と、とっさに思ってしまうところですが、統計的には意味のある差といえます。家族とのコミュニケーションが密であるほど、学力が高まる傾向にあることは間違いありません。
私たちは、同時に「何のために勉強をするのか?」を問う質問群の中で、「自分の将来のため(目的意識)」や「知りたいことがあるから(探求心)」について自分がどれだけ当てはまるかを自己評価してもらうアンケート調査も行いました。そして、これらの調査データを心理学、認知科学、脳科学の研究者に提出して解析を依頼。
その結果、家族とのコミュニケーションが多い子ほど、目的意識や探求心が高まる傾向のあることがわかったのです。
■[習慣②]親子で一緒に過ごす時間を長くする
コミュニケーションの時間の長さも、子どもの脳には非常に大きな影響を与えます。
私たちは、5歳から18歳の230人の子どもの脳画像と、親と過ごす時間に関するアンケート調査、そして知能検査を解析した研究からその事実を明らかにしました。親子で一緒に過ごす時間が長い子どもほど、言語や言外のコミュニケーションに関わる領域の体積が大きく発達していたのです。
こうした脳の変化が子どもたちにどのような影響をもたらすのか。その答えが知能検査にはっきりと表れました。
2回行われた知能検査で、1回目は親と過ごす時間が長い子どもほど言語能力が高いことが示され、その数年後に行った2回目の検査では、言語能力の上昇がより大きいことがわかったのです。
子どもたちの言語能力を飛躍的に向上させるブースターは「親子でたくさん会話すること」だったのです。
■[習慣3]その場で〈すぐに〉ほめる
子どもにポジティブなほめ言葉をかけると、前頭前野が非常に強く反応します。
つまり、不安やごほうびなどではなく、「親のほめ言葉」こそが、子どものやる気に火をつける効果が高いということです。
ただし、ほめるのにはコツがあります。1つは、「その場ですぐにほめること」です。
子どもが宿題のプリントを手に、「ほら、この問題は難しかったけれど、すぐにわかったよ。マルをつけて!」と言ってきたとしましょう。
そのときにちょうど掃除機をかけていたり、料理をしていたりすると、「終わるまでちょっと待っててね」と言ってしまいがちですが、それはNG。家事が終わってからほめたとしても、子どものやる気には火がつきません。
子どもがプリントを持ってきたときに、手を止めてしっかり向き合い、正解した問題に大きくマルをつけながら、「よくできたね、いつもがんばっているね」と“すぐにほめる”のが、正解です。
子どもの前頭前野を強く刺激するには、「即時性」が非常に重要なのです。とにかく「その場で」「すぐに」ほめることを大切にしてください。
■[習慣4]結果ではなく、プロセスをほめる
学力を向上させるためには、子どもの「内発的意欲」が大切です。
なぜなら、自分の内側から湧き出てくる「目標を達成したい」「知りたいから調べたい」「知らないことがわかるのは楽しい」といった気持ちが、子どもが学習をするうえで、強烈なモチベーションになるからです。
対して、「叱られたくないから」「ごほうびをもらえるから」「人からすごいと言われたいから」というのは、「外発的意欲」です。
私たちの調査によると、内発的意欲がある小中学生と、外発的意欲がある小中学生を比較したとき、より学力が高いのは、やはり内発的意欲があるグループでした。
そのため、テストでよい点をとってきた子どもをほめるときに「いい点ですごいね」と結果をほめると、外発的意欲をかきたてることになってしまい、学力アップどころか逆効果になることも。
内発的意欲を高めるためには「毎日がんばっていたもんね」「できない問題も何度もやり直したからだね、すごいね」と、子どもがやるべきことを行ったプロセスに絞って、具体的にほめることが重要です。
■子どもに対する「侮蔑ワード」は、平手打ちするのと同等
一方、やる気スイッチである「ほめ言葉」とは真逆のネガティブワードを子どもへぶつけると、いったい何が起こるのでしょうか?
実は、「バカ」「頭が悪い」「ダメな人間だ」などの侮蔑的な言葉をかけると、「顔面平手打ち」をしたのと同程度のダメージを脳に与えることがわかっています。
オランダのユトレヒト大学が行った研究によると、79人の被験者の頭部に脳波計と電極を装着したうえで侮蔑と賛辞、それぞれの意味を含む文章を読み上げてもらったところ、被験者たちの脳は侮蔑の言葉に対してより素早く、敏感に反応することが確認されました。
さらに、何度も侮蔑が繰り返されると、頬に平手打ちを受けたときと同等のダメージが脳に加わり、それが長期間留まることもわかりました。
■親からの強烈な否定の言葉は一生刻まれる
近年、家庭内や教育現場でのモラルハラスメントが問題視されるようになっています。
家族や親しい間柄になると、遠慮がなくなってしまい、感情的になってついつい、相手に辛辣(しんらつ)な言葉をぶつけてしまうこともあるでしょう。しかし、そんな侮蔑的な言葉が、例えば親から子どもへ日常的に注がれることは、まさしく「言葉の暴力」となってしまうのです。
親御さんの側も、自分の経験を振り返ってみれば、「子どものころに親からかけられた否定的な一言が今でも忘れられない」と思い当たる人が、少なからずいるでしょう。
心と記憶に刻まれて、自尊心や自己肯定感を損なうことにもつながり、子どもの成長にとって何もよいことがありません。まさに、平手打ちレベルの「脳へのダメージ」です。
ネガティブワードを子どもにぶつけることは、家庭内では禁忌(タブー)とすることをおすすめします。
■「明るい未来」について親子で会話する重要性
「将来、こんなことをやりたい」「いつかこんな夢をかなえたい」。
そんな明るい未来を夢見ている子ども、将来の目標を持っている子どもほど学力は伸びていきます。
東北大学の研究チームが仙台市の中学生のアンケート調査の結果を、AIを使って分析したところ、「将来の夢がある」と答えた子は、そうではない子と比べて偏差値が高くなる傾向があることがわかりました(図表1)。
要は、人は目標がしっかり定まることで、はじめてグンとやる気が高まり、がんばることができるということ。
「将来は医者になってたくさんの人を助けたい」といった夢があれば、数学や理科をしっかり勉強しなければと考えます。「いろんな国でいろんな人と一緒に働けるようになりたい」なら、真剣に英語に取り組むようになるものです。
■子どもは学年が上がるにつれ「夢」や「目標」を失う
ところが、学力向上のブースターになるはずの「将来の夢」を持っている子どもが、学年が上がるにつれて少なくなる傾向にあることも、私たちの調査でわかりました(図表2)。
小学3年生では約9割の子どもが「将来の夢や目標」を持っていたのに、学年が上がるにつれてどんどんその割合が減り、中学3年生では7割弱になるという結果でした。
いったいどうすれば、将来の夢や目標を子どもが持ち続けることができるのでしょうか? その答えも、調査から見えてきました。
■家庭で将来について会話する子どもの9割が夢や目標を維持している
小学5年生から中学2年生の子どもを1年間追跡調査したところ、「将来について家の人と話し合っている」と答えた子どもの9割が、夢や目標を持ち続けていることがわかりました(図表3)。
逆に、「将来について家の人と話し合っていない」と答えた子どもは、夢や目標を持ち続けていた割合が7割を切っていました。
■「子どもの明るい未来」を普段から話し合う家庭を目指そう
ぜひ、子どもの明るい未来について、家族で日常的に話し合ってみてください。
夢に近づくためには何が必要なのか。どんな学習をすればいいのかを、一緒に調べてみてもいいでしょう。
夢をかなえるための具体的なアクションが、子どもをワクワクさせ、そこからムクムクと意欲が湧いてくることでしょう。
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東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。
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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)
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