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仕事のデキる人が松屋の朝定食に足繁く通い続けるワケ…どんな相手でも食いついてくる"鉄板ネタ"収集法

プレジデントオンライン / 2024年8月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

ビジネスの共通言語を得るにはどうすればいいか。おくりバント社長の高山洋平さんの友人で複数の企業を経営する男性は「メシの話は、ビジネスマンの共通言語だ。営業マンは松屋をはじめとした飲食店、特に大手チェーン店の情報に敏感であるべき」という――。

※本稿は、高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■朝に弱い非常識な社長の友人“朝定エージェント”の正体

おくりバントのオフィスは西新宿にある。僕が住む笹塚のアパートからは電車で20分ほどで着く距離だ。

おくりバント社長の高山洋平さん
著者提供
おくりバント社長の高山洋平さん - 著者提供

おくりバントに定時はないが、僕はいつもの習慣で毎朝8時頃に自宅を出て、8時半までには出社している。静かな社内でメールや予定をチェックし、業務に備えるのが僕のルーティンだ。社会人として、始業前に準備をしておくのは当然だろう。

ちなみに定時がないのは、朝が弱い社長、つまり高山の意向によるもの。この会社における法の全ては、高山が存分にサボるためだけに存在している。どこまでも世の中の常識に逆らう気なのか。

でもその日、僕は盛大に寝すごしてしまった。出社したのは10時すぎ。ここ数日間、退社後に個室ビデオ巡りをしていたせいで、寝不足がたたったのだろう。

とりあえず一息つこう。コーヒーを入れに給湯スペースへ行くと、高山の姿があった。見知らぬ誰かと談笑している。

高山は僕を見つけると、のんびり声をかけてきた。

「よう」
「遅れてすみません!あの、こちらの方は……」
「ああ、蠣田(かきだ)さんだ。おれの友人であり、“朝定エージェント”でもある」
「朝定……エージェント?」

■名刺には「一日三食、朝定が食べたい」

折り目正しくスーツを着こなす蠣田さんは、至って真面目なビジネスマンに見える。

朝定エージェントという、妙な肩書を除けば。

「はじめまして。蠣田と申します」

差し出された名刺にもちゃんと「朝定エージェント」とある。脇には、「一日三食、朝定が食べたい」と添えられていた。

「ところで真部さん、朝ごはんは召し上がりましたか?」
「いえ、今朝はバタバタしていて食べそこねちゃって」
「じゃあ、今から一緒に食べに行きましょう。おすすめの“朝定”があるんです」
「えっ! でも、もう10時半ですよ。そろそろランチの時間じゃあ……」

食い気味に、蠣田さんが言葉をかぶせる。

「10時半は、まだ朝ですよ。なぜなら、松屋の朝定の提供時間が11時までだからです! ちなみに、朝定の開始時間は午前5時ですね。つまり、朝というのは5時に始まり、11時に終わるのですよ」

整った身なりに丁寧な話し方。ちゃんとしたビジネスマンに見える。でも、この人もまた、突拍子もない持論をぶつけてくるタイプのようだ。

一体、朝定の何が蠣田さんの心を捉えているのだろう。

■今どきの“みんなの食”事情とは

蠣田さんに連れられて、僕たちは松屋に来た。「みんなの食卓でありたい」のキャッチコピーで知られる牛丼チェーンだ。

蠣田さんは会社のすぐ近くにある店舗でなく、反対方向の少し離れた店舗に行こうと言い出した。大手のチェーン店だからどこも同じなのに、なぜだろう。

それぞれ食券を買い、カウンター席に並んで座る。僕は焼鮭定食、高山と蠣田さんはソーセージエッグ定食をチョイスした。

焼き魚定食
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

「おすすめの朝定って、松屋のソーセージエッグ定食だったんですね」
「もちろん、ソーセージエッグ自体もおすすめです。ですが、ポイントはこの『選べる小鉢』です」

そう言って、蠣田さんは小鉢の中身をご飯の上にかける。カレーだった。

「いいですか、真部さん。松屋の朝定はメインのおかず以外に、選べる小鉢がついてきます。通常のラインナップは、納豆(ネギ付)、とろろ、冷やっこ、プレミアムミニ牛皿の5種類ですが、今はちょいがけのカレーが加わっている。実はこれ、店舗限定の実験的な試みです。これを頼まない手はないですよ」

そう言われると、途端に蠣田さんのカレーが羨ましくなる。高山の小鉢もカレー。僕だけ、冷やっこだ。定食のチョイスにしろ、小鉢の限定情報にしろ、何だか完全に出遅れている気がした。

「営業マンなら、これくらいは当たり前に押さえておきたい情報です。松屋フーズの公式ツイッターでも発信されていましたからね。今すぐ、松屋の公式アカウントはもちろん、『【公式】松屋カレー部』のアカウントをフォローしてください」

そんなアカウントがあるとは知らなかった。

「はい、フォローしました。けど、営業マンと松屋の朝定にどんな関係が?」
「それはそうと、まずは食べましょう。11時前は朝定の駆け込みラッシュで店が混雑します。さっと食べて出るのがマナーですよ」

■立場や収入に関係なく、食はみんなの“共通言語”

朝定を食べ終え、会社に戻った僕らはそのまま会議室に直行する。

そして、蠣田さんのレクチャーが始まった。

「営業マンは松屋をはじめとした飲食店、特に大手チェーン店の情報に敏感であるべきです。理由は、それらが“みんなの食卓”だからです。社長も役員も部長も新人も、立場や収入に関係なく、みんなが行くでしょう?」

確かに、僕の信頼する上司・鶴田さんも一時期、松屋のシュクメルリ鍋定食にハマっていた。外回りに同行した際、よく奢ってもらったものだ。

「つまり、メシの話は、ビジネスマンの共通言語なんです。初対面の取引先など、パーソナルな情報がわからない相手と話すときでもネタにしやすい。例えば、午前中のアポイントに行くとします」

ビジネス講座の講師のように、蠣田さんは続ける。

「その場合、商談前後の雑談で食事の話題になるかもしれませんよね。そこへ小鉢カレーのような松屋ネタを投入すれば『ちょっと早めのお昼は何にしよう』と考えている先方に、有益な情報を提供できます。『この人はなかなかアンテナが高い』『気が利く人だ』と、評価が上がるかもしれません。『同じ目線で話せる人だ』と安心感を与えることも……」
「でも、先方が吉野家派だったらどうするんですか?」
「多分に想定されるケースですね。もちろん、吉野家、すき家、なか卯など、主要な牛丼チェーンはもれなくチェックしておくべきです。かつ牛丼で知られる新宿のたつ屋や、牛丼太郎の残党系である丼太郎といった“インディーズ牛丼”まで押さえられたら完璧ですね。他にも、立ち食いそばやファミレスもカバーしたいところです」

そんなにいろいろな店舗があったとは。たかが牛丼などとは、あなどれない。

■毎日メニューをチェックすれば、有益な情報が得られる

「食の話の中でも、ビジネスマンの日常食であるチェーン系グルメは、鉄板ネタの一つですから。営業マンとして最低限の知識です」
「なるほど。でも、全チェーンの情報を押さえるのは、かなり大変そうですけど……」
「そうでしょうか? 一日3回、最低でも1回は食事をしますよね。その度にインプットすればいいわけですから、さほど難しくないと思いますよ」

確かに毎食でなくても、営業職なら一日1回ぐらいは外で食べているだろう。

吉野家
写真=iStock.com/Kokkai Ng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kokkai Ng

「毎日、細かくメニューをチェックしていたら、小鉢にカレーが追加されていることにも気づくし、実はソーセージエッグが単品で頼めることだって発見できるでしょう。そういう積み重ねで、情報や知識を増やしていくのです」

食事のときもインプットを欠かさないとは……。朝定エージェント恐るべし。

「多くの人は、自分が食べたいメニューしか気にしていない。ですが、それでは有益な情報を見逃してしまいます。結果として、教養も身につきませんよ」

■幅広い名店の朝定を定点観測

朝定から始まった、ビジネスマンとしての教養の講義。

それまで黙って蠣田さんの演説に耳を傾けていた高山が、ふいに口を開いた。

「蠣田さんは松屋をメインに、ルノアールやロイヤルホスト、富士そば、ゆで太郎など、幅広い名店の朝定を定点観測し、調査・分析・考察することをライフワークとしている。その結果、ついには朝定エージェントの称号を自称するまでになった。それがどれほどの偉業か、お前にわかるか?」

自称だから偉業はちょっと言いすぎでは……。

ただ実は、蠣田さんは都内で転職エージェントをはじめ、複数社を経営するヤリ手の実業家らしい。

普段、経営者としてさまざまな取引相手と交渉している。そのためのリソースを培うには、こうした地道なインプットが欠かせないのかもしれない。

高山の賛辞を受け、蠣田さんのトークはさらなる熱を帯びていく。

「初めは、まんべんなくメニューを見渡してください。それから店内の様子や客層、周りの人が何を頼んでいるか。POPにも注目してほしいですね」

僕はメモ帳を取り出した。

■“好きなモノ”が人生や仕事を豊かにする

「余裕が出てきたら、さらに深いところの情報にアクセスしてみてください。例えば、松屋フーズは牛丼以外にも、中華やそば、とんかつなど、さまざまな業態の飲食店を展開しています」

蠣田さんは「これからが重要ですよ」というように咳ばらいをして、続ける。

「その中に、本格的な鮨・割烹の『福松』というお店があります。コース料理のにぎり御膳は5000円という高級路線。松屋フーズの中では異色の存在です。松屋が営む高級鮨なんて聞くと、ちょっと興味をそそられませんか?」
「確かに、気になりますね」
「ですよね? 気になったら、すぐに食べに行きましょう! 飲み会1回程度のコストで“ビジネスマンの味方である、安くておいしい牛丼屋の松屋がやっている高級鮨屋”を体験できるんですよ。お手軽に非日常感が味わえるうえに、話のネタとしても引きが強い。コスパ最高じゃないですか?」

子どものように目を輝かせて、興奮気味に話す。

高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)
高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)

「何より、自ら興味を持って行動し、体験したことは心に残ります。自分が好きなものや興味があることを深掘りしていくと、教養になるだけではありません。いろいろな楽しみが生まれて、人生そのものが豊かになりますよ。仕事ばかりじゃつまらないですからね」

蠣田さんはひとしきり語り尽くすと、居住(いず)まいを正し、弾けるような笑顔を見せた。

「では、わたしはこれで失礼します。ルノアールのモーニングは12時までなんでね」

そう言って、足早に会議室を出ていった。

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高山 洋平(たかやま・ようへい)
おくりバント社長
1978年4月吉日生まれ。東京都出身。大学卒業後、不動産投資会社で圧倒的な営業成績を収め続けた。その後、IT業界大手のアドウェイズに入社。独自の営業理論を武器に、中国支社の営業統括本部長まで上り詰める。2014年2月には「自分でもクリエイティブを作りたい」という想いから、同社の子会社として、おくりバントを創業。社長を務めるかたわらプロデューサーとして実務にも携わり、豪快すぎる営業手法で数々のピンチを切り抜けつつ結果を出してきた。PC操作や事務作業は苦手だが、営業力には定評があり、企業や大学で営業をテーマとしたセミナーの講師も務めている。ちなみに、業界では年間360日飲み歩く“プロ飲み師”としても知られている。

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(おくりバント社長 高山 洋平)

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