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早期教育をしても「特別できる子」にはならない…中学受験「勝ちに行く子」の親たちが"やらなかったこと"

プレジデントオンライン / 2024年9月6日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nadezhda1906

親が高学歴なら子供の中学受験は有利なのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「高学歴親ほど子供の受験を阻害しやすい。自分が歩んできた道を正当化するため、自らの成功体験をもとに勉強させようとしてしまうからだ」という――。

■高学歴親ほど子供の受験を邪魔しやすい

中学受験は親のサポートが不可欠。そう言われると、子供の頃に勉強が得意だった高学歴親の方が何かと有利と思われがちだ。しかし長年、中学受験のプロ家庭教師として多くの家庭を見てきた私は、その考えに肯けない。なぜなら、高学歴親ほど子供の受験を阻害しやすいと感じているからだ。

高学歴であること。それはある意味、人生の成功を指す。今の時代はいろいろな価値観があるので、「高学歴」=「人生の勝ち組」とは一概には言えないが、それでも高学歴だったゆえに良い就職先に巡り合えた、憧れの職業に就けたという人は多いだろう。そういう人たちは、「自分は努力したから今がある」「この勉強のやり方をやってきたから難関大学に合格できた」と信じ、自分が歩んできた道への正当化バイアスが働きやすい。

高学歴の親は、その親(子供にとっては祖父母)も高学歴で、勉強熱心だったということが多い。小さい頃から公文やそろばんなどの学習塾に通い、今よりもまだずっと少数派だった中学受験に挑戦し、私立中高一貫校でしっかり受験対策をし、難関大学に進学。高学歴という勲章を得ることができたのは、自分の親が教育に関心が高かったおかげ。だから、自分も自分の親のように、子供の教育にはお金を惜しまず投資したいと考える。

■「自分の学歴以上」を求めてしまう親の気持ち

今の時代は親たちの子供時代よりも、幼児や低学年から通える学習塾が山ほどある。また、こういう親たちは常に教育情報にアンテナを張っているので、あれもこれもとやらせたがる。そして、気がつけば毎日が習い事、という大人でもうんざりしてしまうような多忙なスケジュールを子供に強制する。

一方、世間一般から見れば高学歴なのに、根深いコンプレックスを抱いている親もいる。特に医者や弁護士、一流企業に勤めるエリート父親にその傾向が出やすい。ひとくちに高学歴といっても、やはりトップは東大で、難関大にもヒエラルキーが存在する。医学の世界では私大卒は弱いし、一流企業ではGMARCH卒はどうしても早慶、国立大を超えられない。それが役職や地位といったものに影響を与えることを痛感してきたので、わが子には絶対苦労をさせたくないと、自分の学歴以上を目指させようとする。

そして、わが子が将来困らないようにと、幼児期のうちからたくさんの勉強をやらせる。学習系の習い事で1週間の予定が埋め尽くされてしまうのは、前者の高学歴親と同じだ。そうやって、わが子の将来を思って、何でも先回りをする。

■小4時点で「勉強はイヤなもの」と思ってしまっている

一般的に中学受験の勉強が始まるのは、小学4年生からと言われている。大手進学塾の受験カリキュラムがそのように設定されているからだ。しかし、スタート地点ですでに、子供の「勉強に対する感じ方」に違いが表れる。学校の授業とは違う塾の授業に初めは戸惑いを感じつつも、「新しいことを学ぶことって楽しいな」と目を輝かせている子もいれば、すでに生気を失った目でイヤイヤ授業を聞いている子もいる。

幼児期や低学年のうちからたくさんの勉強で我慢を強いられてきた子は、その時点ですでに「勉強はイヤなもの」「つまらないもの」「我慢してやるもの」と思っていることが少なくない。

退屈な勉強にうんざりした生徒
写真=iStock.com/artplus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artplus

■幼児期から難しい勉強をさせるデメリット

近年、幼児・低学年向けの単科塾が盛況だ。算数オリンピックを目指す子が集まるような算数塾があったり、実験を中心とした理科塾があったり国語の専科塾があったりと、バラエティーに富んでいる。こうした塾は、それに興味を持って取り組んでいる子には楽しい場所だが、たいして興味もないのに、親に良かれと思って入れられてしまう子も少なくない。しかし、こうした何かに特化した塾は、内容が高度でその年齢の子には理解できないことも多い。

本質を理解できていないのに、「こうすれば解けるよ」と解き方だけを習う。そして、なぜそのやり方で解くのかよく分からないけど、先生がそう言っているからやってみる、ということをくり返す。でも、そんな勉強はちっとも楽しくないし、納得感のない理解はちっとも実にならない。ただただ、つまらない時間を過ごすだけで、「勉強はイヤなもの」「つまらないもの」になっていく。こうした状態で中学受験の勉強がスタートすると、その先で伸び悩むことになる。

しかし、親はそれに気づかない。むしろ、幼児期から難しい内容の勉強をさせておけば、「特別できる子」になってくれるのではないかと期待を膨らませる。

■しつけと教育を一緒に考えてはいけない

しつけと教育を一緒くたに考える親もいる。子供が小さければ小さいほど、親である自分がしっかり学習管理をしなければいけないと思い込み、毎日の学習スケジュールを事細かに立てる。「あれをやりなさい」「これをやりなさい」と指示出しばかりするのは、高学歴親の特徴でもある。

だが、その学習量や中身が、子供の現時点での能力から大きくかけ離れていることが多い。それでも、高学歴親は「難関中学に合格するためには、このくらいの勉強はやるべきだ」と努力を強いる。なぜなら、自分はそうやって努力をして高学歴を手に入れたのだから。しかし、子供には「勉強は我慢してやるもの」というイメージが植え付けられる。

幼児期からたくさんの習い事をさせるのも、学習スケジュールを事細かに立てるのも、明らかに子供のキャパをオーバーしている。客観的に見れば「教育虐待」であるこの状況も、本人には自覚がない。ただただ、「わが子のために」と良かれと思ってやっている。

勉強する親と娘
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

■過干渉では「受験で勝ちに行く子」にはなれない

しかし、こうした親の過干渉は、子供を確実に潰す。なぜなら、親が「わが子が困らないように」と未然に失敗を防ぐための行動に走っているので、子供は失敗を経験できないからだ。「授業中におしゃべりをしていて先生に叱られた」「漢字の練習をまったくせず、テストで散々な成績を取った」などの失敗は、子供自身が自分の取った行動が原因でそうなったのだと感じてこそ、次はどうすれば良いか考えるようになる。「失敗は成功のもと」と言われるように、失敗を経験しなければ、人は成長しない。

ところが、親が何でも先回りしてしまうと、親の指示に従うだけの子になり、考えることをやめてしまう。しかし、親が指示するそのやり方が、必ずしも正しいとは限らない。いや、むしろ子供の成長を無視したやり方は、間違ったやり方だ。間違ったやり方を続けていると、必ずどこかで大きな壁にぶつかる。でも、失敗を経験してこなかった子供は、その壁の超え方を知らない。

また、親から「○○をしなさい」「○○をやらないとダメよ」とあれこれダメ出しされ続けてきた子供は、自分は親から信頼されていないという気持ちが芽生えやすい。自分に自信が持てない子は、自分が今まで見たことがない問題が出たとき、「まずは問題を読んでみよう」「まずは考えてみよう」という一歩が踏み出せない。だが、親たちが目指す難関校の入試問題とはほとんどがそういうものだ。塾のテキストと同じものは出ない。つまり、受験では勝ちに行く子になれない。

「わが子のために」したことが、わが子の生きるための能力を潰してしまう。

■勉強を教える代わりに、塾との「架け橋」になる

では、中学受験において親はどのようにサポートをしていけば良いのか──。

まず、親は勉強を教えない方がいい。親が教えようとすると、必ず感情が乗っかり、「また間違えている!」「なんでこんな問題が解けないの!」とできないことをダメ出しする言葉が増えるからだ。また、高学歴親ほど、できない子供の気持ちが分からないし、何でつまずいているのかその原因に気づかないことが多い。勉強は塾に任せて、潔く身を引くのが賢明だ。

その代わり、子供と塾の架け橋になってほしい。多くの親は「分からなければ塾の先生に質問すればいい」と言うが、小学生の子供にとって「質問しに行く」という行動は、大人が思っている以上にハードルが高い。子供が何かにつまずいているようなら、親は子供が質問しに行きやすいように、塾の先生に「○○の問題が理解できていないようなので、質問に行かせていいですか?」とコンタクトを取ってあげると、子供は質問がしやすくなる。毎回する必要はない。最初だけでも、きっかけを作れば、次第に子供自身で質問しに行けるようになる。

手を挙げる学童
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■中学受験における親の役割は「環境を整えること」

中学受験における親の役割は、子供が気持ちよく勉強できるように環境を整えてあげることだ。小学生の子供は、まだ毎日の学習スケジュールを立て、自分の力だけで進めていくことは難しい。でも、すべてを親が決めてしまうのではなく、「明日は何をやろうか?」「テストが近づいているけど、今何の勉強をしておいたらいいと思う?」と子供にも選択肢を渡してあげてほしい。そうやって、「自分で決めた」と感じさせると、やらされ感いっぱいの勉強にはならない。

また、勉強には努力も必要だが、我慢の継続を強いるべきものではない。勉強とは本来、知的好奇心を満たしてくれるものであり、「新しいことを知るのは楽しいな」「できなかったことができるようになるのは嬉しいな」と自発的意欲によって取り組むものだ。中学受験の学びには、小学校では学習しない深い内容がたくさん含まれている。それを大変と思うかもしれないが、学ぶ意欲のある子にとっては、実はとても楽しいものなのだ。

■親の言葉で勇気をもらい頑張れる子もいる

高学歴親が陥りがちなのは、自分は一生懸命努力して今の幸せを掴んだという思考だ。そのため、自分の成功体験をもとに話をしてしまう。しかし、たとえわが子であっても、相手は自分とは違う人格であることを忘れてはいけない。また、相手がまだ発達途中にいる小学生の子供であることを忘れてはいけない。高学歴親のやり方は、そもそも「たくさんの問題を何度も解いて鍛え上げる」大学受験のときの勉強法であることが多い。

しかし、そのやり方は理解面でも体力面でも高校生より未熟な小学生にはできない。できないことを強制して勉強嫌いにさせるのではなく、わが子は何に興味を持ち、どんなときに楽しそうな顔をしているかよく観察し、わが子が自ら勉強をしたくなるような言葉を掛けてあげてほしい。子供は親の言葉で深く傷つくこともあれば、大きな勇気をもらい驚くほど頑張ることもある。中学受験で合格していく子は、間違いなく後者だ。それだけ親から渡される言葉が大きな影響を与えることを知っておいてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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