これをやったらわが子の学習努力がすべて"水の泡"……脳のパフォーマンスを急落させる家庭の「音」「室温」
プレジデントオンライン / 2024年9月2日 9時15分
※本稿は、川島隆太『脳科学研究がつきとめた「頭のよい子」を育てるすごい習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■勉強中は「音」と「映像」を排除
学習において「脳のパフォーマンスを最大限に引き出すポイント」がいくつかあるのをご存じでしょうか。
まずは、学習環境の絶対条件を押さえることが必要不可欠。具体的には、勉強中は「音と映像をできる限りシャットアウトする」こと。この点をしっかり押さえておかないと、どんなによい学習法や参考書を用いても、すべて水の泡になってしまいます。
それがよくわかる次の実験を、ぜひ一度、親子でやってみてください。
まず、ストップウォッチを用意して、1から100までの数を全力で速くかぞえます。かかった時間はメモしておいてください。
次に、同じことを、テレビをつけて行います。
かかった時間を比べてみれば、きっと一目瞭然でしょう。当然ながら、テレビをつけた場合のほうが、時間がかかっているはずです。
■脳はマルチタスクが苦手
理由は、「脳はマルチタスクが大の苦手。シングルタスクではじめて最大限のパフォーマンスを発揮する」からです。
勉強中に音楽が流れてくれば、聞こえた音を調べる聴覚野が働き、それが歌の場合は、歌詞の意味を理解するための「ウェルニッケ野」も働きます。
もしYouTubeなどの映像付きなら、目にしたものが何かを調べるための視覚野もせっせと働くことでしょう。
これらは学習でも活発に使う脳の部位です。なのに、学習と関係のないことで働かせてしまっては、当然ながら勉強の効率はガクンと落ちてしまいます。
■「ながら勉強」は最悪
もし、先の実験で「テレビをつけたときのほうが速かった!」という場合は、逆にテレビの内容をまったく覚えていないと思います。テレビの音に注意が向かないように脳を働かせた結果です。
当然、その分、脳には負荷がかかるため、長時間の集中は難しくなります。つまり、「脳のエネルギーの無駄使い」ということです。
私自身、論文を書くときには耳栓をして、なるべく無音の中で行うようにしています。自分の息子たちには、勉強するときは部屋にスマホを持ち込まないことを約束させていました。
皆さんもぜひ、「ながら勉強」が癖になる前に、お子さんによく言い聞かせて、「勉強中は無音にする」約束をしておきましょう。
併せて、お子さんがリビングで勉強をはじめたら、親御さんはきっぱりとテレビやラジオ、音響機器をすべてオフにすることを習慣にしてください。
■脳のパフォーマンスを左右する「室温」
さらにもう1つ、勉強中の脳のパフォーマンスを高い状態で維持するために欠かせない重要な要素があります。「気温」と「室温」です。人間の脳は、気温や室温が高過ぎても、低過ぎても、その働きを著しく落としてしまいます。
特に近年は、夏の気温上昇が問題視されています。猛暑で熱中症を発症すれば、体内のあらゆる臓器の働きが一気に低下し、多臓器不全に陥ってしまいます。
アメリカ公立学校の調査では、摂氏32度の日に試験を受けると、最適とされる摂氏22度の日と比較して、標準偏差で14%の成績低下が見られることが分かっています。
たとえ熱中症にまで至らなくても、気温が高過ぎる状態になれば、脳は働きを大きく低下させてしまう可能性があるのです。
■脳は「暑がり」で「寒がり」と心得る
暑い季節は、勉強をするときにはエアコンで室温を適温に保つこと。そして、学校や塾に着いたときに暑さでぐったり……とならないように、通学、通塾時には保冷材で首の後ろをしっかり冷やすようにしてください。
一方、冬場は気温の低下に注意が必要です。慶應義塾大学の調査では、リビングの室温が低い住宅に住む人は、脳の神経拡散度が低く、脳内の情報伝達の効率が悪いことが知られています。
WHO(世界保健機関)は、健康のために「冬場の住宅の室温は最低でも18度以上」と勧告しています。脳の健康維持、パフォーマンス維持のためにも、18度を下回らないように室温をコントロールすることをおすすめします。
■学習前の2分間の音読&計算で「記憶力」「集中力」がUP
さらに、学習前の「脳の準備体操」も重要です。
学習をはじめたとしても、脳がだらけ切っている状態では時間もかかるし、記憶の定着もよくありません。逆に、脳をしっかり活性化させてから勉強をすれば、学習効率を高めることができます。
脳のパフォーマンスを最大限に引き出すために、何をすると最も効果的なのでしょうか。それは音読、もしくは、簡単な計算を素早く行うことです。
私がこれまでに行った膨大な研究の中で、最も脳が活性化する様子を見せたのが「音読」でした。次いで、ひとケタの足し算や引き算などの簡単な計算です。
黙って難しい本を読んだり、難解な数学の問題を解いたりしても、脳はそこまで活性化しません。不思議なことに、声に出して文字を読んだり、小学校低学年レベルの簡単な計算をしたりするほうが、脳はやる気を出して血流をグンと高めてくるのです。
■脳活性化のコツは「できるだけ速くやる」こと
ただし、のんびり読んだり、ゆっくりと計算しても、あまり効果が得られません。脳活性化のコツは「できるだけ速くやる」ことです。
読み間違いや計算ミスは気にせず、とにかく自分にとって最も速いスピードで読んだり、計算したりすることが重要なのです。
例えば、勉強をはじめる前に、教科書を一通り早口で音読したり、百マス計算をストップウォッチ片手に「よーいどん!」と計りながら行う。すると、脳は一気に発火し、パフォーマンスが大きく向上します。
長時間行う必要はありません。勉強をはじめる前の2~3分で十分です。その後は、通常通りの学習を進めてください。いつもよりも理解力、記憶力がよくなっていることが実感できるでしょう。
■「声に出す」学習法の脅威の効果
音読のように「声に出す」学習法は、準備体操だけでなく、記憶の定着にも有効です。
例えば、漢字や歴史の重要人物、英単語を覚えたいときには、「声に出しながら」紙に書くようにすると覚えがグンとよくなります。
「声に出す」テクニックは、テスト本番にも役立ちます。
小学校低学年、中学年のころは、まだ読解能力が十分ではないために、計算能力はあるのに文章題になるととたんに解けなくなる、という子どもが少なくありません。
実は単純な計算で解ける問題も、文章題になると「どういう意味? よくわからない……」と戸惑ってしまうのです。
そんなときには、文章題を声に出して何度も読むと、文章の内容を理解したり、内容が明確にイメージしやすくなったりします。
当然ながら、本番のテスト中に大きな声を出すのは御法度(ごはっと)。口の中で小さくつぶやくように音読するとよいでしょう。
■目標までのステップを小さく刻むと「やり抜く脳」になる
本稿の最後に、「わが子には、しっかり目標を持って、粘り強く最後までやり抜く子になってほしい」──そんな願いを抱く親御さんたちにアドバイスを。
例えば、最初は1冊のドリルを「1カ月で全部終わらせるぞ!」と意欲的だったのに、2〜3日もすると、ドリルは開かれた形跡もないまま放置されている……というのはよくあることでしょう。
2020年4月、科学技術振興機構と国立精神・神経医療研究センターの共同研究チームは、「目標の細分化は脳構造の変化を促進し、目標達成を支援することがわかった」と発表しています。
研究チームが行った研究では、参加者にまず、「パズルを最後までやり抜く」という目標を設定して実践してもらいました。
そして、目標を細分化し、小さい目標ごとに達成感が得られる学習プログラムを用いたところ、「やり抜く力が低い」と予測された人であっても、最後まで達成できることがわかったのです。
■「サブ・ゴール」を複数設定し、ゴールを細分化しよう
さらに、この学習プログラムに取り組んだ人は、やり抜く力の指標となる脳の「前頭極」の構造に明らかな変化が示されました。
つまり、最終的なゴールだけでなく、その手前に「サブ・ゴール」を複数設定し、ゴールを細分化することで、最後まで「やり抜く脳」に生まれ変わることができる、ということ。
ですから、これを家庭で活用するならば、「1冊のドリルをひと月で終わらせる」という目標を設定したら、さらに「1日に3ページ終わらせる」とサブ・ゴールも設定するようにするといいでしょう。さらに、「朝に1ページ必ず終わらせる」とサブ・サブ・ゴールを設定するのも効果的。
以上、ご紹介してきた方法はいずれも今日からすぐに実践できると思います。ぜひご家庭でいろいろ試してみてください。
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東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。
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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)
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