1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

感動に全身を貫かれた…頭を丸め素足に草履で長時間托鉢した65歳稲盛和夫に公園清掃の年配女性がした行動

プレジデントオンライン / 2024年9月11日 17時15分

■『生き方 人間として一番大切なこと』稲盛和夫 著 サンマーク出版

稲盛和夫
Kazuo Inamori

1932年、鹿児島県出身。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類、社会の進歩発展に功績のあった人々の顕彰を行う。2022年逝去。

■経営の神様からの魂のメッセージ 

先行きの見えない「不安の時代」を生きるようになって久しい。そんな時代に最も必要なのは、人が生きる指針としての「哲学」を確立することである。そう考えた京セラの創業者・稲盛和夫氏が、2004年に著したのが本書である。

世の中のことは思うようにならないもの。人生で起こってくるさまざまな出来事に対して、ついこのように見限ってしまいがちだが、「思うとおりにならないのが人生」と考えているから、そのとおりの結果を呼び寄せているだけのことだ、と稲盛氏は指摘する。

その人の心の持ち方や求めるものが、そのままその人の人生を現実に形づくっていくわけであり、何か事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うことが重要なのである。それも誰よりも強く、身が焦げるほどの熱意を持って、そうありたいと願望することが大切になってくる。

京セラがIBMから初めて発注を受けた大量の部品製造の仕様は大変厳しかった。「自分たちの技術では不可能」との思いが何度も頭の中をよぎったものの、超人的な努力を繰り返し、高いハードルを乗り越える。そこで稲盛氏が得た人生哲学が、常に「思い」の火を絶やさずに燃やし続けることが成功や成就につながり、自分たちの能力を伸ばしていけるということだった。

また、思いの力をうまく働かせ、人生や仕事で大きな成果を得るのには、その土台となる「大きな夢」を描くことも重要だとする。京セラを創業した当初から稲盛氏は「世界一のセラミックスメーカーにしたい」との大志を抱き、従業員に常に話していた。強く思ったものだけを我々は手に入れられる。そのためには潜在意識にしみ込むまで、思って、思って、思い続ける。夢を語ることは、その行為の一つだったのだ。

人間としての最も正しい生き方へと導くシンプルな「原理原則」は、「哲学」と言い換えることができる。しかし、それは何も小難しい理屈ばかりの学問ではなく、経験と実践から生み出された「生きた哲学」なのである。人生のさまざまな局面で迷い、悩み、苦しみ、困ったときに、そういった哲学が、どの道を選び、どう行動すればいいかという判断基準となる。

シンプルな原理原則では心許ない気がするが、もともと真理の布は一本の糸によって織られている。したがってさまざまな事象は単純にすればするほど本来の姿、たった一本の糸からなる真理に近づいていく。そのため、人生であっても経営であっても、複雑に見えるものほどシンプルに捉え直そうという考え方や発想が大切なのだ。

実は、27歳で京セラを創業したとき、稲盛氏は会社経営についての知識も経験も持ち合わせていなかった。しかし、会社ではさまざまな問題や決定を要する事項が次々に起こってくる。些細な問題であっても、判断を一つ間違えれば、できたばかりの小さな会社にとっては存続を左右しかねない。

稲盛氏は悩み続け、その末に行きついたのが、「人間として何が正しいのか」というシンプルなポイントだ。そこに判断基準を置き、それに従って正しいことを正しいままに貫いていくという原理原則だった。嘘をつくな、正直であれ、欲張るな、人には親切にせよなど、人生も経営も同じ原理原則に則して行われるべきだし、それに従ったものであれば、大きな間違いをしないで済むだろう、とシンプルに考えたのである。

稲盛氏は日本人が失ってしまった美徳の一つに「謙虚さ」があると嘆く。どのように優れた能力であっても、それが生み出した成果も、自分に属しながら自分のものではない。才能や手柄を私有、独占することなく、それを人様や社会のために使う。つまり、己の才を「公」に向けて使うことを第一義とし、「私」のために使うのは第二義とする。それが謙虚という美徳の本質なのだ。

人間として守るべき原理原則を示した「人生の方程式」がある。「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」の掛け算で、能力があっても熱意に乏しければ、いい結果は出ない。逆に能力がなくても、燃えるような情熱で事に当たれば、いい結果を得られる。最も大切なのは「考え方」で、これだけにはマイナスポイントが付く。考え方がマイナスなら、いくら能力が高く熱意があっても、掛け算である人生の方程式の結果はマイナスにしかならない。

ここでいう考え方は、生きる姿勢、つまり哲学や思想、倫理観などのことであり、それらをすべて包含した「人格」のことでもある。そこには謙虚さも含まれる。その人格が歪んでいたり、邪だったりしたら、実は能力や熱意に恵まれていればいるほど、もたらされる結果の「負」の値は大きくなる。

では、どうしたら心を高めて人格を磨き、人として正しい生き方を歩んでいけるのか。稲盛氏は、自身の経験に照らし合わせ大切なものと考えて実践し、周囲にも説いてきた「六つの精進」を紹介している(下図参照)。

【図表】経営の神様が説く「六つの精進」「利他の心」

■感動が体を貫いた「利他の心」の神髄

1997年9月、稲盛氏は京都の円福寺で得度をし、「大和(だいわ)」という僧名を得た。そして2カ月後の11月からお寺での修行に入った。初冬の肌寒い時期、丸めた頭に網代笠を被り、紺木綿の衣、素足に草鞋という姿で、何時間も托鉢を続ける。そんなある日、夕暮れ時に重い足取りで寺へ戻る途中、公園を清掃していた作業服姿の年配の婦人が、小走りで稲盛氏のところに来て、そっと500円玉を頭陀袋に入れてくれた。

その瞬間、稲盛氏は今まで感じたことのない感動に全身を貫かれ、名状しがたい至福感に満たされる。婦人は決して豊かな暮らしをしているようには見えなかったが、喜捨することに何のためらいも見せず、一片の驕りも感じさせなかったからだ。

その自然な慈悲の徳行が、まさに「利他の心」の神髄にほかならなかったのである。

利他の心とは、仏教でいう「他に善かれかし」という慈悲の心であり、キリスト教でいう愛のこと。もっとシンプルに表現するなら「世のため、人のために尽くす」ということ。人生を歩んでいくうえで、会社を経営していくうえで、稲盛氏にとって利他は、欠かすことのできないキーワードであり続けた。

人生を大本で統御している2つの「見えざる手」がある、と稲盛氏は考える。その1つが「運命」で、人はそれぞれ持って生まれた運命に導かれ、あるいは促されて生きていく。

では、人間は運命の前でまったく無力なのかというと、そうではない。もう1つ「因果応報の法則」が存在しているからだ。

よいことを行えばよい結果が生じ、悪いことを行えば悪い結果が生じる。原因と結果を直に結び付ける「掟」なのだが、この因果応報の法則が持つ力のほうが運命の持つ力をわずかに上回っている。

それゆえ、持って生まれた運命でさえも、因果応報の法則を使うことで変えていくことができる。

因果応報の法則が成立するのも、宇宙の意志や力に促され、自然の摂理に沿ったものであるからだ。生きとし生けるものを善の方向へ導こうとするのが宇宙の意志であり、それと調和するような考え方や生き方をすることが大切なのである。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。

----------

稲盛 和夫(いなもり・かずお)
京セラ名誉会長
京セラ名誉会長、KDDI最高顧問、日本航空名誉顧問。1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。 84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。2022年8月逝去。

----------

(京セラ名誉会長 稲盛 和夫 構成=伊藤博之 撮影=市来朋久 写真=時事通信フォト)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください