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「実家をセカンドハウスにしようかな」で巨額損失…気軽に相続すると大やけどする「田舎不動産」あるあるとは

プレジデントオンライン / 2024年9月5日 10時15分

出典=『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

実家を相続することになった場合、何に気をつければいいのか。あす綜合法務事務所グループ代表の澤井修司さんの書籍『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)より、実家の相続で損害賠償を請求された事例をお届けする――。

■「相続した実家をセカンドハウスに」で泥沼化したケース

辻岡家では、母のトメが94歳で亡くなりました。長男の真也も長女の和代も都会暮らしです。そこで真也は考えました。

「実家をセカンドハウスにしようかな。裏山で山菜取ったり、シイタケを栽培したりできるし」

この考えを聞いた和代は、「実家を管理してくれるんだったら、任せたいわ」と安心して喜びました。

結局、実家と裏山は真也が、預貯金500万円は和代がそれぞれ相続することで話はまとまりました。

■裏山で大規模な土砂崩れが発生

真也は、最初のころは月に1回のペースで実家に戻って手入れをしていましたが、そのうち面倒になり、だんだん足が遠のいていきました。

実家も裏山も少しずつ荒れていきましたが、離れた都会に住む真也は気にしませんでした。

ところが数年後、大型台風が襲来。裏山で大規模な土砂崩れが起こってしまったのです。下の道路を歩いていた人が、土砂に埋もれて亡くなりました。

遺族は「安全対策を怠った」として、裏山の所有者である真也に対し、損害賠償を求める訴えを起こしたのです。

■自然災害でも土地所有者の責任が問われる可能性がある

神奈川県の逗子市で2020年、マンション敷地の斜面が崩落して、下を歩いていた高校生が犠牲になりました。

この事故をめぐって、遺族は管理会社が「安全対策を怠った」として、また、区分所有者の住人たちにも「危険な斜面に関する責任がある」などとして、管理会社と区分所有者に対して損害賠償を求めました。

マンションの区分所有者とは、1億円の損害賠償で和解しましたが、2023年に地方裁判所は管理会社側の責任を認め、賠償を命じています。

このように、自然災害による事故でも、土地所有者の責任を問われる可能性があるのです。

近年、台風や集中豪雨の被害が甚大化しています。山林や崖地を所有すること自体にリスクが潜んでいることは、意識したほうがいいでしょう。

■「相続税対策のアパート」で泥沼化したケース

野田家の自宅の土地は300坪の広さがありました。母が亡くなると、あとを追うようにその1年後、夫の正平も亡くなりました。

正平は生前、アパート建築会社の営業マンに「相続税対策になる」と言われて敷地内にアパートを建てていました。

長男の源一郎の将来が気になっていることも、正平の背中を押しました。というのも、源一郎は無職だったからです。

源一郎は大学を出て大手機械メーカーに就職しましたが、40歳のときにうつ病を発症し、紆余曲折あって退職。その後、再就職したものの長続きせず、実家に戻ってきてからは、中年引きこもりの状態が続いていたのです。

正平がアパートを建てたのは、そんな源一郎の将来を案じてのことでした。

【図表2】野田家のケース
出典=『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

■アパートの価値が大きすぎて分けられない

長女の友美は結婚して隣町に住んでいました。

正平が亡くなって、友美と源一郎が財産を相続することになりました。正平は遺言を残していませんでした。

アパートの評価額は1億円、自宅は2000万円、預貯金は1000万円。資産総額は1億3000万円で、2人で分けると6500万円ずつです。

ところが、たとえ自宅を売却しても、アパートの価値が大きすぎて均等に分けることができません。

源一郎が1億円のアパートを相続して、自宅と預貯金の計3000万円を友美が相続すると、差額は7000万円。源一郎は友美に7000万円を渡さなければなりませんが、無職の源一郎に貯金はないし、銀行がお金を貸すはずはありません。

■「働きもしないで相続」は納得できない

しっかり者の姉である友美は、表向きは冷静さを保っていました。

しかし本音では、「源ちゃんは働きもしないで、散々親に世話になっていて、相続でもたくさん持っていくなんて、納得できない」と思っていたのです。

ソファに横たわりポテトチップスを食べながらテレビのリモコンを操作する人
写真=iStock.com/gesrey
「働きもしないで相続」は納得できない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/gesrey

結局、アパートを売却して遺産を均等に分けることになりました。

実はこのアパートが利回り10%前後の優良物件で、不動産会社に仲介を依頼すると、あっという間に買い手がつきました。

せっかく正平が源一郎のためを思って建てたアパートでしたが、こうして手放すことになったのです。

■アパートで相続したほうが相続税の負担を減らせる

「相続税対策をしませんか?」――田舎にそれなりの土地を持っている人なら、そんな営業をかけられたことが一度や二度、あるかと思います。

たしかに、アパートを建てるのは合理的な節税策となります。現金で相続するよりも、アパートで相続したほうが相続税の負担を大きく減らせるからです。

マンションの模型を持つビジネスマン
写真=iStock.com/RRice1981
アパートで相続したほうが相続税の負担を減らせる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/RRice1981

同じ不動産でも、賃貸に出しているほうが評価額が低くなることも、節税効果につながります。

「できれば相続税を節税したい……」と考える人が多いと思いますが、実はここに大きな落とし穴があります。

それは、相続「税」対策は相続対策の一要素でしかないことです。

■「相続対策」と「相続税対策」を混同してはならない

相続対策と相続「税」対策を混同している人は、非常によく散見されます。

相続対策は、遺産をいかに未来へと橋渡ししていくかを考えることで、これに対して相続「税」対策は、いかに税金を減らすかということです。みなさんには、両者の違いをしっかり理解していただきたいと思います。

そもそも相続には、次の3つの要素があります。

1 相続税対策
2 納税資金対策
3 争族対策

この3本柱を総合的に考えるのが相続対策です。

■相続税は10カ月以内に現金納付が原則

一方で相続税対策とは、相続税の節税対策です。

もしも相続税がかかるなら、納税資金対策も欠かせません。相続税は10カ月以内に現金納付が原則ですから、仮に資産価値の高い不動産を相続したとしても、納税資金がなければ困ることになります。納税資金をどう工面するかがポイントです。

しかし、この3つで優先順位をつけるなら、私は争族対策が一番だと考えています。いかに争いごとが起きないようにするか、それが相続においては最も重要なのです。

■9割以上の人は相続税とは無縁

そもそも、相続税を払う人は全体の何%くらいなのか、考えたことがあるでしょうか?

国税庁の調査によると、2022年に相続税が課税された割合は9.6%でした。

もちろん財産が多い人は相続税が課税される可能性が高いですが、世の中の9割以上の人は相続税とは無縁だということです。

ちなみに、2015年の税制改革以前は、相続税が課税される割合は、わずか4%強でした。

「相続するときは相続税の負担が大きそう」というイメージがあるかもしれませんが、実はほんの一握りの富裕層の悩みなのです。

実際に図表3の「相続税早見表」を見ると、億単位の遺産がない限り、相続税の負担はそれほど大きなものではないことがわかります。

【図表3】相続税早見表
出典=『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

つまり、日本国民の9割以上は相続「税」対策は不要といえます。

■多くの人は「節税」というワードが大好き

相続「税」対策はほんの一握りの人だけの問題ですが、多くの人は「節税」というワードが大好きなように見受けられます。

とりわけ中小企業の社長は、節税というワードに弱いのではないでしょうか。

私自身も中小企業経営者なのでその気持ちはよくわかりますが、相続税対策が必要かどうか、冷静になって考えてみていただきたいと思います。

「アパートなんか建てずに、現金で持っていれば、もっと簡単に財産を分けられたのに……」――私が相続のお手伝いをしていると、そう思う場面に出くわすことがよくあります。

預貯金は分けられても、不動産は簡単には分けられないからです。

収益物件を相続した人間が代償金を準備できなければ、この事例のように、優良物件であっても売却して現金化しなければなりません。

分けづらい資産に変わってしまうこと、ここに収益物件の難点があるのです。

■アパート経営は甘くない

もうひとつの難点は、アパートオーナーという立場を子どもたちが楽しめるかどうかわからないことです。

不動産投資というと、「何もしないでも、物件が収益を生み出してくれる」というイメージを抱く人が多いでしょう。

しかしアパート経営は、建てるだけでチャリンチャリンと家賃が自動的に入ってくるような、甘い世界ではありません。

不動産賃貸業というれっきとしたビジネスであり、不動産投資で成功している人は例外なく、手間暇をかけて物件の価値を向上させているものです。

果たして、あなたの子どもたちは不動産賃貸業にエネルギーを注ぎたいと思っているでしょうか?

子どもたちがサラリーマンなら、プライベートの時間を費やしてまで取り組む覚悟があるでしょうか?

子どもたちの生活状況や属性、キャラクターまで考えたうえで誰に相続するか、そもそもアパートを建てるかを決めなければ、せっかくのアパートがお荷物となってしまいます。

澤井修司『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)
澤井修司『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

そもそも、収益不動産は、収益性がなければ意味がありません。

正平が建てたアパートは収益が出ているからまだいいのですが、この人口減少時代、建てたはいいものの入居者が集まらないアパートが急増しています。

たしかにアパート建築は合理的な節税策です。ただ、営業マンの口車に乗せられてテンションが上がったがあまりに、自分1人の判断で、勢いで手を出さないほうがいいでしょう。

アパートを建てるなら、黒字経営ができるか、相続のときに分けにくくならないかという2つの点を熟考してください。

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澤井 修司(さわい・しゅうじ)
あす綜合法務事務所グループ・田舎相続不動産代表
早稲田大学政治経済学部を卒業。在学中に、司法書士、行政書士、宅地建物取引士等の資格試験に合格し、2008年に当時埼玉県内の開業司法書士として最年少の24歳であす綜合法務事務所を創業、現職。地元を中心に東京都や関東全域から、相続・遺言関連、不動産関連、企業法務関連等の幅広い依頼が寄せられて飛び回り、特に相続・遺言関連業務の受託件数は年間100件を超える。埼玉県庁、寄居町役場、埼玉県商工会連合会、埼玉りそな銀行等主催セミナー・講演会での講師実績多数。地域に根ざしながらも、ラジオ法律相談に定期出演、日本行政書士会連合会「行政書士法人の手引」の校正校閲、弁護士事務所とのアライアンス、雑誌やネットメディアへの執筆等、地域や資格の枠を超えた活躍で注目されている。著書に『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)がある。

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(あす綜合法務事務所グループ・田舎相続不動産代表 澤井 修司)

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