一見で気安く店主に話しかけたら絶対ダメ…行きつけの店を作るために遵守したい"飲み屋のヒエラルキー"
プレジデントオンライン / 2024年9月1日 15時15分
※本稿は、高山洋平『ビジネス書を捨てよ、街へ出よう』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■常連になるなら、1カ月に3回ではなく3日連続で通う
「僕はあんまり外で飲む習慣がなくて……」
「まあ、そんなことだろうと思ったぞ」
高山はフンと鼻を鳴らした。
「俺なんか、年間360日、1000軒以上を飲み歩くことで行きつけの店を増やしてきたんだぞっ‼ 今では中野を中心に、各街々に拠点がある」
「……僕のような常人の肝臓には、とてもそこまでできないですね」
「確かに、誰にでもマネできることじゃない」
「そもそも、どうすればお店の常連さんになれるんですか?」
「本当に世話の焼けるやつだな。まあいい、教えてやろう。短期間で常連になる秘訣はズバリ、3日連続で通うことだ」
「1カ月に3回通うとかじゃ、ダメなんですか?」
「ダメだ。連続で行くことが大切なんだ」
「何で、3日なんですか?」
「初めて入っていい店だったから次の日も行くという、客は割といるもんだ。店主も『今日も来てくれたんだ』とまあまあ喜ぶだろう」
「十分じゃないですか」
「いや足りんな。だが、さすがに3日目も現れたら『こいつ何者なんだ?』と店主の印象に深く残る。来店する時間帯とか混雑の状況なんかにもよるがな」
「なるほど」
「まずは通いやすい場所、家か会社の近くで好きな店を探すといいだろう。それから3日連続で通って顔を覚えてもらえたら、週に1回くらいのペースでも常連として認識されるはずだ」
「覚えてもらうことが第一歩なんですね」
■一見の店では“話しかけられる”のを待つ
「それで、他のお客さんにも覚えてもらって、自分のホームにしていくわけですね」
「まあ焦るな。その前に、店主と仲良くなることだ」
「え? お店の人とですか?」
「そうだ。店主と仲良くなれば、そのうち常連を紹介してくれる。そこから、徐々に友達を作っていけるはずだ」
「店主とはどうやって仲良くなればいいんでしょうか? 僕、お店の人に話しかけるのが苦手なんですよね……。何か、イキったやつだと思われそうで」
「無理に話しかけなくていい。いや、むしろ一見(いちげん)で気安く店主に話しかけない方がいいぞ。通りすがりで飲むだけなら好きに振る舞えばいいが、常連になりたいなら“飲み屋のヒエラルキー”を理解しなければならない」
「飲み屋にヒエラルキーなんか、あるんですか?」
「そうだ。基本的に、一見客はヒエラルキーの最下層だ。そのことを自覚し、店主や常連への礼儀を守ることが大事なのさ」
「最下層ですって? 別に客だから偉いとは言いませんけど、お金を払っているのにそこまでへりくだらないといけないんですか?」
「はっ! その考え方がそもそも間違っている!」
■“いくら使ってきたか”“何度通っているか”が信用になる
「……はいはい。で、どうなってるんですか? そのヒエラルキーとやらは」
「トップは言うまでもなく、店の主導権を握る店主。その次が、店を長年支えてきた常連客だ」
「それは、何が基準なんですか?」
「そのお店で“いくら使ってきたか”“何度通っているか”だ。そして、飲み屋ではそれが客の信用になる」
「結構シビアですね」
「お店にとって、しっかりお金を払ってきてくれた常連客の序列が上位になるのは当たり前だ。その仕組みを理解せず、適当に振る舞えば、生意気だと思われてしまう。例えば、店主一人で経営している小さな店で、新参者が店主を独占したらどうなる?」
「常連さんが店主と話せなくなっちゃいますね。確かに、あまりいい気持ちはしないかも……。じゃあ、初めて来た客は、どうすればいいんですか? ずっと黙っているとか?」
「そうだ。黙っていればいい」
「そんな……」
「焦って先走るのは、お前の悪いクセだぞ」
「だって、せっかく飲みに行くのに……」
「おいおい、これは遊びじゃないんだぞ。常連になりたいなら、初めは店主が話しかけてくるのを待つんだ。いい飲み屋にはいい店主がいるから、行儀良く飲んでいる一見客を放置したりはしない。『近くにお住まいなんですか?』『ここは二軒目ですか? どこで飲んでたんですか?』と、話しかけてくれるはずだ」
■店主に好印象を残すために押さえたい“暗黙のルール”
高山はテーブルの上の紙ナプキンを取ると、何やら図を描き出した。
「カウンターのある飲み屋では、店主がお客を3つくらいのゾーンにわけて、バランスよく会話を回している。少し待っていれば、そのうち店主がうまく会話に入れてくれるんだ。だから、一見客が別のゾーンの会話に勝手に割り込んだりするのは、あまりよろしくない」
「つまり、暗黙のルールがあるというわけですね。何か、飲みに行くハードルが上がったような……」
「まあ、全ての店がそういうわけじゃないだろう。ただ、こういう作法ができると、いい客として店主にも常連客にも初回からいい印象を与えられるはずだ」
「何か先が長いですね……」
「何でも1回で成果を得ようとするな。店主は自然な形で常連との輪をつないでくれる。『へえ、笹塚にお住まいなんですね。そう言えば(常連の)ヤマさんも笹塚ですよね?』といった具合にな」
「社内と同じように、地道なコミュニケーション、なんですね」
そうか。深い関係を築くには、お金と時間をかける必要があるんだ。
僕はお金を払えば何でもすぐ簡単に手に入る、と錯覚していたのかもしれない。
そんな自分がちょっと恥ずかしくなった。
■地道な“置き土産”で笑ってもらえるか
飲み屋におけるコミュニケーションの秘訣は他にもあるようだ。
「晴れて常連としての地位を築くことができたら、次は店主やママに“面白い客”だと認知させることに挑戦してみるのもいいだろう。そうすれば、お店の“名物客”に昇格できて、さらに深い関係になれる。それこそ、店側から接待を援護してもらえるレベルの客になれるはずだ」
「具体的に何をすればいいんでしょうか?」
「お手軽なのは“置き土産”を残すことだ。例えば、会計でカードのサインをするときに、『ママへ』と書くとかな」
「それ、気づいてくれますかね?」
「その場でリアクションをもらえなくてもいいんだ。地道にネタを仕込み続けていけば、ママは気づいてくれる。いつかクスっと笑ってもらえたら、しめたもんだ」
「ここも、地道な作業が必要なんですね」
「その通り。小ネタを仕掛けた結果、ママが洒落のわかる人だったら、さらにでかいネタをブッ込めばいい」
「でかいネタですか?」
「俺がよく使うのは、名刺だ。名刺の裏にこう書いて渡すんだ。“この名刺の所有者は、私の大切な人です”って」
「それってもしかして……?」
「そう、ヤクザ漫画『白竜』だ」
「主人公の白竜が、恩を受けた相手に名刺を渡すくだりですね。名刺を受け取った相手は暴漢に命を狙われた際、その名刺を出すことで事なきを得る、という」
「よしよし、ちゃんと読んでいるみたいだな」
「でも、白竜はヤクザの幹部だから、効果があるんですよね? 高山さんじゃあ……」
■仕事にもツケにも「決して裏切らない」信用が大切
急にサングラスを外し、ギロリと睨みつけてくる高山。……残念ながら、意外と目がパッチリしていてあまり迫力がない。
「だからいいんだ。俺の名刺なんて、何の力もないからこそギャグになる。何ならクスっと笑ってもらった後で、破り捨ててくれたっていい。とにかく、お店に迷惑をかけない形でママにインパクトを残すことが大事なんだ」
「真の常連客への道は想像以上に険しいんですね……」
「かもしれないな。だが、その分得られるものも大きい。ちなみに、最終的にツケで飲めるくらいになれば、完全に常連として認められた証だ」
「ハードル高いですね」
「まあな。でも、ツケってのは、そいつに対する信用そのものだ。行儀よく振る舞い、プライベートをさらし、お金を落とし続けた先に『この人は私たち(お店や常連客)を決して裏切らない』という信用が得られる」
「仕事の頼み方や接待の話にもつながりますね」
「そうだ。仕事に信用はつきものだぞ」
「珍しく、まともなことを言いますね」
「俺はいつもまともだ。まあとりあえず、ツケで飲める店を作ることを目標にしてみたらどうだ? 3年かかるけどな」
「とりあえずのハードルが高すぎですよ。まず3日通いたいお店を探します」
■外へ行けば、ビジネス書では得られない発見がある
それから数週間、僕はいろいろな飲み屋を渡り歩いた。
さすがにツケは難しいが、店主や常連客と気楽に会話できるお店もできた。
外で飲むと、いろいろな発見がある。
近隣の情報だけじゃない。数奇な人生、仕事の成功談や失敗談などなど。お店のスタッフさんやお客さんの話を聞くと、自分一人では見聞きできない、さまざまなことを体験できる。
ルノアールのように、周りの人の話し方も参考になる。上手な誘い方や断り方、話の盛り上げ方、どんな話題がウケないのかなど、営業のときに役に立ちそうだ。
そんなふうに飲める場所が増えるにつれ、営業マンとしての戦力が上がっていく気がする。
それに、僕のような経験が浅い若手でも、常連面できるいい感じのスナックがあると言うだけで一目置かれるのだ。
高度な営業テクニックを身につけるには、長い時間が必要だ。
でも、行きつけの飲み屋は割とすぐにできる。飲み屋通いは、営業力をアップさせる手っ取り早い手段と言えそうだ。
ビジネス書を読み込むよりも、ずっと近道かもしれない。
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おくりバント社長
1978年4月吉日生まれ。東京都出身。大学卒業後、不動産投資会社で圧倒的な営業成績を収め続けた。その後、IT業界大手のアドウェイズに入社。独自の営業理論を武器に、中国支社の営業統括本部長まで上り詰める。2014年2月には「自分でもクリエイティブを作りたい」という想いから、同社の子会社として、おくりバントを創業。社長を務めるかたわらプロデューサーとして実務にも携わり、豪快すぎる営業手法で数々のピンチを切り抜けつつ結果を出してきた。PC操作や事務作業は苦手だが、営業力には定評があり、企業や大学で営業をテーマとしたセミナーの講師も務めている。ちなみに、業界では年間360日飲み歩く“プロ飲み師”としても知られている。
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(おくりバント社長 高山 洋平)
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