「呪術廻戦」でも「コナン」でも「ハイキュー」でもない…くら寿司の「ビッくらポン!」で最も反響のあったコラボ
プレジデントオンライン / 2024年8月29日 16時15分
■くら寿司USAが成功したワケ
日本食の代名詞といえる寿司に、エンタメ性を掛け合わせた回転寿司。コロナ禍明けの外食回帰も相まって、富士経済によると、2023年の市場規模は前年比で108.8%の7829億円、2024年見込みも同105.5%の8261億円と、成長基調が続く。
市場が成長し続ける背景には、出店エリアの拡大もあるだろう。これまでの回転寿司といえば、ロードサイドへの出店が多かったが、昨今は都心部の出店も目立つ。中でも、くら寿司は勢いが戻りつつあるインバウンドへの認知拡大を期待する「グローバル旗艦店」を拡大し、海外事業も好調だ。
コロナ禍明けとなった2023年10月期は、売り上げが前期比115.5%となる約2114億円、営業利益も約24億円と、3期ぶりの黒字化を果たした。特に大きく成長したのが国外で、2019年に米ナスダック市場に上場した米国法人は売り上げが前期比151.3%を記録し、通期として上場以来初の経常黒字となった。
2019年 70億9600万円
2020年 48億7900万円
2021年 69億5200万円
2022年 171億7300万円
2023年 259億7500万円 (2024年8月末決算より)
米国市場を巡っては、今年4月にスシローを運営するFOOD& LIFE COMPANIESがボストンに店舗をオープンした(居酒屋業態)。一方、くら寿司は2009年に米国第1号店を開店。2024年7月末時点で64店を展開している(すべて回転寿司業態)。店舗によっては食事をするのに時に8時間待ちとなることもあるそう。
くら寿司の広報宣伝・IR本部 広報部 マネジャーを務める辻明宏氏は、「先行者利益を生かし『回転寿司といえばくら寿司』となるようにしていきたい」と意気込む。
また、アジア市場でも2023年10月期の売り上げは大きく伸びた。前期比35.3%増の約215億円で、新たに中国本土1号店の「くら寿司 上海龍之夢中山公園店」もオープンし、台湾では6つの新規出店を果たすなど、今後の成長に向けて海外市場への期待度は高い。
■「ビッくらポン!」誕生のきっかけ
くら寿司の海外店舗は基本的に日本で確立した回転寿司のシステムを踏襲しており、それが従来の「寿司」とは異なる、カジュアルに食事できてエンタメ性も内包した「回転寿司」として人気を博している。
例えば、くら寿司の大きな特徴である「ビッくらポン!」はそのひとつだ。
ビッくらポン!は2000年に導入したシステムで、卓上のポケットに皿を入れていくと、5皿に一度ミニゲームができ、当たりが出ると景品がもらえるというもの。生まれたきっかけは、食事後のテーブルを片付ける際の効率化と、「食事していて、積み上がった皿を他の人に見られるのが恥ずかしい」という女性客の声をきっかけに1996年に登場した「水回収システム」だ。
「社長の田中が、店舗で子どものお客さまが皿をポケットに入れているところを見て、そこで何かゲームができないか、と考えたことからビッくらポン!のアイデアが生まれました」(辻氏、以下同)
当初、ビッくらポン!はオリジナルの景品を用意していたが、転機になったのは2005年。映画『釣りバカ日誌16』がくら寿司の店舗で撮影をした縁から、景品の中にペア鑑賞チケットと引き換えられる当たり券を入れた。
その後、プロ野球チームや人気アニメとのコラボが増えていき、今では景品関連のコストとして、年間で10億円以上もかかっているという。
■もっとも反響があったコンテンツとは
これまでコラボしたコンテンツは40件を超すという。その中で最も反響があったのはどのIPだったのか。
「ビッくらポン!史上過去最高の反響は、コラボ2回目のちいかわ(初回は23年2月)だと思います。コラボしたのは2024年3月8日~31日で、この月の既存店の昨年対比は123%となっています。もちろん、売り上げに関しては、春休みや、インバウンド回復など、複数の要因があります」(辻氏)
そんなビッくらポン!、日本同様、海外店舗でも大人気だという。だが、米国店舗で導入する際には壁にぶち当たったこともあった。「ギャンブル」とみなされてしまったのだ。
「必ず景品が当たるか分からない、という点などからギャンブルとみなされてしまい、規制に対応するには申請する必要があったのです。ただ、多大なコストと手間がかかることから、15皿に1回、必ず当たるシステムにしてギャンブルとみなされないようにしました。
そのため、米国のくら寿司ではミニゲームがストーリー仕立てのようになっており『あと何回やれば当たる』といったアナウンスをしています」
ちなみに、米国や台湾、中国のビッくらポン!の景品は、最近では現地IPとのコラボも増えつつあるというが、ほとんどは日本と変わらずアニメ作品とのコラボがメインだという。
■アメリカ展開の難しさ
米国で店舗を展開する際は、ビッくらポン!以外にもいくつかの壁があった。辻氏は米国ならではの事情を挙げながら、次のように説明する。
「米国の大きな特徴は、日本と違い多民族国家であることです。例えば、中国や台湾であれば、彼らが好む味を確立できれば、それで一点突破できます。しかし、米国で店舗を拡大していくには、それだけでは不十分です」
くら寿司が米国1号店をオープンしたのは、カリフォルニア州・アーバインのショッピングモール。アーバインは比較的アジア人が多く、韓国系のおしゃれな店なども多い立地であったことから、日本食の代表格である寿司は、比較的スムーズに受け入れられたという。
しかし、2号店をオープンしたエリアはカリフォルニア州・ローランドハイツと言うエリアで、アジア系とは異なる人が多く、苦戦した。そこから、どんな人が住んでいるのかなど、エリア特性に合わせた店舗設計をするようにしていった。
「アジア系の方が多いエリアなら、握り寿司のメニューを多くして、反対に欧米系が多い場所ではロール寿司を増やすなど、ローカライズをしています。例えば、カリフォルニアは売り上げにおける、サイドメニューと寿司の割合が3対7ですが、テキサスは4対6です。さらにテキサス進出の際は、肉寿司など肉系のメニューを多めにしました」
日本の飲食店が米国進出する際、成功のカギを握るのはテキサス州という声がある。アジア系が多く住む西海岸や、先端的な東海岸と比べ日本食への親しみが薄い。さらには伝統的に肉食を好む文化だからだ。海岸沿いだけの展開をする日本食チェーンが多い中で、くら寿司はテキサスで成功したことから、米国展開の勢いに乗ったと言える。
■日本式ではなく現地にあわせる
「米国法人CEOの姥一曰く、くら寿司ならではの味やシステムが8割、残りの2割でローカライズすることが、成功の秘訣だそうです」
商品の価格も州ごとに異なる。最も高いカリフォルニア州やニューヨーク州等の店舗では、1皿3.95ドルの店もあるとか。1ドル150円で換算すると、その価格は何と592円。それでも、他の外食と比較した相対的な安さなどから客足は絶えない。
とはいえ、米国での事業展開は順調だったわけではない。2009年の米国初出店から、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら成功パターンをつかんではいたが、そこにコロナ禍が襲う。
「2019年に米国法人がナスダック市場へ上場し、浅草にグローバル旗艦店を開店、さらには台湾法人の上場も控えていたことから、2020年は、われわれは『第2の創業期』として大きな期待を寄せていました。そこにコロナ禍が直撃してしまったのです」
それでもめげずに、アフターコロナへ向けて種まきを行った。具体的には、無理に赤字を埋め合わせるのではなく、投資の期間と割り切ることで、中長期的な反転攻勢を描いた。
例えば、米国では給与支払いとして浸透しているストックオプションなどを用意して、コロナ禍で企業を離れた優秀な人材を確保したことは、現在の好調につながっているという。
■くら寿司USAで人気の寿司ネタ
そんな米国のくら寿司では、どんなメニューが人気なのか。辻氏によると、やはりロール寿司が人気で、ポイントはサクサクした食感やスパイシーな味付け。また、甘いタレも人気だという。
これまでは日本の商品開発部長が米国に行きリサーチする形をとっていたが、最近は米国に商品開発メンバーが駐在して、細かく現地のトレンドなどを分析しながらメニューを開発している。
「中国や台湾の売れ筋は日本と似ており、やはりサーモンが人気です。また、台湾では炙り系のメニューも人気が高い傾向にあります」
コロナ禍が明け、米国法人は通期で初の黒字、前期に本土で初出店した中国への出店など、今後に注目が集まる。7月末時点で124ある海外店舗は、2030年までに400店舗へと増やす計画だ。
単純に店舗を増やすだけでなく、国内のグローバル旗艦店との相乗効果を狙う。2020年に浅草で1号店をオープンしたグローバル旗艦店は、観光(サイトシーイング)と食事(イーティング)を掛け合わせた「サイトイーティング」をコンセプトに、日本の文化を発信する店舗形態だ。4月にオープンした銀座店で、国内は6店舗目となった。
■ロードサイド→都市部→海外
「グローバル旗艦店は、屋台を意識したコーナーや、ついつい写真に撮りたくなるような設計にすることで、日本を訪れた外国人のお客さまの印象に残るようにしました。日本と海外店舗で、くら寿司のロゴは同じものを使っているため、母国に帰った後にもくら寿司を認知していただき、利用してもらうことを期待しています」
ロードサイドから都市部へと徐々に店舗網を広げてきた回転寿司だが、それによって国内の出店余地はここから爆発的な伸びは期待できない状況だ。著しい人口減少も考えると、海外へと活路を開くのは当然の帰結といえる。
これからは各社もこれまで以上に海外攻勢を強めると見られ、その中で先行者であるくら寿司は、どのような戦いをしていくのか。目が離せない。
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フリーライター・編集者
広島カープの熱狂的ファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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(フリーライター・編集者 鬼頭 勇大)
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