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落書きするだけで簡単に「英雄」になれる…中国人が靖国神社で「愛国チャレンジ」という犯罪に手を染める理由

プレジデントオンライン / 2024年8月28日 17時15分

中国SNSより

東京・九段下の靖国神社で、入り口にある石柱と台座に落書きされているのが見つかった。「トイレ」を意味する中国語に似た字やアルファベットが書かれていたという。ノンフィクションライターの西谷格さんは「訪日中国人による落書き事件はこれまでも繰り返し起きてきた。何の努力や才能も必要なく、成功すれば中国で『英雄』として迎え入れられる。中国人にとって最小のコストで巨大なリターンが得られる極めて『お得なチャレンジ』になってしまった」という――。

■中国SNS上では賞賛の嵐

靖国神社が、再び落書きされてしまった。19日午前3時50分頃、境内の石柱に落書きがあるのを神社職員が見つけ、110番した。落書きには黒いフェルトペンが使われ、画像を見ると

「厠所(トイレ)」
「狗屎(犬のクソ)」
「軍国主義 去死(軍国主義は死ね)」

と中国の簡体字で書いてあるように読める。靖国神社では5月にも同じ石柱に赤い塗料で中国人の男2人に「toilet」と落書きされたばかり。5月の事件同様、今回も落書きをしたと見られる人物はすでに中国に向けて出国したという。

「愛国チャレンジ」とでも呼ぶべき犯罪行為だが、中国のSNS「微博(ウェイボー)」を見ると前回同様、落書き犯への賞賛の声で埋め尽くされている。

「勇気があって尊敬する!」
「素晴らしいと言わざるを得ない」
「まさに英雄」

といったストレートな誉め言葉がまず目に止まる。

「素晴らしい! またやろう」
「落書きは簡単に消せるから、今度はノミで彫刻してやろう」
「毎日1回、あるいは毎週1回落書きをして、常に清掃中の状態にしてやろう」

といったさらなる犯行を期待するものや、

「便所に便所って書いただけじゃねえか」
「落書きではなく、正しい名称に『訂正』しただけです」
「小日本よ、そんなにカリカリすんな。作品のオリジリティーを尊重していただきたい」

など、落書きなんて大した問題ではないとあざ笑うようなコメントも目立つ。

■「自作自演では?」「過ぎたことは根に持つな」

このほか、日本が戦後70年談話などで語ったことを、逆手に取るようなものもあった。

「日本人には未来志向の関係を目指してほしい。落書きはもう過ぎたことなんだから、過去のことを根に持たないでくれ」
「民族間の恨みつらみを根に持たないでいただきたい。昨日の出来事によって今日の中国人を責め立ててはいけない」

戦後70年談話で安倍晋三首相(当時)は「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と語っている。起こった事象も時間的スケールもまったく異なるが、すでに時効が成立していると言いたいようだ。

このほか、

「これ、日本人が自作自演で落書きして、善良な中国人にその罪を着せようとしているんじゃないのか?」

という中国人は無関係との説を唱えるものもあった。

「なぜ靖国神社が落書きの対象となるのか、日本はよく考えなくてはいけない」

という意見も根強い。

■中国政府は犯罪行為には知らぬふり

5月に落書き事件が起きたあと、中国外務省は記者会見で次のように語った。

「報道については承知している。靖国神社は対外的に侵略戦争を発動した日本軍国主義の精神的な象徴である。侵略の歴史について日本は直視と反省を行い、正しい態度と認識を忠実に守らなくてはならない。実際の行動によってアジアの隣国や国際社会の信頼を得ていかなくてはいけない」

靖国神社や日本政府への批判を長々と語ったあと、落書きについては付け足し程度にこう指摘した。

「外国にいる中国人においては現地の法律を守りながら、要求を理性的に表現するよう促していきたい」

落書きに関与したとみられる中国人については特定され警視庁公安部が指名手配している。実行犯の男については中国当局が中国国内で起きた別件で拘束したが、日本側に身柄を引き渡す可能性は低いだろう。

■「靖国トイレ」という中傷は前からあった

中国語で「社(シャア)」と「厠(ツァア)」は韻を踏んでいるため、中国国内では以前から靖国神社を「靖国神厠(靖国トイレ)」と文字って批判する言説が広まっていた。

少なくとも、筆者が2014年に取材した時点では、中国各地の飲食店やショッピングセンターのトイレ入り口に「靖国神厠」と書かれた看板を掲げたものが確認できた。

トイレ入り口に「靖国神厠」と書かれた看板
写真=筆者提供
トイレ入り口に「靖国神社」と書かれた看板 - 写真=筆者提供

中国政府はこれまで一貫して靖国神社への批判を続けており、中国国内では「靖国神社=悪の組織」といった図式が出来上がっている。これまで靖国神社をさんざん批判してきた以上、落書き犯を罰することは中国にはできないだろう。言い換えれば、靖国神社への落書きは中国政府としても黙認せざるを得ないし、中国世論では圧倒的な賞賛で迎えられる。

なぜこうした現象が起きるのか。近代以降、中国国内で連綿と続いてきた反日感情や90年代以降のいわゆる反日教育が背景にあるのは間違いないが、筆者にはそれだけが原因とも思えない。以下、思いつくままに列挙する。

■低迷する中国経済への不満のはけ口に

来日中国人のレベルの低下

落書きをした中国人と見られる男がどのようなビザで来日したのかは不明だが、中国人による「爆買い」がブームとなった2014年頃から現在に至るまで、中国人に対する観光ビザの要件は、所得条件などの面で緩和の傾向が続いている。

日本が「観光立国」を掲げている以上やむを得ないのかもしれないが、入国しやすくなれば、それだけレベルの低い人間も入りやすくなる。日本への中国人留学生の質についても、基本的には低下傾向にあると言われている。日本の国力が低下していることとも、相関関係にあるのかもしれない。

中国経済の低迷

2021年に不動産開発大手の恒大集団の経営危機が表面化して以降、中国経済は低迷が続いている。今年の大卒内定率は5割を下回っており、就職難が常態化している。将来に対して絶望感を抱く若者が水面化で増えていると考えられ、そうした者たちがやぶれかぶれの行動を取ってもおかしくない。反社会的な行動はさまざまな選択肢があるが、そのなかで靖国神社への落書きはもっとも安全で満足度の高い行為と言える。

靖国神社
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■何の努力もせずとも「英雄」になれる

迷惑系ユーチューバーによる再生数稼ぎ

5月の事件はこの要素が大きかったようだが、靖国神社に落書きをして帰国すれば、中国では一夜にして“英雄”になれる。何の努力も才能も必要とせず、わずかばかりの蛮勇を奮いさえすれば英雄となって莫大な再生数を稼げるのなら、やらない手はないだろう。

こうして考えると、靖国神社への落書きは最小のコストで巨大なリターンが得られる(かもしれない)極めてお得なチャレンジということになる。万が一日本国内で逮捕されても、器物損壊なら最高でも懲役3年。人生に絶望して自殺を考えていたような人間にとっては、どうということもないだろう。

かたや日本人は製薬会社の駐在員がよくわからない理由で1年以上拘束され続けているというのに、中国人による犯罪行為は結果的に無罪放免となっている。

■「政治家の靖国参拝は軍国主義を想起」

8月15日には岸田文雄首相が靖国神社に玉串料を奉納したほか、3人の閣僚が参拝した。中国外務省は会見で、以下のように発言したばかりだった。

「79年前の今日、日本は『ポツダム宣言』を受諾し無条件降伏した。中国人は世界の人々とともに日本軍国主義の侵略者とファシズムを打ち負かした。正義が悪に勝利し、光は闇に勝利した。進歩主義が反動主義に打ち勝つという偉大な勝利だった。この歴史は国際社会において永遠に記憶される価値のあるものだ」

続いて、お決まりのフレーズで靖国神社を強く批判した。

「靖国神社は日本軍国主義が対外的に侵略戦争を発動した際の精神的な手段であり象徴であり、A級戦犯もまつられている。日本の一部の政治家が靖国神社について取っている行為は、日本が歴史問題について間違った態度を取っていることを改めて示している。中国は日本に対して厳粛に申し出を行い、厳正な立場を表明している」

■中国人による落書きは今後も続くだろう

靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)については、かつて昭和天皇も不快感を示しており、安倍晋三元首相も分祀できないか模索していたという。こうした背景を踏まえて考えると、中国側の主張にも一定の理があると筆者には感じられる。落書きは言語道断だが、「A級戦犯を合祀しないでくれ」という訴えは、それなりに理解できる。

とはいえ、ここまでこじれてしまった靖国問題は、そう簡単に解決できるとも思えない。仮にA級戦犯を分祀したとしても問題が完全解決するかどうかは定かではなく、靖国神社をめぐる日中間の応酬は今後も半永久的に続くことになりそうだ。

なお、靖国神社は「分祀は不可能」と主張しているが、宗教学的な知見を整理すれば、分祀の方法を模索することは可能なのではなかろうか。神道において「供養先の移転」や「墓じまい」ができるなら、分祀もできそうに思える。

ともあれ前提状況が変わらない以上、中国人による靖国神社への落書きは、今後も続く可能性が高いだろう。対策としては、監視カメラを増やしたり警備員を24時間体制で常駐させたりするぐらいしかないのかもしれない。

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西谷 格(にしたに・ただす)
フリーライター
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。

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(フリーライター 西谷 格)

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